シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-12:アビドス視察

 アビドスにやってきたゼンヒ。

 

 最近は色々なところがゆっくりと開発に入ってきてゆっくりと復興してるこの町は、元々はキヴォトス最大の学校であったものだが、砂嵐による災害によって大体が廃墟になった。一度借金をした上で建て直そうとしたものの、それでも無理で一旦はアビドスが廃校一歩手前まで追い詰められることに。

 

 しかし先生の協力もあってゆっくり立て直した……というのがゼンヒの知ってる範囲である。ゲマトリア達との激しい戦いもその生徒達の葛藤や分かりあうための物語も知らない。部外者が知ってても仕方ない話でもあるが。

 

 そんな場所にやってきた理由に関しては、新しく交番を置くかどうかの判断をしたいという公安局幹部の依頼である。

 

 ヴァルキューレは元々学校区でない田舎の治安や、治安組織を持たない学園の治安維持を請け負っていた。アビドスには必要ない、もしくはもう少し様子見をするべきだという意見もあったが(珍しくゼンヒと言いあった幹部も彼女と同じく性急すぎると言っていた)、やはりキヴォトスの治安を担うという名目の支配に目が眩む輩が多い。

 

 駅から出ると、タクシーが一台。

 

「タクシーはご入用ですか?」

「ここら辺を見て回りたいってだけだ」

「観光ですねえ。いいですよ」

「助かる」

 

 タクシーから出ずに話しかけた人間の言うとおりに、後ろに乗り込んだ。

 

 普通のタクシーに色付くのは、運転手の髪色。水色の髪が揺れている。

 

「にしてもその見た目、普通じゃないね。もしかして怪しい人?」

「怪しい人だったらどうするんだ。個人タクシーは忘れ物を届けても仕方ないじゃないか?」

「そうだねえ」

「安心しろ。私はヴァルキューレのものだ」

 

 しっかりと停まってる時に身分証明書を見せる。

 

「よかったあ。けど、なんでここに?」

「上からの仕事でね。金渡すから好きに今復興してるアビドスを見てこいとかなんとか。ヴァルキューレって人の少ない地域の保安も出向してやってるから、アビドスもいけるじゃないかっていう上層部の予想に付き合ってる」

「君はどうなの?」

「絶対にないな」

 

 砂嵐が控えめな道路を走ってる。それでも周りは割と舗装されているようだ。

 

「生徒が増えるならともかく大体はネフティスグループかカイザーの奴らだと考えればそもそも守る理由もないし、仮に生徒が増えたとしても訓練体制は整ってる。一番大事な教官に適任なやつがいるからな。まあ、人員が足りないって言うならその間を埋めるくらいはするだろうが常駐はない気がする」

「ホシノちゃ____小鳥遊ホシノのこと?」

「ああ」

「そうだよねえ、彼女強いからね」

「知ってるのか?」

「知ってるよぉ。有名だもん」

 

 運転手は笑う。

 

 彼女のゆるさにリラックスしてきたゼンヒは、そのまま話を続ける。

 

「まあ、そうでなくても腕っぷしがある生徒が揃ってるって話じゃないか。だから組織が編成できるって状態になったらヴァルキューレの援護なんざ要らない」

「そう言うもんなのかな」

「何せシャーレが初めて担当した学園ってのもあって知名度は上がってるからな。もう少し各企業の緑化並びに災害対策や砂嵐の対策が出来れば、生徒は自ずと入ってくる。最大の学園だった時には及ばないかもしれないが」

「この街が活気を得るのも楽しみだね。あ、そう言えば君の名前って扇皇ゼンヒって言うんだね」

「ああ、私の名前だ」

「もしかしてこの前の教会調査の事件の責任者?」

 

 ゼンヒは肯定した。

 

「そっかあ、道理で見たことあると思ったんだよね。立ち食いの蕎麦屋さんでニュース見たよ〜」

「本当か?恥ずかしいな、私はそこまでカッコ良くはないからな。でもシスターさん達はカッコよかったよ、部下も負けないくらい。私はほら、指示して後ろで踏ん反りかえってただけだから」

「一回人質になったってニュース入ってたけど?」

「それは自分から志願した。まあ、人質だからと言って相手を無力化してはいけないというルールはないから自力で脱出したけど」

「随分と無茶をするねえ」

「無茶をしなきゃ人命もそうだが政治的にも危なかった。テロを成功させることの脅威は計り知れないから」

 

 彼女の真面目な答えに、運転手の少女は笑いながら車を進める。

 

「刑事さんらしいね」

「刑事事件を担当するつもりなかったんだけどな……私は基本シャーレ前の交番で警官やってるんだ。お巡りさんの監督だよ」

「じゃあ結構忙しいんだ」

「そうだな」

 

 そうして話は一度終えた。

 

 外の景色は少し荒れた場所が増えてきているが、アンドロイドの作業員達があれこれ組み立てたり運んだりしている場面が見られる。

 

 ゼンヒは、話を変えるようにして相手に質問をし始めた。

 

「そういえば運転手さん」

「何〜?」

「いつからこの仕事を?」

 

 目の前の少女のことについてである。

 

「えーっとね。個人タクシーをやってるのは最近だね、大規模な復興が始まるちょっと前かな」

「ほう?」

「それまでは細々と色々仕事やってたんだけど、今はもうタクシーオンリーでやってるね。アビドスの土地知ってる人って今でも少ないから他の企業が運送業で入りにくいってのが大きいかも」

