交番前。
「すみませーん」
「はーい」
ゼンヒは、窓口に立って市民の悩みを聞いていた。
「急に申し訳ありません。一つ相談があって」
「なんでしょう?」
「あまり警察に頼むのも、と思ったのですが____飼い猫が失踪しちゃって」
「飼い猫?」
「みーちゃんって言います。かなり大型のでかい三毛のマンチカンなんですが、散歩が好きなんですが急いでどっか行っちゃって」
「なるほど……その時の状況を教えていただけますか?」
市民の生徒は話す。
元々散歩が好きで、犬のようにリードをつけて散歩していた。今日もそれをやっていたが、突如何かを察知したのか猛スピードで逃げた。彼女もそれを追うように急いで離れたが、何があったのか分からずじまいその上で逸れるという不幸に見舞われた。
猫は鋭いというが、一体何があったのだろうか。全くもって通報がない以上判断のしようがないが、とりあえずの事実としては猫は失踪した。それは解決しないといけない。
「見かけたら連絡します。連絡先を教えていただけますか?」
「はい」
一応紛失届として書類を出し、必要な情報を書いてもらう。
その内容を確認し、自分の印鑑と名前を書いてから目の前にある機械でコピーしたのを渡した。
「こちらをご確認ください」
「はい……受付、あなたはゼンヒさんって言うんですね」
「最近ここに赴任したばかりです」
「あまり無理しないようにお願いします」
「お気になさらず、見つけ出しますよ」
必ずとは言ってない保険をかけながらも、それでも安心させるためには元気に答えた彼女。市民の方は安心して頷き、一度礼をして入り口に行く。
「ではよろしくお願いしますね」
「はい」
そう言ってからゼンヒは見送った。
会話が終わったのは分かったのだろう、奥から部下が出てきた。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」
「あんな依頼を受けるなんて、いいんですか?ゼンヒ部長」
「君は不満かね?」
部下はその生徒が遠くへ行ったことを確認してから、不満そうな顔を見せる。
「そりゃそうでしょ。落ちこぼれの生活安全局の仕事でしょ?車とガソリンのプロに投げるべきです。それをわざわざ公安の人間が受けたなんて言ったらなんと言われるか。特にSRTから編入した連中は鬼の首取ったように騒ぐことでしょう」
「こう言う平和な仕事しか回ってこない穀潰しが、本来はいい状況だからな。それを否定する理由もない。警察とはその不変を守る、人間として大事な、しかして歪な職種だよ」
「そりゃずっと刑事が活躍する〜、なんて時があったら物騒だなって思いますけど。それでも日常のそういった解決役は公安局の人間がやるべきことではないですよ。誤用でない方の役不足、でしょう?」
「それでも私は交番勤務だ、仮にやりたくなくても逃れられないよ」
受付の席から、ゼンヒは立つ。
「じゃ、捜索ついでにパトロール行ってくる。あと飯も買う」
「本当にやるんですかこの流れで?」
「やらなきゃどうしようもないからな」
そのまま彼女は交番を出て、空いているパトカー1台の扉を開けて運転席に座った。
確かに立場的には部下の言う通りやらなくてもいい仕事だが、それでもパフォーマンスは大事だと考えたゼンヒなりの姿勢。アクセルを踏んで、街の中を走り出す。
正直なところ、あまり騒がしくないし景色はうるさくない。走りやすいがとにかく暇、そう言った感じだ。
「探しやすいのはありがたいが、それでも探すのは苦労するだろうな」
シャーレ近辺での脱走とはいえ、やはり範囲が絞られてても街である。一朝一夕で見つかるとは思わないべきだろう。それに弱ったところで見つけるのがいいやつとも限らない、そう言う意味では急いで見つけるべきだと考えた。
今日は晴れであり、今は昼。だからもしそこまで離れていないならあまり移動しないだろう。そう踏んで、もう一枚の紛失届のコピーを持っていなくなった場所を探す。
しばらく車を進めると、そのいなくなった場所の付近にやってきた。
「普通の住宅街か、まあマンションだらけだからそんなに高くには居ないと考えていいだろう」
近くのコンビニに止めて、仲に入る。
「失礼」
「あ、お巡りさん。お疲れ様です」
「こちらこそいきなりすみません」
互いに挨拶して、ゼンヒは頼み事をした。
「申し訳ないですが、仕事で少し駐車場を一つ借りてもいいですか?」
「構いませんよ。どうされましたか?」
「ああ、ちょっと探し物の依頼でね」
猫が急に逃げ出して、それで捜索依頼が出されたことを話す。
「ん?それは探偵さんに依頼すべきと言えば良かったではないですか?」
「わざわざ相談されたのを無碍には出来ないのでね、それにそう言う口実のついでに細かくパトロールすることもできるから動かない理由もないよ」
「なるほど」
「そう言うわけで_____」
一度ゼンヒはカウンターから離れ、シェラカップのセットと猫餌と牛乳パックを持って戻ってきた。それらをカウンターに置いて、店員さんに言う。
「これもらおうか」
「はーい」
店員はそのままバーコードを読み込んでいく。お支払い方法をお選びください、と出てきたので彼女はそのままカード決済を押して待つ。
「あ、カードを差し込んでいただいて暗証番号をお願いします」
「はーい」
言われる通りの手順を踏んで、支払い完了。
そのまま袋で買ったものを受け取ってから、ゼンヒは挨拶した。
「ありがとうございます」
