ゼンヒは目を覚ます。
知らない天井だ。
「____やったな」
こんなシチュエーションは助かった、と確信しているゼンヒはテレビの見過ぎなのだろう。まだ自分の容体がどうなのかはっきりしたわけでもない、ただ点滴がなかったのを見るに大丈夫だろうと考えている。
しかし、起きたからには何か反応しないといけないだろう。ナースコールを押して、人を呼ぶ。
押した後に近くにあった全身鏡を見ると、大体はベッドに入っていて分からないが少なくとも頭が包帯で巻かれてる。
「早く出れるといいが」
タバコが吸えないことがやはりストレスらしい。だが、それをすれば迷惑が掛かるのもわかっていた。
数分後、看護師らしき生徒が入ってくる。
「はーい」
「ああ、ゼンヒだが」
「___ゼンヒさん!?」
看護師は驚いて、そのまま去っていった。
それを見送った彼女は、上体を起こそうとする。すると、意外とすんなり起こすことに成功した。本来だったらそんなすぐに起きれないはずなのに、それでも何もないかのように動けている。足をベッドの外に出して、座るようにしてまっていると看護師が。
「何しているんですかゼンヒさん!大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ、全然死んでない」
「それはそうですよ死んでは____でも骨折とかしてたんですよ!?」
「でも」
立って動いてみたり、ジャンプしてみたり、動いてみても痛むところはない。
「信じられない」
そうやって驚く看護師を前に、彼女は頭に巻いた包帯も邪魔なので取ってみる。そして、鏡の方を見た。
彼女の頭には傷ひとつない。
「ええ、どうなってるんですか!?この三日間でそんな回復するなんて!」
「____三日間?」
今度はゼンヒに疑問符が。
「え、三日間?」
「そうだ」
疑問が浮かんだ段階で、やってきた生徒がいる。
カンナだ。
「局長」
「久しぶりだな」
彼女は見舞い用の椅子に座った。一旦ゼンヒもベッドに戻る。
「久しぶりです。元気ですか?」
「それは私のセリフなんだが」
「私は元気ですよ」
「以前より赤色が髪を染めているような気がするな」
「え?」
もう一度ゼンヒは鏡を見る。確かに言われた通り、以前よりも赤色の髪が増えているようだ。
「確かに」
「まあ、そういう時もあるだろう。ともかく、寝てる間にあれこれあったから聞いてくれ」
「はい」
ゼンヒは、カンナから寝ていた三日間の事情を聞いた。
まずゼンヒは相当な傷を負っており、頭を三針縫った挙句に骨が数本折れるほどの傷を負った。爆発に吹き飛ばされて頭に当たって、ならそこまで傷つくことはなかったが相手が相手だったのだから、逆に奇跡らしい。起きるまでに今まで関わった生徒(トリニティにいるカフェの店長、ガンショップの店主、助けた梅花園の子など)が見舞いに来ていたそうだ。後輩のハクジツに至ってはしばらく飯が喉を通らない状態だったが、彼女の友人が今隣にいるらしい。
「そうか、ハクジツが_____局長、手伝ってくれた子達は!?」
「慌てるな。確かに爆発に晒されたから無傷というわけには行かないが、骨折までは行ってない。どれもあのヒエロニムス?のようなものの攻撃ではなくあくまで車の誘爆だからな。乗っていたから逆に助かった、とは面白い」
「よかった」
彼女は胸を撫で下ろす。
「それはそうとして一体三日間で縫合した痕すら消えるくらいの回復って一体どうしたんだ?」
「今さっき起きたばかりなので私にはなんとも」
「仕方ないな。では、話を戻すぞ」
カンナの説明が続く。
今回の騒ぎを受けゲヘナ・トリニティ間で調査委員会が設立。先生を中心とした調査が開始された。ゼンヒが怪我で出れないため、彼女に元SRT生を従えるよう提案した生徒が代表で出席して話し合いをした。とりあえずは発見され何故か核となっていた遺物の発見を急いでいる。
いつの間にか大ごとになってて驚いているが、ともかく事態は悪い方へと行ってない。
「今回の被害は大きいが一般市民の被害者はいない上、ゲヘナから一応お礼が来ているぞ」
「喜ぶだろうなあ」
「ああ、喜んでいたよ。ただ、お前が起きなかったからか落ち込み気味だったが」
「後で謝らないとな」
なんて、ため息をつきながらゼンヒは笑う。
「ところで、今回の活躍を受けてあれはどうなるんです?話していた____」
「成立した特別暴力対策課の件か。幹部たちは渋い顔しながら見ていたが、結局はそれほど強いのは誰かが見張ってないといけないってことで私が直々に持つことになった。連邦生徒会長から寝とった気分だよ」
「三桁の姫を寝取るとはいい趣味してる」
「まあ、それも形式上のものだがな。一応同責任者としてお前の名前も書いておいたぞ、勝手に」
「何してるんですか、って言いたいけど彼女たちのことを考えたらそもそも投げることもないか」
二人は笑った。
