シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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情報収集/ユリサイドその3

 テーブルには透明なスキットルとウィスキー。

 

「まずこの人の言う『器』って言うのは自分たちが銃弾などの危険物で怪我しないようになってるバリアのことを指す。本当にバリアか、自分たちの皮膚や細胞が硬すぎるのかは実のところ定かではないけれど、刃物が普通に通る以上はなんらかしら特定の状態で発生するバリアって考えたようだ。だから我々は神秘というそれに守られていると仮定した上で、そこに肉や組織を流し込んで人が出来上がるって考えてるらしい」

 

 スキットルの方にウィスキーを流し込むカザミ。

 

「つまり自分たちはこれってこと」

「えっと……?」

「簡単に説明すると、私たちの血肉はこのウィスキーでバリアがスキットルな訳」

「つまり中に入ってるウィスキーが人間の形をしているからこれを人間だと言い張ってるってこと?」

「言い方がだいぶ酷いけどそういうことだね」

 

 少しずつ、ユリは納得し始めたようだ。

 

 彼女の理解度に合わせて、カザミは説明を続ける。

 

「つまりこれの人間バージョンが自分たちだ」

「あー、そういう……え、もしかして適当に注いだら目や鼻などのパーツが上手いこと揃ってくるってこと!?」

「神様だったらボトルシップ的な作り方も苦ではないかもね。でも、一応はそれは手間が掛かるから私達は自然とその器にピッタリハマるように注ぎ込んだ肉が変化していったと考えた。多分みんなそうでしょ?」

「うん、自分はそう」

「私もそう思ってますわ」

「らしいね」

 

 すり合わせはできているらしい。

 

「で、この状態だと既に肉体が完成している状態だから、ソフトウェア代わりの人格を入れないといけないってことになる。それがいわゆる性格とかのデータ、行動指針になるわけだ」

「態々入れる必要あるの?」

「私たちが知ってる男女が混じって〜っていうのではその体の成長とともに精神も発達していく。しかし、既に肉体が出来た後だとそう言うのが出来ないから……ある程度整ってる自律システムが必要になる。機械に近いね、って言う論文だこれ」

「なるほどなあ」

 

 ある程度は理解できたようだ。これで4人、同じラインに立っての話ができる。

 

「しかし、どうしますの?これが分かったところでって感じはしますけど」

「天衣セツカの犯行の色々がこれで分かったりね。神秘の研究をしているのなら、いずれ説明がつく事象が多いと思う」

「例えば?」

「刃物を使った連続殺人は、自力でたどり着くまでの過程だったり」

 

 カザミは語る。

 

 セツカはまずこの論文の存在は知らないだろうと仮定。それは、トリニティが奥に隠していた書類だから。そしてそんな使いをする書類がぞんざいに扱われるわけはないだろうと仮定しての話だ。

 

 ならば、なぜこの神秘のバリアにたどり着いたのか?

 

「銃弾が効かないけれど刃物が効く、この違和感をどこかで感じて興味を持ったセツカは人殺しによってその研究をしようとした。当然それ関連のために神秘に関わる道具を集めているだろうし。その結果が、あの狼とかになると思う」

 

 本来はもっと複雑な話だろうけど、と前置きする彼女。

 

 あの狼も人間と同じように出来ていて、その器の形が狼であるというだけ。しかし、狼になったとはいえ元は人間であり銃弾などがかなり効きづらい。この性質も受け継いでいるからこそ時間があったのにあまり効果がなかったかもしれないという仮説をカザミは伝えた。

 

「実際それで負けたのもあるだろうから、自分たちが真正面から戦うためには彼女らを上回る圧倒的な戦略性か、神秘などを貫通できる道具を手に入れるかの二択を迫られると思う。前者は先生がいれば……と思うが、正直なところ先生を不必要に前に出すのはやりたくない」

「先生も人間であり、銃を使わない以上わかりやすいところに置いたら刺されるだけですものね。フィジカルには圧倒的な差があるとも聞きましたし、とはいえ貴方達の頭脳を担当していた人間が相手でしょう?」

「そう。言うなれば完全体ゼンヒを相手にしないといけない。自分は彼女の敵だったけど、彼女の逃げる判断や逼迫した状況での周囲を見る力はその時点でだいぶ素晴らしいものだった。それが敵に回ったと考えると正直嫌だね」

 

 困った困った、と特暴課じゃない二人は言っていた。

 

 話をまず理解するのに集中したユリはともかく、ショウコは別のことを考えていたらしい。

 

(そういえばセツカはそもそも二人の合体でリーダーが出来たと言っていた。その場合の人格はゼンヒになっていたとも言っていたが、つまりはあの肉体の主導権はリーダーにあるのか?とすればなぜ今セツ……あ)

「ショウコさん?」

(つまりあの遺物とかで覚醒の引き金は引いているわけだ。しかも器に二人分の命が入ってるってことは、その肉塊のコントロールシステムがリーダーでそのうち一個を間借りしているのがセツカになる。もう一人のリンネはともかく、肉体の変化で今はセツカの方が多くなってるから主導権が握れているが、結果としてまだ二人分の血肉と精神があるわけだから結局バランス崩壊すれば戻る……傷付けば?)

