シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-3:特別暴力対策課の朝

 朝、ゼンヒは目を覚ます。

 

 ここはゲヘナと連邦生徒会の領地の境であり、いわば境目とも言える場所。

 

 故に警護は十全であるが、その十全さはあくまで"人が出来る限界値"であったために先のアリウス過激派による事件では被害を出してしまっている。

 

 ただ、その被害もまた風紀委員会ならびに発足したての元SRTで固められた部隊で先生がおらずとも軽度の被害で終わらせることができた。

 

「_____」

 

 ハミングしながら、シャワーを浴びるゼンヒ。

 

 さて、そんなところの近くでゼンヒは何をしているか。

 

 実はあの事件の後、建物の所有者であったタリナというゲヘナの生徒からの提案でこの建物をゼンヒへ管理を移した上で特別暴力対策課のアジトとして利用することになったのだ。

 

『あの建物を狙っているのには訳があるのかもしれない』

 

 依頼をした本人はそれを危惧した上で、いっそ高級なアジトとして利用してもらい"馬鹿なやつは痛い目を見るようなトラップにしよう"と考えた。それに同意したゼンヒは、結果、噴水の広場に面したその豪華な秘密基地らしい建物を棲家にしながら、シャーレ前交番の非番の日はここで過ごすことになっていた。

 

 自らの体躯はそれほど特徴的なものでもなく、普通に女性になりつつあるそれに、不恰好でどうしようもないペンキの汚れのような髪。だけれども、今いるここは自分が持っている秘密基地。いつもは何も思わないそれでも自分に自信が出るのか、水を拭き取りドライヤーで髪を乾かし、服を着て笑顔で髪を編み直してから脱衣所を出る。

 

「おはようございます!」

「ああ、おはよう」

 

 そんなゼンヒに挨拶するのは、実働部隊長の鹿嶋ユリ。

 

「ボスー!そろそろアタシ達が担当してる調査委員会終わりそうですよ」

「ああ、そうなのか。結局何かいい情報はあったのか?」

「いいや、特には。結局トリニティとアリウス、後ゲヘナで資料がありそうな建物の捜査に同行したんですけどいい結果は得られませんでしたよ〜。やっぱりあれゲマトリアが関与してた時に作られたやつなんじゃないですかね?」

「数が少ないと思いたいが、無いのが一番だ。まだ油断はならない、か」

 

 二人の間にコーヒーカップがある。

 

「ん?」

「飲むかな、と思いまして」

「指を2回鳴らした覚えはないが」

「片方は私の分ですよ。ミルクと砂糖を入れてます」

「ではいただくとしよう」

 

 ブラックコーヒーが入ってる方を取り、ゼンヒは飲む。

 

 暖かめのものだ、インスタントのような手軽さの味。深みというよりは酸味が強く、起き抜けには悪いことには違いないがそれでも朝のひと時には欠かせないものだ。

 

「リーダーはブラックコーヒーを飲むって聞きました」

「それは好みの話か?」

「いいや。この前リーダーがあそこ非番で居なかった時に挨拶しに行ったんですよ。そしたら後輩さんが『甘いものを出すと見境ないから基本コーヒーは無糖がいいよ』って」

「ハクジツか。よく見ているな」

「思ったよりもリーダーって世話焼かれるタイプなんですね」

「私が優秀なわけではないからな」

 

 それでも人に頼む、頼み方を知っているだけでも世の中というのは回ってみたりする。優秀な人、そうでない人は別れて可視化されやすいが、その天才達という狭間に橋を掛けるのもまた人生だったりするのだ。ゼンヒは後者のタイプだと自認している。

 

「で、話を戻そう。結局調べて何もなかったのは分かったが、他に何かあったか?」

「アリウスの一部生徒、左派であろう人達は一度関与した疑いで矯正局に連行されましたよ。一応まだ書類送検された段階で、正式に裁判があるのは調査委員会解散後になると思います」

「そうか」

 

 互いにコーヒーを飲んで一息ついて、話を続けた。

 

「あとは少しだけ人員が余っているのもあって、正義実現委員会に同行しての治安維持活動もしました。これに関しては正義実現委員会が別件で追っていた組織の_____ああ、あの密造酒作ってたり紅茶店襲ってたりしてた奴らの組織です。あの人たちに協力して、その組織の撲滅活動をしました。まだはっきりと撲滅したわけではないのでしばらくは様子見です」

「なるほどな。と、するなら結構評判も上がったんじゃないか?」

「評判はほぼ想像通りでしたよ。ゲヘナとトリニティから渡された仕事はあくまで自治区の治安維持組織の補助ならびに調査委員会の護衛なのであまり目立ってませんでしたから。ただ、それでも安全に過ごせたこと、別件の処理に貢献したことによってティーパーティーなどの政治組織はともかく、治安維持組織やそれに類する部活からは良い評価をいただけました。先生からも褒められましたし」

「そうか」

 

 朝の八時半、まだゆっくりするのも許される時間だ。

 

