相手は戦うことを選んだ、ショウコはそう取った。
今こそまだ不利なことには変わりないが、少なくとも相手を倒せばゼンヒは救出できる。そう思ってのことだ。
「やれる!」
相手がこういった大型の生き物だった場合、基本射撃というのは通りやすい。
彼女は急いで合図して、伏せている味方に一斉射撃するように合図を送った。すると間髪なくそのまま射撃が狼に向かって発射される。
流石にこう言った手合いにそれだけで大きなダメージを与えることはできないのだが、爆発と無数の弾丸は多大なノックバック、ストッピングパワーを発生させる。それで動きを止め続け、射撃に間隔を作らないようにして攻撃を続けた。
しかし相手もなかなか手強い。まあ、アリウス過激派が持っていた兵器を自前で用意できるような連中なら当然のことではあるが。そのまま相手は地面を数回足で叩いて揺らすと、その振動が地面から色々な場所に伝わって揺れる。
「くそっ!」
「わっ!」
味方の射線が一気にバラバラになって、そのまま相手側に余裕ができてしまう。
そうなると狼は急いで自分の敵を減らすべくさっき割ったコンクリートの地面の一部をそのまま車や人がある方へと殴りとばす。
「避けろ!」
ショウコがそういう間に、伏せていた特暴課のメンバーはそのまま着弾地点からすっ飛んでいく。その直後にとてつもない轟音が響くと、遮蔽に使っていた車が壊れて爆発炎上。
「大丈夫か!?」
「大丈夫だよショウコ!早く攻撃を!」
「わかってる!」
流石に愛銃マテバリボルバーではどうしようもない。そのまま走って近くに転がっているロケットランチャーを取り出して相手に撃つ。
当然それには気づく、ショウコに向かって飛びかかろうとする狼だが彼女はそれを横に飛んで回避。
それでも巨体が動く風圧は相当なもの。思い切り吹き飛ばされて、ビルの壁に激突。ロケットランチャーは一発しかなかったため使ったあとすぐに投げたのが幸いした。
「どうやらあんまり余裕をくれないらしいね!」
しかしショウコが目線を逸らしたおかげで無事だった仲間はさらに援護射撃。相手の動きは勢いをつけなければ早く動けないのが幸いして、足を狙い続けることにした。
岩を投げられたメンバーはショウコにキヴォトス人のパワーを駆使してミサイルランチャーを投げ渡す。
「とりあえずこっちはろくに兵装使えないからサポートと引きつけに回る!」
「わかった!だが死ぬなよ!」
「一人で動こうとするような人間に言われたくはないね!」
「リーダーのモノマネさ!」
仲間と軽口を叩き合いながら、彼女はミサイルランチャーで同じく足を攻撃。
大きな体に分散するような攻撃は効き目が薄い。しかし、その火力をさらに一点に集中させると流石に効果があるらしい。特殊なスキルも何にもない彼女らが本来連邦生徒会のために鍛え上げた発想と、それを実現するための射撃技術はゼンヒやカンナのおかげで整えられた舞台のおかげで練度はさらに上がっている。
右足に一点集中で叩き込まれたせいか、三つあったうちの爪が二つ割れた。
「ギャオオオオオオッ!」
「随分と煩い咆哮だな!」
割れた爪は根本から外れているのか、ヤツカがこうなる前に下に垂れてたのと同じ血が飛散する。
「ナイスショット!」
「ショウコってこういう時に輝くよね!なんでスパイなんて希望したんだ?」
「君達に枠取られたからだよ!」
「あっはっは!」
彼女らはそんな青春を思い出し、口にしながら相手をし続ける。
最初に大きな損害を出した部隊はそのまま解散しつつ健在の部隊に自然と再編、もしくは引きつけ役をしているショウコへの物資をパスする役割をした。
狼はそのうちに悲鳴をあげるが、流石にこのままだと劣勢だと理解している。この時はちょうどショウコと無事な部隊での挟み撃ちとなっているため、少ない方から片付けようとしたのだろう。流石に最初の割れたコンクリートを投げた時の反動で他の塊が崩れてしまっているせいでどうやら二発目はないらしい。
動かすことで狙いをつけられなくしようとしたのか、ダメージを負った足でそのまま殴ろうとする狼。だが彼女は少しだけ下がってからマテバを取り出す。
「残念、私だってこういうことができる!」
そう言ってから、振り下ろされる右足、割れている爪に銃弾を二発放つ。
すると、それは瞬く間に吸い込まれるような形で命中。
言葉にできないような悲鳴をあげる狼。その一撃で足にヒビが入ってしまい、相手は攻撃を中断するほどの痛みを味わった。
「よし!いける!」
相手がうずくまるのをいいことに、そのまま一斉射撃を浴びせた。
爆発物に小銃、少し遠くから狙撃銃。足を破壊することで移動を不安定にさせて倒し、相手を確保しようというのが狙いだった。その隙をショウコは作った。
一斉射撃に悲鳴を上げる狼。
「いけ!」
「撃ち尽くせ!足が動かなくなればどんな人間でも自力で逃げ仰ることなんかできゃしない!」
「うおおおおーっ!」
それぞれが手持ちの武器で、近くの兵器で思い切り相手を攻撃する。
