____銃撃戦の後、静まり返った挙句に光もないレストラン。
「ちっ、逃げやがったか」
店には机の下に伏せているやつ、何枚か割れてる窓ガラス、そして少し溢れてる料理。
怪我人は血の匂いがしないので居なさそうだ。
「……ところで、だ」
この時は自分の後輩と飯を食べに来ていたゼンヒである。前々から関わっているアリウスとは関係なく、飯にいちゃもんをつけた不良どもの暴走によって不幸にも飯を食べてる途中で、偶発的な銃撃戦に巻き込まれた。
彼女は店から借りた銃を使って応戦、後輩は大きめの機関銃を自前で持っていて、それを使って同様に追い詰めようとしたものの不良は咄嗟の判断で空になったアサルトライフルを投げ捨てハンドガンを撃ち窓を割って脱出。しかも抜かりなく建物を撃って視界を遮ってから逃走したので彼女たちは追えなくなった。脱出されたあと、急いで後輩が連絡を入れたため今は別の警官が追っている。
とりあえず過ぎたとはいえ災難にあったことに二人はため息をついたが、ゼンヒがため息をついたのは別の理由もある。
後輩の武器がやかましいから。
「すまないが、音を止めてくれないか」
後輩の武器は見た目近未来的でありながらパチンコのような音が出ている上に、よっしゃあ漢唄が流れている。
虹色に輝くそれを止めると、機能停止したような音が鳴って止った。
「なんでその曲が流れるようにした?」
「これかなり特殊な銃なのでコイルってかモーターが回って絶好調じゃないと作動不良起こしやすいんですよね。なので基本セーフティー掛けてその範囲内で撃ってるんですけど、モーターが行ける!ってなったら城門突破してよっしゃあ漢唄が流れるようになってるんですよ。ちなみに紅い流星を収録してる方もあったり、まあそれはこれじゃなくてアサルトレールキャノンですけど」
「ウニもあるの……?」
ゼンヒの疑問に頷く後輩のハクジツ。パチンコの曲を流すモードを武器に入れる理由がわからないので理解に苦しむゼンヒだが、個人武器である以上それ以上どう突っ込むのも野暮なので諦めた。
それに、そんな話ばかりしていても状況は別に良くならない。銃撃戦が終わる前に逃げられたからと追うのを諦めたが、当然今は他の警官が追っている。しかも担当は真面目なキリノ巡査。彼女のことだ、きっと相手は大変なことになっているに違いない。
あと警察の二人が出来ることといえば、周辺の状況確認だろう。幸い死人や怪我人はいないから、検査班を呼ばなくて済むのは幸いか。
「店員さん、今日は店終いですね」
「マジでぶっ殺してやろうか」
「ああ、本当にすいません。あの手袋とかってお持ちですか?」
「ゴムでいいか?」
「ええ」
店長に投げつけられるように2つ手袋セットを貰って、二人は彼女らが捨てたアサルトライフルを調べることにした。
銃を調べることに意味があるのか?という疑問があるが当然指紋の話もあるが、銃のフレームには基本製造番号が彫り込んである。キヴォトスも銃がある以上、当然フレームに製造番号が刻印されている。購入する際にその番号と購入者の情報が紐付けされるので、銃を使った犯罪が起こった場合はこの番号から情報を収集して持ち主や個人情報を見て追跡することが可能になる。
それを知っていたゼンヒは、捨てたアサルトライフルを見ていた。
見た目はしっかりとしたアサルトライフルだが、何かがおかしい。
「ああ……?」
マズルとストックを持ち上げて、外からの灯りを頼りにあれこれ見る。
持ち上げると意外と軽く、おまけにあまり金属音がしない。光もあまり反射せず、加工されたプラスチックのフレームを見る。それでも何か疑問があるのか何回も持ち上げたり、角度を変えたり_____それでも彼女が欲しい情報が得られない。
ゼンヒは確信した。
「こいつゴーストガンか」
「なんですかそれ?」
