ゼンヒは後輩と一緒にハイウェイパトロールを行っていた。
ハイウェイパトロールは交通局の管轄下にあるのだが、交通局の車のいくつかが老朽化で走れなくなった。そのため、パトロールの範疇であればと別の担当がやることに。
明るい曇り空なら運転日和だと、運転者ハクジツは乗り気で承諾。やることもなかったゼンヒはそれに相乗りし、一緒に見て回ることにした。
「あ、先輩。カーステレオ使って良いですけどダフトパンクはやめてくださいね」
「なんで?私好きなんだけど」
「眠くなるんですよ」
「あれのどこに眠くなる要素があるんだ」
「規則的な曲って眠くなるからですよ。知ってるでしょ?」
「電車のやつか」
ハクジツは解説を始める。
「規則的な音は一定周期に鳴ってるから脳に馴染んでゆりかごで寝てるような感覚になるんですよ。あと車も電車も揺れているので、それでなおのこと眠くなるんです。先輩が寝る分にはかまいませんけど運転者が寝たらどうなるか」
「そうか_____」
「それに話し相手になるって約束だったでしょ?先輩」
「そうだな。じゃあ、なんか話すか」
二人して話題を考える。
そして、話し始めたのは後輩の方だ。
「ところで先輩って、映画って観ます?」
「そうだな。洋画なら見るかもな、と言っても昔のものだけど」
「本物を使ったド派手なアクション、良いですよねえ」
「当然今のようなドライブシーンもあるんだが……そうだな、そこで知った蘊蓄でも披露するか」
ゼンヒは笑いながら、後輩に聞く。
「まずモノの尺度の話をしよう、ポンドやオンスって分かるか?」
「キヴォトスの外、先生が言ってたのはアメリカの国でしたっけ。そこで使われているモノだとは聞きましたね」
「そのアメリカで、えっと……マクドナルドのクォーターポンドのチーズバーガーってのがあるんだ。イタリアやドイツなどのヨーロッパと呼ばれる地域では名前が変わってるんだよな」
「別にマクドナルドのチーズバーガー名前変える必要はないのでは?」
「商品ってのは名前にインパクトがあってこそじゃないか」
SNSが普及したキヴォトスや今の時代の外は名前より写真や映像の方に目が行くからそちらの方が噂の広まり方はいい。しかし、この時ゼンヒが話をしていたのは大体1990年代の映画の話の上に、その時のキヴォトスの外はまだ発展途中。つまり言葉の重要性は非常に高い。
キヴォトスの外の情報事情などを交えてゼンヒは伝え、ハクジツはそれを飲み込んで理解する。
「んじゃあ、ポンドとかって言ってもその国の人たちは分からないんですね」
「飲み込みが早いじゃないか。そういうことだ」
「とは言っても名前なんて当てれるわけないじゃないですか。わかりやすい、ってなったらチーズマウンテンとかじゃないですか?」
ハクジツの出した名前に少しばかり吹き出したゼンヒ。チーズマウンテンというあまりに直球な名前がツボにハマってしまった。
「ああ〜!答え知ってるからって!」
「ごめんごめん。でもね、これヨーロッパ諸国ではめちゃくちゃカッコつけてる名前なんだ。"チーズ・ロワイヤル"って言うんだが」
今度はハクジツが爆笑した。
「あーはははは!そんな!そんなバカな!」
「気取ってるだろ?」
「安直ですねそれ、そんなチーズ・ロワイヤルなんてカッコつけた児童文学じゃあるまいし」
「でもヨーロッパって言ったら先生が前にテレビで話していた通りゲヘナやトリニティみたいな場所なんだ。そういう場所ではやっぱり〇〇グラムチーズバーガーみたいなのよりはそういう気取った名前の方が品格みたいなものに合っているんだろうな」
「確かに。トリニティで量をそのまま品名に出したら『あら〜量しか取り柄ありませんの?馬車馬の食べ物ですわね』って言いそうですよね」
またゼンヒが笑う。これに関しては、トリニティの時に一緒に行動したカフェの店長を思い出したのもあった。あれが言いそうなセリフだと思うと、彼女の笑いが大きくなる。
「ちょっと笑いすぎですよ〜車揺れてますって!」
「ああ、すまない」
落ち着くためだろう、ゼンヒは電子タバコを持ち出して窓を開けてから吸い始める。笑いすぎた上に暖房で暑くなっていた車の熱気が、外の空気と混ざっていく。
「しかしまあ、そんなことがあるんですね。外の世界、不思議だなあ」
「行ってみたくはあるがまあ出るまでに死ぬだろうなっては思うな」
二人は前を向いている。
車の流れはまだ止まらない。確認が終わるまで、つまり降りる場所まではまだ25kmもあった。
「そういえばハクジツ」
「なんです?」
「今度はお前の話を聞かせてほしい」
「そうですよねえ、人に話してもらってばかりでもあれですし」
ドライブは続く。その中でハクジツは、思いついたかのように話した。
「仕事の件になるんですけど、先輩に言い忘れてたことがあって」
「あの急に怖い話するのやめない?なんだ」
「梅花園の子、覚えてます?」
二人が買い物をした時に誘拐されていた幼女を助けた時のことだ。当然あんな事件忘れるわけないと頷いたゼンヒ。
