警察には意外な仕事があったりする。
例えば武器類の回収がそれに該当したり。キヴォトスの過去は盤石とは言いにくいのかもしれないが、たまに歴史あるものが隠れていたり。
今回は刀剣の届出があった。銃器はフリーで、日常的に使う刃物は問題ないがこういった刀剣は少し扱いに困る。なので、こういったものは自治体がない地域もしくはその自治体が処理をめんどくさがったりした場合ヴァルキューレが処理することに。これはゼンヒのおかげではなく、お巡りさんの活力がキリノのおかげで戻りつつある証拠である。
ゼンヒはパトロールに出てる後輩ハクジツの代わりに、回収することになった。
_____そうしてやってきたのは、百鬼夜行の外れ。
「ああ、こんにちは」
「こんにちは〜!」
「最近暖かくなりましたね」
「暖かくはなりましたけど肝は冷えてますよ〜」
「ふふ」
依頼主の発言にくす、と来てしまう。
「大丈夫ですよ、きっちり届けてくださった方に粗暴な真似はしませんから」
「助かりますよ〜、本当に。こちらです」
二人は歩き続ける。
ここはなぜか平安貴族の屋敷みたいに、長い。床の音が鳴って、二人の足音が響く。
「どうです?ここ。結構いい感じですよ」
「この屋敷、もしかして一人で?」
「まさか!いろんな人が居ますから、たまに陰陽部が会議に使うことだってありますよ」
「それはすごい、とはいえ管理大変でしょう?こういう晴れの日は美しいの一言に尽きますが、雨とか大変ですよね」
「ちゃんと屋根のところに細かく編んだすだれとかがあるのでそこそこ大丈夫だったりしますよ。それに屋根は余裕を持っていますから早々雨粒が入ってこないんですよ〜」
「ほう」
二人は談笑しながら進む。
「ところで今回の刀剣に関しては、いつ発見なされたんでしたっけ?」
「昨日です。ここの離れにある一角の倉庫にありましてね。一度自治体であるため陰陽部に話をしたのですがどうも手一杯のようで。とほほ……と思ったのですが、新学期が始まるのに忙しくないわけないんですから。ただこちらも見つかった以上そのまま置いておくのも問題なのでそちらに依頼した形になるんですね〜」
「陰陽部も大変だ」
「まあでも今回ゼンヒさんが来てくれてよかった。これで一安心ですねえ」
「状態を見てから届出を受理してから考えましょうか。一旦は回収希望とは言っていましたが、登録するなら警察ではなく百鬼夜行のしかるべき機関に一度検査してもらった方がいいので」
「そうですねえ」
そうこう話しているうちに、目的の場所が見えてくる。
終点のように、通路を通った先にポツンとある建物。倉庫というには人の出入りがあり、なんなら通路の端っこに盃がある。
「ここで飲み食いしてたりしました?」
「ああそれはいつものことです」
「まあ倉庫に居場所を見出す人間も少なくはありませんか」
倉庫にたどり着き、扉を開くと清潔な匂いこそすれど人のいた感覚がしない。
ただ、ある程度のマークがつけられているのか、箪笥のところに『発見場所』と書かれたメモを見つける。そこに駆け寄ると、近くの机に白鞘の刀が置いてあった。
「あれが件の?」
「ええ」
「では、拝見してもよろしいですか?」
「お願いします〜」
ゼンヒは手袋を嵌めてから、刀を触る。
白鞘は滑りやすく、下手に抜いて振ると大変なことになるため慎重に扱わなければならない。おっかなびっくりは逆に怪我の元になるが、勢いもまた同様。落とさないよう壁についてる机にゆっくり抜いては、彼女は状態を確認した。
「これは綺麗だ」
「そうですよねえ。最初に見た時には驚きましたけど、こうしてみるとかなり美しい____うーん、どうなんでしょうね?これって値の張るものでしょうか?」
「少なくともこれそのものに名前は刻まれてないのでどうも言いようがないですね」
検査するのはそこの5本。
2本、3本と確認する。警察が見てもあまり意味はなさそうだが、こういう時は一応昨今手が加えられた形跡がないかを調べるのが警察の仕事だったりする。指紋がついてるかどうか、加工された後があるかどうか。場合によっては刑事につながることもあるのだ。傷害未遂か準備罪、下手に刃物を持ち続ける危険性はキヴォトスでも変わらない。
「ところで、この刀達は一体どうしてここにあるのか、何のために作られたのかを示す文書等はついでに見つかりませんでした?」
「それがどこにも。なので困っているのです、そういう歴とした文書がないから不審物として処理しようとしているのですから。美しくとも過去のもの、それも危険なものならば受け継ぐよりも黄泉平坂へ葬送するほうが幸せでしょう?」
それもそうかもな、とゼンヒは心の中で思いながら検査を続けた。
今の所怪しいものはない。どれも同じ程度の保管状態、錆こそないので無銘の刀であることは間違いないが、それ以外に不審な点は見当たらない。
「ところゼンヒさん」
「なんです?」
「結構扱い手慣れてますね」
「え?」
「いやあ、なんというか_____なんでしょうね、そういう雰囲気を感じるんです」
