シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-2:売人追跡

 ゼンヒは駅で新聞を読んでいた。

 

「……」

 

 どっちの方向にも、どこの電車にも乗らずに新聞を広げて読んでいる。

 

 暇ではあるが、これも仕事の一環だ。

 

 ゼンヒは警部補だ。だが、それと同時に特暴課を率いる存在。今回は後者の仕事である。

 

 かなり前に彼女が捕まえた売人だったが、小売する別の売人がいる事が発覚した。該当者はどうやら規則的に薬物を売っているらしい、相手が降りるであろう駅に三段階のラインを作って確保する作戦に出た。駅のホーム、駅構内、駅出てすぐの待ち合わせ場所の三つ。

 

 薬物などの凶悪犯罪に詳しい連中が揃っているのもまた特別暴力対策課のメンバーの特徴である。凶悪犯罪、というよりキヴォトス全土の安全保障のための組織として訓練された者達の集まり。いかに危ないものを持っていようが、どれだけの小細工をしようが絶対に捕まえるという鉄壁の包囲網を作り上げた。

 

 _____ただ、それでも時間というものはそう都合良くはない。ゼンヒは貰ったデジタルウォッチで時間を見てると、二時間は経っていた。

 

「随分と現れないものだな」

 

 今回はヴァルキューレで張り込みが得意で、指名手配の顔も覚えてるくらいのプロも用意していたのだがまあ見つからない。

 

 だが、異常を逃してはならないからと曲を聞くわけにもいかず、悶々としてはたまに新聞を閉じてあくびをする。スマホをのぞいても特に何かあったとの情報もない。

 

「こりゃ読みを誤ったか?指示したのは私だ、どう申し開きをしたものか」

 

 一旦諦めるか?と立ち上がった。

 

 周りを最後に確認する。撤収するにも最後まで気を抜いてはならない、そう思っているからだ。

 

 ゼンヒの向こうにあるホーム。

 

「……」

 

 スポーツバッグを持っていながら、果たしてスポーツをするのかどうかという文学系のような少女が居た。

 

 人は見かけによらない。だけれども人間とは不思議なもので、違和感というものを感じる。

 

 色の検定も、アロマのそれも、合う合わないはその感覚というピースを嵌めるための技法という面もある。

 

 そう言ったものを持っていなくても、人間には感覚というものを感じた。向こうのホームの少女に、ゼンヒはそれを感じたのだ。

 

 華奢で姫のようなそれに、それが似合わないのは分かりきったことだった。黒い制服だが、それに高貴さはない。スポーツバッグは思い切り膨らんでいるのもあって不恰好である。ただ、それよりも彼女の目を引いたのは。

 

 何故だかホームの光に当てられて、彼女の肌がやけに光っていたことだった。

 

「連絡をしようとおもったが、どうやらその暇もくれないらしいな」

 

《間も無く、三番乗り場に快速トリニティ行きが到着します。危ないですので、黄色い線の内側にお下がりください》

 

 電車の音と光がする。

 

 彼女は、相手を見ていた。相手も、彼女を見ていた。

 

 それを遮ろうとする鉄の芋虫が、光りながらレールの上を辿って駅に触れる。

 

 互いに、唇を動かすことをしなかった。伝えたいことはなかった、あってもそれは言葉で伝わるものでもなかった。

 

 電車が止まり、扉が開く。

 

「止まれ」

 

 そう言って、ゼンヒは銃火を鳴らした。

 

 狙うこともしなかったその次の刹那で、彼女はリボルバーを引き抜いて撃ったのだ。

 

 ガラスは割れ、警報が鳴り、そして悲鳴が響く。

 

「きゃああああーっ!」

「わ、わあ!」

「あの女急に!」

 

 ゼンヒは慌てることなく、自分が撃ち抜いた窓の向こうにいるやつを見る。

 

