交番に連絡が入る。
「出動要請でーす」
「なんだ」
「近くのコンビニで強盗事件発生中ですって」
「そのテンションで言う?」
「いやー、今発生したばっかだから新鮮だなーって思って。行きます?」
「行かなくてどうするんだ」
ゼンヒは自分の武器を持って、交番を出た。
事件が発生している場所はそこ500m先だ。歩けば大体すぐなので、あえて車で行かずに不意打ちを狙うことに。
「あー全く強盗とは何考えているんだ。確定申告でも嫌になってヤケ起こしてんのか?」
意味のないぼやきをしながら、ゼンヒは歩き続ける。寒いのでポケットに手を入れたままだ、生活安全局が見たら注意を受けそうである。
「Work it harder, make it Do it faster, makes us More than ever, hour after hour Work is never over___」
歌いながら事件現場に行くバカはそういないだろう。それくらい、彼女は重く見てなかった。当たり前の話、銃社会では暴力沙汰は日常茶飯事、それで騒ぎ立てる方がおかしい。
歩いていると、4個くらいの交差点の向こうに騒ぎがあるのが見えた。
「あれか?」
勿論、その騒ぎは悲鳴やどよめきである。
警察官ゼンヒは現場に到着した。
「おい動くんじゃねえ!こいつがどうなってもいいのか!」
「いやー!助けて〜!」
いつも通りのパターンだが、それゆえに困る。
基本人質を解放する際に必要なもの、肉親や恋人の説得だったりが一番効果的らしい。それに抗うために、もっとひどくなるパターンもあったりするが……それらが結局状況を動かすのに効果的なのには変わりないようだ。
まあ、誰も彼もが自分の親のことを知らない世界では意味ないが。
「失礼、なんですかこの騒ぎ」
野次に話しかけるゼンヒ。
「大変なんです!ほら!」
「ん〜?」
犯人が見えるところまで近づくと、確かに状況は酷かった。
包丁持ったスケバンが、一般ミレニアム生徒に刃物を向けて拘束しながら威張ってる。
「近づくとどうなるか分かりきってるだろうが!どけ!下がれ!」
最初に死ぬのは犯人か人質のどちらか。そう思うと野次馬はさほど逃げたりはしない。
ゼンヒは欠伸をしながらそれを見ていた。今日は警官の帽子もかぶってないし完全に刑事らしい身なりなのだがそれでもコートが靡いてる割に警察の証はよく見えないので通りすがりの会社員っぽい感じに見える。
「じゃあ行ってきますね」
「え?」
「なぁにちゃんと解決しますよ」
野次馬をかき分けて、彼女は野次馬と犯人の前に出た。
「やあ」
「なんだよお前」
「コンビニに買い物をしにきた。そこどいてくれるか?」
「どくわけねえだろうが!舐めてんのか!?わざわざ背後取るような真似を看過するわけあるか!」
「そりゃそうだよなあ。でも、私結構腹減ってるんだ」
「じゃあ別のコンビニ行けよ!」
わざと刺激させていく。
周囲がどよめく中で、ゼンヒは相手の状態を確認した。
包丁は一般家庭用で使われている形跡があり。それ以外にパッと見たところで変なところはなく、ミレニアムの生徒もまた何か仕掛けられてるとは考えにくい状態。
「まあまあ落ち着けよ。そんな包丁向けられても怖くはない」
「ああ?」
「当たり前だろ。そんな短い刃物でどうやって私が死ぬんだ?」
ゼンヒは煽りを入れてみた。
「確かに刃物は銃器よりも危ないという考えがあったりする。私たちは銃を使うことで身を守ったりしているが、当然銃弾一発で死亡したり怪我したりというケースは少ない。神秘?と言うものの加護らしい。だが、包丁で指を切るなどの怪我は良く聞くだろ?」
「知ってっからこうやって突きつけてんだろうが」
「君は本当に人を殺せるか」
「ああ?」
彼女は態度を変えずに、そのまま聞いた。
「人質っていうのは生かしてこそ意味がある、それは認める。殺してしまってはお前を止める以外に被害を止める手段はない警察は絶対にお前を地の底まで追いかけて始末するだろう、だから人質をギリギリまで生かして殺したという事実でショックを与えてずらかるという戦法が必要だ。うまくいけばそのショックでその後も機能不全を起こせたりするし」
「何が言いてえんだよおい、無駄口で警察が来てもこいつは機能し続ける!ヒーローごっこで尚のこと事態は膠着するだけだ!」
「ほんとかな?」
ゼンヒと犯人の距離は、前者が足を踏み出すことで近づく。
「こいつがどうなってもいいのか?」
「話聞けよ、お前が言ったんだろ?事態は変わらないって。じゃあ堂々としろ」
「お前に言われるまでもない」
「ならいい。話の続きだ」
刃物に対しての恐怖心のない彼女は話を続ける。
「正直な話、人質戦法は単身であれば意味のない戦法だ。それは野次馬も合わせ、治安を維持する方が基本は数が多いだろう?仮に要求が達成されお前が逃げるために人質をうまいこと活用しきった、しかし単身になった後果たしてお前は逃げ切れるか?」
「逃げ切れるように仕込んでるからやっている」
「そもそもが破綻してるんだ。盾はあっても退路なし、四面楚歌とも言うな。罠も人海戦術で突破する腹づもりだろう。
