シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-4:矯正局へ足を運んだゼンヒ

 この日も書類仕事に追われていたゼンヒであるが、仕事自体は自分で運ぶ必要があるものが一つだけだった。

 

 書類仕事に慣れていたユリと一緒にフォーマット作って書類の形式等を見ながら調整した結果、エクセルでマクロを組んだ甲斐があり作業効率が最初と比べ三倍ほど早くなり、自由な時間が増えたのである。

 

 特別暴力対策課の課長としての仕事は終わったものの、それとは別にしてカンナに頼まれたものを運ぶために、矯正局に踏み入れた。

 

「失礼します」

「あ、きたきた」

 

 受付の方で、事務員がゼンヒを呼ぶ。

 

「久しぶりゼンヒちゃん、私のこと覚えてる?」

「ああ、お世話になりました」

 

 その受付は彼女の知り合い。

 

 去年の四月から十月までの間、矯正局にいたゼンヒの世話をしてくれた警官だ。今は受付をやっている様子。

 

「どんな用事が?」

「カンナ局長に頼まれたので書類を持って来ました、少しお時間いただいてもよろしいですか?」

「う〜ん了解。ちょっと待ってね」

 

 事務員は他の同僚を呼んで、しばらく受付の代打を頼んでからゼンヒの側に来る。

 

「よし、これで大丈夫。行こうか」

「ええ」

 

 二人は、側にある扉から業務員専用通路に入って、会議室を探す。

 

「ゼンヒちゃんがやってくるなんて思いもしなかったなあ。いつぶりだっけ?」

「ざっくり四ヶ月ほど経ってるかと」

「そうだねえ。いや、とても嬉しいよ、元気にしてくれてお姉さん嬉しいな」

「あの時からお世話になりました。怖くありませんでしたか?」

「君は明確に罪を犯して入ったわけじゃないからねえ。そうそう、確か天衣_______」

 

 何かの名前を言おうとした時に、事務員が激しく咳き込む。ゼンヒはこの時聞き逃したのか、咳き込んでいる事務員の方を心配した。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。気にしなくていいよ」

 

 そう話した直後に、目的の部屋に着く。

 

 開くと、取調室とほぼ変わらない部屋。

 

「座って」

「ええ」

 

 ゼンヒは勧められた椅子に座ってから、相手も座ったのを見て書類を取り出す。

 

「しかし、カンナ局長自ら書類を運べって相当なんだろうね」

「ここまでは車で来ましたが、その際護衛を3人つけました。元SRTの連中です」

「人が多くても車一台だったら怪しまれないもんねえ」

 

 封筒を開けて、書類を見る彼女。

 

「ああ、なるほど。そういうことね」

「私は例の薬物を取り扱う組織についてのものだと聞いています。どうですか?」

「うーん、連絡があった通りだねえ。前の地下鉄での事件と併せての報告書とか、知りたいことをまとめてたりとか、例の証拠品とかも入ってる」

「証拠品?」

「まあこれは別に危険なものでもないからいいか」

 

 事務員の彼女は、他に書類がないかを確認する。

 

 すると、メモのようなものが入っていた。奥の方にある以上、おそらくはゼンヒが読むとまずいものだろう、幸いなことに他の書類も入っていたので、それと一緒に取り出してみる。

 

「あとこの書類だけだね」

 

 そう言って、事務員はメモを見た。

 

 

 

《扇皇ゼンヒは、最近深紅の髪の量が増えている。染めているわけではない以上、先の事件で神秘の複製と接触した影響が出るだろう。天衣セツカが彼女の中に入っている可能性がいまだに捨てきれない以上、行動を注視して報告してくれ》

 

 

 

(局長もやっぱり気にしてるんだ)

 

「____あの」

「うん?」

「何か、書類に不備が?」

 

 事務員は書類を全部戻して、心配してる彼女に言う。

 

「大丈夫よ、チェックしてただけ」

「そうですか。よかった」

 

 彼女は気遣うゼンヒに休んでほしいと、近くにある場所からケトルで紅茶を淹れてクッキーを数種類持ってきた。

 

「ほら、ゼンヒちゃん。これ甘いもの」

「わーい」

「前みたいにはしゃがなくなっちゃったのね。嬉しいような、寂しいような」

「私だってあれこれやってますから」

「お巡りさんやってるって言ってたもんね」

 

 そのまま、ゼンヒはお世話になった人に今まで自分が経験したことを話した。

 

 年が明けた直後の強盗事件を一人で解決したり、必要があって出かけた先のトリニティの襲撃事件を頑張って退治したり、梅花園の幼稚園児を助けたりしたこと。

 

「へえ、最初からってわけじゃないけど結構色々やってたのね。あ!あれは見たわ、強盗事件の方はニュースになってたわよ」

「表彰されるぐらいの出来事でしたからね。ニュースになってるって時は見てて恥ずかしくなったりしましたよ」

「テレビじゃあんなにハキハキ喋ってたのに?」

「あの時はまだ実感湧かなかったから落ち着いてただけです」

 

 パックから滲み出た香りが部屋に広がる、ゼンヒはチョコクッキーを食べながら話を続けた。

 

「梅花園の幼児に関しては後輩と一緒に救助したんですけど、お礼に貰った辛角煮まん美味しかったな」

「いいわねえ、そう言うお礼。今度山海経行けたら買おうかしらそれ」

「本当に美味しかったですよ。ただ、やっぱりお土産用だったのかあまり辛くは作られてなかったんですよね。匂いかいでえずくとかではなかった感じ」

「なるほどねえ」

 

