部屋の扉は開いていた。
この部屋だけは奇跡的に電気が生きていて、一個の電球がたまに点滅しながら部屋を照らしている。
手前にある本棚はともかく、古いボルトアクションライフルがこれでもかと置いてあり、おまけに弾薬箱もたくさん置いてある。
何かしらのボルトと交換する部品も置いてあるが、さらに奥の方にはこれまた古いオープンボルト式のサブマシンガンが置いてあった。
「これって……!」
「もしかしてこれが……!」
その中でも目を引く物。
中央奥に置いてあった弾薬箱。マガジンに入っているそれらは、箱とマガジンにセラフィムを模った紋章が描かれていた。
「そうそう、これこれ!」
マテバガールは、部屋の真ん中にあるテーブルの、一枚のメモを指差した。
それを拾ったマリーは、まずは文字を見る。
「昔の文字ですが……なんて書いてあるかは読めると思います」
「そうか……なら、お願いしても?大丈夫そうなものは、こっちで使えるように確認させておきますから」
「お願いします」
ゼンヒは、部下に指示を出す。
「お前らー!その武器は使えるかー!?」
「状態は良いですよ!すぐにでも使えますが、面白いものを保管してますね」
ある装置とボルトを持った部下は彼女に説明する。
「これピダーセンデバイスって言ってですね、ボルトアクションライフルのボルト外して装着するものなんですよ」
「なんのために使うんだ?」
「簡単に言えばボルトアクションからセミオートライフルに変えるためのものです。弾の威力こそ下がりますが、昔はそれでも発射レートが高い歩兵用火器ってだけで充分脅威になり得たんですよね」
「なるほどな。じゃあそれを付け替えれば」
「あの妙に宗教色の強い弾も使えるかもしれないってことです。何個かこれに変えておけば、相手に対抗できるかもしれませんよ。人数自体で不利つくなんてことはないでしょうし」
「じゃあ、よろしく頼む」
部下はそのまま、仲間と一緒に銃器の改造に乗り出した。ゼンヒにとってはよくわからないことだが、それを専門として全力で出来ることをやる部下を少しの間見守る。
「あーここにオブレズあったぞ!スプリングフィールドのオブレズなんざ聞いたことないのにとんでもねえロマン隠してるじゃないかヴェールの下に」
「しかもそれ用のピダーセンデバイスも下の箱にある!どんだけ殺す気だったんだ異教徒を。怖えな」
「でもあの服の下にロマンを隠すとなると気分が高揚するな!」
「高揚は構わんが急げよ」
「もちろん!」
声をかけてから、マリーの方を見るゼンヒ。
「どうですか?」
「うーん、大体わかった気がします。ニュアンスまであってるか、と言われれば不安ですけど」
「情報が分かればあとはこちらで判断できるから____お願いします」
ゼンヒは、彼女に解読を頼んだ。
時間そのものはそこまで余裕がない、マリーは解読したものを読む。
私は、ユスティナ聖徒会のシスターであるキユだ。
この文章を読むような人間が未来現れないことを祈るが、もしこれを読む人間が居たならば、それが一人でないことを祈るばかりだ。
このメモの用事はただ一つ、後世誰かがこれを見つけた時に善きものに使ってくれることを願っていると、知って欲しいから。
ここにある銃は全てスプリングフィールドと呼ばれる銃で、すべて加工して噛み合わせのいい状態にしてある、もし武器が必要ならば……この時代の武器が役に立つかは知らないが、好きに使ってくれ。
そして、本当に必要ならば、そうでなくても知っておいてほしいのがそのセラフィム弾だ。翼の沢山生えた目のエンブレムが刻まれたマガジンと、弾。
______それは、アリウスを始めとした異教徒を殺すための武器だ。銃弾を見てみればわかると思うが、当たればセラフィムの羽のように旋回して体内を削るようになっている。刃物で怪我することはよくあるが、それを銃弾で再現したのがスプリングフィールド・セラフィム弾だ。刃物を撃つための弾、と言っていい。刃物と大体同じ圧力を掛ければ、銃弾と違い貫通する。その仕組みは不明だが、熾天使の羽のように展開した刃は飛び散ったガラス片のように刺さるのだ。血肉を晒してそのままであれば、人間は死に至る。
アリウスはいずれ、ユスティナの意思を継ぐものと、トリニティそのものに大きな災いを齎す。それはトリニティという組織が存続するための犠牲を強いた未来へのカウンターであり、その時にどのような危機に晒されるかは分からない。願わくば平穏のままに終わってほしいものだが、政治的判断により切り捨てられた禍根は必ず政治そのものを殺す。
もし、そのような事情で見つかり____いや、そうでなくてもセラフィム弾を使わなければいけない時が来たのなら。
このメモが残り"ユスティナという枠組みが消えた時代"に、ここが開かれたのなら。
ユスティナ最後の罪を背負ってくれ。
「_______なるほどな」
ゼンヒ達は理解した。
マコトの資料にあったあの文言の弾は、刃物を撃ち出しそれで相手を無理やり傷つけるセラフィム弾のことだった。
「あったのですね」
「そうなるな」
どのみちここには、試していないので真偽こそ不明な対人兵器があることが判明した。
実際セラフィム証の弾丸の先端は、刃物のように鋭いパーツで作られたホローポイント弾である。ゼンヒは興味本位でマガジンから一発抜いて先端を指でなぞる。
「いっ___!?」
指を切った。
思っていたよりも鋭かったのか、顔を顰め片目を閉じて手を振るゼンヒ。
「おいおいリーダー、何やってるの」
「すまない。興味本位でなぞったら普通に刃物だった。ま、それくらいには危ない代物だってことだ」
