その日がやってきた。
特別暴力対策課が"連邦生徒会直下の組織"、つまり"本来のSRT"としての役割を期待された仕事。
シスターフッドとの『教会跡調査』の日である。
集合したら点呼をして、それが終われば仕事の始まりとしての挨拶をする。
「おはようございます。えっと……まず、今日はご協力ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。私は違いますが、私の部下は全員元SRT所属です。本来の仕事ができると、所属が変われど喜んでいます。ぜひ頼ってください。何かあれば、私の方に言っていただければ対応します」
「分かりました」
それぞれの組織のメンバーが並んでる状態で、特別暴力対策課のトップとしてゼンヒはマリーと握手する。
握手し終わったら挨拶をそれで終わらせ、それぞれ指示を出すことにした。長ったらしくああだこうだ言い続けるのも時間の浪費だと考えたのである。
「では、みなさん始めてください」
「特暴課の人間は、ちゃんとシスターさんのいうこと聞くんだぞ〜」
事前に決められた班に分かれて、教会の内外に散っていった。
今は朝の9時半。
仕事が始まり、その監督としてマリーとゼンヒはとりあえず仕事を見て回りつつ話すことにした。
「本当にありがとうございますゼンヒさん。急な応援で来ていただいて」
「お気になさらず。言った通り、私としても部下が本来したかったこと、やりたかったことを仕事として回していただいて感謝している」
「本来の仕事を連邦生徒会の都合で奪われたと聞いています。なかなか、辛い思いをなされたんですね」
「彼女らは」
「ええ」
そう言って、二人は歩き続ける。
仕事内容の主導はマリーの方であるため、ゼンヒは別のことに集中できた。彼女の目線の先には、少し不器用な少女がいる。
(あいつがニサ、か)
少し陰りのせいで見えづらいが、首に何かしらの番号が付いていた。
「どうかされましたか?」
「いや、実に不思議なところだと思いましてね」
「教会を利用される方はそう多くないと聞きましたが、あなたもそうなのですね」
「ええ」
適当にはぐらかしながら、ニサと周辺を確認し続ける。
______二時間前の話である。
『ユリ〜?』
『は〜い』
まだ朝ごはん食ってる7時半。
彼女は実働部隊長を呼び出して、昨晩の夜の話の続きをした。
『すまないね準備中に呼び出して』
『大丈夫ですよ』
『ならいいんだが。昨日の件について、少しだけ話し合いたい。20分時間取れるか?』
『準備できてるので気にしないでください』
『ありがとう』
ゼンヒは昨日と同じところのエントランスのテーブルに座って話をした。
『昨日取った統計だが、少なくともユリのみたニサなる人物ではないのが、八名目撃例がある。それも、ちょうど昨日の話だ』
『ということは、あの資料には意味があったんですね』
『そうなるな。しかし、奇妙な話なんだが____』
彼女はため息をついて話す。
『どうやらその目撃例に種類というものがあったらしい』
『つまり、シスターフッドではないメンバーが居たわけですね』
『話が早いじゃないか。そういうことだ、どうやらそのうち近辺で見たものだがどれも不審な動きをしていない。しかしシスターフッドではなく、その周辺で見たという点でどうも引っ掛かる。ニサなる人物を含めて9人という点で、そのうちが三人シスターフッド。つまりは、連絡役と考えていいだろう』
『それなら、もうとっくに奪われてるんじゃないですか?例の武器。どこ調べるかがはっきりしてて、予定がある以上すぐには入らないわけで。夜中にでもこっそり奪われてるのでは?』
『武器のことに関しては、多分あっちも知らないか、このイベントに乗じて調べようとしてるんじゃないかと思ってる。自分達だけでは、どこから漏れるかわかったものではないからな』
うーん、と悩むユリ。自分達の推理力をさほど信頼しているわけではないが、頭を使う練習はしているのだから培った情報判断力を見せることにした。
『リーダーの言うことも理解できますけどね。つまり、騒ぎを起こすのであればあとの方がいい。もしこの調査であの武器や弾薬の存在が発覚した後で、シスターフッドかうちかが預かることになった際、どっちでもいいから強奪事件を起こすんです。まあ、十中八九あっちが預かるでしょうけど。ならば話は早い、まだ世間的な信頼されてないSRTを犯人に仕立て上げるなどして言い合いをすればいいと思うんです』
『その言い合いをわざと大きくして視線を逸らし、その間に武器を用いた計画を立てる。そしてそのまま外部と合わせて内部崩壊を狙う過激派は行動を開始する、ね』
『当然アタシたちはそうなったらよくて活動凍結ですから、外部の邪魔者もまた消え去るわけです。そうすれば政治活動をやりやすくなるんですよ』
ユリの、ゼンヒの予想に合わせたありうる展開を伝えた。当然、これは相手が"生徒を簡単に傷つけることができる武器の存在を確信していない"ことが前提である。仮にこの例の立場が逆転したとて、時期や状況が少し変わるだけで結局特暴課もそう言った謂れのない闘争に巻き込まれるのには違いない。
