シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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Case5:トリニティ領地での襲撃事件

 その日、ゼンヒはトリニティ領地へと来ていた。

 

 この前の事故の説明をするためにお嬢様学校へと足を踏み込んで、責任者などに説明をする。

 

『つまり、あなたの対処が正しかったと?』

『彼女は仕事をした上で年数の経っていた車での不慮な事故に見舞われた、そう判断しました。事実被害はあの一台のみですし』

『そうですか……ありがとうございます。では、今回の件は事故として処理しますね』

『いやあ厳しいものですな』

『この学園のしきたりは、歴史と共に複雑化しました。お手数をおかけして申し訳ありませんが、このようなことでもしっかり話さなければならないのです』

『不躾なことを言いました、すみません』

 

 ____そんなことをした帰り。

 

 上品なカフェに足を運んだ彼女は、バタールを真っ二つにしてレタスとエビやブリ、鯛のような海鮮に辛めのソースとマスタードを掛けて作ったその店独特のサンドイッチをいただいている。

 

 時間は遅めだったのか、客は彼女以外には少ない。おまけにゼンヒ以外は友人がいるという悲しい状況を見かねてか、店主が話しかけてきた。

 

 それを嫌わないゼンヒは、会話に花を咲かせた。

 

「へぇ、ヴァルキューレの所属なんですの?」

「ああ。シャーレの近くの交番に勤務しているよ」

「まあ!ならかなり給料は良いのでは」

「他の交番と比べればかなり良いのは間違いない。仕事は変わらないが」

「え?」

 

 彼女は説明していた。

 

 先生自体が『シャーレは中立を保たないといけないのが絶対条件だから警護は付けたくない』と言う要望があり、その結果シャーレ付近の住人を守ったり監視したりするという名目でシャーレ付近に交番ができた経緯がある。

 

 しかし、その先生だけに注力するといけないので結果新たな交番が出来ただけ、作業内容は増えたわけでもない。そしてシャーレ前は余程のバカ以外は犯罪を起こさないので結果対処すべき案件が少なく、結果的に他の地域と比べて楽になった。

 

「だから勤務地的にはアタリなんだ。結局シャーレは大事、って面でも考えれば優秀の場合尚更外したくないだろうしな」

「言い切れるんですの?」

「仮にまたカヤのような人間が出てきたとしよう、先生を守るのが何よりも大事なやつをわざわざ敵に回すのは正直考えにくい。懐柔しに来るだろう。そう言う意味でも、勤務地としては安泰と言わざるを得ないだろう。社会情勢は置いといて、だ」

 

 先生が二度も手こずるとは考えていないゼンヒは、楽観的な考えを示す。

 

 彼女は口についたソースをハンカチでぬぐいながら食べ続けた。

 

「にしてもこのサンドイッチ美味いな、ぜひ近所に欲しいものだ」

「気に入ってくれましたか?うふふ、嬉しい限りです」

 

 背も170cmあって胸も尻も大きめの店長は、金色で軽いパーマが入った長髪と、生えている四つの羽を揺らしながら答える。

 

「実は今度、こちらの監修という名目でエンジェル24で期間限定発売するんですよ」

「本当か?」

「もちろんです。ただ一応試作品も味見してみましたが、やはり本家には劣りますね。パンのパサつき具合、それに鮮度の落ちやすさ……技術は上がってきていますが、生魚の鮮度を保つ方法はまだ確立されてないようです」

「それに大量生産するってことはそれなりに入れるってことだからな……仕方ないか」

「しかしうちの味はそれに劣らないのは事実で、寧ろ手軽に食べていただくチャンスと捉えました。それにこれでもっと金が集まれば2号店も出店できる可能性も出てきます。それを狙っておりますから」

「頑張ってください」

 

 そんな名物のサンドイッチも残り三割となった時だ。

 

 酷く大きく、鈍い車の音がする。スキール音すら高音でもないそれが、彼女の耳に届いた。

 

「あ?」

 

 道路の方を向くと、割と使い古されたような鈍く光る灰色の車が止まっている。

 

 その中は車のガラスのせいではっきりとは見えなかったが、少なくとも周りの車と合わせて異質。

 

「ああいう車ってのはご近所でよく見るのか?」

「いいえ。トリニティは景観を大事にしますから、少なくともああいうタイプの車は領地では販売されていませんよ」

「じゃあ余所者か」

 

 残ってる分の半分のサンドイッチを食べてから、ゼンヒは店長に話しかける。

 

「すまない店長、銃があったら貸してもらえるか?」

「警察でしょう?持ってないのですか」

「まだヴァルキューレでは武器の拡張が不十分でね。私もシャーレ前という勤務地なものだから武器の補充は後回しになってるんだ」

「なんとまあ見窄らしい____」

「咳までして誤魔化すぐらいはしてくれると助かるんだが」

 