 二人はパックを外してから捨て、紅茶を飲む。

 

「他に活躍聞きます?」

「うーん、どうせこっちにも報告とか来るだろうしせっかくだからプライベートとか聞いてみたいな」

「じゃあ、知り合いの話をしますか」

 

 三人ほど、話せる奴がいる。

 

「まずは後輩のハクジツから。白鳥ハクジツっていう後輩がいます」

「梅花園の幼児を一緒に助けた子?」

「そうです。あの時は巡査長でしたけど、私が上がる時に巡査部長になりました。頼もしい後輩なんですよ」

「あれだけ派手にやってるゼンヒちゃんがそう言うって相当だね」

「元々生活安全局の所属だったのもあって、しっかりと警察としての基礎は叩き込まれてますから。少なくとも彼女なしでは、真っ当に警察出来てたかも怪しいと思います。同じところに配備されてからあれこれ教えてもらいました」

 

 彼女は後輩のハクジツにだいぶ感謝しているのは伝わった。紅茶を飲みつつ、事務員は言う。

 

「それだけいい人と出会えたのは良かったわね。あれでしょう?無銭飲食したやつを倒したのも彼女と一緒だったんじゃないの」

「ええ。なので、何から何までお世話になっています」

 

 照れているゼンヒは、また別の少女のことを話し始める。

 

「次が別天 バンリっていう生徒です。トリニティの襲撃事件からの付き合いなんですが、彼女の作る海鮮サンドイッチが美味しいんですよ」

「そう言えばエンジェル24で売ってたわねサンドイッチ」

「どうでした?」

「すごく美味しかったわよ。やっぱり冷蔵技術が上がっていくと、ああいう美味しいものも手軽に食べれるようになるのね」

「聞いたら喜ぶと思います。伝えておきますね」

 

 バンリの事について話すゼンヒ。

 

 今自分がつけてるスマートウォッチなどは彼女からのプレゼントだと言うと、だいぶ驚いたようだ。

 

「そうなの!」

「昇任祝いだってわざわざ交番まで来てくれて……嬉しかったなあ」

 

 その時の彼女の顔は、少しばかり赤らめていた。

 

「好きなの?」

「なんて言ったらいいんだろうな。安心するから隣にずっといてほしい、ってたまに思ってしまうくらいには包容力のある人なんです。バンリって……でも、そういうの好きかどうかは分からないから」

「でもいい人なのには違いないわね〜……あ〜あ、私も結構君の面倒見てたつもりなんだけどなぁ」

「妬かないでくださいよ。私にとっては此処が始まりの場所なんです……その、喜んで帰れる場所ではないからあなたとあまり会えないだけで」

 

 自分の居場所であるよ、と言って安心させるゼンヒ。

 

「忘れないでよー」

「ええ、忘れませんよ」

 

 そう言ってから、彼女は最後の仲間の話をする。

 

「あとは……自分の部下になった鹿嶋ユリ。彼女も結構頼りになるんですよ」

「部下?」

「特別暴力対策課ってあるでしょう?そこの部下」

「じゃあ元SRTって事?」

「ええ」

 

 ゼンヒは肯定した。

 

「彼女が背中を押してくれたおかげで元SRTの生徒に居場所を作ってあげられましたし、活躍させることも出来ました。前にあったヒエロニムスの件だって、彼女が自分の仲間を集めて習ったことをベースに考えて動いたのが決め手だったわけですから。本当だったら美味しいところも全部あげる予定でしたが、事態が事態だったので」

「あそこまで行っちゃうと仕方ないよねえ」

「今はその事件の調査委員会の警備や、ゲヘナでの残党狩りなどで派遣している生徒の指示とかをしています。書類仕事とかも手伝ってくれてるので、とても頼りになるんですよ」

「いいわね」

 

 さて、書類も渡したからとゼンヒは立ち上がる。クッキーもカップにあった紅茶も空になった。

 

「私はそろそろ行きます。仕事は無いですが、ずっとお邪魔するわけにはいかないので」

「そうね」

 

 後で片付けるから、と事務員の生徒も立ち上がっては部屋を出る。

 

 扉から出て廊下を歩き、エントランスまで戻って来た。

 

「お見送りするわ」

「ありがとうございます」

「気にしないでちょうだい」

 

 変わらず丁寧な態度を取っているゼンヒに、彼女は声をかける。

 

「ねえ、ゼンヒちゃん」

「なんでしょう?」

「ゼンヒちゃんは、いつまでもそのままでいてくれる?」

 

 質問された方は、その意図を知る由はない。だから、自分が言える範囲で答える。

 

「いつまでもは難しいかもしれません。特別暴力対策課が、仕事としてかなり本格化した場合はお巡りさんのままではいられませんし、何より忙しくなってなおさら会えなくなる可能性だってあります」

「……」

「でも、いつまでもこんな風に誰かとのんびり話せるような、そんな人間でありたいです」

 

 ゼンヒのその答えに、事務員は笑顔を返す。

 

「……そうね。ゼンヒちゃんは、そのままでいてね」

「ええ。また、何か用事があったら来ます。その時もよろしくお願いしますね」

「うん」

「それじゃ、お元気で」

「ゼンヒちゃんもね」

 

 そう言って、二人は別れた。

 

 事務員は自分の持ち場に居てくれた生徒に話しかけて休憩を促し、ゼンヒは自分が乗ってきた車に乗る。

 

 2月も入って1/3は過ぎた。春の気配が、花の匂いでかすかにするだろう。

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