シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-14:常套手段の誘拐未遂

 ゼンヒは、バーに出向いていた。

 

 少女達が多いこのキヴォトスでは、生徒達のために開かれたバーが存在する。

 

 と言っても生徒に出されるのはノンアルコールカクテルで、もっと言えばそこは夜になると自動でバーっぽくなるレストランである。

 

 しかしノンアルコールカクテルのクオリティや、そもそもの料理のクオリティが高すぎるので侮られることなく、年配の動物達も好んで足を運ぶくらいだ。

 

「ここですね」

「ああ」

 

 ゼンヒはタリナと一緒に来ていた。

 

 霊峰タリナ。ゼンヒがアリウス過激派と戦う時からの縁であり、今彼女の活動拠点である建物を渡した生徒。ゲヘナのある区画の地主であるため金は沢山ある。

 

「こんなところがあったなんてな」

「知らなかったのですか?かなり有名なんですよ____って、記憶を失ったあなたなら仕方ないですね。一緒に行きましょう?」

「ああ」

 

 二人はカウンター席へやってきた。

 

 カウンターは広く、飲食しても大丈夫なようになっている。

 

「最近いかがですか?仕事の調子は」

「順調だよ。大きな事件も解決できるし、通常業務もバッチリだ。書類仕事ばかりは慣れないけどな」

「いずれ慣れますよ」

「地主もそんなことするのか?」

「書類作成はあまりしませんけど、考えることがかわりに長いですね。あの取引どうだったかな、この取引どうだったかなって」

「そんなもんなのか」

「はい」

 

 二人の前にバーテンダーが来た。

 

「ご注文は?」

「ああ、ごめんなさい。飲まないのに居座ってたら邪魔ですね」

「霊峰一家の娘ですから手荒な真似はしませんよ。ですが、やはり来たからには注文をしていただきたい」

「正直ですね。えっと___まず飲み物頼みますか。と言ってもカクテルなので、難しければどんなものが飲みたいと言うのがあれば私が」

「アイリッシュコーヒー」

 

 タリナはずっこけた。

 

「あたた____いきなりですね!?」

「常連さんじゃないと頼んじゃいけないとかあった?」

「うちはそう言うタイプじゃないからいけるがどうするね?」

「ならお代は私が持ちますからお願いします……あ、私はサラトガークラーで」

「あいよ」

 

 マスターは忙しく仕事を始めた。

 

「にしても、トリニティの事件は大変でしたね」

「教会調査の一件は本当に苦労したよ。銃撃戦はきついし囲まれてガラス片振ってくるしで散々だった。それに厄ネタまみれで割と頭抱えてたよあっちは。まあ私はヴァルキューレだから関係はないけど」

「テロリスト退治もお見事でしたね、ゼンヒさん」

「褒められると嬉しいな」

 

 店内のガヤは続く。

 

 少し騒がしいくらいが店の雰囲気と落ち着きに丁度いいと考えていたゼンヒの分よりも先に、タリナのサラトガクーラーが入ってきた。

 

「ありがとうございます」

「お嬢さんのアイリッシュコーヒーはまだだから待ってな」

「ああ」

 

 そろそろメニューを決めようか、とお品書きを開く。

 

 ステーキもあるっていうのでゼンヒは嬉しく思うが、流石に付け合わせに迷いすぎる。あまり多く頼みすぎるとそれはそれではしたなく感じる彼女は、ガーリックシュリンプとバゲットを頼むことにした。タリナはボンゴレ。

 

 頼んでいる間にやってきたアイリッシュコーヒーに感謝したゼンヒ達は、注文をしようとする。だけど、タリナはともかくゼンヒは一つ気になるものを見た。

 

「あ……?」

 

 色々立ててあるボトルから、反射して後ろの景色が見える。複数人に囲まれてる可愛い少女がいるが、なんとなくそれに違和感を持つ。

 

 よく見たら一人だけ正義実現委員会の生徒が混じっている。黒い服で馴染んでいたが、セーラー服なので少ししたら見分けがついた。

 

「あの、ゼンヒさん?」

「ごめんごめんちょっとよそ見してた。私はガーリックシュリンプとバゲットを。よろしく」

「分かった」

 

 マスターが行ってから、二人は話をする。

 

「一体何が?」

「いや、少し面白いものを見つけてね」

 

 後ろを振り向かせて、自分が見たものを見せる。ウェイトレスが持ってきたのか、青いカクテルがあるようだ。

 

「ああ、あれですか?」

「基本ああいうのって事件の兆候に思えるんだが、どうだ?」

「青色のカクテルを頼んでて、それも囲ってるのは他校の生徒。まあ、まさかそんな分かりやすい状態で犯行に及ぶとは考えられませんけど」

 

 二人は冗談だよな、と言いつつとりあえずは見守りながら話をすることに。

 

「ところでアイリッシュコーヒーのお味はいかがですか?」

「ここのやつはコーヒーの酸味より苦味が強いが、その分爽やかな甘みが合うな。好きだ」

「気に入りました?ならよかった」

「ああ」

 

 そんな話をしていると、さっき見ていた集団に変化があった。

 

 一度何かを察知したのかそれとも普通に用事があったのか、席を外そうとする正実の生徒。無論その生徒そのものは止めなかったが、当人が去った後のこと。

 

 ゲヘナの生徒はそこに何かを入れようとしていた。小さめだが長めで見えやすい袋を少し千切っては青いカクテルに入れようとしている。カクテルそのものは少し減っているので、おそらく飲んだ後だろう。

 

 あえてアイリッシュコーヒーにあまり口をつけなかったおかげで、黒いコーヒー部分に光の当たったガラスのおかげで比較的反射した部分が見えやすい。

 

