紫の流星は褪せた黄金を割り、ゼンヒどころか彼女がいる建物を傷をつけるに至らなかった。
「ボス!大丈夫ですか!」
下の通路から、部下が声をかけてハッと意識を取り戻す。
「大丈夫だ!しかし、いったい誰が」
「あそこ!建物の上!」
指差した方をゼンヒは見る。
この大きな聖職者気取りの化け物の正面にある建物の屋根の上。
紫に光る機関銃を携えた、小さい影が一つ。
「ああ、あれは!」
その影は、地に降りた。
蝙蝠のような羽、美しい白肌に流れる髪。
背は小さめであり、それに似合わないほど大きな機関銃を持っている。
その姿は。
「空崎ヒナ!?」
ゲヘナ風紀委員長、空崎 ヒナの姿だ。
「騒ぎが起きるのは知っていたけど、アリウスが関与しているって聞いてたから。で、こうなったのはどう言うわけ?」
「ああ、その____」
ゼンヒは話しかけられたので、アサルトライフルとショットガンを持って窓から降りて彼女に説明する。
よく分からない遺物を使ってとんでもないものが生えてきた、みたいなざっくりとした説明をした。
「そう。じゃあ、あなたはあれが分からないのね」
「恥ずかしながら。ヴァルキューレじゃあんなもん見かけなかったから」
「あれは多分ヒエロニムス」
「ヒエロニムス?」
エデン条約の時。
先生たちは当然アリウスの暴走、と言うよりベアトリーチェの策略を止めるための行動をしていた。その中で"ミメシス"なる、かなり高尚なものの再現をしようとした兵器があったことをゼンヒは聞いた。それに付随して今回出てきたそれは腕の数も金色の杖も数が足りないので不完全であることも。
シャーレ前でぬくぬくしてた警官は知る由もないことなので、ゼンヒはヒナに対して聞く。
「あれって倒せるのか?」
「倒せなきゃ死ぬ」
「可能性を聞いてるんだけど」
「倒せるわ」
二人が話していると、そのヒエロニムスから兵士みたいなのが出てくる。
「ボスとヒナさんを守れ!」
「あれならやれる!」
交戦部隊はヒエロニムスの下の兵士に機銃を浴びせる。流石に人間サイズ、それも不完全であろうものから出てきた先兵には十分すぎる火力だ。当たった端から砕けるように倒れて、コールタールのように沈んでいく。
「あなたの部下、優秀ね」
「そりゃ優秀な奴が集まったんだからな」
「なら号令して。私と貴方で本体を倒す」
「わかった」
ゼンヒは指示を出す!
「交戦部隊全軍、距離をとって機銃と面射撃で湧いた端から雑兵を叩き潰せ!本体はヒナと私でやる!好きなだけ撃破数を稼ぐといい!」
「了解!」「了解!」「了解!」
作戦は決まった、とアサルトライフルをリロードし直してゼンヒとヒナは撃ち合いを開始した。
周辺の4方向、二人のいる通路の後ろにいる方は二人を巻き込まないように本体に向かって牽制射撃を続ける。ゼンヒとヒナは本体に向かって射撃。
ヒエロニムス側も黙ってはいない。知らないゼンヒやSRTはともかく当然ヒナを倒すには数が必要になると踏み、兵士を率先して倒す車両の方へと攻撃をする。
「うわあああっ!」
「がっ」
車両に乗っていた奴らは飛んで、そのまま落ちる。大怪我こそしてないが車両は爆ぜて、弾幕に薄さが出てきた。
突如地面が爆発したりととんでもない事が起きていてゼンヒに焦りが出てくるが、自分たちを信頼したからこそと被害を受けた方からは激励が掛かる!
