シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

68 / 163
(予定していた名簿は少し進んでから出します。ご了承ください)


ゼンヒの過去-セツカ編
ゼンヒ捜索チーム結成/ユリサイドその1


 矯正局の襲撃から数日経ち、ある程度の落ち着きは取り戻された。

 

 扇皇ゼンヒの行方不明、アリウス過激派による自爆テロ、大変なことはこれでもかとあった。特に後者は自爆テロで死人が出てるため、相当にグロテスクなものであったと言わざるを得ない。

 

 そして、そんな事件を経てヴァルキューレに対する世間の評判は_________

 

 なにも変わらなかったのである。

 

 当然騒ぎが起きたのは事実で、それに対する取材等マスメディアからの干渉は多くなってはいたものの、扇皇ゼンヒは被害者であるという論調が大衆の中であった。前に矯正局が大変なことになった際は七囚人全員脱走という大騒ぎであり、その流れを考えればゼンヒがまさか殺人鬼になって脱走しましたと言っても誰も信じることはない。

 

 そもそもゼンヒがそうなったのはあのレストランの遺物のせいであるのも事実で、結局彼女が被害者であることには違いない。

 

 ヴァルキューレ内部もその論調を受け、重大事変であることには変わらないとは思っているものの絶望したり投げやりになったりする人間はいない。それも彼女がさまざまな事件を解決してきたことが大きな信頼を得ているのもあった。世論がそうなったのは彼女が飽くまで政治的判断とは離れた大衆の近くで、犯罪に対処し続けたのが大きい。その結果を受けてヴァルキューレでは余計なことは隠すにしても、彼女を取り戻そうとする動きが強まっている。

 

 ただ、それでも大変な状況にあることだけは変わりない。

 

 彼女が監督していた特別暴力対策課も、二人目の責任者だったユリは無事でもその腹心であった甘凪ショウコは重傷を負いしばらくは第一線を下がらざるを得なくなった。現在引き受けている業が終わり次第仕事の募集を一時縮小することで対策チームを作ることになったのだが______

 

 ユリとショウコはヴァルキューレの学食にいた。二人してうどんとそば食って、話をしている。

 

「どう?数日経ったけど体の様子」

「先生とかも驚いてたし自分も驚くものだけど、案外骨の治りは早いね。頭の方はまだ激しく動かすなっては言われてるけどもう少しだけしたら飯くらいは自由に食えるようになる」

「よかった……アタシとあんたは友達、困ったらいつでも頼って」

「代わりに頭目やってるのを邪魔するわけにはいかないから」

「とはいえ____リーダーの捜索チームの構成に難儀しているんだって?」

「うん」

 

 扇皇ゼンヒの捜索のためのチームを作ることになったが、そのメンバーが問題だった。

 

 特別暴力対策課、元SRTで固められたチームであったがその大体が自爆テロと突如現れた狼による暴走で大怪我を負ってしまっており、外に払ってた人間以外は使えない状態である。ただ、ここで活動を完全に停止してしまうと資金に困るしゼンヒが居たからこそ成り立っていた組織だと思われるのも不服なところ。かといって少数で当たってどうにかなるというものでもない。

 

「人が圧倒的に足りない、というのが正直なところ。それにアタシらそのものは求心力があるわけじゃないから。そもそも一人で戦って強かった人間が、アタシらのような組織で戦って強い人間の面倒みるっていうので成り立っていたわけだから。そう考えるとこの組織自体が存続の危機にあるとも考えていいかも」

「そもそも彼女がいなくてもやっていけるんだったらすでに立場があったわけだからね。幸いなのはそう言ったことを考えついても止めようとしないやつが多すぎるのと、ヴァルキューレが案外優しかったことかな。特に局長がなんか言っていたわけではないけど、やはりヴァルキューレ本来のキヴォトスの警官、という立場を実現してきた組織というのは大事らしい。それが存続の危機ならバックアップもするさ_____まあ、ヴァルキューレだけじゃどうしようもないけど」

 

 互いにお冷を飲んで一息つく。

 

「結局このままだと通常業務に多く人を回して、しばらくは少人数であれこれ探すしかないっていう判断になると思う。アタシとしては不服だけど、リーダーだって自分のことを組織以上に優先するのは嫌がるだろうし。それに行動しないってわけじゃないから」

「そうだね。まあ、それでも苦しいのには変わりないけど」

 

 ショウコは手を広げて首を振る。

 

「結局あの狼をどうするか、ってところか。知っているであろう先生と話す機会はあったけど、どうやら一番近いクロカゲ?なるものとはまた違うらしい。どっちかっていうとなんかフロム?に出てきそうだよね見たいな感じで言ってたがまあ私じゃ分からない」

「この件は先生はどう思ってるの?」

「一大事とは思っているけどあまりに毛色が違いすぎるという点で、バックアップに務めるらしい。本来だったら集中したい案件だけど今のシャーレ的にはもういろんな学園の仕事が立て込んでいて最悪インフラが死ぬ可能性があると」

「それは流石に仕方ないわ」

 

 それぞれうどんとそばを食べ続けながら、話を続ける。

 

