ゼンヒとゲヘナの生徒は、大噴水のあるエリアへとやってきた。
車で生徒を拾いやってきて、近くに止めてから徒歩で歩くと大きい噴水がありそれに驚いたゼンヒだったが、それよりも驚いたのはその広間に面する屋敷や建物の多さだ。大きなカフェとして居抜きで利用できそうだなんて言っていたが、中を見てみるともはや小さめの屋敷のようなもの。階段も何もかも、ドラマで見る上流階級の家その者だった。
中に入ったゼンヒは少々興奮気味。
「そういえば依頼した人、名前を聞いてなかったな」
「あれ?書類には書いたはずなんですけど」
「ん?」
カバンから書類を取り出して確認すると"霊峰 タリナ"と書いてある。
「タリナさんか」
「今更水臭い、タリナでいいですよ」
「ゲヘナに住んでる地主だろ?怖くて呼び捨てにできないな」
「その関係以前に私達は知り合い、こうして結託してるんです。戦友にもなりえるでしょう?」
「そうだな」
二手に分かれている階段の右を登って、2階の部屋に行く。
2階はスイートルーム並みの広さをしている部屋が一つに事務所に使える部屋が一つ、スイートルームみたいな部屋と繋がっている社長室のような部屋が一つある。トイレやキッチン、風呂場もあるから2階だけでも相当な広さを持つ。
1階はカフェのような場所や応接室に倉庫、奥に行けばビリヤード場もあるが地下室もあって、そこは射撃訓練場も備わっていた。まさしく高級な秘密基地のような場所である。
ゼンヒと依頼主のタリナは社長室のような部屋に入って、ソファに座る。
「少し気分を上げたいからあの椅子に座っても?」
「どうせ私は座らないのでお好きにどうぞ」
「やったね」
そのままゼンヒは社長の椅子に座って、準備を始める。
武器や弾倉をカバンから取り出して、ついでにいつも警察車両にある無線機の予備も持ってきたからそれは別の空いてる机に置く。
「無線機って光ってない限りは結構アンティーク感出るな」
「いいですよね」
あれこれ準備しながら窓を見ると、何かフードを被った存在が自分を見てることを彼女は自覚した。
「あ〜、だいぶ狙われてる。入り口とかってどうしてる?」
「机とかタンスは一応寄せてます。射撃場からつながる秘密の出口はクレイモア置いておきました」
「あれ?今来たばっかじゃ」
「人に任せておいて自分は何もしないのは性に合いません」
「そういう自主性が人を金に導くんだろうな」
ゼンヒはスマホを取り出して、メッセージを打つ。
『変なやつが出てきた。まだ少数かつこちらの視点では完璧に相手を捕捉することはできなかったから、どれくらいいるかの判別が難しい。そっちはどうだ?』
『偵察第二部隊不審者なし』
『第五部隊不審者確認できません』
『第七部隊確認しました、現在南西のボスのいる方面へと移動中』
メッセージを送っているのは一般生徒に扮している偵察部隊、武器も普通のものを持っているから警戒はされていないらしい。
ただ、第七偵察部隊からは不審者の報告あり。その上で、ゼンヒたちのいる方向へと向かっている最中なのはハッキリした。
『第六部隊不審者確認、現在南西方向へ移動中』
『第一部隊確認、現在こちらから見て2時の方向へ移動中』
『やはり、こちらを確認して動いているかのようだ。実働部隊、準備大丈夫か?』
『現在所定の位置へ移動中が二部隊、それ以外は配置完了しています』
『了解した、ではそのまま待機。人が集まってきたら合図するから、そしたらパーティーの始まりだ』
そう言って、スマホの画面を閉じた。
タリナは彼女に問う。
「いかがですか?」
「まあ、もう少し集まったらか、暴力行為に出るバカが出たらの話だろうな」
「では、挑発しましょうか」
部屋のランプは古めなのか、少し暗くなっている。その中でタリナは立ち上がり、棚から大きなレコードを出した。
それを蓄音機へと入れて、曲を流し始める。
「クラシックか」
「いいでしょう、こういうの」
「大好きだ」
流れているのはヴィヴァルディの冬。
「ジョン・ウィックみたいになってきたな」
「見窄らしいですか?この建物」
「いや、ゲヘナは土地が城みたいなものだから全然むしろ燃えるね」
「楽曲は冬なのに?」
一本取られたな、と笑いながら外を見るゼンヒ。
こっちを向く奴はいないが、どうやら周辺でアリウスらしい奴らがたむろしていた。
「おい、こっち開かないぞ」
「閂でもかかってんのか」
「くそっ姑息な真似を」
「姑息なのはどっちなのやら。まあ、気にする必要はありません」
「いや気にしないとダメだろ」
ゼンヒはスマホを取り出して、交戦部隊に連絡する。
『バカが突っ込んできたぞ!』
『実動部隊総突撃します!』
『噴水の広場に追い詰めるように動きます!』
わかっているじゃないかとゼンヒは笑みをこぼし、近くの棚にあった飲み物を開ける。
「あ、それ……酒ですよ?」
「マジ?」
しっかり栓をし直して棚に戻す。
そんなアホをやっている間に、一気に窓の外が賑やかになりつつあった。
置いた無線機から、状況が聞こえてくる。
『ガンホー!ガンホー!ガンホー!』
『地の底に行く前に追い詰めろ!』
「楽しそうですね」
「先に襲ってきたのはあっちだからな、心置きなくトリガーに指をかけれるさ」
クラシックが流れ続ける中で、二人は近くにあった冷蔵庫から葡萄ジュースをとって飲む。爆発物等タリナが準備していた時期に入れておいたものだ。