「くそ!よくも!」
「こっちのことは気にしなくていいですボス!ヒナさんを守って突破してください!」
「……すまない!」
「右側の方が薄くなってる、あなたは薄くなって取りこぼした影を狙って」
「わかった!」
ゼンヒは弾幕が薄くなり、それによって撃たれることなく二人に近づくユスティナ聖徒会のミメシスを撃つ。生き残ったそれからも射撃が飛んでくるが、怯むことなく撃ち返して倒し続ける。だがやはり遠距離の撃ち合い、しっかり当たらなければ倒せないアサルトライフルだと不利だと感じてショットガンに持ち替えた。
そうしている間にも、またもう一部隊がヒエロニムスの攻撃によって車両が爆散して戦闘不可能に。それでも戦い続けるゼンヒに励ましの言葉を投げる。
「ボス!この壊れた車を遮蔽にして出来る限りの支援を続けます!だから諦めないで!」
「言われなくても!」
車が壊れた連中はそれを盾にして、偵察部隊を呼びつつ構えて射撃を続ける。幸いなのはゼンヒの部下は全員特殊部隊の出身であり何よりも射撃に関して強い。
だが、それでも重火器の損失は大きい。人を増やして射撃を続けたとしても、火力の低下によって処理能力が低下している。
アサルトライフルとショットガンを距離によって変えて撃ち続けるゼンヒだが、むしろ相手の兵は増えるばかりだ。神秘というものを研究し、手に入れようとした奴らの成果が如何に恐ろしいかを身を持って知らされている最中。
「ゼンヒ!」
「撃っても撃っても減りやしない!」
その余裕を上から覗き込んでいたヒエロニムスはそのまま、二人に爆発を仕掛ける。ゼンヒがアサルトライフルの弾が切れたから投げ捨て、ショットガンの大きなマガジンを交換しようとしたときだ。
爆発が発生し、二人を襲う。当然予期できていたヒナは相手の動きを見て避けるが、マガジンの重さが仇になったゼンヒはその爆発を喰らって吹っ飛ぶ。
「ボス!」
そのまま一回転してショットガンと共に地面に叩きつけられた。
頭を打ったのか血を流し、それでも立ちあがろうとしてうつ伏せで転ぶ。
「大丈夫!?」
「まだ死んではいない……!」
だが、持っていたマガジンは爆発と一緒に吹き飛んでリロードすることができない。ヒナは仕方ないので、雑魚を片付けるために弾をばら撒き続ける。
「……まずい。これ以上は」
一度撤退するのを視野に入れているヒナ。
戦ってボロボロのゼンヒ、SRTの連中は元気そうでかつ避難を優先してたおかげで建物以外の被害はまだない。ここで人的被害を広げないためにも撤退するべきだと判断する。
ただそれでもゼンヒを抱えて、となると厳しいところがある。ただの兵士の集団ならともかく、ミメシスが何やってくるかは不明。
「どうする……」
「このままじゃやばいかも!」
「狼狽えるな!折角何かを守る機会をもらったんだ、ここで耐えなければ失われてしまうぞ!」
元SRTメンバーはそれでも奮起した。だが、それでもゼンヒが立ち上がるにはまだ時間が掛かる。
不完全とはいえ、造られた天使の威力。その厄介さに、ゼンヒが絶望した。
その時だ。
_____ヒュン。
ヒナの上を通り、ヒエロニムスの胸に当たる銃弾が一発。
それが当たった場所は、割れたように光を反射するように。ヒエロニムスの胸には、輝く何かがある。
「遅くなりました!」
そう叫んでヒナを見るのは、イオリだった。
「イオリ!」
「あそこを見てください!私が撃ったところ!」
ヒエロニムスの胸には、イオリが撃ち壊したガラスか何かのバリアの向こうにある遺物が露出していた。
「何かコアみたいなのがある」
「おそらくですがあれを攻撃すれば」
「ゼンヒ!」
ヒナは、頑張って立ち上がろうとするゼンヒに寄る。
「このヒエロニムスを今すぐ攻略できる。頼み事をしていい?」
「な、んだ。はぁ」
息も絶え絶え、よく見たら腕から血を流しているゼンヒはそれでもヒナに聞き返す。ヒナはその核たる遺物を指差して言った。
「あそこを破壊すれば多分勝てる。だけど、イオリだけだと不安。あなたがショットガンで直接破壊しに行ってほしい」
「人使い、荒いな……うぐっ……ショットガンのマガジンは?」
先程の爆発で強く吹っ飛んでしまったのか、ゼンヒが望むものは近くに転がっていなかった。
撃てるものがあるとすれば_____
「この一発だけか」
マッチセイバーに付けてある一発だけ。
「大丈夫、やれる?道は私が切り開く」
「頼んでもいいか。必ず、必ずあれは倒す……!」
「わかった。今回は華を持たせてあげる」
そうすると、ヒナはすぐに離れて持っている機関銃で乱射する。
彼女の銃は強い。使い慣れてるのもあり、援護射撃を続けるゼンヒの部下達の援護射撃あってユスティナのミメシスは数を減らしていく。
「なんとしてでもヒナさんを助けるんだ!」
「弾はある分だけ幾らでも撃ち込め!出し惜しみしては何も守れない!」
「ボスの為にも!」
それでも残っていた車両や重火器を狙って爆破するヒエロニムスの攻撃によって、他の奴らも吹っ飛び倒れる。その悲鳴が聞こえることはないが、ならば何も成せないのは彼女らへの背信であると自らを奮い立たせるゼンヒ。
彼女はなんとか立ち上がって、マッチセイバーにある最後の一発をチャンバーに入れる。
(頼む、頼む、神様がいるならこの一発をあれに当てさせてくれ!)
