シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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Case19:ネズミ取り

 シャーレ近辺では、実のところあまり犯罪らしい犯罪は起きない。連邦生徒会が治める場所、通称D.U.の規模で見ればあるくらい。当然前はこの近辺でも起こっていたのだが、先生の影響力のおかげでホワイトになった。いかに頭が悪かろうが、先生がいないと困るのを理解できる奴は多い。

 

 水がなければ困る、電気がなければ困る、食料がなければ困る、家がなければ困る、ネットがなければ……と時代に伴い増えていくインフラというのは分かりやすいが、自分の声が直接返ってくるとは思えない政治においてそう言った感覚を持てること自体が珍しいと言っていい。政治もまた、社会という明確でありながら漠然とした存在を維持するためのインフラだ。

 

 先生がいるおかげで、その政治というものがどういう存在だったかを認識しつつあるキヴォトスの生徒たちは、よほどのバカないしやばい奴でない限りは悪事を働こうとしないのは事実。もっとも、中途半端な年頃にふさわしく中途半端な考えや悪さを知っているから取り込もうとする奴はいるが。

 

 少なくともそんな生ぬるい場所の交番は、平和と言わざるを得なかった。

 

「で、私達車で何やってるんですかね」

「知らんな」

 

 ゼンヒとハクジツは、二人して道端で待っていた。

 

 警察がやることの中でネズミ捕り、というものがある。速度違反者を取り締まるやつだ。

 

 本来は公安局のゼンヒや、生活安全局のハクジツのどちらもやるような仕事ではなかったのだが……それでもパトロールだけではダメらしい。

 

「他の交番の奴らが騒ぎ立てるから仕事もしなきゃならないだろ、でもこの近辺って平和だろ、じゃあ速度違反者でも取り締まるしかないよなって話になるわけだ」

「別にみんなそんなスピードで走ってないですよね」

「遅い奴はいるけど早い奴はいないからな」

 

 なんて、ぼうっとしている。

 

 電子タバコの煙が窓の外に放たれ、それでも変わり映えのしない景色。

 

 そんなゆったりと流れる時間の中で、次に声を上げたのはハクジツだ。

 

「あ」

 

 彼女は、今通って行った車を見て声を上げる。

 

 ゼンヒは声を上げないものの、それでも見てわかるほどのものが通ったらしい。

 

 スポーツカーが通って行ったがあまりに車高が低く、タイヤがハの字になっていた。本来それでは警察の目に留まるようなものでもないが、ハクジツは何かを見て感じ取ったのだろう。

 

「そこの車ー!急いで止まってくださーい!」

 

 車の持ち主は、警察に逆らわないほうがいいというのは分かっているらしい。それとも、降りたらボコボコにできると思っているのか、捕まらない自信があるのか_____この時点では怯えることはないらしい。

 

 両方の車両が路肩に留まると、相手の車から出てきたのはやはり不良だった。

 

「おっサツじゃん」

「うちに何か用?」

「うーん、そうなの。用事があるの。君たちはすぐに止まってくれる良い子たちだから、いい?」

「分かってんじゃん、検査早めによろ〜」

 

 ゼンヒは不良の方を見て、悪事をしないように監視。その間にハクジツが気になった箇所を調べてみる。

 

「あ〜、う〜ん。これどう見ても〜」

「なんだよ、なんかあんのかよ」

「車のフェンダーからタイヤの上収まってないから切符切るしかないね」

「はぁ!?」

 

 不良は切れてハクジツの元に行く。

 

「そんなことないっしょ!?」

「見てごらん」

 

 定規で測っているが、どう考えてもはみ出してるとしか見えないタイヤ。極太タイヤを無理に履かせた末路が整備不良とは情けないものである。

 

「うっそぉ!?そんな」

「これだと流石に切符切るしかないんだよね」

「そんなあ!勘弁してくれよ!頑張って整備して測ったのに!」

「車を走らせたらそうやってズレていくのもあるあるだけどね。よく考えて今度から車に乗ろうよ」

「なんとかならないんですかぁ!」

 

 泣くというほどではないんだけれども、素直に悲しんでいる不良。反抗して銃を持ち出してくるよりはマシだが、警察としては切符を切らないといけない。

 

「いやぁ、ね。見て見ぬ振りもできないし、走っていたらこうなったじゃ尚更行かせるのも無理なんだ」

「そんなあ!お情けくれよ!ちゃんと元に戻すから!」

「元に戻す?本当に?」

 

 ハクジツが確認すると、不良は頷く。こんな素直な子が不良に、なんて思うが素直すぎたが故にきっと逸れてしまったのだろう。そうでなくても直す意思はありそうだ。

 

 すると、尋問してたハクジツは周りを見渡して指差す。

 

「あそこに自動車整備工場があるでしょ?金は出せないけど、あそこで元に戻すなら切符を切らないという選択肢もある」

「本当か!?」

「ほんとほんと。だって治して、躊躇なく選べるってことでしょ?そういうアウトロー的なカスタム好む時期っていうのはあるけど、制御できないで事故起こすのは非常に勿体無いじゃん。だからちゃんと、警察として見ててあげるから今から直そう?」

「うん!」

 

 素直な不良を一回自分の車に乗せて、ゼンヒ達はパトカーに乗る。

 

「いいのか?あんなこと言って」

「金を払って損をした思いをするのが罰金刑って言うんでしょう。だから、金を払う先を変えさせただけです。それで切符が切られないっていうならあっちとしても喜ばしいことでしょう?」

