シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-8:ある夜の屋台にて

 たまにこのキヴォトスには屋台というものが現れる。

 

 現代日本でも博多をはじめとした場所にそういう店が多く並んでいたりするので、少しレトロチックではあるがそれゆえに感性と舌に訴えかけるのが屋台のいいところと言えるだろう。チェーン店とは違い、味の合う合わないが出てくる可能性はあるが、それでも入ってみたら天国だったと言える時もある。

 

 また、屋台を出すのが気まぐれやそもそも不定期な場合においては、一期一会になる可能性もある。そういったロマンスも、屋台の魅力なのかもしれない。

 

「失礼、やってる?」

「ああ、やってるよ」

 

 おでんの屋台に入り込み、春先まだ冷える頃の夜をその熱で凌ごうと考えたゼンヒ。

 

 に、しては妙にマフィア気取りの服装をしているが。

 

「何を?」

「適当なものを___と言ったらあれか、大根と牛すじを2つずつ」

「あいよ。飲み物はどうするね?」

「麦茶を一つ」

「あい」

 

 注文したものを受け取ってから、ゼンヒは嗜むことにした。

 

 近頃はゆっくりする暇もあまりなかった、というのが彼女の状態である。一見時間があるように見えて書類整理をしないといけなかったことがほとんどであったが、仮にシャーレ前の交番で仕事をしててもヴァルキューレの敷地へ用事で行ったりしてたせいでなかなかゆっくりできなかった。夜のご飯さえも手短に、は人の心を蝕むものである。

 

「お嬢さん、いったいどこから?ここじゃ見ない顔じゃないか。連邦生徒会のお膝元で」

「ああ、私?私はいつもシャーレ前の交番に勤務してる警部補だ」

「警部補?警部補が交番にいるのか?」

「特例なんだ。シャーレの先生は守らなきゃいけないが、そのために護衛をつけると公平性が崩れるからシャーレ近辺の安全を守るという名目で交番があるんだよ。だが、当然狙いはシャーレの先生の護衛もあるから、責任者はそれなりの昇格と手当を貰っている」

「そうなんだな。せっかくなら隠れで焼酎飲むか?と誘おうと思ったが、警察にはできんわ」

 

 悪いやつだ、と内心思っているが特におでんに何かあるわけではない。

 

 麦茶にも仕込まれてる様子はないし、多分普通に押しつけ気質があるだけの中年柴犬なんだろう。そう思って、おでんをつまむ。

 

「うまいな。特にこの牛すじは、コリコリしてて甘めの出汁に絡んでると肉汁と一緒にとんでもない旨みを舌に染み込ませてくる。その風味が口に渡った後で肉本来の旨みがくる形になってる。こいつは最高だな」

「その風味は出汁の成果でもある。焼酎と一緒に飲んでくれればマジで効くんだけどなあ」

「だから未成年だって」

 

 二人は和んだ。こう言った時間が長く続くのも警察の仕事があってこそ、だと思うとゼンヒもやる気が出るというものだ。こういうのもまた"見返り"であろう。

 

 そう言ってるうち、その雰囲気に惹かれたのかもう一人、屋台に入ってくるのがいた。

 

「失礼しよう!やってるか!?」

「あ、マコト兄ちゃん」

「姉ちゃんだ!」

 

 妙に頬が赤い、四つの角が生えた麗しい少女。

 

「もうひっかけたのかい?というか、どっかで飲まされたのか?」

「そうだぞ〜!一人でふらふら歩いていたら〜!金髪の女に出くわして〜!」

 

 やかましいな、と思ったがやってきたのはまさかの万魔殿の羽沼マコトである。

 

 実質ゲヘナのトップが来たのだが、まあ大変だ。

 

「なんだ男か……って、ん?お前見たことあるぞ」

 

 マコトはゼンヒの近くに来た。顔をゆっくり近づけると、マコトはあることを思い出した。

 

「あ〜、お前もしかして!あれだな!最近風紀委員とつるんでるやつ!」

「別につるんだ覚えはないが___まあ、座ってくださいよ、ほら」

「じゃ〜ます〜るぞ〜」

 

 そのままマコトは席に座る。

 

 柴犬の店主から水をもらい、それを一気に飲み干すともう一杯注ぎ、それもまた一息もせずに飲み干した。

 

「ふぅ〜〜〜〜_____よし、なんとなく酔いが取れたような気がするぞ」

「そっか。ならもう少し酔い覚ましにおでんを食ってくれないか?」

「いいだろう」

 

 急に落ち着き始めたマコトに店主はおそらく好きであろう具材を六つ詰めて送る。

 

「金はいらないんで、ゲヘナ校区で開くショバ代替わりに」

「うむ」

 

 ついにクールビューティーとして落ち着きを取り戻した彼女は、出汁の染みた大根を頬張り、熱々のそれをゆっくり噛んで飲みこむ。

 

「やはりうまいな。金を払おう、気持ちだけでは維持はできないだろう?」

「へへへ、助かりますぜ」

「して____」

 

 彼女はゼンヒの方を向く。

 

「ここにいるのには特に疑問はないが、ちゃんと挨拶をするのは初めてだな。シャーレ前の警部補」

「ああ、どうも」

「私は今日、連邦生徒会に提出するものがあってここに来た。お前もそれか?」

「ええ、まあ。最近は警部補で仕事も増えたのでね。ヴァルキューレも連邦生徒会と関わりがある以上、そういった仕事も重要なのですよ」

「と、いうと特殊暴力対策課の仕事だな?」

 

 どうやら、ゼンヒが率いる組織のことを知っているようだ。

 