「それに伴い特例でお前の階級も上がる。警部補としてな」
「えっ」
「シャーレ前の方が平和だったのか、あちこちに行ってただろう?その功績を讃えてのことだ。これに関しては異議はなかった」
「そうですか」
自分と口論した幹部のことを、ゼンヒは思い返す。
『だから君を無理矢理にでもヒーローに仕立て上げるしかないのだ。
ゼンヒというヒーローが生まれ、それをヴァルキューレが前面に押し出す。市民のイメージにヴァルキューレの顔としての君が居れば、市民によってそうでない警官を誹謗させて反省を促す。当然反発するものも出てくるだろうが、それでもその警官に非がある。外部を刺激し、それで腐った部分を焼き捨てるしか再生は望めないのだよ』
「____それを短期間で、もっといい方法でなしたこそ、か」
あの幹部も迷っていた、自分たちができる範囲でどうすればヴァルキューレが正常になっていくのかと。
それを個人ができる範囲で、人に頼んでそれを広げやってきたことで認めてくれたのだろう。そう思えば、裏もない賞賛だと受け止めることができた。
「ただ、ヴァルキューレとしてはやはりお前にシャーレ前の交番にいて欲しい。それはアピールの面も強いがな」
「ヒーローになってきたからこそ、ですか」
「ああ。お前が望むなら巡査部長に上がったハクジツに任せて、特別暴力対策課の課長として新たな場所で働くでもいい」
そうは言われたものの、ゼンヒは断る。
「____私が大軍を率いるなんて、向いてないですよ」
「そうだよな」
「出来ると思います、でもそれは私よりももっと上手い、出来る人がするべきでしょう。私はあの交番で、警部補なのにお巡りさんとしての仕事をします」
「そういうと思ってたぞ」
カンナは微笑む。
ゼンヒも笑みをこぼしているが、その目線は彼女ではない。
「だって_____」
そう、ハクジツがやってきた。痩せこけたほどではないが目に見えて生気を失っていた少女が。
「先輩っ!」
「ハクジツ」
流石に病室で叫ぶのも、病室に他の患者がいないとはいえ憚られたゼンヒは落ち着いた声で彼女を迎えた。傷があるかどうかすらよくわかってないハクジツはゼンヒに思いっきり抱きつく。
「ごめんな、ハクジツ。心配かけた」
「先輩っ……ここ三日間ずっと起きなくって、私、一人で……」
「友達のところにいたんだろ?寂しくなかったはずだが」
「先輩は一人しかいないんです!」
「____そうだな、ごめん」
自分のことを軽く見ていたつもりはないが、それでも相手を傷つけたらしいと察した彼女は後輩を強く抱きしめた。傷はないから、ただひたすらに温もりが伝わってくる。
「ごめんなんて、言わないで____先輩は」
「これ以上何も言うな。私は生きているから」
「……っはい」
そんな大事な、静かで誰もがそっとしておきたい再開。
ぶち壊してくる奴らも来た。
「おい!ボスが目を覚ましたって!」
「ボスーっ!」
他に病人はいないと弁護士が話したからこそ突っ込んでくる奴ら。
元SRT、そして今は特暴課のメンバーだ。
「へぇっ!?お前らなんでここに!私ゼンヒってバラしてないのに!」
「運んでたら分かりますよボス!ボスがあの扇皇ゼンヒだったなんて」
「私はてっきりカンナの犬として怒られるかと思って」
「どう言う意味だ?」
「あっそうだ本人居るじゃん!」
「不用心だな、ゼンヒ。今度罰として一緒に飲みに行くぞ」
「それは罰なんですか?」
「量は食えない」
「罰じゃん!」
失言に頭を抱えてももう遅い、だがせっかくならと手をあげる奴らがいる。
「折角なら祝勝会しましょうよ局長!」
「そうだな。なら、ゼンヒも付き合ってくれるだろう」
「わかりました、一緒に行きますよ」
ゼンヒも頷いて、退院したらパーティーすることも約束。頷いた彼女は、それはそれとしてやってきた部下に聞く。
「ところでさっき聞いたんだが、局長の直属になるらしいな。大丈夫か?不満があったりはしないか?」
「大丈夫ですよ!でも、一つだけ文句ありますね。それだけ気にかけてくれるならどうしてアタシらにすぐ声かけてくれなかったんだって」
「無茶言うなよ、局長はそこまで前線に出れるような人じゃない。それに他の幹部は民間企業と同じように警察を扱う奴らが多い、だからどうしても仕方ないんだ」
「じゃあボスが出てくるまでは仕方なかった、って?」
「そう言うしかないだろう。私だったらよく現場にいるし、そういう中継地点は必要なんだ」
ほえ〜、と納得している特暴課のメンバー達。
雑談をしていると、後ろからまた看護師がやってきた。
「皆さんどいてください、今からゼンヒさんの検査のため連れて行きますよ」
「ああ、すまない」
カンナは素直に立ち上がって退くが、特暴課のメンバーは文句を言う。
「えーっ!いいじゃないですかもうちょい話しても!」
「検査終わったらいくらでも話していいですから今は我慢してください!」
