シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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Case4:特別表彰式にて

 この日、ゼンヒは表彰式に呼ばれていた。

 

 前日にコンビニでの単独対処を讃えられてのことである。

 

「この表彰式は、一人の勇気ある警官によって被害が最小限に食い止められキヴォトスの平和を守ったことを讃え、また他の警官にも同じ組織を見習い自信をつけてもらうと言った激励として行われます」

 

 彼女は辞退を申し出たものの、表彰しなければ尚のことやる気をなくしてしまうだろうという憂いを直々にカンナから言われてしまうと申し出を取り下げざるを得なかった彼女は出席していた。

 

「えーでは、扇皇ゼンヒ。前へ」

「はい」

 

 そのまま歩いて、カンナのもとまで歩いたゼンヒ。

 

「貴殿はこの度の事件において民間人に死傷者を出さず、犯人を単独で、かつ武器もなしに安全に取り押さえた。その勇気と技量、日頃の業務で学んだことの成果を讃えてこれを表彰する。2025年1月7日、ヴァルキューレ警察学校・公安局長、尾刃カンナ」

 

 カンナに表彰状を渡されて、丁寧に受け取る彼女。そのまま礼儀正しく脇に抱えて礼をしてから、席に戻る。

 

 席に戻った後はあれこれ激励の言葉が続き、ゼンヒはあくびを30分も我慢してカンナというか公安局長という立場ゆえのメディアのアピールに付き合って、終わりの時が来た。

 

「では、これで終了いたします」

 

 その言葉から、数分経ってブン屋の雪崩退出と共に終わりを迎える。

 

 流石にゆっくりしたいと思って彼女は背伸びをしてだらけていると、表彰した本人が近寄ってきた。

 

「ご苦労ゼンヒ」

「あー局長。話なら後にしてくれませんか?」

「そう言うな。今から昼飯でも奢ってやろうと思ってる、行くか?」

「じゃあ行きます」

「ゼンヒは苦労しているからな、労ってやらないと」

 

 そう言ってゼンヒは立ち上がり、二人でその場所を出た。

 

 公安局の廊下を歩いて、二人は話し始める。

 

「ゼンヒ、最近は上手くやれてるか?」

「どうだか。少なくとも今日は上手くやれる気がしない」

「そうか。やはり、午後に控えてる記者会見はあんまり乗り気じゃないらしいな」

「そりゃそうでしょう、自分は何もやってないんですから」

 

 公安局は出てもまだヴァルキューレ警察学校の敷地内。寒い中、二人で歩く。

 

「それに質問する内容だって当然明るいものばかりではないでしょう?不知火カヤの一件だってありますし、もしなかったとしても世間はヴァルキューレのことを好意的に受け止めるかどうか。汚職だって横行しているんです、自分一人に過度な期待背負わされるのは御免被りたい」

「そう悲観することでもない。今までヴァルキューレではそう言った大活躍した生徒というのは極端に少ない。最近でもキリノがいるが、それでもあまりこの学園に対する心象は良くないというべきだろう」

「それでもほぼ国家に対する汚職を止めた英雄でしょう?」

 

 キリノのことを考えればまさしく身近な国家権力が、不法な行為に手を染める国家権力を止めたという"一般市民に聞き心地のいい話"であるということをゼンヒは強調した。

 

「彼女を担ぎ上げればヴァルキューレのイメージアップなんて造作もないはず」

「……そうであればいいんだが、キリノ自体は変わらずに生活安全局に居る。ライフセーバーなどもやっているが、それではダメだった」

「は?」

「無論以前よりは彼女を中心に生活安全局の質は良くなった。自分達でも活躍できる、そういう自信は付いたんだからな。

 しかしそれは"生活安全局内での話"だ。警備局・公安局に影響はないし、なんだったら悪化したと言っていい」

 

 カンナは話す。

 

 確かにキリノが活躍したことで良くなる雰囲気は出てきた。それも一般市民に一番近い生活安全局なのだから、対外アピールは成功したと言っていい。

 

 しかし、警備局や公安局では不満が続出。特にSRTからの編入生は、能力が高すぎる故に活躍を奪われた、自分達を活用できない指揮官が居ないからこうして雑魚に抜け駆けされたと不満が出た。当然その矢面に立たされたのはカンナであり、彼女もまた扱いあぐねているのも事実である。

 

 カヤが支配した方が良かったという意見も強くなりつつあり、結果的に指揮に従わないやつも多くなった挙句カンナへの当てつけのため汚職も増加。生活安全局よりも治安維持の意識が薄くなり、凶悪犯罪の放置が多くなっている現状があった。

 

「それを私に解決しろと?」

「いずれ活躍していれば従うだろうという判断だ。無論、これも私の憶測だがな」

 

 彼女は話を続ける。

 

 ゼンヒに課せられた使命は、公安局でもまた英雄を作ることだ。

 

 一応彼女は公安局の一員であり、今は特例でシャーレ前交番で勤務している状態。しかし、今回を皮切りにゼンヒが活躍の場を広げていけば当然彼女の技術をベースにして公安局の刑事や幹部は文武両道で強化されていくだろう。幸い彼女には警部補になる資格もある、成り上がれば今度は"エリートの希望"というキリノとは違うスターになるとカンナは考えた。

