シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-16:聞き込み調査

 警察による聞き込みにあったことはあるだろうか?

 

 何か犯罪があった、もしくはその兆候や不審な点があったときに警察がその近くで聞き込みをするというやつだ。

 

「あ、失礼します。お姉さん」

「うん?」

 

 今回は最近増えた薬物の売買に関する聞き込み。

 

 ゼンヒが巡査部長になってから逮捕者が続出した関係者、この前の売人の確保で一度収まった動きがまた活発化している。そもそもが巨大すぎる動き、組織もあることは警察も理解していたが、その尻尾を掴み追い詰めるまでには至ってない。

 

「私こういう者で、聞き込みをしたいのですが」

「勿論。正直にやることを言ってくれる警官は大好きだよ」

「ありがとうございます」

 

 深緑のジャケットに紺色のTシャツ、革ベルトにジーパン、そしてスニーカーというかなりカジュアルかつ目の色が蒼で髪はショート寄りだが左右の三つ編みを後ろでリボン状にしているというちょっとおしゃれをした少女。

 

 腰にはあまりに大きいハンドガンが二つ。

 

「あー、えっと……名前は言った方が良いかな?」

「お願いします」

「私はシャルアー・ドーンって言うんだ」

「この街じゃ全然聞かない名前だ……一体どちらから?」

「アビドスの砂漠のもっと向こうにある田舎からやって来たんだ。ただまあ、あまり社会インフラも整って無かったのでね。名前はここら辺に住むようになって初めて付いたんだが、折角だからとこんな広大なキヴォトスのさらに外にある外国と呼ばれる場所の名前を取ってみようと思ってね。案外通ったんだ、面白いこともあるものだと思ったよ」

「なるほど」

「百鬼夜行にはフィーナだったかな?そういう名前の子も居るからって言うので通ったんだよ」

「へえ、それはまた」

 

 世間話を続けている上にその内容で特に怪しいものはない、ならば本題に入らなければ。

 

「で、聞きたいこととは?」

「ああそうそう、今私達は薬物に関する情報を追っている最中でしてね。何でもいいのですが、とりあえず不審な人物を見かけたりしたら教えてもらいたいんですよ」

「例えば?」

「これは私が出会った例ですが」

 

 説明をし始めるゼンヒ。

 

 挙動不審な人物、周囲の気温と服装と合致しない程の軽装、全体的に息が荒い人物……とりあえずは末端のユーザーらしい特徴や、何か大きめのものを抱えて周囲を警戒するような人間はいないかとかを聞いた。炙り出した人物のその傾向や行動から掴もうと言う算段だ。

 

「なるほどそう言う人物かあ。ちょっと待ってね、思い出す時間をもらっても?」

「心当たりが?」

「昨日の連邦生徒会前駅でね」

 

 聞き込みに応じた少女は話を続ける。

 

「売人ぽかったんだよな。そうそう、いかにも系な見た目してたよ。黒いサングラスにマスクしてたんだよな」

「そうなのか?」

「ああ。いつもだったら見逃すかもしれないが、黒いセーラー服を着てたから目を引いてたんだ。それだけならまああ花粉症対策だろうし何も言わないが、結構周りを見てたんだよな」

 

 どうやら彼女はゼンヒが捕まえたやつの仲間らしい存在とエンカウントしていたらしい。

 

「んで、まあそれに関しては確証が持てなかったし一人でついていって酷い目に遭うのも勘弁だから警察に言えないしで困ってた。それが今言えるようになって、嬉しく思うよ」

「ええ、そう言ったことにも対処するのが警察です。情報提供ありがとうございます」

 

 早速ゼンヒは情報をゲットした。

 

「にしても警察さんも大変だ。そんな輩のために、こんな作業をさせられるなんて」

「それで平和が守れて給料も貰えるなら安いものです。社会競争から守られてる面も否定はできませんからね」

「なるほどね。しかし、薬物の売買が活性化してるとは難儀だな都会というのは」

 

 近頃は『あなたの力を解放する』なんて売り文句がネットで蔓延っている。

 

 当然警察のネット対策課はそれに警告したりするのだが、流石にSNSだけで追っても追いきれない。困った状況にあるが、それでも仕事はしなければならないのでこうして地道だが追っているのだ。

 

「なるほど」

「当然我々は、誰一人として同じ人間がいない特別な存在です。その優劣は社会によってつけられても、換えは効かない。なぜなら当人の才能は量産できないから。その数の増減は社会に影響を与えるし、それが何より生きてる証拠です。それを薬によって破壊してしまうことの恐ろしさは、治安を守る仕事を請け負った人間として広めないといけませんし、魔の手が来るならば阻むのが私の仕事ですからね」

「殊勝なことだね。そう思うには、何かきっかけが?」

「きっかけ、というほどではないですけど」

 

 ゼンヒは話を続ける。

 

 まず生徒の扱いの格差について話す。先生と関わった生徒は必ず何かしらの大事件に巻き込まれるが、その分先生の指示や力によって成功に導かれ、自分の功績や能力の向上や繋がりというその恩恵を継続的に維持できる機能を手に入れる。当然先生は一人しかいないが、シャーレは基本連邦生徒会の直下組織、自然と各学園の上の人間と関わることが多い。そうでない場合、偶然出会うか何かしらのきっかけという偶然で同様のものが得られる。

 