「そうだな」

 

 ゼンヒは質問をしたが、それに対してしっかりと考えを持ち、それに共感したから彼女は何も言わなかった。

 

 車で少しばかり移動して、自動車整備工場へと到着。個人店であるがしっかり駐車場に停めると、店の方からポメラニアンの整備士が。

 

「なんだお前ら」

「私はヴァルキューレ警察学校公安局所属のゼンヒです」

「同じく白鳥ハクジツです!」

「そこのGT-Rから泣いて出てきたやつが客だなこれは。何があったんだ、警察と一緒に来るなんて」

「実は」

 

 ハクジツは不良を慰めるために行ったので、代わりにゼンヒがことのあらましを説明する。

 

 違反者になりかけていたがこちらで整備して元の優良な状態に戻すのであれば切符は切らないでおくという約束をした。ただ、それに関しては店の都合もあるので今すぐは無理であれば切符は切ることになるとも。

 

 説明された整備士は、腕を組んで考える。

 

「厄介な約束をしてくれたが、まあいいだろう。ビジュアルで見ればああいうのに惹かれるやつが多いが、実際にレースをしているとそういうヘンテコな物さえ不必要なものになってくる。しっかりと整備され、それが優良で耐久性のあるマシンだからこそ性能向上も狙えるというものだ。それを分かろうとするやつが出てきたなら、オレもいう事はねえ。早く警察に挟まれて泣きべそかいてるやつを連れてこい」

 

 ゼンヒは二人を呼ぶと、すぐにやってきた。

 

 不良はポメラニアンの整備士店長に詰められると思い、萎縮している。

 

「これがお前のか」

「はい……」

「じゃあ、車直すが一緒に来い。あれこれ教えてやらないといけない」

「えっ」

「いいから来い」

「えっえーっ!?」

 

 ポメラニアンの整備士に引っ張られて、GT-Rと共にガレージへと消えて行った不良。

 

 これなら多分大丈夫だろう、と切符を切らずに二人は車に戻るために歩く。

 

「一件落着、ですね」

「お疲れさん。私が何か奢ろうじゃないか」

「やったー、ココア買ってください」

 

 二人は自販機の前に立って、ゼンヒのクレジットでココアとブラックコーヒーを買う。

 

「先輩ブラックなんだ。カッコつけ?」

「甘めの選ぶと見境なく熱くても飲み干すから」

「先輩の中のガキを抑えるためなんですか」

「実は甘いものに目がなくてね。恥ずかしいことに」

 

 苦笑いするゼンヒ。

 

「そういえば矯正局に居たって言ってましたもんね」

「ああ。そこだと甘いものって滅多に出ないからさ」

「……先輩」

 

 ハクジツは、自分の先輩を見つめた。

 

 その目は何かを訴えかけるような視線であったが、それはゼンヒに届かない。

 

 なぜならそれを知る答えは、ゼンヒの中にはないからだ。

 

「……なんでもないです」

「そうか。あ、でもあれだから。凶悪犯罪やってぶち込まれたじゃないから安心してくれ」

「それは知ってますよ」

 

 二人揃って、笑う。

 

 ひとしきり笑った後に二人は歩いて車の中に戻り、今度はゼンヒから疑問が出てくる。

 

「ところであの車を一目見てやばいっていうのよく分かったな」

「ああ言うのも一応習ってたんです」

「どこで?」

「別のガレージで。私も車持ってますから」

「スポーツカー?」

「はい」

 

 電子タバコを吸って、吐いた息が外へと流れていく。

 

「私が持っているのはランサーエボリューションVIIです。マニュアル車なんですけど、結構面白いんですよ」

「ランサーエボリューション?」

「いわゆるラリーレースに適してるやつです」

 

 ラリーレース、つまり公道での走りに適したものだ。

 

「へえ、そんなもの持ってたんだ」

「ランエボもいろいろな種類があるんですけど、その中でも私が持っているものは道の状態に合わせて走りを変更可能かつ、パーキングブレーキの作動制限も取っ払ってるので急旋回が可能なんですよ。だから早く走れるし強いです」

 

 ミスファイアリングシステムとかは車に興味ないと聞かなさそうだしとハクジツは細かいところは切り上げる。

 

「しかしそんなすごいやつを走らせるところはあるのか?」

「百鬼夜行の敷地ではそういったレースに適している峠もありますから、ちゃんと許可とって走ってますよ」

「それは知らなかった」

「たまにトリニティの人も来るらしいですよ、私は見たことないですけど」

「すごいな」

 

 お互いに、半分くらい飲んだところで背伸びをする。

 

 互いにドリンクホルダーに缶を置いて、顔を見る。

 

「そろそろ出発しますか」

「そうだな」

 

 仕事が終わったのに長居する理由はない、と走り出した。

 

「温かいもの飲んで体が動き始めたらお腹空いてきてしまいましたね」

「そうだな。コンビニでなんか買っていくか?」

「せっかく出たんですよ?レストランでも行きましょうよ」

「そうだな。と、言ってもどこいく?」

「サイゼリヤ」

「オッケー」

 

 車は、レストランに向かって走り出した。

 

 まだ昼頃の空、この時は晴れていた。きれいな雪道を、二人は走っていく。

 

 飯を求めて。




《お知らせ》
明日は長めです。8時、12時、17時の3分に投稿予定なのでお楽しみに。
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