シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-18-2:遺物佇むレストラン/守護霊という悪鬼

 ゼンヒから滲み出るように出てきた水晶の中のインクは、そのうちに一つの形になる。

 

 深紅の髪をし、漢服調の衣装で、目が翡翠色の少女。

 

「あ……!」

 

 彼女は笑顔になった。

 

 それはいつか、ゼンヒに加護をくれたという守護霊の姿だ。あの時よりもくっきり映って、ゼンヒの手のひらと重なるように手を置いて、話しかける。

 

『久しぶり、ゼンヒ』

「君は_____!」

『喜んでくれて嬉しいな。いつぶりかな、電車の時以来だね』

 

 なんて話をしている。

 

 守護霊や、そう言った存在も映るのか。なおさらビジネスになりそうな予感がするだろうマスターも、まだ唖然。他の客は興味津々で見ようとしているが、それでも彼女同士を見続けるのも失礼になりそうだと思いそれぞれ一人で食事を楽しんだり一緒に来た人物と楽しんだりしていた。

 

『この透明な檻の中、ちょっと窮屈だけど私が三割り増しで綺麗に見えるね?』

「そうだね。君がすごく、可愛く見える」

『うんうん。やっぱり、幽霊になるとこう、可愛さに磨きが掛かっちゃって。ところでこれ何?』

「わかんない。ほら、あの____なりたい自分を見れる装置、みたいでさ」

『きゃー!ゼンヒちゃん私になりたいの!?』

「会いたいとは思ってたけど、なりたいとは_____」

『そうだよねえ』

 

 深紅の守護霊は、周りを見る。

 

『ところでここ見たことあるような気がするんだけど』

「そうよあんた!そうそう!この子が言ったのよ!」

 

 マスターも彼女に近寄ってきた。

 

『あー、もしかしてここ木目に沿って上下するステージの!?』

「そうよ!いつあんた____死んだのよ!」

『それが覚えてないんだよねえ』

 

 困った困った、と言いながら少女は答える。

 

「二人とも知り合いだったんだ……なんだか嬉しいな」

「あんたにお礼言いたかったのよ」

『こちらこそ。だって、ほんとに再現してるとは思わなかったんだもんね』

「もー、ほんとに___でもこういうのも偶然ね」

『奇跡だよ』

 

 三人であれこれ楽しそうに話している。

 

 しかし、一人だけその中に入っていない奴が。

 

 

 

 

「う、ああ_____」

 

 瞳孔が開き切って、手足が震え、冷や汗を掻いているハクジツ。

 

 彼女はそれに見覚えがあった。ゼンヒを見て、嫌になってしまうようなこと。

 

 そもそも彼女は深紅の髪の人間が嫌いだと言っていたが、その正体が彼女である。ただ、その少女は今は何も語らず、ただ本性を知っているとしか思えない反応をしているハクジツを見て悪鬼のように微笑む。

 

 そして、水晶の中の少女は、彼女にだけは本性を表すように囁いている。

 

『私のこと知ってるんでしょ?』

 

 言葉が響くだけで怖くなって泣いてしまいそうになる彼女に、少女は畳み掛けるように話した。

 

『君には心底うんざりさせられちゃったな』

「い、あ……」

『まさか一緒に警察にいるとは思いもしなかったなぁ。警察に入って、恋人探すの楽しかった?』

 

 声が出ないが、心境は声よりも大きく揺れる。

 

(なんであいつが、あいつが先輩の中に……!)

 

『君を殺し損ねちゃったのはちょっと残念だった。もっと残念だったのは、君が死んだと思い込んで突撃してきた君の恋人と心中しちゃったこと。あの時の君は知る由は無いだろうけどね』

 

 ハクジツだけは、彼女が出て来てそっと首をなぞるように腕を回していたように見える。

 

(どうしようどうしようどうしよう先輩達が話しているのに邪魔したら……でもあの女は……!)

『うーん滑稽!ああそうだ、良いこと教えてあげる』

 

 深紅の髪の亡霊は言う。

 

『私が死んだ時、実は君の彼女と一体化した』

「な、に?」

『当然魂も二つ入っていることになるけど、そのうちの一個は当然私、もう一つは……誰だと思う?』

「し、知らない……聞きたくも無い……!」

 

 その答えは明白で、故にハクジツは避けた。彼女が

 

 視界も聴覚もぐちゃぐちゃのままのハクジツに、少女は畳み掛けた。

 

『扇皇ゼンヒの魂だよ。残念、君の恋人は消えちゃった。私が消した、のだけどね。つまり君が好きだった先輩はもう君が愛する価値のない女だというわけ。どう?そう思ったら憎たらしくなってこない?君と一緒に頑張っていた先輩が実は凶悪な犯罪者で、君が警察になって追いかけた恋人は実はその先輩のせいで死んでいた______悲しいね』

 

 悪辣に囁く少女は、ただ相手にストレスを与え続けるためだけにとんでもないことを言い出す。

 

『もう全部壊しちゃったら?』

「何言って______!」

『あの女の中には君の求める人はいなくて、君を不幸にした奴しかいない。なら殺してさっぱりしちゃわない?』

「先輩だって大切な」

『本当に?』

 

 少女の悪言は止まらない。

 

 非現実的な存在が、現実のものに強い影響を与えて狂わせる力を与えてしまうものだろう。その水晶は、悪鬼羅刹の悪言を

 

『殺してしまえばこの一年、私におちょくられた恨みを晴らせるんだよ?そして今、彼女は私の存在を知ってて黙っていたんだよ?滑稽だよねえ、でも君にとっては大事な話だよね?』