「あのショウコ?」

「スプリングフィールド・セラフィム……」

「はぁ!?」

 

 カザミの驚く声で、ショウコは我に返った。

 

「ああ、何。うるさい」

「勝手に一人で考え事しないでよ!というか急にセラフィム弾の話をして!」

「え、ああ、その……もしかしたらリーダーを戻せる手段があるかもって今考えた」

「それがあれってこと?」

「ああ……多分」

 

 頭の中を整理しながら、彼女は自身が思いついた仮説を説明した。

 

 その1:扇皇ゼンヒは扇堂リンネと天衣セツカの融合体である。

 

 その2:ゼンヒの魂、意識というものはその二つの肉体をつなぎ合わせ制御するために新しく出来たOSのようなものである。

 

 その3:傷がついた結果補強するのに使ったセツカ要素が多くなっており、その進行によってセツカは復活しかけていたのが遺物のせいで確定した。

 

 その4:この過程が正しいとするならば現在セツカによって成り立ってる部分を削ってしまうことでゼンヒというコントロールが復活する=自分たちのリーダーが復活するのでは?

 

 以上のことを話した。

 

「当然傷をつけるというのに関しては銃弾でも可能だ、削る作業に時間は掛かるけど。だけど近距離で勝てるような相手じゃない、そもそも近づけるか怪しいから。だから、それを試すためにもあの銃弾が役に立つんじゃないかと思って」

「だけどあれ設計ごと破棄したんでしょ?君たちって計画性無いよね〜、役に立つものは取っとかないと」

「____じゃあ、なんでマコトさんと君はそれを知っていたんだ?関連資料を持っていたからあそこに君は来た。違う?」

 

 言いたいことが分かったカザミはよそ見をしてから口笛を吹く。

 

「あの?」

「えっとねえ、それは____」

 

 バカにして煽ることに盛大に失敗した彼女は、頬を膨らませた。

 

「可愛くねえ〜……」

 

 ガキを見てるせいか結構悪辣なことを言ったお嬢様のバンリに、ノックアウト。

 

「ぐえ……酷いよ!」

「いやほんと、なんというか……ガキですわ」

「うわーん!お嬢様がいじめるよー!」

「まあまあ」

 

 ユリはカバーをしつつ、自分の友人にやりたいことを聞く。

 

「つまりはセラフィム弾の模造品を作ることでセツカの足止め用装備も用意する。ってことね」

「そうそう。だから、そうだな……またこの資料とは別の資料を調べることになりそうだ。ファイルにはびっしり詰められていたし全部見たわけじゃ無いからどうも言いようはないんだけど、それでも残りのファイルにドンピシャなものがあるかは分からないから」

「情報集めかあ……まだ続くのか」

「まあ、でも」

 

 先が思いやられるな、と言ってる皆にバンリは言う。

 

「ある程度の行動指針が固まったからいいではないですか。今は『この理論を元に』対策をするの段階に来ています。それは前の段階である何を元にするか、よりは簡単な事です」

「そりゃそっか……じゃあ、今日だけでだいぶ進んだと言って良いわけだな」

「勿論。それに、相手の行動に理屈を付けやすいものが手に入っただけでも大進歩ですわ」

 

 お嬢様の四枚羽がぱたぱたしている。

 

 とりあえず休憩するべきだろう、そう考えた4人は一旦資料を片付けることにした。

 

「読んだやつとそうでないやつに分けて」

 

 そう言って全員で資料を分ける。

 

 と言っても雑な山にしているだけである程度は分けているからそれを素早く丁寧に分けるだけ。あっという間に大きなファイル二つに収まった。

 

「えっと、青色が読んだやつで赤色が読んでないやつ」

「おっけー。じゃあ入れるね」

「うん」

 

 金庫の方に布をかけてから開いて、ファイルを入れる。その後に締めたら周りを確認して、ユリが素早くロックを掛けた。

 

「これで少しは安全ね。あんまりこう、いろんな人に見られて良いやつじゃないから」

「そうだな……うん、そうだね」

「よっし!今から飯食べに行こう飯!」

「そうですわね」

 

 流石に腹が減っている。ずっと集中したり考えたりしていたせいで、色々な栄養素が足りない。

 

 相手はしっかり休息しているのにも関わらず、こちらばっかり根を詰め過ぎるのは良くない。ゼンヒが見ていたら自分は……と言いそうなものだが、その幻想に囚われることの危険さを知っているから。それは自分に対する危ない自己肯定であり、自分はそう言われるほど頑張れてないと言う自己否定が前提にある以上まず自分の心身を壊しかねないもの。

 

 彼女に直接会って、伝えたいことを伝えなければ何も始まらないと分かりきっていた、心との付き合い方を分かっていた4人は誰もが一度リラックスできる状態を作ろうとした。その結果が、立場が違えど、たとえ一度敵であったとしても頼れる安心感に直結しているかもしれない。

 

「何を食べたいのですか?」

「肉!」

「いいね。自分も食べたい!」

「じゃあ私も肉で」

 

 なんて会話をしながら、ゲヘナ近くの飲食街に繰り出した。

 

 空には月が出ているが、この月は全ての人間を俯瞰する。

 

 自分に当てられた光が、人を癒すくらいまで闇を薄めると信じながら。

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