それとも包丁一つと銃器でこいつらを相手できるか?」
彼女の威圧は続く。
犯人は姿勢を変えないながらも後退りするが、段々と建物の方に寄って行ってしまう。ただし、ゼンヒ的にはあまり変わらないが。
「あと、例えばお前が囮で他でもっと大きな事件のための捨て駒だとする。その線だってあるしな、知ってるか?ダイ・ハードという映画。3だったかな」
「妄想力は逞しいな、体はフツーのくせに」
「口挟まずに聞いてくれ。仮にそうだとして、私は警官ではない。それがどう言う意味かわかるか?」
「ああ?」
「
実情はどっちか分からない。
しかし、それを口にするだけの違和感は彼女にあった。
なんでこっちにその処理の話が回ってきたか。その処理の依頼を受けて徒歩で歩いて行ったのに、他の警察が動いているのが見えなかったか。そして、おそらくもっと先に動くはずの公安局や警備局が今もこのコンビニに張ってないか。生活安全局の人間もいない以上、おそらく上____彼女の上、責任者といえばカンナだ。カンナは気づいていると考えた方がいい。
そう踏んだ上で、本当の狙いがあればもう見抜いてるだろうとアピールした。
「もう少ししたらお前の仲間は全員逮捕され、その上でお前を捕まえにいくだろう。さっきも言ったが単身であれば人質も意味がない。警察からすれば、人質が一人死んだところで大きな事件を解決した功績を盾に"尊い犠牲"と言い切ってしまう。ヴァルキューレならもしかしたらやりかねないかもしれないぞ?」
「だから諦めて捕まれと言うのか?」
「そうだ。もし今包丁を離して、怪我人ゼロになれば罪は軽くなる。だからやめよう、こんなこと」
少し優しい口調で諭した。
実際、今投降するのにはメリットはある。おとなしく掴まれば罪は軽くなるし、もしゼンヒが言った通り複数班であればリークもありで"更生します"という言い方で罪の軽減もできるかもしれない。そういった善の可能性をゼンヒは示す。
「今はまだ、誰も不幸にしないで済む。やめようか」
「あ、ああ」
犯人はそのまま、一度人質を離す。人質のミレニアム生徒は、恐怖で少し離れた後へたりこんでしまう。野次馬は拾おうにも、怖くて動けないようだ。
それでも犯人は包丁を持ったままらしい。どうやら踏ん切りはつかないか、なんて甘い期待はせずに"自分を狙っているであろう"と言う前提で彼女は構えている。
「どうして包丁を離さないんだ?」
「それは____」
犯人は近づこうとして、ゼンヒは下がる。
刃物を持って刺してくる相手は思ったよりも速く動いてしまう。すると、反応できないまま刺されてやられてしまうだろう。それを危惧したゼンヒは当然下がった。
感動系と見せかけて刺すのもドラマのパターンだ。そんな動きを採用しようとする時点で相手の頭脳など知れている。
「どうして下がるんだ!」
「刃物を持って近づいてきたら怖いじゃないか!」
ゼンヒは笑いながら近づいた。
「あーあやっちゃった!人質を離しちゃった!どうする?どうする?警察じゃない奴に良いように言われて乗せられた挙句に盾無くなっちゃった!まあそんな感情論で動くようなお馬鹿さんだから不良やってんだろーなー!」
「てめえ!」
近づいたら当然、相手の動きを見るための距離は無くなる。
相手は自分のプライドを守るために突撃してくるが、すでにこの時点で彼女は勝っていた。
「やーちゃったやっちゃった!」
右脇に構えて距離を測らせずに刺そうとした犯人だったが、それよりも速くゼンヒは革靴の先で相手の腹を抉るような突き蹴りを繰り出す。悲鳴もあげる暇もなく怯んで刃物を手放した相手の顔をそのまま殴り飛ばすと、犯人は気絶。
伸びた状態でコンビニの前で倒れることになった。
突然の決着に静まり返る周囲。ただし、ゼンヒは仕事なので動き続ける。
「え……?」
「ああ、大丈夫ですか」
念の為犯人の顔を2回蹴ってから手錠をかけた後に、人質の生徒に話しかけた。
「ええ、大丈夫で、すけ、ど?」
「だいぶ怖い思いをしましたね。申し訳ありません、すぐに助けられず。お怪我はありませんか?」
「ありませんよ……ありがとうございます」
「一応状況確認としてご同行願えますか?時間をとってしまい申し訳ありません」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
犯人のスケバンに馬乗りになりながら、今度は携帯で交番に電話をかけた。
『こちらシャーレ前交番です』
「あー後輩ちゃん?終わった」
『それじゃ全くわかんないです』
「捕まえた」
『今押さえてる最中?じゃあすぐ向かわせますんでそのままでよろしくです』
「あーい」
そうして電話が切れる。
あとは彼女は取り押さえ続けていればいいだけであり、これが仕事の成功を味あわせる気持ちの良い瞬間。
少なくとも、この時のゼンヒは笑顔を見せていた。
____その後。
警備局の人間がそのまま確保して、犯人は護送車に入れられて矯正局の方へと送られることになった。
ゼンヒは被害ゼロかつ一人で解決した優秀な警官として褒められることに。
入ってそこ二ヶ月の新人の、名誉である。