「嫌」

『このままだと君の恋人が浮かばれないよ?』

「嫌だ____」

『じゃあこのまま私を愛してね』

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 ハクジツの言葉にしようがない絶叫が響く。

 

 一瞬で周りは赤く染まり、水晶は砕け、その結果神秘に影響するであろう力は一瞬で広がって客を狂気に染め上げた。

 

「なんだ!?」

「何よ!」

 

 マスターとゼンヒは驚くが、そのうち後者は驚いて固まっている暇はない。

 

 自分の連れてきた後輩が発狂し、さらに武装を使って暴れ始めた。持っているのはマシンガンとレールガン。しかも狙っているのはゼンヒである。

 

「ハクジツやめろ!」

 

 そのいうことを聞きやしない。客も全員狂って暴れ出している。

 

「マスター!調理場からそのまま従業員出口に出て騒ぎを知らせてくれ!」

「あんたはどうするのよ!」

「急に狂い出した部下の対処をしなきゃならない!だけど私一人じゃ」

 

 乱射する弾は色々なものを破壊して、散らばらせる。そのうちにスパークリングワインのボトルが一つ割れて、弾けた炭酸と一緒にガラス片が三つゼンヒの手に刺さった。

 

「いっ!?」

「大丈夫!?」

「あんたらを死なせなければこんなもん!」

 

 警察としての職務を果たす、それがたとえ急に暴走した後輩であっても。

 

 その覚悟を改めて受け取ったマスターは、急いで調理場へと避難。

 

「絶対に死ぬんじゃないよ!」

「ああ!」

 

 そう言って二人は別れた。

 

 ゼンヒは自分の後輩の状態を見る。

 

 目は虚ろだが殺気を感じる、人間じゃない精神状態になったとしてもずっとこっちを捉えていて、撃ち切った銃のリロード方法も忘れ殴りかかってくるハクジツを捉えて避け続ける。

 

(どうしてだ!?ハクジツが急にあんなことになるなんて、一体何が!後ろで何かしらおかしい状態になってるとは思ってなかったが____くそッ!)

 

 相手のアサルトレールガンが壁も地面も柱も抉って、その勢いでゼンヒを吹き飛ばす。流石にその勢いを放たれ続けてゼンヒも拳銃での牽制などができずに避けることで精一杯。

 

 エネルギーが残ってる限りはレーザーとして放てるのが今のハクジツにとっては最適らしい。

 

「落ち着けハクジツ!私は味方だ!扇皇ゼンヒ!私はお前の仲間だよ!」

 

 落ちている割れたワインのボトルを持ち上げては、それでゼンヒを刺そうとする。流石にそれは拳銃で撃つことで無効化させてから、また避ける。

 

 一向に落ち着きを失ったままのハクジツはレールガンが切れるとそれを捨て、散らばったテーブルの上にあったナイフを二本取った。確実に刺して殺す気らしい。

 

「おいおい冗談じゃない!」

 

 銃を投げ捨て手軽な刃物二本で襲いかかるのは、ゼンヒのように防具がない上にまともな武器がない奴には有効だ。銃を持っている人間も勿論怖いが、刃物を持って急に襲いかかってくる人間の方がもっと恐ろしい。

 

 銃弾で弾き飛ばすなんて器用なことが出来ないゼンヒはそのまま突進、弾き飛ばして手からナイフを離すように仕向けようとするが____

 

 相手がそれを超える速度でタックルをかましてきた。

 

「ぐっ!?」

 

 あの遺物の影響か何か、勢いと力が増して思い切り彼女は吹き飛んだ。吹き飛んだ先の荒れた壁に激突して、そのまま抉れた木材などが背中に刺さってしまう。

 

「があっ!」

 

 もうまともに人間らしい悲鳴も上げれないゼンヒは、骨折こそしてないが自分の部下の大狂乱とその攻撃が着実に自分を削り取ろうとしている恐怖で、あの情けないミメシスと退治した時よりも追い詰められている実感があった。そんな彼女に容赦なく、逆手に握ったナイフが振り下ろされる。

 

 それを抑えようとして腕を使って手首を抑えるが、ナイフが段々とゼンヒの額へと迫る。

 

「ハクジツ……!」

 

 そんな呼びかけも虚しく、今度はもう片方の腕で突き刺そうとするハクジツ。

 

 まともに刺さるわけではないが、腕を掴もうとしてタイミングをミスしてしまい、ゼンヒは刃の部分を握ってしまう。鋭さで段々と指の間を抜けていくナイフの刃。

 

 あまりの痛さにうめき続け、挙句流れた血のせいで握る力、摩擦が失われると同時に自分の死が近づいてきているのがわかってしまう。それが怖くて仕方ないが、それでも相手は止まらない。

 

(まずい、このままだと本当に死ぬ!あの時みたいに解決策がない、ただ倒せばいいってもんでもない!だけどもう耐えられない!)

 

 力が段々抜けつつある。火事場の馬鹿力、というのも流石に抜けてきたようだ。

 

 ゼンヒはどうして彼女が狂ったか知る由はない。短すぎる邂逅は彼女を自分の後輩に目をくれる時間さえ与えずに、一気に彼女を狂わした。それを察することも感じることもない。なぜならゼンヒにとってその少女は自分を支えてくれた存在だったから。

 

 しかしハクジツにとってはそうではなかった。それだけのことを、ゼンヒは知らない。知らないからどうも声をかけようがなく、また声が出てもそれが相手に届くことはない。

 

(だめ、だ。このままじゃ______)

 

 流石に力が抜け、一気に彼女の腑に死の刃が迫る。

 

 これ以上はあらがえない。

 

「目を瞑れ!ゼンヒ!」

 

 諦めかけた、その時だ。

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