ゼンヒは目を閉じた。
その瞬間、一瞬で金属が弾ける音が響いては彼女に向かっていた力が全て抜けていくのを感じる。
腕の痛みと流血が多く力が段々と入らずにへたり込むゼンヒ。
「……お前らは」
若干視界がぼやけてるなかで、そして殴り合いが勃発してるくらいには騒がしいその向こうには二人の影がある。
片方はシャルアー、いつか聞き込みの時に出会ったおかしな少女。そしてもう一人は、アビドスでタクシーをやってる少女だ。
銃を撃ったのはシャルアーの方、彼女の持った銃の先は硝煙が漂っていた。ナイフの刃が下に落ちているがガラスのように割れている。
「すまない運転手さん。こんなことに巻き込んでしまって」
「大丈夫、こうして間に合ったから。けどこれ……うへえ」
「邪魔にならないように周辺で暴れてる奴は私が何とかする。運転手さんはゼンヒを襲ってるやつを頼んでも良いかな?」
「まあ、あの程度なら大丈夫じゃないかな。任せて」
暴走したハクジツはタクシーの運転手の方を見る。盾を構え、リボルバーを持っている運転手の少女はそのまま突入を開始。それと同時にシャルアーはそのまま飛んでいって、暴れてる乗客を一人一人殴りに行った。
「うーん怖いね、銃を捨てて刃物を持っているのは盾を持っててもちょっと嫌だなあ」
「何やって____」
「黙ってて。どのみち君を助け出さないといけないから」
ハクジツはゼンヒを殺そうとしているが、邪魔がいる限りは出来ないと、人の要領を保てないままに理解していた。ならば、と水色の髪を揺らした少女に向かって余っているナイフや瓶を拾ってから突撃。どうやら投げたり撃ったりより、ただ自分の手でしっかり誅戮し尽くしたいらしい。
しかし運転手の少女はそれを回避し続ける。
「こっちだよこっち」
盾を使って小突いたり、そのまま押し出したりすることで拮抗し、相手を押し崩そうとする少女。
流石に何かしらの強化を得たハクジツはその程度では崩れないものの、少女の反応速度並びに戦い方には歴然の差がある。それだけ運転手の少女はすごいということだが、盾一つでこれだけいなすには相応の経験がある。それが何かはここにいる人間誰一人として知る由はない。
守護霊を名乗る者は一切姿を表してはいないが、ハクジツの邪魔があるとわかるとそっちへ段々意識が向き始めているようだ。それはシャルアーが処理する。
「あんまり怒ってくれるなよ!」
彼女が持っている拳銃は55口径の大型拳銃。それも自動拳銃だ。
ただそれよりも、戦い方が目を引く。
乱射しているようで精密射撃、銃弾を四方八方にばら撒いているが跳弾がそのまま相手の武器や手を弾き飛ばす。何よりも面白いのは跳弾でスプーンを上に弾いてから、浮いたそれを別の弾を当てることで任意の方向に飛ばすという曲芸と言わざるを得ない技術を実践で、慣れているかのようにやっていく。スプーンとはいえ高速で当たると目眩を起こすのか、そのまま気絶してしまう奴が絶えない。
「くっそ、もっと早く来ていればこんなことにはならなかったのに!」
「うーんお客さん、私の方もちょっとは労って欲しいな!」
「捌けているんなら問題ないさ!」
「ひぃん」
なんて軽口を叩き合う。
ゼンヒは苦痛にうめき、それを見ているしかないが助かるという確信はあった。
運転手の少女の動きは早い。
ハクジツの動きに鈍さはまだ見えないが、少なくともゼンヒを先に相手したのか疲労の兆候が見え始めている。行動そのものは常に粗暴ではあるものの、その動きには揺れが見え始めた。俗にいうキレのない状態になりつつある。
ただ動きそのものは速いため、盾を構えて攻撃をする、つまりリボルバーを撃つ動作をカットしてひたすら防御に徹する。真っ向から戦ったら消耗してしまうため避ける動作を入れて。
「こういう熱烈な攻撃は嬉しいけど、あんまり激しすぎると困るなあ」
「ヘイタクシー!今どんな感じ!?」
「まあまあ!でも解決の兆候は見えて来た!」
ハクジツの攻撃は苛烈であったが、段々ただ殴る蹴るに終始している上疲れが出て来たのか距離感を誤っている。
そもそも警察はそういったインファイトをあまり学ばない、柔道や空手と言ったものは習うがそう言った戦いとは離れすぎた動作をしているせいかハクジツの動きは粗雑で隙だらけ。
ゼンヒに攻撃する分には精神攻撃と奇襲という点でとんでも無いアドバンテージがあり体力も十分にあると言う点で終始有利だった。それを経て、彼女は弱りつつある。
「ほいっ、よっ!」
途中悲鳴を上げながらも、持っている盾は折り畳み機能があるので畳むのと展開を繰り返しながら近距離のレンジを変更させて不規則に回避と防御を繰り返して相手を疲弊させる運転手の少女。
その腕は見事なもの。急に振っている盾が軽くなった勢いで相手の攻撃を弾くことで、そのまま相手の手を広げさせて胴体をガラ空きにすることに成功。
「ごめんね!」
そう言いながら、盾で鳩尾を殴る少女。悲鳴を上げれないからか呻くハクジツ。