「ただ、評判に関しては味方よりも敵の方がこちらのことを大きく評価しているようです」

「と、言うと?」

「『元SRTが公的機関で動けるようになったせいで制圧されたり隠れる時間が無くなった』『ヴァルキューレだと舐めて掛かっていたらステゴロ強すぎて勝てなかった』『刃物で脅そうとしても全く怯まないせいで焦って負けた』『テロに強すぎて自分たちの仕掛けが全部無駄になった』など_____矯正局での取り調べで出てきた言葉です」

「なら、威圧するための機関としても使い道が出てきた訳か。何かの護衛とかは得意分野だもんな」

「はい!」

 

 コーヒーカップを脇に置いて、自分のデスクからファイルを取り出すゼンヒ。

 

 いくつか依頼内容があるようで、それをユリに見せた。

 

「そろそろ終わるって話だったよな。いくつか依頼があるんだが、その話をしていいか?」

「え、あるんですか?」

「そりゃな」

 

 今やっている仕事は二つ。

 

 その1、調査委員会の護衛並びに調査の為に抜ける正義実現委員会のメンバーの穴埋め。

 

 その2、ゲヘナ風紀委員会のアリウス過激派がいないかどうか調査するための一時的増援。

 

 この二つだけでもかなりの額の金が動いているのは、ゼンヒが為したことと彼女らの練度の高さによる信頼性の高さが価値を高めているからだ。

 

「調査委員会のやつが終わったら、今度は別のことをやってほしい。山海経に行ってもらうことはできるか?」

「山海経ですか?」

「ああ」

 

 この前、まだゼンヒが一介の巡査部長でしか無かった頃、梅花園の少女が誘拐されたのを助け出した時があった。

 

 その後新たに誘拐された、と言うわけではないがまた山海経周辺で誘拐したロボットと同型機が確認されているようだ。それの確保をしてほしいという依頼が、山海経から来ている。

 

「しかし山海経って珍しいですね。あそこ外部との関わりは玄武商会以外は絶ってるって話じゃなかったですか?」

「先生が行くようになってからある程度は外部組織を頼るようにしたんじゃないか。といってもこれ正式には私への依頼だけどな」

「あの時から信頼されているんですね。でもそれなら、リーダー直々に行った方がいいのでは」

「私も出来ればそうしたかったが、警部補になってからは慣れない書類仕事が増えてな。今日の九時からそれをやったりしようとしてるくらいには、処理が増えていると言うわけだ。体動かした方がいいのはお前と一緒だが、私は責任ある立場になってしまった以上は、逃げるわけにはいかない」

「そうでしたか」

「それに、山海経は梅花園をかなり重要視している。それを守るためには金に糸目をつけないのだろうな、今回は私からの紹介ってことで任せるからちゃんとやってこいよ」

「分かりました!その仕事引き受けます!」

「では、よろしく」

 

 一度ファイルを回収して机の上に置く。

 

 あとでコピーを渡して色々手続きをしたり、責任者に電話をかけたりと大忙しになりそうだ。それでも書類仕事だけでよほどのことがない限り緊急出動はないから、ゆっくり昼飯を食べられるだけでもありがたいのかもしれない。

 

 話が終わって、もう一度コーヒーを飲んだユリ。今度はゼンヒに、話をする。

 

「そういえば一昨日あった売人の逮捕の件に関してなんですけど」

「なんだ?」

「あれに関してはアタシらが前張って対処しなくていいんですか?まだ壊滅したわけじゃないでしょう?」

「ああ、それか」

 

 一度ため息をつくゼンヒ。

 

「そんなになるなら話さなくても_____」

「いや、知っておいた方がいいから話すぞ。あれに関しては公安局の別組織が対応することになったんだ」

「え?」

「当然組織犯罪はそれなりに使えるうちの組織向けなのには違いないんだが、当然警察だって一枚岩じゃない。不知火カヤに同調する輩だって当然存在しているが、このままだとそいつらの居場所がなくなるとかなんとかで固まって猛反発を喰らった。だから、その捜査は譲ることにしたんだ」

「それは……気の毒でしたね」

「気の毒なのはそっちだろう、活躍を奪われたんだから」

「でも文句言われるの局長とリーダーじゃないですか」

「それもそうだな。心配してくれてありがとう」

 

 時計を見てみると、八時五十分。

 

「そろそろ調査委員会の方へ行かないと。あれこれ書類の整理しないといけませんから」

「最後の最後だ、気を引き締めて頑張れよ」

「はい!行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

 

 そうしてユリは、課長室から出て行った。

 

 一人になったゼンヒは一度背伸びをしてから立って、コーヒーをもう一杯淹れることにした。甘めのものを作ってからデスクにおいて、少しばかりデスクの整理をしてからノートパソコンを取り出して開く。

 

「調査委員会の方の決済書に、もう一度風紀委員会の方の契約更新に関してやって、で山海経の方にはこっちから電話を入れないといけないか。あとはまだ終わってなかった活動報告書に_____やることがいっぱいだな」

 

 数だけ見れば多くはないがどれもめんどいものだ。朝日を浴びても気が滅入るが、乗り越えればそれだけ経験値になって苦では無くなる。

 

 仕事の洗練度は、どの立場に於いても腐りはしない。そう意気込んで、彼女は仕事を始めた。

 

 朝の九時、授業も仕事も始まる時間である。

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