「てことは先生にも会ったことある?」

「いやあないねえ。あの人はもう自力で行けるようになったから」

「まあ、アビドスしか行かないならそうもなるか」

 

 先生は基本学校以外に用はないから、自力で行ければ特に頼る用事もない。

 

「しかし企業の資本があればできそうなもんだけどな。やはり、復興中だから足踏みしてるのか?」

「そうだねえ。たとえば今はまだ未開発のエリアや開発中のエリアはね、砂嵐によって通れる道や通れない道が出てきてしまうからね。昔よりはマシだけどね、道に迷いすぎて脱水症状起こしたし私」

「大丈夫だったのかそれ」

「気がついたら自分の家に居たからね」

「奇跡だな」

「まあ、そう言うのもあるから今やるのは危険かな。自分たちが整備した区画が増えれば自ずと参入してくると思うよ」

「なるほどなあ」

 

 外を見ると、割と砂嵐が吹き荒れるエリア。

 

「運転手さんがお役御免になる時は来なさそうだがな」

「そりゃもちろん。結局天候のせいで私が年取るまでには食いっぱぐれることはないと思うよ」

 

 運転手の言うとおりである。

 

 アビドスが多額の借金を背負っても被害を修復できなかった理由は、この砂嵐による災害のせいで作業の目処が立たなかった部分がある。今でこそハイランダーがアビドス駅の復活をさせたのを始めとして色々なところが流れてきているが、技術力と資本を持ってしてもこの災害を無視して進めるのは難しい。しかもいつ収まるかの目処なんて立たないものだから、結局のところ足止めをくらいながらの開発になっていく。

 

 そんな状態なのだから、結局技術発展していったとしてもそのうちに実務経験を積んだ運転手はどこかで拾われるだろうという。

 

「それだけ難儀な土地なんだな」

「難儀だけれどその分攻略できたら名誉になるよ〜」

「楽しそうだな」

「楽しいよ。住民からすれば、ね」

 

 また、話が終わる。

 

 外はまた人が出て、砂嵐の控えめなエリアにやってきた。どうやら今通った道は整備が難航していて後回しにされてるエリアらしい。

 

「そういえば今向かってる場所はどこなんだ?」

「あ〜、少し遠くの飯屋だよ。どうしても機械が多いからあそこらへん飲食店少ないんだよね。ただ今行ってる場所も労働者のための店だから、映えはしないよ」

「警察は」

「やっぱりちゃんと飯を食べて働くのが幸せなんだよいつの時代も」

「そう言うもんだな」

 

 今いる場所は割と開発が進んでいるところらしい。

 

 遠くを見ても砂丘がないし、道はコンクリートで綺麗に舗装されたまま。よく目を凝らせば道端に少しだけ砂が溜まっている程度だ。

 

「ここは駅から遠いのに舗装されているんだな」

「ああ、比較的に被害が少ない地域かつそもそも最初から原風景そのままの場所だったんだよねここ」

「一から作るってのは大変なんじゃ?」

「だから楽なんじゃないかな」

 

 アビドスの大体は放棄された建物やインフラが土地を占めている。

 

 当然開発するにあたってそこら辺の破棄もしくは修繕しての再利用になるのだが、後者の場合はそれの把握と合った修繕をしないといけないため一から作るよりも時間が掛かってしまう。その規模が小さいのであれば古いものを利用する危険性云々と理由をつけてすぐに破棄することも可能だが、破棄する分が大きくなるとそれだけ作るのにも時間が掛かる。

 

 そしてずっと付きまとう問題である砂嵐による妨害。これによって工事そのものに多大な影響が及んでいるから、ならばいっそ問題が少なくて済むゼロから作るのが楽だという見方らしい。

 

 運転手はそう説明した。

 

「なるほど」

「まあ、だからそう言うのの兼ね合いもあって難しいんじゃないかなって」

「そうなるな」

「あ、見えてきたよ」

 

 大きな屋根、倉庫街の入り口に造られたまさしく食堂みたいな場所。何人か泊まっているようで、外でタバコ吸ってる動物もいれば作業服を着た生徒も見えた。

 

 近くは木が生えていて、アビドスらしさが薄れている。広い駐車場にスムーズに停まっては、二人は降りた。

 

「うへえ、暑いね」

「暑いな____コート着てこなきゃよかった。流石に春だな」

「まあでも食べてれば忘れるよ」

「ああ」

 

 二人は食堂の入り口へと歩いていく。

 

「運転手さん」

「なんだ?」

「せっかく貸切にするんだから、飯代くらい奢らせてくれ」

「いいの!?」

 

 ゼンヒの突然の提案に喜ぶ彼女。

 

「貸切代も含めた諸経費はヴァルキューレが払うって話だからな」

「ほんと!?やったー!じゃあたくさん頼んでも良いわけだね!」

「あんまり不自然な量だったらポケットマネーでなんとかするさ」

「そんなたくさん頼まないよ〜。あって大盛りカレーと大盛りラーメン!」

「いいな。私もメニュー表見てそれくらい食べようか」

 

 二人は笑顔で食堂に入っていく。

 

 アビドスの春は、植物ではわからないものだ。だけど砂嵐の中に、肌を撫でるそよかぜの暖かさがその到来を知らせている。

 

 ただそれよりも、今は香ばしい匂いに吸い込まれていくゼンヒなのだった。

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