 彼女が警察だと観念せず、怪しまれないことに重きを置いた結果先んじて撃たれた相手はそのまま逃走を図る。窓の光沢がない分はっきりと見えたその姿には、持っていたスポーツバッグはなかった。

 

「逃げるつもりか!」

 

 互いに、階段を登る。

 

 ホームは離れていて窓もないので分からないが、幸いこの駅の改札は一つだ。地下鉄の狭さにこれほど彼女が感謝した日はないだろう。

 

 階段を登り切ると、ゼンヒは片手間で部下に電話を繋いでリボルバーを構えた。

 

「止まれ!」

「くっ!」

 

 売人は出遅れたことだけは後悔しつつも、撃ち合うとなれば話は別だと考えて銃を抜く。

 

 その銃は、自動拳銃でありながら思ったよりも重厚であり、使う弾も大きいのか銃口もまた大きかった。

 

 今度は相手の銃が火を吹いて、彼女を殺そうと放たれる。だが相手は銃の扱いに慣れてないか、それとも武器の威力が強すぎるだけか狙いが安定せずに近くの壁に着弾。壁は砕かれ、まるで爆弾が爆ぜたかのような様相を見せる。

 

「マジか!?」

『リーダー!』

「改札に集まれ!封鎖しろ!集まったら班分けして手伝いに来い!」

 

 繋げていた電話に指示を出してからスマホをポケットに突っ込んで、リボルバーを構え直す。

 

 相手は窮地に立たされたというのに、楽しそうだ。

 

「私を撃ったのは何故かな?」

「あのバッグを持ち歩くだけの人間に思えなかったこと、そして妙に肌が艶めいていたこと。

 お前、薬物をやってるだろ?」

「どうだろうね」

 

 だが、警官に銃を撃った時点で仮に売人でなくても逮捕しなくてはならない。事実破壊行為をしたのだから、見過ごすわけにはいかなくなっていた。

 

「まあ、仮にどうであれ私は逃げる選択肢を取った。君は正解したんだ、誇ってくれ」

「なぜあんなことをする?」

「知れた事だ。君が捕まえた売人と同じだよ」

 

 彼女が捕まえた売人は、自分達が選ばれしものとなる為に無理やり人の才能を開花させるように違法ドラッグを乱用してそれを広めていた。目の前にいる売人もまた、それを望んでいるようだ。

 

「君が先生の指揮下にないまま成功しているのはよく知っている。だが、それは君の運によって引き起こされた物だ。君はあの人を否定したのも分かってはいるが、ならば君がするべきことは見逃すことだ。恵まれないもの達のために」

「断る。そのような物に頼る世界がどれだけ不健全か知りもしない奴に手を貸す気はない」

 

 さっきの爆風で帽子が取れて、深紅と薄紅色が混ざったその髪が揺れる。

 

 それを見たら、売人は少しだけ口角を上げて話した。

 

「ああ……そう言うことか」

「何が!」

「いや、なんでもない。やるべきことは変わらないからね」

 

 お互いに、トリガーを握り込む。

 

「それを取り込んだ貴様に此方を批判する資格はない!」

「個人で変えられない社会に意義を感じない奴が何を!」

「無能の亡者が邪魔をするな!」

「てめえ!」

 

 そう言って、また二人は引鉄を引く。

 

 お互いに幸か不幸か放った弾丸が当たって弾け、爆発しては周囲の視界を遮ってしまう。どちらにも被害はないが、その爆風が通路を揺らして、少しばかり地面のタイルを剥いでしまった。

 

 視界が悪くてはどうしようもない。一度自分がいたホームへと続く階段へと降りてから、ゼンヒはリロードして構える。

 

(やつの銃は一体なんだ!?ハンドガンの弾が爆発するなんてあり得るのか!?)