しかし、相手もそれで黙ってはいない。もう一度、怪我をしていない足で思い切り地面を揺らして_____
「グルルルルルアアアアアアーッ!」
叫んだ。
街灯どころがビルが崩壊、そのまま色々な場所へと落下する。
悲鳴が聞こえないほどの轟音の中に微かに聞こえる爆発音。それが何を意味するかはショウコには分かっていた。
そうそう頑丈で死ぬことはないであろうと味方には思っているものの自分も大変なことになってしまう。
轟音を立てて崩れ落ちるビルの衝撃は足元を不安定にさせたが、それに追い打ちをかけるように瓦礫が吹き飛んで彼女に当たる。
「ぐ」
真っ当な悲鳴をあげれないままにそのまま吹っ飛んで、頭から瓦礫に激突。突き出た鉄骨部分はギリギリ回避し、飛んだ瓦礫は衝撃で粉々になったものの彼女は大怪我を負った。
少なくともいつかのゼンヒよりかはマシだが、頭から血を流し口から血を吐いて肩は折れている。
「ぐあがが」
ひどい痛みに醜い声をあげる。
周りには誰もいない上に、そもそも瓦礫が崩れた勢いで出来た煙のせいで視界が悪い。
(随分と派手にやられ……痛い。左肩は使えない、か)
状況把握は出来る中で、彼女は武器がないか探る。
芋虫のように瓦礫の中を這いずり回る彼女は、痛みに苦虫を噛み潰した顔をしながら探し続けた。
(ちがう、ショットガンじゃない。これはどうしようもない。えっと、これは……アサルトライフルか。足りないな)
そうやって探していると、瓦礫の向こうから咆哮が聞こえる。先ほどよりかは弱々しくなっているようだ。
(瓦礫に巻き込まれたのかダメージを負っている、か?なんとかしないとな……あ)
ショウコは良いものを見つけた。
少し短めのスナイパーライフルと、ロケットランチャーだ。
(両肩使わないといけないのきっついな……)
周りをもう一回見渡す。
ある方向には傷ついて、かつ自分を探しているであろう狼がいる。ただその手前、自分のところには台座にするには十分な瓦礫の山があった。
「そうか……仕方ないね」
右手を動かしてまず使われてないロケットランチャーを取って、それに付いていた肩掛けのロープをスナイパーライフルに引っ掛けて持ち運ぶ。
スコープは幸いなことに割れておらず、また自分の仲間が持っていたことだけは把握していたのでそのまま相手の様子を確認するために覗いた。
「んん……」
相手はだいぶ肉が剥がれて来ている。倒壊したビルの破片に巻き込まれるのはあの巨体だと当たり前。質量と自由落下のエネルギーは、何に対しても脅威だ。
ただそのおかげで、胸の辺りに中心核なるものを見つけた。ネックレスのようなもの。
(あの時のヒエロニムスと一緒か)
相手が次のアクションに映る前には自分が仕留めれるようにしなければ。そう考えた彼女は、急いでスナイパーライフルの角度を調整。
(これくらいかな、距離はそこまで離れてないからこれで十分なはずだ。あとは……)
ロケットランチャーを瓦礫に引っ掛けて相手を狙う。
「これでおびき寄せて……倒す!」
時間はない。彼女は一度、ロケットランチャーを引っ掛けたまま発射する。
その弾は相手には当たらず、横を通り過ぎるが_____
「……」
相手は彼女を見た。
ようやく狙っていたやつが来た。そう考えれば、狼は急いでそっちへ向かう。
「よし、そのままだ」
スナイパーライフルを構えて、スコープを覗く。流石に飛びかかるだけの力はないのか、タックルをしようとしているようだ。お互いに火力を潰しあった結果の一騎討ち。
しかし、もう遅い。
これが先生がいて、シャーレ直属の生徒ならまず相手に勝ち目はない。互角かそれ以上に戦えていたのは彼女らがいくら鍛えていてもその最高戦力と比べて劣る。
だが、それでも今ここまで状況を持ってこれたのは訓練された兵士たちが、本気で自分達のリーダーを取り戻そうとしているからだ。今、ショウコの手にはその結果を左右する運命がある。
飛びかかる、急速に移動して攻撃するが出来ない以上_____
「これで最後」
ショウコは引き金を引いた。
銃弾はまっすぐ飛ぶ。
突進するしかできない相手は、避けることはできない。その巨体よりも、弾丸の方が素早いのだから。
銃弾は。
「グギ」
核になっていたものを、綺麗に撃ち抜いた。
本当に綺麗だった。真ん中を撃ち抜いて、それが身体さえ貫いて飛んでいく。
貫かれた悲鳴を上げて以降は、もう声すら出すことはできない。最初から撃たれた傷から広がり、建物の倒壊で深く抉り飛ばされ、その勢いのまま地面に倒れ伏す。
「うわっ」
ただ走っていた勢いと大きなものが倒れた衝撃でまた、ショウコは吹っ飛ぶ。
今度は流石に大きく吹っ飛ばされたわけではなく、軽く身体が浮いてから、地面を転がって背中から壁にもたれる形で止まった。
「……」
彼女は限界だった。
頭から血を流し、挙句左肩は骨折してる上に血が出てる。正直なところ、気絶寸前。彼女自身は死ぬことはないと、そう思ってる時点で強い。
しかし、それはこれ以上の邪魔と戦闘が入らない前提。
こつ、こつ、こつ。
足音が聞こえる。