キヴォトスでは、基本酒というものは使われない。
大人か、それに適した年齢であれば飲んでるやつもいるがそれでも生徒、未成年の方が多くそれが実権を握ってる都市では酒というのは具体的にはどうこうと明記はされてはないが、忌避されてることも多い。
ただ、存在するなら管理するのはどこの世界も一緒らしく、酒を取り扱う際はしっかり許可を取ってから定期的な検査や申請が必要になる。
つまり、今回の話は密造酒の取引に関することだ。
「この辺りなんですけどね」
「本当か?」
その現場を抑えるための応援を正義実現委員会から受け、やってきたのはトリニティの外れ。ゲヘナ方面でないため、比較的に手薄なエリア。
学園都市なんて言う割には自然がある場所で、二人はのんびり待つ。
ここは湖のようになっていて、木で出来た古い小屋がいくつか湖岸にあって、湖を横断するための橋がある。つまり別荘地に最適な場所だ。
「ところで私たちは何をするんですか」
「えっと、そこの橋で密会するらしいんだよ。受け渡しだったかな、ここにはあんまり人来ないから」
「人来たら合図して一気に畳み掛けるんですね。ふーん、でも二人とも武器持ってないですよ」
「一般人として振る舞うからな。それに四方八方から来るんだ、逃げ場なんかないさ」
「だといいんですけどね。あ、そこのリクライニングチェア使いません?」
「いいね」
二人は湖岸にある板で作られた台の上、そこにある木製のリクライニングチェアに座って転がる。
さて、それでも来ないと感じた二人はその時が来るまでと雑談を始めた。
「ところでハクジツ、そういえばお前の音楽の好みって聞いたことなかったな。どう言うのが好きとか、あるか?」
「いきなりですね。なら、私は澤野弘之と西川貴教です。アニメをよく見ますから、この二人の曲は聴くこと多いです」
「随分かっこいい寄りの聴くんだな、珍しい」
「ダフトパンクとかレッドツェッペリン聴く人に言われたくないです」
「それもそうか」
ゼンヒは笑う。
「じゃあ、その二人の曲の中で一番おすすめなのは」
「うーん。最近あった『天叢雲剣-SKYBREAKER-』とかはおすすめですね。歌詞見ずに聞いたらサビ以外全部英語に聞こえるとんでもなくかっこいい曲があるんです」
「なんかのアニメのテーマだったりするのか?」
「えっと」
そのタイトルを言おうとした時に、ハクジツは止まった。
何かしらのかっこいい曲であり、作品のOPであった事は認識しているのだが、それが何のタイトルであったかは思い出せないでいる。そもそもアニメであったのかは確信が持てず、かといって実写ドラマとは言えない。そんな急激な記憶喪失?根本的な認識の齟齬が急に発生して彼女は言葉を発しない。
「大丈夫か?」
急に静かになった彼女を心配するかのように声をかけたゼンヒによって、意識が戻った彼女は返事をする。
「あ、ああ。大丈夫ですよ。なんだっけ、って考え込んでしまいました」
「そう言う時あるよな」
別に大事な話ではないのだから、とゼンヒはそれ以上は詮索しなかった。
ハクジツは少しだけ呼吸して、今度は自分の先輩に対して好きな曲を聞く。
「逆に聞くんですけど、先輩が一番好きな曲ってなんですか?」
「やっぱダフトパンクなんだけどな。どれだろ」
ゼンヒは悩む。
「One More Timeかな、でも別の曲もいいんだよなCrescendollsとか。うーん、じゃなんか流すか。答えを先に言っておくとダフトパンクの曲が大体一位」
彼女はスマホを二人の間にあるテーブルに置いて、曲を流し始める。
爽やかで、少しエレクトリックの味がある曲が流れ出した。
「監視するのにこんなことしてていいんですか?」
「私たちは別に仕事しに来たわけじゃない」
「いや仕事では……でもそうか。ならいいですね。この曲はなんと?」
「Digital loveって曲。いいだろ、こう言うの」
「いいですね」
そんな会話をしていると、足音が聞こえてきた。
怪しまれないように二人してゆっくりと上体を起こすと、近づいてくるやつがはっきりと見えた。
翼は白いが、全体的に落ち着いた濃い茶色の服装をしている。上品なのには違いないのだが、それでもその体躯に合わない険悪な表情が彼女たちを捉えた。
「ああ、どうされましたか」
「貴様らは……ここで何をしている?」
「何って休暇ですよ、ここ穴場ですよって言ってた同僚から聞いたので」
「そうか。すまなかった……ここらで不審者が出るから、気をつけた方がいい」
「と、言いますと?」
忠告はちゃんと聞くタイプの人間だ、と言うのをアピールしたら相手は"本当にただの観光客"だと勘違いして安心したのか話を続ける。
「正義実現委員会を名乗る不届ものが出るから気をつけろ」
「そりゃまたなんで」
「最近はエデン条約のどさくさでトリニティが変わりつつあるからな。そこにつけ込んで悪事をする奴が後を経たない。特にここではちょっとしたことでいちゃもんをつけられる、気をつけろ」
「わかった、ありがとう」
翼を生やした少女は笑ってから去る。
二人して今回の不届ものがどっちか、とやれやれ言ってからまた転がる。
「ところでいつ伝えます?」
「そうだな」
橋の上を二人は見た。