持ってきたハンカチと絆創膏を取り出して、なぞった人差し指を圧迫して待つことにした彼女。
マリーも流石に呆れたようだが、そんな彼女は机に地図とかを広げて作戦会議することにした。
「あのー、では色々わかったので、そろそろ作戦会議してもいいですか?」
「ああ、頼む」
指をハンカチで抑えたまま、痛がってるゼンヒはそのままにしてマリーは先ほどから話していた作戦を話す。机の上には普通の地図と、地下水路の地図の2枚。
「まず、ここはS-38区画水路に隣接している教会地下です。多分同区画にある三つの出入り口は封鎖されてると考えていいでしょう」
「つまりはすでに包囲されてるということか」
「水道を一キロ四方で区切っているので、そのうち隣接して歩けるS-48区画か、S-37並びに39区画へ移動して脱出します。相手は何人いるかとか、分かりますか?」
「あの情報を信頼するのであれば、リストで大体87人、うち三人を抜かせば84名だ。もっとも、調べられた数である可能性も考えたらもっと総数は増えてると考えていい」
絆創膏を貼りながら、という風格のない仕草をしながらゼンヒは話を続ける。
「ただ、幸いなことに私たちが通った経路はまだ気づかれてない。仮に水道から行ける可能性がある、とするならあちらが考えたとしてもまず通路に気付いてない以上どうやって逃げたのかを知る必要がある。もしかしたら、神様が奇跡的にワープさせてくれたと言えば信じるかもしれないぞ?」
「それで信じてくれることを祈りましょう。毒ガスなどの化学兵器の類は、おそらく水道などにいると仮定した場合は使ってこない。ということは、何かしらほしいものがあって、不自然にそれを明るみにさせたくない可能性があると思います。毒を充満させた場合、どうしても影響が出ますし、使った道具は回収するには無理がありますから」
マリーの作戦。
今隣接してる水道区画S-38から隣のブロックまで移動してそこから脱出し、救援と合流してから過激派を確保する作戦を取ることになる。S-38区画にある出口はおそらく教会から逃げた奴らが伏せている可能性がある場所だ、だから遠くから脱出するという手筈になる。
ゼンヒはようやく止血と応急処置を終え、彼女に聞いた。
「で、武器はどうする?正直ただ鋭いだけの弾に効果があるとは思えないが」
「そうですね_____セラフィム弾だけは一部回収して、あとは一度放置でいいでしょう。必要になるかは不明ですが、一応脅しのために持っていてもいいと思います。効果が分からないものより、効果が確実な兵装で面射撃を加えた方が有利でしょう、こちらは強い集団なのですから」
「わかった、マリーさん」
彼女の言うことは、ゼンヒも理解した。
二人とも口にはしなかったのではあるが______そもそも、優秀な兵器は実戦運用が豊富であり、後世にはそのままではなく発展し続けながらそういったものは残るのである。
ユスティナの開発した良いものとは、シスターフッドに語り継がれるはずだ。それを禁止して処分、ないし隠匿したならサクラコなどが知っているはずだが、そこまで厳重な秘匿がない以上はやはり冗談ないし役立たずの部類だったのだろう。
だが、キユなる人物は効果を言い切った。故に軽んじることはできない、が_____
確実な知識の備蓄と、その引き出しが人を良いこと、良い結果へと導く。つまりこのようなものを当てにせずとも、自分たちが生きている中で学んだことが活路を開くのだ。シスターフッドは歴史とエデン条約の一件から学んだこと、特暴課はSRTであった頃の訓練と勉強を。
ゼンヒは、記憶を失って以降の全てを。
色々な人間が、自分たちができそうなことを協力してやっている。その熱気は、蝋燭の灯火よりもはっきりと未来を照らすかのようだった。
「リーダー!」
「なんだ」
ずっとこの事件の始まりから比較的に話し合いをしているマテバガールが、彼女のところにやってきた。
「自分らが来た入口の方はソファーとか割れた棚とか色々持って塞いでおきました!」
「どのくらいの距離?」
「測ってないですが歩いて50m近くあったじゃないですか?シスターフッドの方と話して、地道に運んでたんですよ落ち込んでる時から」
「……すまないな、リーダーがこんな様で」
「気にしないでくださいよ、3人よれば文殊の知恵っていうでしょ?人数ってのはこういう風に生かさなきゃ、誰も万能にはなれないんですから。一応やった後に聞くのもアレですけど、やってよかったですか」
「ああ。挟み撃ちよか全然いい」
「よかった」
____やるべきことは確定した。
急いでここから脱出して、仲間と共に戻ってきてから回収と相手の確保をする。
「リーダー!」
「なんだ!」
行動開始するべく指示を出そうとしたら、一人やってくるメンバー。奥からは同時に、銃声が響く。
「奴ら突っ込んでくる!」
「数は!」
「50もない!奥から湧いてきたら知らない!」
「迎撃態勢だ!マリーさん、シスターフッドはどうする!?」
「迎撃します。兵力の消費速度を早めれば撤退させれるかもしれません」
二人の意見は合致した。マリーは、そのまま号令を出す。
「皆さん!急いで迎撃してください、後ろの方は考える必要はありません。早く!」
「お前ら!歴史的なサービスをしてやれ!」
「分かりました、マリー様!」
「リーダー、了解!」
それぞれ人間が散開して、地下水路の方に出て迎え撃つ。
おそらくは最後である、そうあってほしいと双方願った。
地下水路の一戦が、幕を開ける。