「まさか。私は今年の一月から本腰入れた新米の警官ですよ、こういうケースの対応も実は初めてなんです」
微笑みながら、彼女は話を続ける。
自分はそんなに慣れているのだろうか、そんな冗談にナイナイ、と思うゼンヒは刀を見る。
刀身は鏡のように輝いていて、彼女の顔を映す。いつもと変わらない、いや、ヒエロニムスの時からずっと発動しているあの幽霊の加護で髪色が変わっているからか、段々と変わりつつある髪色。それに不快感を覚えることはないが、それでもわかっている事だから、それを異変だとは思っていない。
ただ、なんとなく微笑みながら話していた自分のその顔に、誰だか自分じゃないような笑みを感じた。それは、いわゆる自分にないと思っていた少女然らしい微笑みのこと。
それに疑問を一瞬持ったが、流石に刀の反射でおかしく映ってるだけだろうと彼女は解釈。そもそも自分そのものに異変を感じないし、怪しいところは何もない。依頼主の生徒も普通にしているし、周りにだって怪しいところはない。
刀に手入れされた形跡もない。ならば、疑うことなし。
「そういえばゼンヒさん」
「なんです?」
「ゼンヒさんは仕事中歌う、って聞いたんですけどあれ嘘だったんです?」
「突拍子もないですね」
「いや、そう噂に聞いてたので」
「流石にこの時ではしませんよ。刃物扱ってる時には危ないし」
「いつもは何歌ってるんです?」
「洋楽とラップです」
「かっこいいよりなんですねえ」
「好きなんです、ああいうの」
そんなことを話しているが、とりあえず仕事は問題ない。用意してもらった長めの木箱に刀を丁寧に一本ずつ入れて台車に乗せる。
「まあ、こんな感じですね。不審な点とかはなかったので、特に要望がなければ持って行きます」
「どうしましょうねえ」
刀は無銘とはいえ状態がいい。それはつまり、しっかりとした場所に預け、もしくは売却すればそれなりの値がつくということだ。刀には誰が造った、それに似ているで値が張ることもしばしばある。それを考えれば、状態がいいのを考えるのであれば警察か陰陽部が所持の許可を出せばあとは売るだけで済む。
「当然これらを持つ危険性は理解できますし、あなたの考えには賛成します。ですが、同じく処理するのであれば溶鉱炉に突っ込んでしまうより、一度はそれを知っている人間に委ねてみるのもアリだと思っているんです。仮に売っても売らなくても大差ないとなったとしてもその時はすでに所持の許可を持っていますし、その時考えるでもおかしくはないと思うんですよ」
「ゼンヒさん」
「勿論それらが煩わしい、鑑定まで管理する手間や時間さえ他のことに費やしたいほど惜しいというのであればすぐに処分を選んでもらっても構いません。どうしますか?」
ゼンヒはとりあえず警察として出来ることを提案する。
相手に選択権はあるのだが、とりあえずは最低値を引かなければいい仕事なので相手に利益のあることも平然と提案。どうするか悩ませることだけは警察の悪い手だが、それでも市民のためにある公務員の在り方としては正しいだろう。
「うーん、どうしよう」
「決めるのはあなたです」
「じゃあ、えっと____」
依頼主はそのまま書類を近くの棚から持ってきて書き始める。申請書だ。
「これって出したあとは刀はどこで?」
「対応警官は自分なのでそのまま保管していただいて結構ですよ。一応まだ朝なので然るべきところに連絡すれば、それなりに安全な方法で管理できると思います、許可に関してはこちらが申請と確認できるので」
「そうなんですか?」
「なんてたって書類処理の担当は私ですからね。いっそ自分で確認したほうが早いと思って来てるんですよ。ただまあ、そこそこのところに連絡しなければならないので適当なところ借りても?」
「ではここを自由に使ってください」
「いいんですか?」
「ええ、ここら辺は今日人が来ないので。色々時間が掛かると思って空けてるんですよねぇ」
「助かります。じゃあ、ここで作業しますね。書類はそこに置いといてください」
「分かりましたー!では、自分は色々連絡を入れてきますね」
依頼主は素早く倉庫を後にして、色々な場所に連絡を取りに行ったようだ。
ならばゼンヒも頼まれた分の仕事をしなければならないだろう。出先で歌いながらはできないが、それでも仕事をするには絶好の場所。
なにしろ桜満開の庭園を見ながらゆっくり仕事ができるのだ。廊下や軒下に入ってくる桜の花びらは言葉に表せないほど綺麗で、基本はファンタジーなんて程遠い生活をしているゼンヒの目を奪う地の奇跡という美を見せつける。
「頑張らないとな」
それを守るためにも仕事をしている、そう思えたゼンヒは俄然やる気が出てきた。
貸してもらったデスクは広く、取り出して広げたノートパソコンと書類を広げても余裕がある。
平和な安全作業は、警察にいると自分だけゆっくりできるという優越感を与えてくれるものだ。
小鳥囀るその部屋で、ゼンヒはゆっくりと作業を始める。
ただ、作業は少し多い。特に、状態の備考は特にテンプレートがない上キヴォトスじゃ滅多に書かない作業。
彼女の笑顔はすぐに消え、頭を悩ませるのであった。