ミレニアムの工場にやってきた。
ここまでは何の問題もなく進んでおり、今は広めの工場見学エリアから、ガラスの向こうの工場内を見下ろしつつミレニアム生が話をしている。
「今から解体作業を行います。あの分ですとおおよそ30分かかりますね____結構製造されていたようですが、まず弾丸の形状が特殊なのでちょっと取り外しと破壊に十全な注意が必要になりますから、本来のものと違い数分で終わる量ではないです。ここで見学されてもいいですし、もしお疲れでしたり他の仕事をしなければならないとかありましたら、いくつかフリーにしてある部屋で休憩しても構いません」
「ありがとうございます」
「うん、ありがとう」
「では」
生徒はそのまま通路の方へ去っていき、関係者はそこに残った。
トリニティの代表はシスターフッド。例の件以降トリニティの政治に参加するようになったのもあり、こう言う場合でもトリニティの代表として動けるようになった恩恵を生かして自身の組織の償いを己で行うために来た。
先生も勿論いる。これだけの大事かつ、ゼンヒが巡査部長として最後に対応したゲヘナ領の騒動から、調査委員会などで裏で色々対応していたからその関連事件の終わりを見届けるつもりでいる。
ヴァルキューレ公安局直下特別暴力対策課のメンバーも、今回の関係者は全員揃っている。だが、ここにいるのはゼンヒ含め20名、あとは警護に回ってる。
そして_____
「おい、ゼンヒ」
「ああ」
ゲヘナから一人だけ、やってきた少女。
そう、屋台で今回一番助けになった資料をゼンヒにくれた存在、羽沼マコトだ。
「マコトさん?」
「いや、もうマコトでいい。お前と私は共犯者だ、それくらい許す」
「やっぱり狙いがあったのか」
「あの資料を一人で渡す、と言う時点で怪しまれるべき要素しかないからな。お前があんな組織に負けるわけない、と踏まなければこんなことはしない」
「そうだな」
「しかし、シスターフッドと協力したとはだいぶ手こずったな」
「それだけ面倒な相手だったと言うわけだ。ま、練度だけはこっちが上だ、厄介な荷物と脅しさえなければ太陽が真上にあるうちに終わってるさ」
電子タバコを吸って、ゼンヒは言う。
「しかしまあ、来るとは思わなかった。一体なぜ?」
「シスターフッドを笑いに来た、といえば大衆は納得する。その為にこの羽沼マコト様は書類を全てイロハに押し付けてやってきた」
「にしてはだいぶ静かだな。いつもテレビで出ている通りの高笑いはどこ行ったんだ」
「奴らには貸しと品位で詰るのが一番効くだろう、目の前の人間よりも都合のいい返事と熱狂しか返さない神を信じたツケを払わせるにはこれが良い」
「随分と悪辣なんだな」
「ゼンヒの交友関係まで否定するつもりはない。キキッ……あくまで世論へのリップサービスだ、私は万魔殿の議長なんだからな」
マコトは笑った。ゼンヒもそれに釣られて笑みをこぼす。
下では弾頭を外すためのバレットブラーを工場のメンバーとアンドロイドがやっている。しっかり作業着と刺突耐性のあるグローブでやっているようだ。
「実際に、協力し神に祈るだけの人間がいるならここまで上手くはいかなかった。政治に関与して裏から手を回し、社会に関わるどころか操るまで行ったユスティナ聖徒会の後釜だからこそ、シスターフッドは強いと言うわけだ。実際に戦闘力は随一、サクラコを中心に頭が回るメンバーもいる。彼女らは過去から背かない、そう言う一点では贖い続けてると私は思う。それが好き嫌いに影響するかは別だが」
「そもそもトリニティとゲヘナは文化的に大きく違うからというだけでいがみ合っていると聞いた。それか?」
「キキ、そうだな。そう言うことにしておこう」
「共犯者と言えども所属が違うから真意は語らない、か」
「一緒でも語ったことはないな」
「流石は議長だ、迂闊なことは喋らないか」
「このマコト様を舐めてもらっては困る」
二人は笑う。
作業が進んでいく中で、また一人やってくる人間が。
「あ、あの!」
「ん?」
振り向くとマリーがいた。
「マリーさん」
「お前がマリーか」
「あなたが、マコトさんですよね?」
「そうだが」
どうやら何か用事があったらしい彼女。ゼンヒは自分が席を外すかどうか聞くと、一緒にいてくださいと言われてその言葉の重みを感じたのか彼女は戸惑いつつも残った。
「その___ゼンヒさんにリストを渡したのを知りました。なぜ、私たちもいるのにあのリストを彼女に渡したのですか?」
