「そうだ。話を戻すんだが、資料とか設備を奪われたって言ってたよな」
「うん。さっきも言ったとは思うけど、盗んだのはゲマトリアか売人グループのどちらかだと思ってる」
「理由はあるのか?」
「もちろん」
セツカはワインを一杯飲み干してから、注ぎつつ答えた。
「ゲマトリアが回収する理由としては自分達が研究していた内容が自然に生まれ流れ出すのを止めるのがいちばんの目的になると思うよ〜、私は分かんないけど彼らは先生がそれを解き明かす鍵だと思っているからね。こだわり強いから、きっと自分のやつは握り潰されるか処理しちゃうかも」
「薬物売人のグループの手に渡っていたら?」
「あいつらには使う知能はないけど、少なくともゼンヒみたいな表層の人間が2回くらい目にする場面があったことを考えたら時間が経って多少扱えるようになっているかもしれない。今売ってる違法薬物に異能を手に入れる機能が入ってるものかもね」
「ものかもね_____って危ないだろそれ!」
「あったりめだそんなの何万回言われても同じこと」
ウィンクするセツカ、呆れるシャルアー。
「で、どうするんだよそれ」
「それをどうするか決めるためにヤツカに調査を頼んでるわけで。どのみち判明するまでは理論でも書き続けるしかないからね。今それすら決まんないから曲聴きながらダーツしてるわけで」
「通りでロックが掛かってるわけだ。これはなんのバンド?」
「Fear,and Loathing in Las Vegas」
「なんて?」
「Fear,and Loathing in Las Vegas」
「ああ、その……なんちゃらラスベガスの曲いいな」
「大丈夫みんな何ちゃらラスベガスとかラスベガスとか言ってるから」
「ロック好きなのか?」
「カッコよければなんでも聴くよ。それこそサカナクションとか大好きだし」
「サカナクションは私も好きだ」
「あ、そうそう。ゼンヒの曲の好みなんだけどさ、私と同じでSOUL'd OUT聴いてたんだよね!やっぱり音楽って人の心っていうか魂を左右するもんだなあって思うわけ。でもね、私が嫌いな奴も聞いてた」
「ダフトパンク?」
「うん。私あれ嫌いだから」
「同じメロディがずっと続いてるのにみんなが信仰してるって言ってたな前」
「でしょ〜?」
「いやお前の言ってることを再現しただけだぞ」
「意地悪〜」
二人はそんな会話をしているのか、互いに焦ってる様子はない。
「話戻すね」
「ああ」
「売人グループが持っていったというのであれば、しばらくは潜んでいた方がいいかもね」
「なぜ」
「単純に私たちは三人しか居ないのに、組織同士の抗争に足突っ込みたくない」
「ゲマトリアはその売人達の持っていった技術を回収する前提だな」
「当たり前だね。もし世界の根幹に関わるような情報だった場合、先生とか少なくとも責任を負う人間以外の前にそう言ったものが出回るのは良くないと考えてるだろうし。その分だけこっちは新しい遺物とかを集めるところから始めればいい。警察だって薬物の方を放っておくことも出来ない。それを放置して私を追ってくるような人間だったら、すでに死んでる」
「それはそうだな」
互いに足を組み、だらけながら話を続ける。
シャルアーが適当に取って投げたダーツの矢が、ダブルブルに刺さった。
「あ」
「すごいじゃん。そっから当てるの」
「しばらくは運勢がいいってさ。ま、あの二人相手に生き残ったからそれくらい返ってこないとやる気を無くす」
「もしかしたらこの騒動の中で自分の家に帰れるかもね?」
「ならいいな」
他愛もない会話が続く。
「ああそう、一つ聞いてみたいことがある」
「なぁに?」
「目的があったから蘇ったんだろ?ゼンヒの時に何かやばいことがあったのか?」
生き返った目的を彼女は聞いた。
ヤツカもシャルアーも、実は彼女が甦りそうだという勘でゼンヒを攫ったが彼女が何を考えていたのかは不明。
「そりゃ薬物関連が妙に盛り上がってるからちゃんと潰しておきたいし、あなた達のことをなんとかしないとって思ってね。ヤツカとかちゃんと別のところに送り出したいから」
「お前にくっついてると不都合なのか?」
「まあねぇ。キヴォトスが変革しつつあるから、私に残されたタイムリミットは少ないよ?」
「タイムリミット?」
「説明してあげる」
セツカは、珍しく儚げな微笑みでシャルアーに話す。
「まず、先生とシャーレの存在は日に日に大きくなってきている。各学園のトップと融通が効く組織であり、連邦生徒会直轄とはいえ一人だから動きの決定とアクションへの軽さは恐怖。デカグラマトンもそう、ゲマトリアも相応にヤバいやつが出てきてるし、それにリンネのグループが勝てるわけがないけど、当然それは私も一緒。脅威が明確化、そして大きくなっているのがこのキヴォトスの社会なんだ」
「つまり生徒達は先生達を頭目とした政治を、そうだな____最悪ヒトラーやスターリンレベルの政治をしてでも立ち向かう必要があるわけだ」