そう願って構えると、段々とヒエロニムス本体への道が開けてきた。ヒナはゼンヒに向かって叫ぶ。
「今しかない!」
「……ああ!」
ゼンヒは叫んで走り出す。
残っているユスティナの影は、当然主であるヒエロニムスを守るためにゼンヒを撃つ。それでも自分より相手を先に倒すと構えた彼女の全力疾走に、銃口が追いつかない。
その隙を逃さないヒナや残っているSRTは一斉射撃。自分たちへの射撃を無くしたことで、一気に報復のように射撃を浴びせる。
すると背中から、横から撃たれたミメシスは一斉に砕かれ月夜の影に飲み込まれるように消える。ゼンヒはそこからさらに勢いをつけて、ジャンプした。
ヒエロニムスは飛んでいては爆破が効かないと踏んで、もはや鉄屑と化した金色の杖でゼンヒを叩き落とそうとする。
「やらせるか!」
イオリとヒナがその腕に集中砲火を浴びせて、ヒエロニムスの腕を破壊する。
もう何も阻めるものはない、胴体が空き胸のコアとなった遺物へとゼンヒは突っ込む。
「届けぇぇぇぇぇーッ!」
彼女は最後の一発を放った。
__________ゼンヒの一撃は、状況をひっくり返した。
不完全なヒエロニムスはそのコアに強烈な一撃を叩き込まれ、機能停止。ミメシスとしても動けずに、天に手を伸ばしてから倒れてそのまま消滅。残っていたユスティナ聖徒会のミメシスも消え、そして生贄になったアリウス過激派の生徒も当然見つからなかった。
「やった!」
「やったぞ!」
ゼンヒのトドメが効いたのか、部下たちが大盛り上がりを見せる。
自分達の力と、信じた存在の勇気に陶酔しながら歓声を上げた。それに呼応するだろうと感じてゼンヒを見たが彼女は反応しない。
その結果を齎した一撃を放った本人は……撃った後に酷く頭を打った反動とそれでも無理に動かしたという身体の限界を迎えて気絶。後ろ向きに地面に落ちていき、そのまま動かなくなってしまった。怪我はひどくてこの落下でどの傷が増えたのかもわからないほど。
「ボス!ボス!」
「こうしちゃいられない!早く行くぞ!」
死んではいないが、それでもすぐに返事が出来るほどの体力も残っていない。急いでゼンヒを運ばないと、そう考えた交戦第五部隊は残っていた車を使い連邦生徒会の所有地区にある病院へと彼女を運んで行った。
そうして撤退を始める元SRTを見ているのが二人。
「彼女たち、かなり焦っているわ」
「大丈夫ですよ委員長。ああいうやつってあまり死にませんから……」
「なら、私たちが出来ることをやろう」
「はい」
ヒナとイオリは、それを見送った後に調査を始めた。今回の件は先生に報告しなければ危ういかもしれない、そう思ってのことだ。実際にミメシスが出てくるなんて未曾有の事態であり、それを先生なしで攻略出来たのが奇跡であったとも考えていたからだ。ヒエロニムスそのものも弱くなっていたのもあったが、それでもケースの一つとして報告しないわけにはいかないのだ。
こうして、それぞれが分かれ、また会うことになるだろう。事態収集は出来たわけじゃない。
だが、この戦いは少なくとも終わりを迎えた。イオリが報告してヒナを助っ人として呼び、ゼンヒは自分を求めた人間を信頼し切って、その恩返しのような信頼にしっかり応えるような戦いをしたのだから。
この月夜を越えれば、この事件は結末を迎えるだろう。
それまでは、ゼンヒの意識は無の中だ。
(次話で一区切りです/後書きも書きます)