「やっぱりこうなるのか」

 

 ゼンヒはカウンターの椅子をくるっと回して身体を反対側へと向かせつつ_______

 

 拳銃を撃った。

 

「なっ!?」

「良いだろ、こう言うのも」

 

 銃弾は、綺麗に手から薬を弾き飛ばして入口の方へと飛んでいった。それはマスターが回収。

 

「なんだてめえ!」

「警察だよ。聞き覚えないか、ヴァルキューレって」

「あんな弱小組織で威張る奴が出てるけどな!ここ一帯はうちらのナワバリってことよ!今の腰抜け、内部争いしてただ疲弊させる万魔殿の奴らと違ってうちらは改革してるのよ!」

「それが正義実現委員会の少女を誘拐することか?」

「そうよ!」

「じゃあ今日でそれはおしまいだ!」

「野郎!」

 

 集団は立ち上がってゼンヒに殴りかかる。

 

 テーブル席で特に密集してるとかではなかったので椅子を持っての殴り合いを仕掛ける不良達。

 

「ゼンヒ!」

「わかってる」

 

 人数は8人。

 

 まず椅子で殴ってくるやつは普通に体を横に逸らして避けて右ストレートで顔面を殴り、もう一人も突撃してくるが、それはノックダウンしたやつの椅子を持ち上げてからそれで壁に押し付けて高速。腕が椅子の足に挟まって悲鳴をあげる不良の頭に数発撃ってから気絶させる。

 

 マガジンを上に放り投げるようにしてリリースしてからリロードをして、3人目の様子を見る。釘バットを隠し持ってるとはキヴォトスらしいが、彼女は怯まない。

 

 釘バットも体を逸らして避けると、さすがに相手もヒートアップ。

 

「なってめえ何避けてんだ」

「当たる道理がないからな」

 

 示現流のような直刀でバットを振り下ろす不良を、そのバットの柄頭をハイキックで蹴り飛ばして勢いで後ろに倒れ込む不良の顔に蹴りを入れて気絶させる。

 

「残り5人か」

 

 3人同時で襲うには狭すぎるのか、二人ずつ襲ってきてる。

 

 片方は素手で襲ってきたのでそのまま応戦してもう一度素早く、今度は腹に拳を入れてえづく不良をそのまま襟を掴んで投げ飛ばし席にいた二人を片付ける。

 

 しかし、問題はもう片方。

 

「へへ、こいつならどうだ」

 

 大きめのサバイバルナイフを持っている。

 

「刃物ってのはすげえ切り傷が生まれるもんだ。包丁で怪我する奴がいるように、銃弾とは全く違う圧力でかかるようになっている。ウォーターカッターも同様だってなあ!?」

「そうか」

 

 ゼンヒは怯まない。

 

 ナイフ程度で怯えてないが、何より相手が刃物を持ち出したことで逆に体の緊張感が解けていく。

 

 基本刃物なんて使わないのに、それが彼女にとっては妙な懐かしさを感じるものだ。

 

 はっきり言えば、相手を見下していた。

 

「どうした?さっきみたいに手を出せないか?ああ!?」

「いや、馬鹿らしいなと思っただけだ」

「んだとぉ!?」

 

 そのまま相手は襲いかかる。

 

 だが、ゼンヒには当たらない。

 

 振ったり突いたりの動作が、全部把握できるようだ。タックルからの切り上げか刺突か、それも普通判断が難しいところで、しかも自分が死ぬかもしれない凶器を全開で振ってくる相手が怖くてたまらないはずなのに彼女は相手の一挙手一投足が見えている。

 

「なっこいつ!」

「……」

 

 彼女は静まり返る。

 

 なぜかは分からない、警察に入ってからそういった訓練は受けていても実戦では基本撃ち合いのみ。なのに彼女は動じることなく、相手を動かしていった。

 

 当たらないのに当たりそうな位置での回避に希望を持ち振り続けた不良は息を上げ、相手を睨む。

 

「くそ、くそお!」

 

 そう、不良が吠えた瞬間。

 

 ゼンヒは銃弾を三発、ナイフの面に撃ち込む。命中率はいいこの拳銃と、そのストッピングパワーでナイフは彼女らが座っていた座席に刺さり、それを見た不良は持ち直そうとする。

 

 しかし相手は警察、しかもちょっとやそっとでは怯まないシャーレ前のお巡りさん。相手の行動をお見通しと言わんばかりに、拾いに行ってる相手にドロップキックを当てた。

 

 さすがにこの質量攻撃には耐えられない。相手は倒れる。

 

「ゼンヒ!」

「……ああ」

 

 タリナの方を見ると、マスターによって伸びたやつと彼女の近くに正実の生徒。

 

「あ、あの____」

「大丈夫。もう全員捕まるから」

「はい」

 

 安心した生徒はそのまま席に座ってマスターの奢りで何かを飲んでいる。

 

「ねえ、ゼンヒ」

「どうした?」

「こいつらはなんであんなことを?」

「さあ。怪しいのには違いないが、それは後の調査で判明することだ」

「そうだな」

 

 ゼンヒも席に座ってると、目の間にガーリックシュリンプとバゲットが。

 

「おお」

「丁度できた」

「サンキューマスター。食べるか」

「マスター、私のは?」

「もう少しで出来る」

 

 ウェイトレス達によって部屋の隅に不良が固まってしまっている。

 

 ただもう分からない事に縛られる事はしない二人は、料理とカクテルを楽しむ事に没頭した。

 

 窓の外は桜吹雪。

 

 _______彼女達が食べ終わる頃だろうか、風紀委員が来るのは。

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