 あらまあごめんなさい、おほほと店長は笑って誤魔化した。

 

「そういえばシャーレ近くのコンビニで不良を捕まえた刑事がいるそうですね」

「ああそれ私」

「知っていますわよ。ほら、サービスしちゃいます」

 

 目の前のカウンターには、銃器がたくさん乗ったトレイが。さながら洋画仕様。

 

「あ〜そういうの憧れちゃうタイプ?」

「ロマン無きものに生きる資格はありませんわ」

「じゃあこのなんかデカい自動拳銃と〜これをもらおう」

 

 PDW用のマガジンを使う拳銃とかなり大きい.50BMG弾を使うアサルトライフルを持って、ゼンヒは店を出る。彼女が出た後で店長はトリニティの正義実現委員会の方へ連絡、事件の始まりだ。

 

 晴れた道に出た彼女はまず、店の中に入っていく武装集団を確認。ちゃんと防弾ベストも着ているようだ。まともな銃撃戦は期待しない方がいいらしい。

 

「それじゃまず足を潰すか」

 

 そう言って拳銃の方をポケットに引っ掛けて、ゼンヒは大きいアサルトライフルを抱えて相手が乗ってきた車に撃った。

 

 タイヤは破裂、ボンネットの内部にも貫通、キヴォトスの車とはいえ普通にガラスも経年劣化していたのかそのまま割れた。車の内部は悲惨だし、ガラス片を尻に敷いた痛みを我慢してもそれで逃げることはできないだろう。車のタンクからもオイル漏れしていて使い物にならなくなった。

 

 車に近寄ると、割れたガラス片が散らばっている。

 

「貰っていくか」

 

 そう言ってアサルトライフルを車に立て掛けてから、ガラス片を四つ手に入れた。三つは広く鋭いもので、一つだけ鋭く細長いもの。

 

 50BMG弾を連射するという小銃の馬鹿げた銃声はその武装集団にも聞こえているのだろう。店の奥にいたやつは急いで車に戻ろうとするがそれを牽制するように彼女はまだ持っていた残りのサンドイッチを口に入れてからポケットにしまっていた拳銃を取り出して連射する。

 

 目潰しと足止め、そして窓ガラスを割ることで互いの間の障害物を排除する。相手の方も抵抗しようとするが、いきなりの出来事だったため慌てて退避することしかできない。

 

「そろそろか」

 

 拳銃の弾を撃ち切るとその場で投げ捨てガラス片を持つ。

 

 銃声が止んだなら当然相手も反撃に出てくる。タンスの奥から顔を出して撃ち始めたが、ゼンヒは動じない。

 

「なんだお前!?」

「クソっ、もう嗅ぎつけたか!」

 

 相手は計画が露呈していたのか、と驚いているようだがそんなことはない。彼女はそのまま銃弾をものともせず、ガラス片をサイドスローで投げた。

 

「痛い!」

「きゃっ!?」

 

 刃物で怪我するように刺さって、その痛みで二人ダウン。深く刺さっていたのか、それが原因で苦しむだけにとどまる。

 

 当然二人だけではない。車いっぱいにいたなら後二人か三人はいるだろう。

 

「もう一人はカウンターか」

 

 そう言うと、銃を構えたもう一人がカウンターから出てくる。

 

「やっぱりな」

 

 今度は細長いガラス片を、オーバースローで相手へ投げた。細長く、素早く飛んでくる物体を撃ち落とすのは至難の業。キヴォトス人のフィジカルで投げようものならプロリーガーに近い速度でのスローになるだろう。

 

 その結果、銃弾が来る前にもう一人のやつの右腕をなぞるように割いていった。その痛みは計り知れない。

 

「ガアアアアアアアッ!?」

 

 銃を落としてまで右腕を押さえその場でうずくまり、身動きが取れなくなってしまった。

 

 銃弾では怪我を負わせることもできない、しかし刃物や事故での出血はありうる。どう言う理屈かは置いといて、それを利用した攻撃で防弾ベストで守られていない腕の出血を狙って成功させたのである。

 

「大丈夫ですの〜!?」

 

 ある程度事態は治まるであろうと思っていた店長が、渡し損ねていたマガジンと車に立てかけておいたアサルトライフルと共にやってきた。

 

「私は怪我してないよ、他は怪我してるけど」

「あらそれは良かった。しかし、こちらの店主さんは?」

「店の奥に入らないとわからないな」

「そう言うと思って、ほら」

 

 PDW用のマガジンを渡されて、投げ捨てた拳銃を拾ってからゼンヒはリロード。

 

「ほら、出ておいでなさいドブネズミ。ヴァルキューレの警察さんもこれ以上抵抗しないなら怪我させるつもりは無いと言っていますのよ」

「はっ、そうかい!」

 