この一撃は相当の重さのようだ。少女の盾は嵩んで殴打一つが相当なダメージになっている。腹を抑えて動きが鈍っている彼女に向かって、少女はもう一発、今度は素手で殴り飛ばす。
流石にこのダメージを喰らってはいくら警察とはいえどたまったものではない。この盾の少女の正体を知っているなら尚更だ。グロッキーと呼ばれる状態になりながらも、もう一度攻撃しようとした。
「もう一発!」
ただそれをそのままもらう少女ではない。
飛びかかる、という攻撃の選択をしたハクジツに向かってハイキックをすることによって、彼女の顔に攻撃を当てて脳を揺らすことで気絶させた。
一連の動作の洗練度は、その少女の方が上だった。世の中では、一人でも強いというのが存在する例である。
そしてそれは、暴徒と戦っていた存在も同様。
銃弾を上手いこと飛ばし続けることによって相手の神経を叩くような銃撃でぶっ倒し続ける姿は凛々しい。
その芸も周りに暴れられるような人間がいなくなってから、銃弾の当たる金属音が消えるのを合図に終了した。
「ゼンヒ!」
「ゼンヒちゃん!」
気絶したハクジツをテーブルクロスで包んで一度放置してから、運転手の少女とシャルアーはゼンヒに近寄る。
ゼンヒは守護霊なるものの急速回復によって皮膚の傷などを塞ぎ、刺さったものを全部放出してから治すというとんでもない治癒があったが精神的動揺と急激な出血と回復によって体そのものが乱れて、まともに立てないでいる。
落ち着いたのを確認して、ゼンヒは助けに来てくれた二人に話しかけた。
「一体……どうしてここに?まさか私の後を追ってきたとかじゃないだろうな?」
「そのまさかだ。アビドスに用事があったからってタクシーの運転手に話しかけたら、ここに水晶が運ばれたなんて噂を聞いてな。タクシーの運転手……ユメに話したらそういうのは危ないんじゃないかって話をしてな。そうしたら私も少し不安になってここまで飛ばしてもらったというわけだ。嫌な予感はビンゴ、そのままこの乱闘騒ぎに乗じたが____あの少女は一体どうしたんだい?随分とゼンヒを狙ってたけど」
「あの少女は私の後輩だ______ふぅ、は、あの……ハクジツって言うんだが。あの装置を調べるときに一人だと何かあるかもしれないと思って連れてきたんだが、結果的にあの状態になってしまった。くそ、私一人で止められないなんて」
「失うものがない、そう思えた人間は恐ろしい。警察だってそうだ、仕方ない」
ゼンヒはとんでもない状態になっていた。
瞳の色は青色と翡翠色の半々になっていて、まるで精製に失敗した宝石のよう。髪の色はもはや薄紅色の部分がほぼない。毛先が少しだけ薄紅色だ。
「随分と派手にやられたね、と言う割には無傷だけど」
「霊の守護さ」
今はもう気絶して何も聞こえないハクジツがもしこれを聞いたら血の気が引くだろう。自分の嫌いな奴が、自分の敬愛する人間の守護をしているなんて身の毛が立つようなものじゃないか。
そんな話をしていると、さらに扉が開いて更なる人間がやってきた。
「リーダー!」
「あっちゃー!?」
特暴課の二人である。
「おお、新たな客だね」
「客じゃないよ!アタシらはリーダーの____えっと、扇皇ゼンヒの部下!」
「というと特別暴力対策課か」
「あなたは?」
「私はシャルアー・ドーン。こっちの運転手が」
「ユメだよ〜」
「そうでしたか。お二人が発見したのですか?」
「いや___止めてくれたんだ、ハクジツが」
ゼンヒが口をひらく。
「リーダー!?無事ですか!」
「まあな。脳震盪起こしてはいたが、平気だ」
「無茶言わないでください!そんな血を流して!」
ユリはゼンヒの出血跡が残るジャケットなどを見て言うが、それでも傷は見つからない。しかし彼女はまず自分の上司の安全確保や状態の確認を優先、まるでゼンヒの異常さには気づかないでいる。
しかしマテバガールは疑問に思っている。周りに怪我人はいても遠く、近くにはハクジツのみ。ジャケットはおそらくナイフで斬られた跡があり、なのに素肌は全くと言っていいほど無傷。
(アビドスから持ってこられたという遺物の効果か?傷が全くない____だが、にしては周りでくたばっている人間はだいぶ傷ついたままだが。それとも触ったから彼女らに反応したのか?随分と変なものに巻き込まれたものだ、リーダーも)
ただ具体的な証拠もない。彼女らがちゃんと話せる状態になってから、ことの仔細を明らかにするしかないだろう。
サイレンの音がレストランの中にも響いてくる。マテバガールは、ゼンヒに話しかけた。
「とりあえずリーダー、回収班を用意しているので乗ってください。なあに救急車ですよ、怯えることはないです」
「そうか_____」
「ほら、肩を貸しますから」
彼女の肩を借りて立ち上がるゼンヒ。
ゆっくりと歩く彼女はそのままパトカーに囲まれた救急車に乗って、そのまま横たわる。彼女を助けてくれた二人も、一緒に乗るようだ。
急な事件、それも彼女の後輩の暴走。
誰も彼女たちの、ゼンヒとハクジツの間にある真実にまだ気づかない。