「お前一応教育受けたんだよな……?」
「陰陽道は修了してないので」
「そんなスピリチュアルなものでもないしそもそも陰陽道は天文学が本来の仕事だ」
後輩ハクジツの素頓狂な発言にツッコミを入れつつ、彼女は説明する。
「いいか?銃には必ず製造番号っていうのがあるのは知ってるよな?」
「そりゃ知ってますよ」
「んじゃあ、それらの番号を追うことが出来るのは?」
「それも研修で習いましたよ」
「要はそれが出来ないように細工された銃がゴーストガンって言うんだ」
ゼンヒは、検査を続けながら細かいことを話す。
ゴーストガン。
ゼンヒの言う通り銃には番号がそれぞれに割り振られている。購入する際紐付けされたり、それを追うことで犯人を特定して捕まえに行くと言うのは話した通りであるが、実はそれを回避する方法がある。
その番号が刻印されているフレーム部分だけを3Dプリンター等で自作して置き換え、あとは既製品のパーツで組み立てればそれで番号のない銃が完成するのだ。そう言った"誰が持っていたわからない銃"のことをゴーストガンと呼ぶ。現実でもアメリカやカナダにおいてこのゴーストガンは急増しており、そう言った製造番号を秘するための製品を規制する動きが強まっているのだ。
ただ、ゴーストガンはその性質上追従が難しいため、たとえゴーストガンと見抜かれても本来欲しい個人情報は分からないケースが多数。キヴォトスのように銃がかなり身近な世界ではファッションアイテムとしても機能する場合もあるが、その場合銃の色がスニーカーのように統一されていれば"まあそう言う銃もあるよな"でスルーしてしまうこともある。プラスチックを使った銃なんていくらでもあるのだから、一々疑っていても仕方ない。
もしフレームの刻印されている部分だけ蛍光色やおもちゃのような派手な色かつ周りの色が黒や落ち着いた色で統一されているというあからさまに製造番号隠しを施したような見た目であり、すでに実銃としての機能があるとわかっていれば一発でゴーストガンと見抜いた上で全力で本人を追従する判断もゼンヒは可能だったのだが……そこも抜かりはなかったか、たまたま手に入れた・作ったフレームの色が銃に馴染む上に反射しにくいような黒色だったせいで見分けられなかった。判断がワンテンポ遅れたのだ。
このようなことを後輩に説明したゼンヒだったが、当然このようなことは研修過程になかったのか、ハクジツは疑問が出てきて止まらない。
「え〜、でも先輩。コンビニとかでも銃って売ってるでしょ?それこそこのキヴォトスじゃノートとボールペンレベルで大事なもの。それにわざわざ製造番号振るのはともかくコンビニで紐付けなんてしないでしょう?そう言う手続き喰らった覚えないですよ」
「クレジットで買い物するだろ?あれで出来てるんだよ」
「本当ですかそれ!?」
「ああ」
ゼンヒは話を続けた。
キヴォトスではコンビニで銃が買えるのは知っての通りで、そう言う意味では銃社会のアメリカ以上に近くの存在に銃がある。
当然製造番号を振り、小売店へ持ち運んだときに何がどの店にあるのか在庫管理の点も含めて記録する。そうすると、そこまでの流れは全て記録されているからコンビニ側も製造会社側も、どこでも閲覧できるようになる。
つまり、
だからヴァルキューレでも警察の情報開示を求めることで、その銃に関連する人物を調べて追跡が可能になる。相手が使っているものがゴーストガンだと見抜けなかったから、これで追跡しようとしたのだ。結果失敗に終わってしまったのが悔やまれる。
ここまでの話をまとめてゼンヒはハクジツに伝えた。
「なるほど……そうなっているんですね。へ〜、私習わなかったからな」
「お前がいつ受けたかによるが、私は去年の十月一日付けで入って研修もあったからな。最近できた手口だと聞くし、まあこれで覚えてくれるんだったら過去に学んでなくても大丈夫だろう。ハクジツはそこらへんの見込みが良いのは仕事仲間として知ってるしな」