 

 それにゼンヒの戦闘や頭脳は()()()()()()()()()()()()()。それはどういうことか、キリノと違い『扱える指揮官が居ないから死蔵されている』という言い訳も封殺できる。もっと言えば、ゼンヒがそんな最強軍団を率いてしまえばいい。カンナ一人では新たな敵対派閥ができる時点でデメリットではあるものの、少なくとも武力も知能も勇気もある優秀な指揮官がいる事は先生との協力をするときに兵力のデッドストックも回避できると考えていい。

 

 またその状態で活躍できればSRT編入生の生きがいもできる。暴力性を完全に取り除くことは難しくなるが、いわゆる"マル暴"みたいな部隊も誕生するとこれもまたヴァルキューレ全体にとってもいいことになると予測。

 

 これはヴァルキューレも相応の兵力を学園単位で持っているというアピールになるため、この兵力を生かすためにと連邦生徒会から金を回してもらい結果他の局にも金を回してかなりの強化を図れるとそれに応じて強くなるため自治区を持っている学園へのキヴォトスを害を成すものへの牽制とも出来る。

 

 ゼンヒが活躍すればするだけ良い。当人の思惑は置いといて、状況は好転するという判断だ。

 

 それを聞いていたゼンヒは呆れ顔で、カンナに言い返す。

 

「つまりなんですか?不良を率いて頑張れと?」

「ゆくゆくは、だ。お前の心情は置いておくが、少なくともヴァルキューレに居る間に相応しいだけの器になったらこの状況はもっと良くなる」

「買い被りすぎでは。私はSRTに居たわけではないし、彼女たちがたとえ技量的に足りてても従うかどうか」

「私のことを疑っているのか?」

 

 カンナは笑っている。

 

「これでも確信しているんだ。当然、私も頑張れば彼女らを率いる事は可能だろう。だが当然、彼女たちとの溝は埋められない。なぜなら警察の信念とSRTの者たちの信念は違うからだ。警察はあくまで人のためにあるが、SRTは国家や社会の枠組みのためにある。その大きさのものを背負うための勇気があるから、強く、そして自信があるのだろう」

 

 人のためと社会のため、これはかなり違う。

 

 人のためであれば当然、他人のために戦う。社会がそれを害そうとするのであれば、当然社会と戦うのがその信念に基づくものだ。つまり、あの時の一部ヴァルキューレの蜂起がそれである。

 

 社会のために戦うのであれば、あくまで社会の機構や枠組みの維持のために戦う。そしてそこには、枠組みそのものを尊び守ろうとする意思がある。その中身が人を害するものであっても、枠組みを守るために、人間社会という理性あるもののために戦う。

 

 それぞれの信念を持つもの同士を合わせても、噛み合うはずがない。

 

「当然言っておくが、どっちが良くて悪いかなんて決まらない。普通はどちらも大事であるし、それを協力して分担し守るのが理想なのだからな。強引につく場合は、大衆の世論で決まる。

 今は決まっている状態だ。SRTは連邦生徒会長の私兵扱いであり、カヤが解体に反対したものもあり人を害するものとしてやはりモモトークを中心としたSNSでも言われている。無論悪口は、彼女らの心を傷つけるだろう。本格的に暴力性で彼女らが報復に出る前に手を打ちたい」

「もしかしてそれをするためにスカウトを?」

 

 ゼンヒは聞く。

 

 そもそもゼンヒは、カンナの推薦もあってこのヴァルキューレに入学した。公務員試験に合格した直後、その結果を受け考えた彼女からスカウトされたのだから。実際試験も昨年度の主席よりも10点も高く合格するという頭の良さを見せているために、彼女が目をつけるのも珍しくはない。

 

「絶対に成し遂げてくれ、なんて人生では言えないが____それでも改めて、頑張ってくれるか?」

「保留ってことで」

 

 もっとも当人はすぐには答えなかった。

 

「無論、その方がこの都市に良い影響を与えるのもわかります。しかし、私には人を率いる器はない。それに彼女たちにとっての大義もよくわからない。わかる時も来ないだろうな、と」

「どうしてそう思う?」

「私自身に大義はないから」

 

 彼女は自分のことをよく知っていた。

 

 ヴァルキューレのように人を救いたいと思ったことも、SRTのように社会の枠組みを守る守護者を目指そうと思った事はない。ただ自分が正直に生きて、それを邪魔する奴を排除する。ヴァルキューレは自治区という領土、それに連なる愛国心のようなものを要求してこないという意味で最適だったというに過ぎない。

 

 それでもそんな利己的な、綺麗でもない彼女でもカンナは受け入れたという事実に対してはゼンヒも感謝しているようだ。

 

「そろそろ着くぞ」

 

 カンナの言葉で、この話は終わる。

 

 目の前には大きなホットドッグ店。

 

「ここでもいいか?」

「私ここ好きですよ。チリビーンズのあの辛いホットドッグ、大好きです」

「そうか、それは良かった。折角だからポテトも食べよう、山分けで」

「ええ」

 

 二人は笑い合いながら、店へと入っていく。

 

 この店のホットドッグは美味しい。パパイヤジュースで油を流し込む楽しみにも心を躍らせながら、彼女たちの昼休みは始まるのであった。

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