「あの子からお礼が届いてるんですよ」
「えっマジ?」
「辛い角煮まんとか、あと手紙」
「それ先に言ってくれよ、確認し忘れたじゃないか」
「帰ったら食べつつ見ましょう。私もまだ見てないので」
「そうだな」
そこから、仕事の話が続く。
「で、例のあれは今どうなってるんです?」
「ああ、あの件か」
ゼンヒは、今進めているアリウス過激派撃滅計画のことについて話す。
「今局長が一生懸命手続きを進めてる。モモトークのグループに入ってた奴らは、そっちに異動するためにも動いてるな」
「え、よく警察のままで移動させれましたね?」
「納得させたのさ」
よくあんな頑固者制御できますね、なんてハクジツは言った。
「『ヴァルキューレの方はカンナ局長にあれこれ頼んで君たちを嫌なやつから遠ざけつつ指揮権を私(マフィアのあいつ)に移すように手続きするんだけどいい?ちなみに局長からオッケー出たから志望があればすぐに手続き入れるよ』って局長も上げるように言ったら大賛成でね。それで今やってる」
「まあ、大義名分は大事ですからね。しかしそれやってる暇にもあのゲヘナ生徒は狙われているのでは?」
「しばらくはイオリさんが面倒見るってさ」
「ゲヘナの風紀委員ってやっぱりヒーローみたいなもんですよね」
「私もそう思うよ」
リキッドを変えてからまた吸うゼンヒ。思ったよりも少なかったのか、まだ吸い足りないようだ。
「だからその大異動が終わったらすぐに動くつもりだ。当然私も行く」
「良いじゃないですか、元特殊部隊を指揮して」
「いや指揮しないが」
「なんで!?」
後輩の驚いた声に少し耳を塞いでから、間を置いて説明する。
「私よりも土地を知っているイオリさんやあの生徒を主軸に作戦を立てる。その都合上、私はあまり役に立たないからな。それに集団行動に関しては誰よりも劣る、いても意味ない」
「じゃあなんのために?」
「囮だよ。私も狙われているが、該当する土地、というより建物を奴らは狙っているだろう?下見に見せかけて私がその中に入り、というかそれにはあの生徒も付いてくる。だから囮として機能すると踏んだ。私たちを狙っている間に増えたSRTの連中で囲んで一斉に始末する。そこからは外交問題になるから手を引くが、少なくとも治安維持のための派兵を続けるつもりだ」
「先のことまで考えてますけど、まず勝てる見込みはあるんですか?」
「見込みがないとやらないだろこんなもん」
ゼンヒは、得意げに準備してることを話す。
「まず、あのガンショップの店長の協力を得られたんだ。これがデカいんだよね」
「何を吹き込んだんですか?」
「これからは組織として動き始めるので大きな武器も欲しい、なんて言ったら大喜びでさ。うちを贔屓にしてくれるなら機関銃は貸し出すし使ってない弾ぐらいくれてやるって」
この協力の何がいいか。
車に機銃を取り付けたりすることで相手の動きを全体的に妨害可能な上、兵器を持ってこられたとしても対処できるということだ。
ロケットランチャーや機関銃は流石に没収分ではいざという時に不足する可能性があった。しかし大きな武器が大好きな、ヘルメット団暴走時にゼンヒに協力してくれたガンショップの店長はこれでようやく重火器の売り先が出来ると大興奮。快く承諾してくれた。
これをよしとして彼女は店主に必要な分を作戦立案するイオリと相談して発注。レンタル代はゼンヒのポケットマネーで支払って、カンナの手続きが終わり次第準備する場所に送ってくれと頼むようだ。
「ああ、なんだか祭りが始める感じがして楽しみだなあ。その時のこと、終わったらちゃんと話してくださいね」
「もちろんだ」
話しているうちに、目的地のインターチェンジがやってきた。
車はそのままハイウェイを降りて、料金所前の建物に向かう。その前の警察車両専用駐車場で、車を停めた。
「お疲れ様です!」
二人が車を止めると、建物から交通局所属の生徒が出てくる。敬礼を返して、確認をした。
「シャーレ前からここまでの下り、この時間帯のパトロール応援をしましたが目立った事故や違反者は見当たりませんでした」
「そうですか、こちらもセンターから確認していましたがどうやらいないみたいです。お疲れ様でした、今日はありがとうございます」
「いえ、困った時はお互い様ですから。では」
軽い会話で、交通局の生徒と二人は別れた。
もう一度車に乗るが、今度は運転席に乗っているのはゼンヒ。
「帰りは私が運転しよう、ここをそのまま出たら良い店があるんだよ」
「何があるんです?」
「海鮮がいっぱい食える」
「わーい!」
「エビでもカニでもなんでも食べようじゃないか!」
そう言って、車は制限速度を守りつつ走り出した。
料金所を抜け向かうはさらに南の方。
今日は雪が降っているが、それでも道路は黒いまま。
寒暗いだけの景色が、楽しみがあるだけで幻想的に思える。人間のメンタルはどういうものか、二人はそれを表していた。