「いや〜、照れますね。ん?」
話し終えると同時に、後輩ハクジツの方の電話が鳴る。
「もしもし〜」
『レストランにいる警察さん!キリノです!今逃走中の不良が引き返してそっちに向かってます!』
「了解しました〜、ハクジツは扇皇ゼンヒと共に対応します。追い込みよろしくお願いしますよ〜」
『了解!』
そうして電話は切れた、キリノからの応援要請にしっかり応えなければならない。
「私は銃起動して外に待ってます。早く来てくださいね」
自分の銃を持って、ハクジツは外へ。ゼンヒは店長に向かって図々しくマガジンを強請る。
「事件解決一歩手前だからマガジンください」
「本当にしばき倒してやろうかクソヴァルキューレが。まあいい、ほら」
店長はトンプソンマシンガンを持ちながら、ゼンヒが持っていたPDW用のマガジンを二個渡して外に出る。
「あなたも出るんですか」
「ストレス発散だしたった二人で止めれるわけないだろ、店を無茶苦茶にしたカスどもはここで叩き潰す」
「うーん賛成」
店長とゼンヒも外へ出る。
すでに待っていた後輩ハクジツと一緒に並ぶと、バイクに乗ってやってきている二人組が。その後ろからはサイレンが聞こえているから、ここで止めないといけない。
「よし!てめえら、あのガキどもをわからせてやれ!」
「了解!」
「やってやる」
三者一斉に掃射開始。
圧倒的面射撃、ハクジツをセンターにして機関銃を道に面攻撃でばら撒いてそれを避けようとするバイクを傍の二人が挟み込むように撃つ。
その効果は甚大。機関銃の弾がギリギリ避けられても、挟み撃ちのトンプソンとPDWの射撃は避けられない。蛇行運転のように変えようとしたらスリップする上に、自らも銃弾に当たってその反動でハンドルの握りが疎かになる。それを確認したハクジツが車の下の方へ射撃を加えると_______
前輪はパンクして勢いよく前のめりになった挙句に、燃料タンクが漏れて熱いパーツに当たって炎上爆発。三人はどうと言うことはなかったものの、無銭飲食を働いた上に脱走を試みた連中はそのまま強く地面に打ち付けられ気絶した。爆破の勢いと強く打った衝撃か血を流している。
「ふう、これで一件落着かな」
「だといいが」
「皆さーん!」
三人が道路の惨状を呆けて見てると、キリノがパトカーから降りて彼女たちによってきた。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様ですキリノ巡査。すまない、急に応援に来てもらって」
「市民の生活を守るのが役目ですから!」
「ありがとう。私は後で向かうから、あの二人を縛って持っていってくれるか」
ゼンヒが頼むと、キリノは後輩と一緒に気絶したやつに手錠かけてパトカーに乗せる。
それを見ていた店長はゼンヒに話しかけた。
「良いのかい手伝わなくて」
「別のパトカーが来るのでそれまでは店の状況を整理しないといけません。連れていけばそれで終わりなので、そう言った楽な仕事は他人に回す主義なんです」
「その割には武器せびったり店で乱射したり迷惑な警官だなお前」
「返す言葉もない」
彼女は自分が借りたPDWを、店長に返す。
「必要であれば掃除も手伝うので、もう少しだけご協力願えませんか店長」
「仕方ない。わかった、じゃさっさとやるよ」
「ええ」
ゼンヒは店の中へと消えていく。そして監視カメラの整理や証拠品の保存に、手をつけ始める。
後輩のハクジツは生活公安局の有名なお巡りさんキリノの厚意で、一緒にヴァルキューレへと戻ることに。
______その後、この不良たちは無銭飲食と銃乱射の暴行罪並びにゴーストガンによる偽装による罪に問われてそこそこ長い間矯正局入りになったのであった。