「タイミングの話か?」
「はい」
ゼンヒはタバコを吸ったままソファに座って見守ることにした。
「どうしても理解できないのです。まるで、あの事件が起こることを予想してたかのようなタイミング。ゼンヒさんだってギリギリまでテロリストが居るかどうか判断できなかったくらいの余裕で渡したあれ。どうしても意図が理解できないのです」
「それをトリニティの人間に話すと思うか?」
「だめ、ですか?」
マリーは少し弱腰だが、それでも強く瞳で訴えた。冷酷なままのマコトはそれをよそ見することなく見つめる。
「もしトリニティに混乱を起こし、シスターフッドさえも機能不全に落とすならあのリストをわざわざゼンヒさんに渡す必要はありません。そのまま公開して、ヴァルキューレに待ったをかけた上でそれを理由にトリニティへの口撃の口実になるはずです。事実本当だと裏付けがあってあのリストを渡したと思いますが、ならばその裏付けと一緒にSNSなどで流通させれば、貴女の望み通りになったはず。なのに、それをしなかった」
「"ゲヘナだけ見れば"それは正しい。マリー、お前の言うとおりだ」
「ではなぜそうしなかったのですか?」
「先生の影響だ」
ゼンヒがユリとマコトの意向について話をした内容と同じようなことを、今度はマコト自身の口からシスターフッドの少女に伝えられる。
「シャーレの先生は、悪い言い方をすれば連邦生徒会に強制介入可能な口実を作るための錐だと思ってる。だが実際先生が解決して、それが広まっていった結果“透明性の担保”と“各学園の風通しを強化する”という二つの唯一性と特色が生まれた。その結果、キヴォトスは本当の意味で一つの学園都市になりつつある」
「先生が各学園の共通点になり、その交流からさらに興味ある分野と事業を合同で開催すると言う交流を持って広がっていく。細かい話はまた違ってきますけど……それで一体化して言ってる、そう言いたいのですね?」
「ああ」
マコトは頷いた。その話を聞きながら、まだたばこを吸っているゼンヒは想いを馳せる。
(ゲヘナのトップですらそう思っていると言うことは、シャーレの影響力は思ってるよりも広いと言うことか。そう思うと、SRTは早過ぎたんだな)
事実、ヴァルキューレの特別暴力対策課は文句を言われてない。援助すらして貰ってることを考えると、シャーレによる自治区間にある文化の壁の撤去と、それによる透明化や協力関係によってヴァルキューレは本当に“都市の治安を守る組織”としての役割を果たせるようになってきている。
上司である局長カンナもそう判断したから、自身にSRTのメンバーを引き入れて特別部隊を率いろなんて言ったのだろう。各学園のトップの時流の読みに、ゼンヒは感服した。
そんな彼女とは別に、マコトとマリーは話を続ける。
「つまり、出来る限り借しを作るのが今一番良いと判断した。各学園がキヴォトスの枠組みのもと自治区を超えて一つになりつつある今、口を挟む人間が増えてくる。だから、どの自治区にあっても変わらない“最低限の道義”に則った行動で、出来る限り貸しを作って立場的な優位に立ち続ける。ヘイトスピーチよりも効果的だ。だからその損得で考えてゼンヒに渡した、それだけだ。この羽沼マコト様を掴んで振っても道徳は出てこないから勘違いはするな」
「……本当に、そうでしょうか?」
マリーは、最後の一言に疑問を投げた。
「私は神を信じてないわけではないが、宗教家ではない。祈ってどうにかなる社会なら、私はとっくにそうしてる」
「いえ、神様は関係ありません。私が思ったことで、外れてたらそのまま笑い飛ばしても構わないです。それでも、マコトさんは損得だけで今回のことを決めたわけでは無い、そう思っています」
「なんだと?」
威圧感のある声になったが、それでも口元は笑っている。シスターがどんなことを言い出すか、内心嘲る気でいた。
しかしマリーは、想いもしない事を言い出した。
「マコトさんは、贖罪をしたかったのではないですか?」
「……は?」
「罪滅ぼしのためにあの情報を手に入れ、それを有効活用する人間に流した。そうだと私は思います」
「トリニティの人間なぞ死滅しても構わん。このマコト様の支配下にない人間の命など責任は持たないからな」
「なら、支配下にある人間のことは気遣うのでしょう?それこそ罪の意識であると、私は思います」
マコトは、少しだけ目を逸らした。
彼女自身はハッキリそうだとは言えないが、確かに何かしら損得ではない何かの感情があったのは否定できない。