そもそもそうなってしまっては、すでに公開しどころを失ったマコトからの、それも一見信用されづらいタイミングで渡された資料の効力はない。後出しになれば尚更のこと。
『ふむ……じゃあ仮に、ユリの言ってる通りに武器をすでに取得済み、奪っているのが前提ならばどのみちニサかシスターフッドで見かけたという残り二人が合図を出すってことになるな』
『リーダーはハンドサインについては知識ありますか?』
『ない』
ゼンヒは言い切った。
そもそもハンドサインは特殊部隊や機動局のようなエリート集団しか使うことはない。そもそも民間人が使うSOSサインだってろくに学んでいないのだから、そう言った知識は特殊部隊出身のユリ達の方が詳しいだろうと彼女は判断したのである。
『なら、何人かこっちでピックアップして監視させます。連絡入れるのにはまだ間に合うので』
『いつも悪いな』
『こう言った知識を使える場を与えてくれたのはリーダーですよ』
『活躍だけじゃ、やり甲斐もいいところじゃないか』
『お金はリーダー以外が出すじゃないですか』
『それもそっか』
彼女は少しだけ笑う。
その何人かにメッセージを送った後に、ユリは話を続けた。
『まあ、何か不審な点があったら指を軽く指してサインするか、危険だと感じればそのまま脅します。それでいいですか?』
『そうしようか。じゃ、よろしく頼むよ』
『任せてください!』
そうして、二人はあることを実行するのである。
「_____なんですよね。つまり、この教会はユスティナ聖徒会の中でも比較的過激派が根城にしていたという話なんですよ」
「ああ」
マリーの歴史講義を半々で聞きつつも、彼女は視線をニサなる少女に向けていた。説明してる側は聞きつつも熱心に職務を全うしていると感心しながら、話を続ける。
「無論、もうあらかた使えないでしょうが旧式の銃や大砲が沢山あるとの話です。一応地下室もあるそうですから、今日だけで終わるかどうか。明日まで一応時間を取っていますが、できればお越しいただいた皆様にはその一日だけでもトリニティでの小旅行をしていただきたいと考えているのです」
「それはまたお心遣い感謝しよう。それでも、シスターフッドの、それもユスティナの歴史的建造物の内見や調査の同行よりかは価値が薄れるが_____トリニティの上すら入れないともなれば、それを外部の人間に見せると言うだけでも歴史を重んじる集団の透明性にもなる」
そんな会話をしながら、回り続ける。
色々なところ、棚や椅子の下を調べてみたりするがやはりない。始まって一時間も経っていない、その中でも書物を見つけては軽い精査を挟むものだからやはり時間が掛かるのだろう。調査するべきものの総量もわかってないから、当然どれくらいで終わるかなんて想像もつかない。
ならば期限を決めてゆっくり調べていくしかないだろう。
「ただ、今回はその武装に関しても調べたいのですよね」
「ほう?」
知らないというていで話を聞く。
「正直、与太話と思っているのですが_____人を殺すための弾があるとかなんとか」
「それはまた随分、与太らしい尾鰭がついてるな」
「ゼンヒさんだってそう思うでしょう?」
彼女自身は全くそうは思えないのだが、表情が普段からあまり変わらないのが幸いして彼女の思惑は仕事相手には伝わっていないようだ。
「全くだ。いわゆるアレだろ?異教徒に対する四角の弾丸を撃ち出すあれと一緒」
「そうなんですよね。私もそう言う意味だと思っているので、一体どんな珍妙なものが出てくるのやら楽しみで」
なんて笑っていたら、仕事中だと思い出し急いで首を振るマリー。
「そんな首を外そうってくらいに振らなくても」
「今の発言は忘れてくださいっ!」
「肝心の発言だけは丁度聞き逃したのでね……残念だ」
広い教会の、中央の祭壇を見る。
上の小窓か何か、妙に眩しく感じるのだ。教会独特の雰囲気なのかと思ってはいるものの、その明るさに妙な違和感を覚える。
(これも、祈りの鎖に繋がれた神の墓か)
埃の匂いと陽の光、そして今祈り以外で賑わっている教会内部。
「そこの人ー!この書類を外に持っていってくださいますかー!?」
「勿論!そこの椅子に置いてもらえれば後で持って行きます!」
「よろしくお願いしますね〜!」
部下達もしっかり働いている。マリーだってそう考えている、ちゃんと置き忘れた娯楽の本と、必要な資料とで分けており、誰一人としてサボっているのはいない。ちゃんと班で役割分担し、どんな資料か判明する人間とその間掃除する人間とで作業も並行している。
「あなたの部下、かなり手際がいいですね」
「特殊部隊やそれの育成学校では周りを綺麗に整えることから始めるそうです。その経験が生きているのでしょう」
そう、二人が話していた。
やけに眩しいスタンドグラスの輝き、重なった物音と人の声、歩いていく者共が揺らす床。
彼女はそこに、かろうじて一つの音を聞き取れた。
カチ。
たった一回の、金属音である。