シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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情報収集/ユリサイドその2

 情報を持ってやってきたのは、事務所だ。

 

 今は昼になっているが、それはカザミが普通に移動に時間が掛かったせいである。トリニティの人間に見つからず、しかもトラブルも起こさず行き来するのには当然時間が必要だ。

 

「ここが自分たちが襲おうとした事務所か、ずいぶん綺麗だね」

「あの〜不安になるからそう言うこと言わないで」

「あ〜ごめんごめん」

 

 いつか敵だった過激派のトップが、今や特別暴力対策課の事務所に入っている。時の流れや運命というのは思ったよりヘンテコなものだと三人同時に考えたが、今はそんなこと話してる暇はない。

 

「そっちの首尾はどうだった?」

「こっちは上々!ちゃんと色々資料もらってきたよ!」

「うーんいいね」

「そういうカザミはどうなんだ」

「持っていけるものは持ってきた。まあ、説明をするのは骨折れたけどね?」

「説明?」

「仲間との不和はいらない火種になるからね。あミルクティーもらうよ」

「あっちょっとそれ私の」

「いいじゃんいいじゃん」

 

 ショウコは頬を膨らませたが、そもそもろくに良いもの食ってなかったからそう言うのに飢えてるらしいカザミはウィンクをして誤魔化した

 

「しかし、不和を生み出すって……やっぱり喧嘩になったのか?」

「そりゃあ当たり前でしょ。いくら首魁とは言え急に帰ってきて資料持って行きますなんて言ったら怪しまれるに決まっている。だからある程度のことは伏せてはいるけど、殆どの事は話して来た」

「それで良く納得して」

「ユリ」

 

 彼女は今特暴課を率いている代理の方を向いた。

 

「私達は何よりも自由を求めていた。過去のしがらみから解放されて、当たり前の権利を持って生活できることを何よりも望んでいた。確かにシャルアーのそれは暴力性さえ除けば自由への手段だったかもしれないが、彼女が行ったことは私達への冒涜だ」

「……」

「言わば我々の価値は『そこまでしないと自由を与える価値もない』と暗に煽られたものだからね。実際そうだったかもしれないし、それ故にトリニティは我々のことを軽んじたのかもしれない。だが、そのように愚弄された結果がこれならば、我々は復讐しなければならない」

「カザミ」

「それだけのことが掛かっていると話せば、みんな納得してくれた。ただまあ表向きは自分が主導する、という形でなってるから君たちに首輪をつけられてることは言ってないけどね」

 

 あっかんべー、なんてしてるカザミ。この中ではかなりパッションな方。

 

「ま、そんなわけで資料漁り始めるか」

「そうね」

「ああ」

 

 三人は、集めた資料をあれこれ見てみることにした。

 

 それぞれ興味のある資料を手にしてから、あっちこっち見てたりする。

 

「うーんこれだいぶ古いわね。えーっと、ヘイロー破壊爆弾の試作?これはその____意味ないわね」

 

 神秘に関する資料はそこまで多くないが、そもそも専門外なために全員一枚を読み解くのに時間が掛かる。

 

 ヘイロー破壊爆弾の設計図多数、ミメシスのあれこれ、そもそもの旧約聖書の翻訳等______世界がどうやって出来たのかみたいな論文もあったりするのだが、それに答えがないことはこの中の誰も知らない。つまり時間を浪費しているのだ。

 

 1時間後、皆が読み進めているが何もいいものは発見されない。

 

 2時間後、読むの飽きているのか疲れた表情をしているが三人は諦めずに読み進めている。

 

 3時間後、途中で黒服やベアトリーチェのヌード写真が出てきて三人で凝視している。

 

 4時間後、結局疲れてもう夕方。三人揃ってソファに転がってる。

 

「あーもう何も進まない!」

 

 ユリは苛立ちに声を上げるが、二人はそれにあーだこーだ言わずに頷いている。

 

「本当にもー困っちゃうね!」

「ほんとほんと!」

「みんな飯を食べに行かない!?」

「行こう!」

「そうしよう!」

 

 三人は立った。

 

 別に仕事を放棄しているわけではないのだが、労働には適度な休憩が必要だ。

 

 扉を開けようとするユリ、すると_____

 

「ごきげんよう」

「ひぇっ」

 

 来客がそこに来ていた。

 

 トリニティの制服を着ていて、四つの白い翼。金色の長髪で、色々でかい。

 

「その……色々あってここに来たのですけど、お邪魔でしたか?」

「ば、バンリさん!」

 

 別天バンリ。

 

 トリニティの生徒の一人でカフェをやっていて、ゼンヒには思い入れがあるのか彼女の昇進祝いをしたりとそこそこ関わりのある人間だった。

 

 しばらくはそのゼンヒが忙しくて会えてなかったが、そうしているうちに彼女はゼンヒと離れ離れになってしまったのである。

 

「え、えっとどんな用で!?」

「きゃー!鬼が出たー!二人とも助けてー!」

「いや別に鬼ってほどでは____バンリさん、どうしました?」

 

 そんな彼女に、二人が驚いて話にならないとショウコが代わりに対応。バンリは、抱えていたファイルを差し出した。

 

「トリニティから一部書類の解放が指示されました。先生の権限で見れるようになったものを代わりに届けてこいと正実の連中がうるさかったので、私が届けに来たんですの。その____ゼンヒは」