 店の奥から声がした。

 

 店主のロボットが首絞められながら、武装した不良に拳銃を突きつけられている。

 

「あらほんとにドブネズミみたいね。汚え」

「口荒くなってない店長?」

「あらやだ、おほほ」

 

 しかし銃は向けたまま。

 

「折角人の建てた計画を台無しにしやがって。この紅茶専門店は重大な遺産を持ってんだ!コレが公表されればトリニティの信用は地に落ちるってものがなあ!」

「アリウスの件で酷評されてますしティーパーティーは一人除いて無様なことになっていて何が地に落ちるですか!」

 

 警告もせず、50BMG弾を店長はぶっ放した。

 

 その結果不良が持っていた銃は破壊され地面に落ちる。反動にすら耐えかねるほどの弱さを、彼女は嘲笑った。

 

「お〜ほっほっほ、雑魚ですわ」

「くそっ!ならこいつだ!」

 

 今度はナイフを取り出した。

 

 無論、ゼンヒがやったようにすれば傷は付くだろう。しかし相手はロボットの店主、頑張って人の心を持って歴史に寄り添ってきたは良いが肉体的には鋼鉄。

 

「ああ言うのって愚かって言いますの。お分かり?」

「そりゃあそうだ」

「では」

 

 もう一度店長はぶっ放した。カフェの店長とは、こんな武力行使するものかは不明である。

 

 ナイフも面で強い力を喰らってしまい柄まで粉々。使い物にならなくなった。

 

「良い加減諦めなさい、これ以上抵抗しても無駄ですわよ」

「この店長さんの言う通りだ。やめろ」

「ふざけんなよ!コレから歴史を動かす大事件って時に」

 

 ____実際、ゼンヒと店長の言う通り話は終わっていた。

 

 店長は事前に正義実現委員会へ連絡をしており、その後しばらくはゼンヒが戦っていた。そして今の問答がある。正直なところ、領地の自治体が到着が遅れることは道路状態等の不備が無ければ基本素早く到着する。

 

 後もう一つ言えば、店には当然従業員入り口がある。そこを無理やり開ければ、カウンターの裏から侵入することも可能だ。

 

 ゼンヒや店長は真正面からぶつかり、戦果を上げていた。つまり相手もそちらに注力するしかなく、裏側を気にする余裕もない。

 

 つまり。

 

「わー!」

「正義実現委員会だー!」

「おらおらー!」

「大人しく捕まれー!」

 

 正義実現委員会による終わりを迎えることになる。

 

 目隠れに可愛いフェイス、その上体格も小柄だが訓練された正義実現委員会の生徒達が一斉に雪崩れ込んで四人の不良を逮捕。この事件は、それを持って完了した。

 

「ま、あそこまでお膳立てしたんだ。解決してくれないと困るな」

「全く……手が掛かる馬鹿どもでしたわ」

「なんと口の悪い。あ、そうだ」

 

 彼女は空のマガジンと一緒に借りた拳銃を店長に返した。

 

「これありがとう、お陰で助かったよ」

「こちらこそお役に立てて光栄ですわ」

 

 二人は笑い合ってから、お別れの挨拶を言う。

 

「じゃ私はこれで失礼するよ。やるべきことも果たしたからな」

「ええ。お気をつけて、また来た時には寄ってくださいまし」

「勿論。じゃ」

 

 そう言ってゼンヒは歩き出す。

 

 しかし、彼女は目の前に出てきた大きめの黒い影のせいで歩き出した途端に足を止めることに。

 

「失礼します」

 

 そう言ってゼンヒは上を見ると、大きめの少女がいた。

 

「私は正義実現委員会、羽川ハスミと申します」

「ああ、はじめまして。ヴァルキューレの扇皇ゼンヒと言います」

「別れの言葉を仰った直後で申し訳ありませんが、あの方と一緒にご同行願えますか?」

 

 当然の話だ。

 

 いくら真っ当な働きをしたとは言え、そこは学園の領地であり自治体が居る。細かい報告をしないまま出ていったら、関係が悪化しかねない。幸いなことに正しいことをしたと言ってくれる人間は居るし、そうでなくてもこれに従わないことで得られるメリットなど何もない。

 

「……はい」

 

 いつもの強気はどこへやら。

 

 借りてきた猫のように、ゼンヒはハスミについて行くことになった。

 

「あらあら」

 

 カフェの店長も、4枚羽を揺らして可愛く縮こまってしまったゼンヒに微笑んでいる。

 

 この日、彼女は下手したら表彰式やその後のインタビューよりも精神的負担があるだろう事情聴取を受けた。当然被害を抑えたので賠償の話などは一切なかったが______

 

 ゼンヒは、しばらく正義実現委員会を見ると身体が硬直するくらい怖がるようになったのであった。

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