さっきの落ち着いたやつも含めて、橋の上で何かやっているようだ。ここは確かに来る人が少ない、だからゼンヒ達が関係ないとわかったら、人通りの少なく、守るべきところが少ない橋の上で受け渡しをするらしい。
荷台の中を除いたら、樽みたいなのがある。
「あれってワインの樽じゃないですかね?」
「多分な。ま、橋の上での受け渡しなんて基本怪しいもんだしサインするか」
ゼンヒは後ろの方にある茂みにハンドサインを出した。
すると、茂みに隠れていた小さい正義実現委員会の生徒が両手を上げる。
「いけー!」
「つかまえろー!」
「許すなー!」
向こう岸から叫びながら突撃していく。装甲車に乗ってる可愛いメカクレJKが機銃を撃ちまくるという、とんでもない景色。
「始まったな」
「そうですね」
呑気に二人が転がっていると、後ろからまた誰かが来る。
「二人とも暇そうっすね、手伝ってもらってもいいっすか」
「あ、イチカさん」
「別にイチカでいいっすよ。でも後輩ちゃんはイチカさんって呼んでくれると嬉しいっす」
「なんだ?私は王子様に不相応か?」
「王子様の周りが姫だけではつまらないっすよ、一緒に戦う仲間ならあんたのことは歓迎するっす。ほら」
割と古式な銃が、二人に投げ渡される。銃弾ベルトも一緒に渡された、どうやらスラッグ弾のようである。
銃は単発式ショットガンだが、左の方に弾倉みたいなものがついている。
「え何ですかこれ」
「アロフスか」
「結構飲み込みが早いっすね。そう、撃ったら折り曲げるだけで装填完了するっす」
「もっといい銃なかったんですか!」
「ハクジツちゃん。トリニティは古銃の宝庫っすよ」
「ガタガタ言ってる暇はないから行くぞ」
三人は銃を持って、橋の方へ駆け寄っていく。
向こう岸の正実が襲いかかってくる中で相手は反対側に逃げようとするが当然、ゼンヒ達がいる方角からもやってくる。
「くそっ!なんでいるんだよ!」
「正義実現委員会はいないことを確認したんだよな!?」
「あんな姿で黒い羽!自ら羽を削るやつもいないし、大体あんな見た目で尾行してたり伏せたりしても分かる!」
相手は慌てふためいているが、そのうちの一人____つまり、ゼンヒとハクジツに話しかけていた落ち着いたロングスカートの上品な女はやってくるゼンヒ達を見る。
「____しまった!あいつらか!」
「見落としてたのかよ!?」
「仕方ないだろう、武器を持っていなかったし何よりああ言う手合いは警戒しても仕方ないんだ!しかしなぜだ、伏せてるやつに気づかない!分かると言っていたのは!」
「調べた限りではいなかった!」
仲間割れしている間に両端から仕掛けた正実がだんだんと橋の真ん中に追い詰める。
爆破物などは事前に確認してなかったから、勢い止まらずあっという間に密造グループを追い詰めた。
「くそ!もう囲まれたか!」
「残念っすね、こういうことしてるから」
「バーカバーカ」
そう言いつつ、車を盾に相手は真ん中へ立てこもる。
「あちゃー、どうするっすか」
「耐久してたら勝てるかもしれないが、増援が怖いですよね」
「簡単だよ」
ゼンヒは、射撃に晒され、露出した密造酒が入っている樽を弾が入ってる分だけ撃った。
スラッグ弾は貫通し、もしくは爆ぜて周りに散らばるワイン。
「そう言うこと?しかし先輩、電子タバコでは火はつけられないのでは?」
「見てな」
一旦銃を地面に置いてから、ゼンヒは電子タバコを分解する。
そのうちにあっという間にバラバラになった電子タバコのうち、リチウムイオン充電池を漏れたワインへと投げつける。
そして_____
「さよならだ」
少しだけ離れて、電池を撃つ。
リチウムイオン充電池はそのまま強い衝撃によって内部ショートが発生して燃える。それがワインのようなアルコール飲料に着火した。
「離れるっすよ!」
「はい!」
みんなが橋から離れる。立てこもっていた奴は動けない。
もう何が起こるかは分かるだろう。発火して燃え広がるワインはそのまま車も囲い、挙句に一気に気化して勢いづいたアルコールと炎によってエンジンも急激に燃え、バッテリーも加熱によりショート。爆発した。
そんな場所に立てこもっていたやつがどうなるかはまだ分からないが、少なくともこれで死なないのがキヴォトスクオリティ。
湖岸まで下がったゼンヒ、ハクジツ、イチカはその炎上を眺めつつ話す。
「これで終わりだな」
「いや〜、長かったっすね」
「割と一瞬だったような」
「まあいいじゃないっすか」
イチカは二人の方を向いて、お礼を言う。
「いや〜、わざわざ休日に来ていただいてありがたかったっす」
「まさか間抜けだとは思わなかったからな。しかし、あいつらは何でトリニティの生徒の見分けがつくんだ?」
「不思議っすよね。トリニティで、しかもどこの所属か的確に判別できる。訳わかんないっす、まるで見えない識別番号やマークがあるかのような」
「不気味な話はやめよう、イチカ」
「そうっすね」
仕事は終わったのだから、たらればを気にする必要はない。
ゼンヒとハクジツは、イチカに挨拶する。
「では、イチカ……私達はこれで失礼しよう」
「イチカさん!また会おうねー!」
「はいっす。また会えたら嬉しいっす!それじゃ!」
彼女達は、自分たちが戻るべき場所へと戻っていく。
橋の上の車両消火や負傷者の救護で賑やかになる道を、流れに逆らうようにして二人は歩いていった。