 それは特権と言って差し支えないものだった。なんとかして先生を振り向かせようとする奴もいるが、どうしても学園の運営責任を担う各学園の生徒会やその周辺に先生は集中せざるを得ない。キヴォトスの各学園のサポートが彼の仕事であり、彼自身は真摯に仕事に向き合いしっかりと功績を立てている。そこに下心_____たまにセクハラしてるようだが、それでもやるべきことを基本果たしてるので彼は誠実で能力ある人間、少なくとも結果が確定するまでは直向きに頑張る良き男であることには違いない。

 

 ただしこの善意が圧倒的な溝を生み出す側面もあるのは事実。彼が仕事をすればするほど、シャーレの先生、大人の力の使う先が傾向化していき、それが増えても減ることはないにしろ、比喩ですらなく明日の生き方さえ悩む者たちに振るわれることは滅多にない。

 

 つまりシャーレがあるかぎり、先生に見捨てられたという概念と神秘という能力の有無などが顕在化し、それが格差であり、差別のレンズとなることは避けられない。

 

 そしてその劣等感は、今薬物を売る連中の追い風になっている。

 

 それは良くも悪くも先生、という個人に対する崇拝の結果であり、その周りを囲むのが仕事上立場が上か、その立場の生徒と同程度の政治的影響力のある存在で固まっているのが実情。先生そのものはそのつもりはなく、いろんな人間に声をかけてはいるのは知られてはいるものの、その個人の功績はあまりにも大きすぎた。大人ができることは思春期から見れば特権、それを自分に対する利益に使われたという事実は他人の羨望や嫉妬の対象であり、そうでない者は特権階級に見そめられたと言い差別して、迫害することでなんとか生きることを肯定できる最低限の活力を得る。

 

 ただでさえホームレスや貧困者はそのままになっていることが多いキヴォトスなのに、先生が来てからもそこは改善されたとは言いにくい現在では、特にそう言った層を中心として薬による自身の体の制限解放をしてしまうことでなんとかしてアピールできる要素を作り上げて先生の特権を振るわれることを望むという動きが流行。ゼンヒはカンナにそのようなことがあるとは言ってるが、カンナはそれを黙殺。本人に訊かれたらとんでもないので仕方がないが。

 

 薬物は"神秘を解放し能力を得るため"の手段である。それさえ手に入れば、先生を動かすだけの影響力と魅力が出来る。生まれつき優位に立てた人間を脅かせるだけの力が手に入る。そう嘯いて、売っているのだ。

 

 だが、それらは現実と同様幻覚と快楽による嘘。知っていても抗えない、抗う苦痛よりそれを見て死んでしまいたい人間が買う。それで潤ったらまた設備投資して売る。というスパイラルが続いているのを、シャルアーという少女に話した。

 

「随分と壮大な話だ。しかし、根拠がない話でもないね。実際ここに来てからかなり無気力なホームレスがいるもので、それを見てると心が傷む」

「そう言った人間は警察は基本救えない、だけど増やしてしまう前に止めることはできる。そのための規範として警察がいます」

「なるほど______いや、感心したよ」

 

 話し相手は納得したように頷いた。

 

 割と話し込んでいたのか、時間が経っているようだ。

 

「あ、結構時間をとってしまったようです。申し訳ない」

「大丈夫だ、警官さん。軽くでも背景説明があるだけで他の人に話すときの事情説明も出来るし、何より市民がそう言った防犯意識を高める行為に説得力が持てる。その意識がどれだけ大事か分かるはずだ」

「ええ」

「ああ、じゃあついでに一つお願いしても?こういう人間を見なかったか、というやつ」

 

 シャルアーは人探しの依頼をしたいらしい。

 

 写真がなくて困っているので口頭の説明になるが、という前置きした上でゼンヒに彼女は言う。

 

「天衣 セツカ、という少女を知ってる?」

「全く」

「深紅の髪して緑色の瞳をした少女がいる。基本はスーツか漢服か和服を着ている可愛い少女だ。ここ一年近く見てないからな、もし見かけたらシャルアーが探してたって言っておいてくれ」

「分かりました」

 

 ゼンヒがそのセツカなる少女のことをメモしたのを見てから、相手は挨拶する。

 

「じゃあ、これで」

「お付き合いありがとうございました。気をつけて」

 

 そう言って二人は別れた。

 

 面白い、というか不思議な少女に出会ったゼンヒは珍しいこともあるものだ、と思いながら別のところで聞き込みをしていた後輩ハクジツと合流。

 

「おーい!」

「あっ先輩」

 

 二人は近寄ってから会話する。

 

「何かありました?」

「連邦生徒会があるところで不審な人物を見かけた、っていうのを聞いたんだ。もしかしたら尻尾が掴めるかもしれないぞ」

「おお〜流石。じゃ、昼飯行きます?メールくらいは局長に出してた方が良いかもしれないですけど」

「飯屋に着いてからでいいさ、行こう!」

 

 飯屋に向かって歩き始める少女たち。

 

 桜並木がある都会の、何と美しいことか。

 

「最近ずっと丁寧語の先輩見れてるからなんか面白いですね」

「そうかぁ……?私は結構真面目に仕事してるぞこれでも」

「いつも堅物みたいじゃつまらないですから。それに、その時の先輩結構可愛いですよ?」

「可愛いって……まあ、褒め言葉と受け取っておくか」

 

 真昼、桜の花弁は俗人の肩に寄り添い、甘い香りは淫靡でもなく、ただ暖かさと春風の抱擁と共に皆を応援している。

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