「よくご存知で。ええ、あそこには元SRTの人間が多くいますから。そう言った活動報告書は出さないといけないんです、と言っても今目立った問題は起こってないので、あと一か二ヶ月このままならメールでのやり取りになりそうですよ」

「そうか……そういえば、あの事件の時にはまだあのエリア巡査部長だったな?昇格するにしてはだいぶ早かったじゃないか」

「元々筆記テストでは高得点だったので、あとは研修を受ければ警部補からスタートできたんですよね。ただまあ、シャーレに交番置く、という話も同時に出てきてしまったのでその結果昇格を約束し手当を出すという話で巡査部長からスタートしたんです」

「昇格した時は誰かに祝ったりしてもらったのか?」

「ささやかながら知り合いや後輩には祝ってもらいましたよ。今つけてる時計とかもその時の贈り物ですし」

「キキッ、そうか。なら私からも祝ってやろうじゃないか」

 

 とんでもないことを言い出したマコトに、慌てるゼンヒ。

 

「いやいやとんでもない、わざわざ祝ってもらっては恥ずかしいですよ。もう時間も経ってますし」

「ささやかな祝いも重なれば結果的には大きな祝福になるだろう。ここの会計と、もう一つでお祝いとさせていただこう」

「会計はありがたいですが_____そのもう一つって?」

「ゲヘナが介入しない、あの教会の調査についてだ」

 

 この頃には酔いが覚め、真面目に話をすることができるマコトはそのまま口にした。

 

「なぜそれを____って、まあ宿敵の情報を怠るわけないか」

「そうだな。で、教会の調査に関する話題だが、二つ情報を提供しようと思う」

「情報源はあるんですよね?」

「ああ」

 

 屋台の周りには誰もいないだろう、ということを確認した店主とマコト。いつもそういう関係だったのか、と感心しながらもゼンヒは彼女から渡された資料を見ることにした。

 

 それは小さなファイルであり、中には数枚の書類が入ってる。しっかりクリップで止めてあるので横風が来ても飛ばされなさそうだ。

 

「あ……?」

 

 さっきまで丁寧語だったとは思えないゼンヒの反応が聞こえる。

 

「なんだこれ。えっと……」

 

 その資料の内容。

 

 アリウス過激派の大まかなリストと、ある武器のリストおよび古めの仕様書である。

 

「分かるだろう?」

「あ、ああ。わかる、が____一体これをどこで?」

「そもそもエデン条約の時、私たちは騙されたとはいえ組んでいた。当然その失敗と報復行為について考えていた私は、再び襲われてもいいようにある程度の情報を集めておいたのだ。自分ができる範囲でな」

「さすがマコト議長だ、リストをこれだけ用意するとは。顔写真付きで」

「このマコト様を褒め称えてくれていいぞ!」

「ありがとう!」

 

 ちょっと笑顔になってから、またシラフに戻る二人。

 

 さすがに真面目なモードだとマコトと似た口調になるゼンヒだが、互いに敬意を持っているのは確かだ。

 

「して、これの情報は役に立ちそうかな?」

「もう一度こっちで確認できた範囲で今残ってるやつを洗い出せば、いろいろな対策ができるだろう。感謝しますよ、マコト議長」

「気にするな。これも政治活動の一環だ」

「しかし、武器に関する情報、これは?」

「それか?」

 

 マコトは説明する。

 

「すぐに役立つ情報じゃないが、おそらくあの地下に隠されてあるだろう武器のリストだ」

「放棄された教会だから、役立たないのでは?無論どちらも武器を持ち込みますし、シスターフッドなら尚更」

「いや、変な記述を見つけたからな」

 

 彼女が指差した部分には、ある銃弾の記載があった。

 

《この弾は、神の作りし見えぬ外郭を破り、われらに与えた穢れなき姿のうちにある穢れそのものの血肉を晒すものである》

 

 文は古めの英語で書かれてあったが、マコトがわざわざ翻訳して持ってきてくれたのだ。

 

 ここまでくると、あることを思いついたのかゼンヒは彼女に聞いた。

 

「……もしかして、この件に関する依頼を?」

「鋭いな。そうだ、ゼンヒ。これは極秘依頼とも言えるが、この教会にあるであろう武器の情報収集を願いたい。情報収集だけで十分だ」

「回収しろ____というのも無茶な話か。ユスティナの資産なら押収する権利はあっちにあるもんな」

「そういうことだ……だが、情報があればもう一度あのような事件が起こった時、牽制する材料になる」

 

 キキ、と笑うマコト。彼女はやはり情報収集に優れ、立場に相応しく聡い女性であるのだろう。ヒナが絡まなければ。

 

「足場を固める必要があるというなら、世論というものが一番必要になるだろう。シャーレの先生がいることで、各学園の関係性ならびに自治区の内情は透明化されつつあるからな。今度ばかりは、騒ぎが起きればあの程度で済むとは全く思わん。このマコト様の見立ては、そうそう間違うことはない」

「なるほどなあ。じゃ、依頼承ったってことで」

「金の流れは嗅ぎつける奴もいる。狩りも知らぬ鳥のくせに嗅覚は嘴のように鋭い奴らだが、二度も遅れは取らん」

「全てが終わって落ち着いたら、支払うってことで?」

「先払いを、お前の分を支払う昇任祝いにさせてくれ」

「喜んで」

 

 書類をカバンに入れては、背伸びするゼンヒ。

 

 真面目な話が終わったマコトは、そのまま追加でおでんを注文。麦茶も頼み、明るい声で言う。

 

「さあ食べるぞ!飲むぞ!これを明日の糧にするのだ!」

「お供しますよ、マコト議長!」

「お二人とも楽しそうだ。親父も頑張っちゃうぞ〜!」

 

 こうして夜は更ける。

 

 少女たちの歓声を以って。

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