「そりゃないですよ!」
「いいじゃないか、仕事は大事だ」
そう言って、ゼンヒは立ち上がる。
抱きついて話に加わらず泣きっぱなしだったハクジツも、ようやく離れた。
「あの移動できるからって立たないでください」
「じゃあどうやって移動するんだ?」
「車椅子」
看護師が用意した車椅子に、ゼンヒは座った。
「立って歩いた方が健康的なんだけどな」
「それをして健康になれる状態かを確かめるためのものです」
「そうだな……じゃ、みんな!行ってくる!」
ゼンヒは後ろで大事な仲間に手を振って、病院の廊下へと消えていく。
______脅威的な回復を見せつけたゼンヒは、その日のうちとは言わずとも翌日には退院したそうだ。
その退院時に、もみくちゃにされたのは言うまでもない。
《後書》
こんにちは、らんかんです。ある程度区切りがついたので、後書を書かせていただきます。
まずはこの作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。これを書いている時点ではお気に入り数328、評価数22の平均8.61、しおりは158件で感想は12件です。評価に関しては★10が四つもあるので、少なくともこの作品が今らんかんというちっぽけな人間の代表作になっています。皆様のおかげです。
完走、とは言い切れませんしまだまだシャーレ前の交番勤務をするゼンヒ警部補の話はまだまだ続きますが……感想を言いたいと思います。
まずここ毎日更新、25日も付き合っていただいた方々に本当に感謝しています。私としては物語を提供すること以外で報いる手段がないって言うのが辛いところですね。感想も返せる分しか返してないのは(ハーメルンは無理に返す必要ないよって言ってるけど)申し訳なく思ってます。しばらくは後述するアンケートの件もあって更新を停止するので、今更ながら返していくって形を取りたいと思っていますね。アンケートに関してはもしよろしければ入れていただけると助かります。
反省点はまあ二つありますね。まずは確認しているとはいえ誤字脱字が多い点、私としても2回ほどは読み返してはいますがそれでも割と誤字報告きます。申し訳ありません。あとは、シャーレ前での警備のはずなのにトリニティ行ったあたりからあっちこっちに出没したりと、それもまた申し訳なく思ってます。次からは先生と絡むので、もう少し長居すると考えてます(先生がどこかへ行く際同行する生徒はゼンヒじゃなくてもいいから)。
良かったところ、は特にちょっと思いつかないですね。結局評価としては1000も行ってないし、ブルアカならこれ以上でいい作品なんてそれこそ星の数あるのでわざわざこの作品にしかない長所はないと考えています。冷めるようなこと言って申し訳ないとは思いますが、まあこれはいつもらんかんはナイーブなのでお許しください。こちらが気づいてないだけの長所を、評価してくれた人は感じ取っていると思います。
感想はこれくらいにしてここからは予定ですね。
当然この話は続いていくんですけど、その前にアンケートを取りたいと思っています。ストーリー展開、と言うよりどっちを先に書くか、と言うものです。評価して読んでいただいてなんてかなり尽くしてもらっている私ですが、どっちを先に書くか悩んでいるからこの厚顔無恥ぶりを許してください。
一つ目は幕間としての『ゼンヒの過去編』です。彼女は犯罪を犯していないのに矯正局に居たのは皆さん知っての通りですが、なぜそんなことがあったのか。またハクジツの件に関してもここで書こうと思います。
二つ目はそのまま第二幕『ゼンヒ警部補編』です。当然ゼンヒ巡査部長編と同じ感じで展開して行きますが、もっと話そのものは広がる予定。巡査部長編で出てきたトリニティのカフェ店長とかも活躍します。
この二つは両方書く予定ですが、どちらを先に書くかをアンケートで決めます。投稿後、アンケートを設置するのでもし良ければ投票の方をお願いします。
またこれに際し、当然更新の方も一時停止します。一応アンケートに関しては最低二週間は置いておくのでよろしくお願いします。
最後に改めまして、この作品を愛読していただいてありがとうございます。ゼンヒたちの物語は進みますが、とりあえずはカンナとゼンヒが狙った元SRTの招集と活躍の達成を持って一度更新を止めさせていただきます。よろしければ、感想をいただけると嬉しく思います。
しばらくは不定期に別作品……の話はしていいかは別として、ヒエロニムスやアリスのやつを更新するのでそこでお会いするかもしれません。その時はよろしくお願いします。また、これも良ければですがこの作品の読了報告もしてもらえたら嬉しいです。
それではまた会いましょう!
らんかんより
次の話はどっち読みたい?
-
幕間:ゼンヒの過去編
-
第二幕:ゼンヒ警部補編