「ええ、ではお気をつけて」
「はーい」
コンビニから彼女は出た。
昼間から屯するやつは流石に居ないのか、静けさが広がる。
「じゃ探しに行こう」
そう言って、ゼンヒは歩き出した。
「アッオウアオウアッオウアッアッアッオウ……」
ラップ歌いながらなんてご機嫌で探し続ける。
リードがついたままで、胴体にもしっかり巻き付けるようの服がついている。そもそも三毛のマンチカンなんてアイドルじみたものを見逃す方が難しいが茂みだと分かりにくいから注意して見る。
一応の特徴として明るい錆三毛とも書いてあったから、おそらくはそんな分かりづらいなんてことはないだろうとは考えていたが。
しばらく歩いていると、突き当たりがある路地に入った。奥のゴミ箱のところで、ゴソゴソしてる音が聞こえる。
「ああ?」
そう言って近づくと、紐があちこちに揺れて引っかかってはにゃー!という酷い鳴き声が聞こえた。
思ったよりも早く件の猫に出会えたらしい。寒いのが幸いしたのか、暖を取ろうとして変なところに引っかかってしまっているらしい。
「せっかくの餌が無駄になるが、まあ仕方ないか」
ゼンヒはゆっくり近づいて、まずリードをそのまま掴んだ。そのまま腕にクロスするように巻いて結束力を高めていき、手繰り寄せるように近づいた。
猫も何か異変を察知したが、もう遅い。彼女は一気に近づいてから、袋で囲むようにしてマンチカンを掴んだ。
「みにゃー!」
「暴れるなよ!お前を飼い主に返してやろってんだから!ほら、暴れない!」
猫の瞬発力はそのまま暴れて怪我させるだけの勢いとなる。それに体が柔らかく、しっかり固定をするには相応の力や技術が必要だ。
ただ、彼女だってそこまで阿呆でも考えなしでもない。左腕でしっかりホールドしつつ、手足以外が動かせなくなったところでなんとそのまま首根っこを掴む!
そう、猫は首の後ろを掴むとおとなしくなる……と言うより、リラックスするようだ。長い間それをやったら怯えたりするようだが、当然それも知っている。成猫にはあまりやらない方がいいのもそうで、首根っこ掴んで持ち上げると負担が掛かって苦しいだけ。つまむだけなら短時間だけならいいとのことで、当然ゼンヒは捕まえてからつまんでいるので負担はあまりかからない。
するとマンチカンはリラックスしたのか、暴れるのをやめた。おまけに牛乳の匂いがほんのりするパックを舐めているが、流石に今渡すとこぼすのでゼンヒは一度パトカーに持ち帰ることにした。
歩いていると、コンビニが見えてきた。意外と早くついたな、と思うがそれは迷子の猫が協力してくれたからである。
変な輩に出会う前に付いた。
「あ!」
「ん?」
同業者を見つけたような声が聞こえて、コンビニの入り口の方を見る。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様です」
白い髪のした警官の挨拶。ただし、ゼンヒは両手が塞がっているので敬礼ができない。
声をかけてきたのはキリノという生徒だ。最近活躍した街のお巡りさんの代表格、つまり賞賛される良い警官だ。
「どうされたんですか?」
「いやあ失敬、キリノさん。これ住民からの届出で探してた猫なんですよ。見つけたところで保護しているため礼を失することお許しいただきたい」
「気にしないでください……ん?ああ、もしかして」
ゼンヒの抱えた猫を見たキリノは、そのままコンビニに逆戻り。
20秒後に、買い物を終えた生徒と一緒に戻ってきた。その生徒は、先ほど猫を探してくれと頼んだ生徒である。
「あー!もしかして!」
その三毛のマンチカンが、彼女の探していたものである。
「みーちゃん!」
「にゃー」
飼い主が近づいたらそのまま起きて飛びついたマンチカン。ゼンヒはリードを外して、生徒に渡す。
「これどうぞ」
「ありがとうございます!こんなすぐに見つかるなんて!」
「運が良かっただけですよ。私の運で見つかるなら安いものです」
「なんとお礼を言えばいいか」
「不幸をなんとかするのが警察の仕事です、そうでしょ?キリノさん」
「そうですね!」
疾走した飼い猫がこんなすぐ見つかるのは実際奇跡であった。しかも、何も不幸な事件なしに。
解決したなら、あとは長居する必要もない。ゼンヒは二人に挨拶した。
「では失礼します、私は一度交番に戻りますね」
「分かりました!目的地が近いので、引き続きこの方は本官が送り届けます!」
「よろしくお願い致します、何かあればご連絡ください」
そう言って彼女は、パトカーに乗った。そのまま、交番との連絡用に持っている携帯で電話する。
『あーもしもし』
「私だ、ゼンヒだよ」
『何か?』
後輩の声を聞いたら、なんとなく安心感を覚えた。
「さっきの猫の件だが運よく解決した。送り届ける任はキリノさんに頼んだから、彼女からの報告があり次第処理してくれと伝えてほしい」
『まだ年明けて間もないってのによくやりますよねえ。分かりました、連絡出しておきます』
「ありがとう」
『じゃ、昼飯買って帰ってきてくださいね。カルボナーラお願いします』
そう言って電話は切れた。
後輩の強情ぶりは流石に苦笑いをこぼすが、それが市民に向かないならいつもめんどくさい書類押し付けてる分奢るのは悪くないと考えて買って帰ることに。
「今いるコンビニは普通サイズしかないから、帰り道寄るかあのコンビニ」
今から買う弁当のことを考えると、少し楽しくなってくる。
腹ペコの警官を乗せて、パトカーは走り出した。