「本当にそうなるかはまだ分からないけどね。だけど、小国同士の争いから合衆国でも連合国でもなんでもいいから、キヴォトスという都市での本当の団結をする時期に迫ってきているのは事実。もしそれでキヴォトスという領域のルールが細かく制定されたら今あるブラックマーケットとかも非合法だうんたらで素早くしょっ引かれて前のアリウス以上に酷い目に遭うと思うよ?そうなったら私は捕まるか、そうでなくても研究とかは続行できないし」
「結束の必要性をまだ感じてない今だからこそ、出来ることをやって隙間を潜り抜け目標を達成する、か」
「どのみち不良達が一大勢力を築いてられるのも今のうちってこと」
自分たちが今まで通りに動ける時間は刻一刻と消えつつあると、彼女は語った。
「勢力同士の衝突の戦争なんて起こってみたら研究どころか命があるかも分からないから、その間に二人が一人で生きていけるところまで戻したい。まあ、ヤツカはどうにかなるけど、シャルアーだけは急いで元の世界に戻さないといけないね」
「そのために私はお前に再び会ったんだからな。頑張ってくれよ?」
「護衛はよろしくね」
「もちろん」
互いにワインを飲み干し、もう一本開ける。二人で三本目、というのはちょっと飲み過ぎだろうか。
「で、最後。これはそう言った未来予測関係なく確定していることなんだけど______」
「なんだ?」
「扇皇ゼンヒが蘇るまでの時間はそう無いってことかな?」
シャルアーは、ワインのグラスを置いて相手を見る。
「……どういうことだ?扇堂リンネの人格は消えたんだろう?」
「その人格はね。でもね、人格っていうのはそう簡単に消えるものじゃ無いの本来は。あくまで脳が負担できない部分を削ぎ落とす感覚、もっといえばスマホの容量整理と同じ感覚でなんとか彼女の人格を消せた。でも……」
セツカは自分の胸に手を置いた。
「この体は、もう私のものじゃ無いから。扇皇ゼンヒのものだから、基礎となるDNAに残っている人格等のデータは消すことができない。そして、体と精神はリンクする以上扇皇ゼンヒの魂が再起動できる状態になったら私はまた眠りにつくんだ」
「おいおい」
「だから……私はもう本当はいない人間なんだよ。でも、私だって寂しいから戻ってきちゃった。私には二人、大事な友達がいるから。消える前に、せめてもっと幸せにできるようなことをしてあげたい」
そもそも自分が無いから、どうしようもなかったゼンヒに当てつけるような言い草で、セツカは目の前の少女に言う。
「どうしようもないからね、こればっかりは____だから、今からは全力で二人の居場所を見つけて送り出すことに注力する。だから最後、私がいる間は、私を愛して守ってね」
「勿論!私の彼氏にもきっちりお前のことを語らせてもらうよ」
「ありがとう、シャルアー」
やるべきことをしっかり共有できた、という点でセツカは一つ仕事が終わったと安心する。
ちょうど良いタイミングで電話が鳴ったので、セツカは出た。
『姉さん』
「ヤツカじゃーん。どうだった?」
『姉さんが持っていたはずの研究施設大体探し回ったけど、持ってかれちゃってた』
「誰が持っていったの?」
『扇堂リンネの一派。あいつら、人の努力だけ掻っ攫うなんてほんとどうかしているわ。イラついてこない?』
「そう怒らなくていいよヤツカ。そういう奴らが、薬を吸うだけで天才になれるなんて嘯いてると思えばまあ私は妥当な末路を迎えると思う。今はヤツカが帰ってくることが何よりも優先だよ、無事に帰ってきたら今日もご飯作ってよ」
『姉さんったら……わかった、あまり跡を残すのもあれだからすぐに帰るよ。今日は何が食べたい?』
「今シャルアーと一緒にブラックマーケットで売ってたスパークリングワインを三本目開けてるんだ、だから揚げ物がいいな。唐揚げとか、涎鳥とか。シャルアーも鶏肉が一番好きって言ってたから」
『昼間っから二人で何してるのよ!』
「作戦会議だよ」
『三本も飲まない!』
「それは……ごめん」
セツカはシャルアーの方を見て、二人で電話越しに苦笑いする。
「ともかく今日というかここ一週間くらいの仕事はそれで終わりってことで。よろしく!」
『分かったわ。気をつけて帰る』
「よろしく〜」
そうして電話は切れた。
「随分慕われてるじゃないか、それでもヤツカに旅立って欲しいのか?」
「引っ張り出されておいて無礼なことを言うんだけどね、さっきも言った通りこの体はゼンヒのもの。つまり、今を生きるべきなのはゼンヒなんだよ。それを無理言って変えてもらったんだから」
「……じゃあ」
シャルアーは、目の前の少女に質問する。
「なに?」
「じゃあ、お前が消えた後でまだ私がここ残っているなら_____その時間くらいはゼンヒのこと、支えた方がいいか?」
「_____いいなあ、シャルアーの彼氏に嫉妬しちゃうよ」
彼女は自分の席から立って、シャルアーの膝に向かい合って座る。
「何を?」
そうシャルアーが疑問に思った時には_______
彼女は頬にゆっくりとキスをした。
キスが終われば、少しだけ顔を近づけてセツカは言う。
「私の子供みたいなものだから……お願いね」
「……ああ」
一つの約束が交わされた。
(それぞれの集団である程度の行動が定まったので、次回一度登場人物紹介を挟みます)