「……なんて言えばいいんだろうな」

「私たち友達だよな、なんて前に聞いてきた時は面白おかしくは思いましたし、その上で私も彼女のことが好きなので肯定したのですが……まさかそんな精神的負荷を抱えていたとは思わず____皆様になんと、お詫び申し上げれば良いか」

 

 ゼンヒは煙管の少女に言われた後、実は一度バンリのところへ訪れている。それはまだ自分がどれだけ周りと断絶してるかを理解出来ておらず、冗談まじりに友達だよな?って聞くがてらに食べに行ったからだ。

 

 当然その友達の意識もその時は薄く、知識で知っていたとしても身体がその安堵感を知らないでいたから結局心の防波堤として全く機能していなかった。結果がハクジツの裏切りによって一気に不安定化、今に至るのである。

 

「バンリさんのせいじゃない。だが、彼女の状況を皆が知らなさすぎた。知ってどうにかなるものでもないし、情報そのものが危ないのには違いない。誰かを責められるものじゃないから、ならもっと早くどうにかしないといけない」

 

 ショウコは彼女の謝罪を謝らないでくださいといい、自分達がすべきことのために励ました。

 

 実際すべきための行動を確定させるための情報収集であり、それから脅したりして相手の動きを鈍らせたりすることでセツカを捕まえればいずれ解決する。

 

 こう信じているが故の仕事が、こうして手詰まりになっているのが現状だが。

 

「で、今渡された書類というのは?」

「神秘に関する論文です」

「じゃあこれ確認してから飯食いに行くか」

「そうだね!」

 

 今度は四人揃って、見てみることにした。

 

「ええっとなになに?『精神と肉体の構成仮定』?」

 

 その内容は随分と現実味のない、論文だ。

 

 挨拶を飛ばし、ある程度捲ると『人間のでき方』という項目に辿り着いた。

 

 

 

 曰く、肉体はそれそのものが確固たる状態ではない。程度固着した肉塊や組織が自然とその器の中で編成されて働いているのである。

 

 その器は自分達が銃弾やある程度の打撃等を提言し、死ぬはずの傷をかなり低減する神秘である。神秘が我らを守る守護であり壁であるならば、壁こそが人間の形をした透明で強力な器だ。

 

 器の性質は神のみぞ知る事だが、何よりも人間の形にした理由は知性という大きな可能性を計測する為だろう。それだけ脳という組織がそれだけ貴重で奇跡であるかが分かるはずだ。

 

 だから人間の形に、何処かから血肉を注いで人間というそれを完成させているのだろう。それが少女である理由も不明だが……我々が怪我をした時に特別な手段なく、哺乳類にはないはずの腕や目の再生が出来るのもその不足分が神秘というバリアによって形を安定させて不足分の肉種を埋め込むという方法で納得できる。この論理であれば。

 

 そして精神。

 

 これはまさしく我々には細かい育成期が必要ないからこそ“ある程度の行動指針”として付けられる性格という楽譜であると私は踏んだ。だからその性格から逆算した過去というのが生まれるし、それを以て我々は“過去がある”と信じ、その存在の可否を証明出来ないからこそ信じて生きていっているのだ。

 

 つまり精神と肉体は、それぞれ分離したパーツである。だが、基本はそれぞれ一つずつ。精神が二つあるのも可能だとは思うが、やはり安定するのは一つだろう。

 

 あと、この理論であれば人間そのものの拡張も可能だ。

 

 _____それを出来る人間が居るかどうかは知らないが。

 

 

 

 随分と面白いものを書くものだ、と思ったものだ。

 

「ん?んえ?どゆこと?」

 

 ユリ以外は。

 

 他の三人がこの話を理解できたのは、ショウコは組立が普通に上手で、バンリは聖書などの知識があるからある程度感覚で理解でき、カザミは当然そう言う方面の研究をしていたのだから言わんとしていることは理解できていた。

 

 しかしユリはそこら辺に疎い上に基本は身体で覚えるタイプ、つまりはこう言った話にはついて行きにくいのがあった。戦術や政治といったのは頑張って勉強してたからその土台故に理解が追いつくのだが、無宗教者にこの手の話はキツいのである。

 

「二つ合わせたやつ書いてないじゃないか!」

「使えませんわねこいつ、過去に飛んだらちゃんと焼いてあげませんと」

「えっと、つまり今のリーダーの状態だと……え?」

「待って待って待ってアタシ何も分かってないよ!」

 

 ユリ以外がユリを凝視。

 

「なんでそんな目で見るの……?」

「ああ悪かった悪かったから頼むから泣かないで!」

「そうですわ。ほら、あとでちゃんとサンドイッチ作ってあげますから……」

 

 2人は慰めているが、そんな事で時間を取っても仕方ないと考えたカザミだけは何かを持ってきた。

 

 それは透明なスキットルとウイスキーである。ゼンヒのデスクの近くにあった棚から取ったものらしい。

 

「はーい!そこのよく分からないユリちゃーん!こっち見て!」

「はい……」

 

 しゅん、としているユリは他2人と共にカザミに近づいた。

 

「これは擦り合わせの為でもあるからね。今から、この論文が何を言ってるかについて説明するよ。いい?」

「うん」

「ええ」

「ああ」

 

 三人は長いソファに座り、あらためてテーブルの上にウイスキーとスキットルを置いてから1人用のソファにカザミが座る。

 

 彼女の神秘解説教室の始まりだ。

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