「ああこれ、酸味が強いな」
「でも、美味しいでしょう?」
「そうだな」
ワイングラスにわざわざ注いで飲んでいるのは互いに中二病なため。
外は大騒ぎだ。銃弾がひっきりなしに噴水側へと吸い込まれるように飛んでいき、だんだん近づいてくる銃声と爆発音が上品さを掻き消すほどの騒々しさを醸し出した。
『偵察第七部隊、こちらは交戦開始とともに生徒避難中、不審者どころか人が見えません』
『第四部隊同じく人が見えません』
『こちら交戦第五部隊、偵察第七隊、第四隊はそれぞれ12時、5時の方角より増援頼む』
『了解』
しっかりと状況判断して追い詰めるために動いてる彼女たち。外を見てみると、アリウスと思わしき怪しい奴らが機銃や逃げ場のない面射撃を遮蔽物のない場所で喰らっているのか下がってきているのが見える。
ゼンヒ達がいる場所を開けようとした連中も、応戦に加わらなければ危険だと判断したのだろう。押し返すのを目的に、そのままでは負けが確実になると判断した者たちが応戦しに出ていた。
そこを後ろから見ている二人は、それでもまだ待っている。
「後ろから撃たなくて良いんですか?」
「私たちは背後を取っているが、今出てしまうと逆に5方向からくるアリウスの奴らに挟まれてしまう、やめておいた方がいい」
「ではまだ待ちましょう」
と言っても、決戦の時はすぐそこまで迫っていた。
窓の外を見て、無線機から流れてくる情報はこちらが圧倒的に優位だ。
相手は情報収集を怠っていたわけではないのだろうが、それでも急激に兵を揃えた上にそのどれもが練度良く、齟齬もなく動いていたら混乱するばかり。
「こいつらは一体なんだ」
「連携がしっかりできている上に不足がない。あの女はやはり何かしらの組織に所属していたのか?」
「それを今考えても仕方ない」
だが、相手も何も手がないわけではないらしい。ここ数日間近くをたむろしていたのもあってか用意があるようで、それが何かは分からないもののそれぞれ足止めを選んでから、それ以外のメンバーが大噴水に集まりつつあった。
「何をしようとしているんだ?」
阻止するには彼女も射撃を加えるしかない。抑えてるメンバーが少なくなってゼンヒの部下の進軍も早くなっている様子。実際足止めもしばらく戦ってから銃を放棄して大噴水のところへ向かっているようだった。
『こちら交戦部隊、全軍進撃中。連絡部隊は交戦第五部隊の後ろで待機、援軍に来た偵察部隊は下がり、後方の警護に当たれ』
『偵察第七隊了解』
『第四了解』
どうやら逃げるものも許さない徹底ぶり、動きを確認してから自分ができることはと周りを見る。
ゼンヒの目の前にある噴水で何かしようとしているようだ。見ていると、誰か一人が何かしらの遺物のようなものを持っていた。それが何かを知ることはできないが、戦いの中で持ち出すということは碌なものではないだろう。
彼女は急いでアサルトライフルを取ってきて、それを構える。
「やらせるか!」
と勢いづいて引き金を引くが、それに気づいていたアリウスの奴らが抵抗してきてろくに当たらない。彼女はこう言った精密射撃はあまり得意ではないようだ、おそらく今戦っている中では射撃精度はかなり悪い方である。
それも抵抗してきてしっかりと構える暇がないのが問題なのだが、あたふたしているうちに機銃を乗せた車両が大噴水のエリアに迫ってきた。ゼンヒの部下である。
「お前ら!全員あいつらに撃て!」
「言われなくても!」
何かしらの危機感を感じていた、自分が死ぬとかではなくもっと恐ろしいものを感じていたゼンヒはそう指示して一斉射撃を浴びせる。いくつもの機関銃が、生贄のように集まりつつある過激派に向き銃弾を放ち、視界が煙に遮られるほどの破壊と銃声が響く。
そんな状態が5分と続き、静まり返る。
ゼンヒ達は、銃を構えてながら待つ。
「やったか!?」
それでやった試しはない。
あんな遺物を持ち出して、破壊もできずに視界も確保しないほど撃ったところで意味はないのだから。
視界を遮る硝煙が、月夜となった空に散る。
「なっ!」
「ああっ!?」
その場にいた奴らが驚いた。
そこには一人も相手がおらず、だが酷いものが壊れた大噴水の上に鎮座していた。
黒い外套を纏い、中身が見えない暗闇に、手が2本生えて壊れた槍みたいなものを携えているデカいものが居る。
「なんだよあれ!?」
「ボス!どうします!?」
「お前らは攻撃しろ!」
そうは言うものの、どこを攻撃すればいいかわからない。マントの方を攻撃しても手応えなし。
(なんだ。なんだあれは!?ああ言うのを見たことがないぞ私は!攻撃を当てても何も手応えはない!)
その敵がどう言うものか掴みかねているゼンヒは、未知である相手にどうするべきか分からず、急にやってきた恐怖に固まっていた。
「ゼンヒさん!」
なんて、声をかけてるタリナの声すら気づかない。
壊れた槍のようなものを持ち上げて、それはゼンヒを殺そうと振り下ろす。
だがゼンヒは動けない。
「ゼンヒ!」
依頼主のタリナの叫びで意識が戻ったところで、すでにその槍のようなものは当たる寸前。
「あ……」
ゼンヒの目の前には褪せた金の裁きと奥にあるか弱い腕、赤く靡く布。
そして
「____そこ」
紫の流星が流れた。
(次の更新は17時3分です)