 

 少しだけ身体を出してから、あちこちを見る。

 

 煙で見えないと悟ったら身体を引っ込めてから階段に戻った。

 

「あいつが薬によって感覚を強めているならこちらの位置は知っているはず。それに、あの銃ならば構造さえ分かれば無闇に撃ち込んでも問題はない。それをしないと言うことは_____」

 

 ゼンヒは空の薬莢を手にしてから、相手側へと放り投げる。

 

 あえて通路を確認せずに少しだけ待つ。空に反響する金属音以外何も聞こえない。

 

「なら_____」

 

 そのまま彼女は、なんの疑いも持たずに階段の下を撃った。

 

 すると、何かを狙っていたと思われる売人は少し上った階段を銃のノックバックでバランスを崩して転げ落ちていく。持っていたピストルもそのまま弾き飛んで、階段の隣にあるエスカレーターの手すりと階段との仕切りの間に挟まる。

 

 相手が肩を抑えて痛みに耐えながらも蹲っているのを見て、足に二発追加で撃ち込むとなんとも言い難い悲鳴を上げていた。

 

「お前ならここに来ると思ったぞ」

 

 かつ、かつ、ゆっくり階段を降りながら、ゼンヒは相手に話しかける。

 

「確かに階段を挟んでの撃ち合いというのは時間が掛かるし、そうなれば当然困るのはお前の方だ。お前が線路を辿って逃げることも考えてはいたが、電車だからこそ早いだけで相当に時間が掛かる。そのうち他の駅の警備が強化されてお前は捕まる。当たり前だ、線路からやってくるやつなんて一人しか居ないんだからな」

 

 階段を降り続けても警戒してる彼女。

 

 よく見ると、相手の肩からは血が流れていた。地面を濡らすほどじゃないが、服に妙な赤い染みがついてしまっている。

 

「ならば一般市民より私の人質を優先するだろうと考えたわけだ。私の事を知っているなら、そこらの一般市民よりかは人質になる価値はあるだろうからな。すると最適解なのは大丈夫だろうと慢心した裏側から攻めることだ。まあ、間にあった電車は止まったままだというのにスムーズにこっちに来れたのには心底驚いたが」

 

 彼女は相手を足で蹴って転がしてから、うつ伏せになった売人に手錠を掛けた。

 

「反対側の階段から来る手もあったが、階段は別とは言え音が聞こえやすいからな。それに下から来るわけないと基本は考える、よく思いつく物だ」

 

 ただ、褒めても相手の状況は良くなる訳ではない。

 

 売人は痛みによって声が出せずに、そのまま悶え苦しむこととなった。分かりやすく言えば、ゼンヒと会話が出来ない。

 

 ちょうど捕まえたところで、彼女の部下がやってきた。

 

「大丈夫ですかリーダー!」

「ああ、大丈夫だ。このふざけた奴を連れてってくれ。あと、あのピストルが危険だから爆弾駆除班を呼べ、下手に触って爆発しましたでは大変だからな」

「了解です!」

「こいつが持ってた黒いスポーツバッグに関しては私が持っていこう」

「はい!」

 

 指示を出してから部下に売人を任せ、彼女は反対側のホームへと向かう。

 

 人は電車に避難しており、ホームにもちらほら居たがピーク時で無かった事が幸いしたかそこまで数が多くなかった。

 

「これか」

 

 彼女が撃った弾はどうやらバッグの紐を切ったらしい。背中に掛けれなくなったそれは、ホームで持ち主を待っているかのように放置されていた。

 

 ゼンヒはそれを開けると、何かの箱が沢山入っている。うち一個は落ちた衝撃で開いていた。

 

 中には、予想通り白い粉状のものが入っている。

 

「この売人はだいぶ素人だったわけだ」

 

 それでも最初に捕まえた売人のルートを辿らないとバレなかったあたりヴァルキューレの治安維持における気力の低さに呆れたのだが。

 

 とりあえずは危険なので回収して処分しよう。そう考えた彼女は、紐を腕にくくりつけてから階段を登って部下との合流を急ぐ。

 

 新年もひと月が経った頃、ある日の駅の出来事である。

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