「確かに私たちは貴女の敵かもしれません。だからアリウスと手を組んで、ミサイルで殺そうとした。そうでなくても重傷者が増えればいい、そう考えていたでしょう。
しかしアリウスの人達はゲヘナも強く憎んでいた。それ故に様々な負傷者も出し、結果的に禍根も残してあの件は終わった。アリウスは表立って社会に入ることに成功しましたが、個人の保護まで行ってなかったのは今回の件でハッキリしています」
細かく言うならあくまで認知されただけでアリウス校区そのものに自治区としての能力はなく、かと言って連邦生徒会やキヴォトスの社会システムに合流できた訳じゃない。だから今回社会から逸れた生徒を集めてのテロが行われた。
「自分が思っている以上に迷惑掛けたゲヘナの生徒に、詫びを入れる為に善きことをしたかったのではないですか?」
「ゲヘナの人間に詫びを入れるなら、尚更お前が言ったプランでいい」
「しかしテロリストはその自分達さえ良ければ、自分達さえ救われればで人を殺すという禁忌を犯そうとした。それを分かっていなければ同じことを貴女はやったでしょう。だけど貴女はその行動の行く末が分かっていた。
だから自分の立場で出来る最大限の行動で、誰かを危険から遠ざけて、解決しやすくするためのヒントをゼンヒさんに託した。それで、貴女は社会と自身の治める学園の生徒達への罪滅ぼしをしたんです。違いますか?」
笑うことこそしなかったが、相手の言うことを遮るような真似はせず聞き入れた。これは、彼女一人で来たからこそ出来ることだ。
相手の発言を聞き終えた後、10秒黙ってから一言口にする。
「______ここまでつまらん事を言うやつは初めてだ」
安っぽい捨て台詞のようなもので、ソファでゆっくりしてるゼンヒは内心笑いそうになっているが、マリーは微笑みながら返す。
「社会は思っている以上に悪どくて、思ってる以上に優しさで溢れています。でも、この悪というのはあくまで“善ではない”というだけ、全てが罪で塗れているというわけではありません。貴女の心もそうでしょう?」
「人は一つのことに染まることはないからな、否定はしない」
「ふふ。なら、いつかいいことが起きますよ。もしくは悪いことが起こった時に、誰かが貴女を救ってくれるでしょう。神様はいつも見守ってくれています、そうでなくても……迷惑掛けた人たちに詫びを入れようと動いた貴女を見ていた誰かが」
「この羽沼マコト様は慕われているからな、誰がそうだか分からない」
「案外ヒナさんかもしれませんよ?」
「それだけは嫌だ!」
いつもの、先生が知ってる威勢のいいマコトが戻ってきた。マリーもゼンヒも、恩人のお茶目な表情を見て和む。
その直後に、三人を呼ぼうとしたミレニアムの生徒がやって来た。
「弾の方全部処理終わりました、外で最後の確認があります。急いでお集まりください」
「分かった、すぐ行く」
「分かりました」
「ああ」
三人は、急いで外へ向かう。
階段を降りてロビーから自動ドアを通って出ると、関係者全員集まっている。何かしらの鉄のかごに、固まりつつある鉛があった。
「渡された弾は全部この金属になりました」
「おお、これか。何ともまあ、普通の見た目だな」
「あの弾は形状とホローポイントらしい動きでセラフィム弾たり得ていたのだから、当然だろう。これなら普通の銃弾になったところでどうもなる訳じゃない」
「実際に溶かして確認してみましたが、普通の金属と構成物は変わりませんでしたよ。ですからこれで銃弾作っても普通のやつと変わりませんよ」
「へえ、すごいね」
しばらく関係者は眺めていたが、このままだと他の作業員の邪魔になる。そして眺めていても特にこれ以上変化するわけでもない。
「こんな感じで如何ですか?」
「ええ、ありがとうございます。これならば心置きなく、日常に戻れますね。そうでしょう?」
「ああ。私もこれで心置きなく交番のお巡りさんに……って階級的にはもうお巡りさんじゃないけど。ともかく、のんびり出来るな」
「さっきの真面目な問答はどこへやら。まあ……これでこのマコト様も政務に集中できるわけだ。ククク」
ついてきた先生は、彼女らの反応を見て号令を掛けることにした。
「みんな!今回は先生が居ない中、派手に暴れて解決してくれてありがとう!いつかお礼するからね!」
「じゃ、解散!」
みんなが、一斉に解散した。
トリニティの面々は車に乗って帰って行くし、マコトも待っていた部下の車に乗って去る。