「で、結局今リーダーがどこにいるかは分かってないの?」

「アビドス近辺の騒ぎだったから今ユメさんが探してるところ。もっとも成果はないって言ってたけどね。タクシーやってる時にも一応客に聞いたりはしてるんだけど」

「頼れる人がいるというのはありがたいな」

「それはそう。あの、黒いドレスを着た女性もユメさんに協力する形でこちらに支援してくれるって」

「あの女どれだけ厄介なの」

「それは私も思うけど______」

 

 二人は困った顔をする。

 

「結局そっち方面で詳しい人間が欲しいっていうのが実情かな。扇皇ゼンヒは生きているのか死んでいるのか分からない、あの狼はどうすれば無力化できるかも分からない。とはいえ私ら程度でゲマトリアに接触出来るとも思えないし出来たとて協力してくれるかも不明。正直手詰まり」

「うーん。なんかいい方法ないかな」

 

 困っていると、一人歩いてくる少女が。

 

「あ、いました!」

「すみませーん!」

 

 歩いて来てるのは新入生。

 

「えっと、特暴課の方ですか」

「うん。どうしたの?」

「局長から書類を預かって来ました!事件に関する書類だそうです!」

「めちゃくちゃ機密?」

「校外に持ち出さなければいいと言ってました」

「じゃあ今ここで開けるね。あ、君たちはちょっと居てくれると嬉しいかも。場合によっては伝言を頼むから」

 

 そう言ってユリはファイルを受け取り、その中にあった書類を読み始める。書類というよりかは走り書きの伝言メモだ。

 

 

 

 ユリへ。

 

 リーダーがいなくなってから不安な中、特別暴力対策課の一時運営をしてくれてありがとう。おまえのおかげである程度特暴課の扱いが安定しているんだ。

 

 しかし特別暴力対策課の人間は今全員怪我をしているため、人数が足りないことだろう。当然その中には神秘などに対する知識を持つ人間も必要になるが、そんな人間も普通はいない。そこを人数でカバーしたいが今すぐにはそれが無理。

 

 私もどうにかしたいものだか、この件ばかりに注力しすぎると他の警官の迷惑になってしまう。なので、一つ話をつけてある人間のところへ行ってみてほしい。

 

 彼女のことを信頼するかどうかはお前達の判断に任せる。この手紙は昼頃受け取るだろうから、昼飯を食った後に考えてくれ。

 

 場所は矯正局に行けば案内してくれる。

 

 それではよろしく頼む。

 

 カンナより。

 

 

 

「随分と怪しいメッセージみたいだけど、この子達が疑わずってことは絶対にカンナ局長からだよね。うーんどうしたものか、一体誰なんだろう」

「私としても少し怪しいが、警備体制としては復帰したとは言ってるしな。行ってみるのはアリだ」

 

 新入生達に、伝言をする。

 

「局長って今どちらに?」

「えっと、しばらくは自分の執務室にいると言ってました!」

「新入生だよね?えっと____急にこんなこと言って申し訳ないんだけど、こっちは急用で行く場所があるの。部屋に入るのも緊張するとは思うんだけど、伝言を頼んでいいかな?」

 

 新入生二人は緊張している様子だけど、ユリとショウコをみてるとやはり大事なのだろうと思ったのかビビる気持ちを抑えながらも仕事を全うしようと承諾。

 

「今から私たち二人は矯正局へと向かいますって。すぐに行きたいから挨拶も無しでごめんなさいと、そう伝えてくれる?」

「わ、わかりました!局長にはそう伝えておきます!」

「ありがとう。じゃあ、よろしくね」

 

 若い芽を見送ってから、二人は急いで残っていたものをかき込む。

 

 そこで20秒もかからずに食べれたというのはやはりいつもの訓練の賜物なのだろう。トレーを持って急いで返却してから、二人は車に向かった。

 

 課の車はそこにしっかり、重厚なものが鎮座している。ドアを開けてから乗り込んで、一息つく。

 

「やっぱりあの時の癖残っちゃうよね」

「そうだね。で、ユリ」

「何?」

「助っ人については何か心当たりあったりする?」

 

 ユリは首を振る。

 

「私はないなあ。ショウコは?」

「あるといえばあるけど、確証はない。正直な話そうではない方がいいなっては思ってる」

「何なのそれ」

「まあ、答え合わせまでは黙っておくとしよう」

 

 肩透かしくらったようなユリは文句言いたそうな顔をしながら、車を発進した。

 

 まだ桜は咲いている、新しい世界に入ってきた者たちを応援するかのように。

 

「一つだけ聞いていい?」

「なんだい?」

「リーダーは、私たちのことを愛してくれてると思う?」

「愛してると私は考えてる。だから今度は、私たちが彼女に対して愛してるよ!って伝えなければならないと思うんだ」

 

 ショウコは、目の前を見ながら言う。

 

「セツカの中にリーダーは生きてる。私はそう思うから、諦めない」

「そうね。アタシも同じ」

 

 セツカは一人の人格を消去するのにだいぶ苦戦した。それでかなり体力を消耗したから、ゼンヒの方もそう簡単には消せないと判断している。だから二人は頑張る。

 

 夏が終わる前には、彼女は帰ってくるだろうか。そしたら自分たちは、ゼンヒに対して恩返しができるだろうか。

 

 そう思う頃には、遠くの方に矯正局が見えていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。