当然特暴課のメンバーも早く帰って行くが、ゼンヒはしばらく晴れている空を見て歩こうかと考えていた。
そんな彼女に近寄る影が二つ。
「リーダー!」
「おーい!」
ユリとマテバガールの二人だ。
「お前ら!」
「へへっ、アタシたちも連れてってくださいよ」
「そうですよ〜いくらなんでも一人で楽しむなんて解決直後じゃ寂しいじゃないですか〜」
二人でゼンヒの両腕をホールドして、彼女が逃げられないようにする。記憶喪失してそもそもあまり鍛えてなかったゼンヒと比べ、二人は元軍人で身体を維持してる。
「ただ散歩して帰るつもりだったんだけどな……まあ、しょうが無いか。打ち上げ経費で何か食いに行くか?」
「経費で〜?そういう時は嘘でも奢りって言うんですよ」
「そうですよ〜ねえ?」
「ま、大幅な打ち上げじゃないと経費で落ちないか。仕方ないなあ……やっすい場所でもいいか?」
「だべりながら大衆料理食うのが一番っしょ。自分はそれでオッケー!」
「アタシもそれで!」
「たはあ……まあ、いっか」
三人で、思い出語りながら打ち上げ会をすることにした。
騒ぎが大きくなった教会調査も、これにて終わりを告げる。
春風に乗った桜が、彼女らの頬を掠めた。
《後書き》
こんばんは、らんかんです。
急に思いついて初めて、一週間毎日2話投稿したちょっとした教会調査編はこれにて終了しました。
お礼をします。追いかけていただき、ありがとうございました。急に長い話を入れて申し訳なくも思っていますが、それ以上に読んでくれた方への感謝で一杯です。
そう言えば更新中この作品の総合評価が1000を超えました。ブルアカで総合評価1000は腐るほどあると思いますが、その中の一つになったことはよんでくださる方々の支持でしかなし得なかったことです。この人気を土台に、評価でもっと他の人達へのアプローチにもなると思いますので、そのきっかけを作ってくださり本当にありがとうございます。また、個人では初めてのことで驚きましたが、捜索でこの作品を紹介してくださった不屈の腹痛さん、ありがとうございます。あなたの紹介のおかげで更新してなかったのにランキング24位に載ってました。紹介のちからってすげー!
今回の話、前々から練っていたのを出したわけですが如何だったでしょうか?面白かったのであれば、感想で教えて頂けると嬉しいです。感想一つ一つが、その作品に対する変えの効かない反応なので何よりも嬉しく思います(ここまできて感想が22件しかないっていうのも寂しかったりするのでらんかんを慰めて欲しいという意味も込めておきます)。
私個人は思ったよりも粗があったなって思ったりもしますが(ノリで作ったのもあって話が飛び飛びになってるな、先生が来るってはいってたけどもう少し先生出しときゃよかったなとか思ってたり)、それでも全体で見ればあんまりぐだらずに済んだと個人的には思ってます。
あと、原作キャラもここで結構出せたのでブルアカの2次創作としての役割を果たせていると信じたいです。特に最後のマリーとマコトの会話は書いて楽しかったですし、前々から主人公ゼンヒと関わってたイチカとの話も結構面白いと思ってます。個人的には、ですけど。
さて、この長丁場は終わりますが当然この作品はもっと続きます。10話分を一つの話に振り切るとう気も振れたことしましたが、当然彼女が警部補になってからは10話しか経ってない訳です。しかもこれ関連の話となると12話も尺を使ってる訳ですからね。1話完結型だったのにどうして……あと1日2話書き続けるのほんとしんどかったです。パソコンで作業するのしんど過ぎて後半スマホでぺちぺち書いてましたからね!らんかんさんは今ベッドの上です。
この辺で挨拶は終わりにしたいと思います。話は前述の通り続くので、もし労って頂けるのであれば感想をお願いします。高評価もらったりすると喜びます。しかし、結構力を使ったので少しの間休憩して力を温存しつつこれからを練ったりするので一ヶ月くらい更新しないとかはないと思いますがまあ一週間くらいの猶予をくれるとらんかんさんは嬉しいです。もしかしたらその間に更新されるであろう自分の作品(ヒエロニムスのやつとかアリスのやつとかAL-4Sのやつとか声変わりのやつとか、ワンチャンベアトリーチェのやつも書くかもしれない)も見かけたら、読んでみてください。
それでは、失礼しようと思います。
らんかんでした。