シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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悪意の水底/セツカサイドその1

 セツカ達はやることがない、と言うこともなくこちらも情報収集に勤しんでいた。

 

 セツカとヤツカは神秘関連で使えそうなものを探しに、シャルアーは敵対していた売人グループの探りを入れに。

 

「ミディエドルマです」

「ああ、ありがとう」

 

 ムール貝に味つけた米と貝の中身を蒸し焼きにしてレモンをかけたスナックを頼んだシャルアーは、それが届いたらすぐに手をつけて食べ始める。

 

 元はトルコなる国の料理らしいのだが、食べたのはキヴォトスに来てからだ。

 

(こういう軽いものを沢山食べるのもご馳走だよな……)

 

 彼女は唐辛子もかけてから食べ始める。

 

 蒸したりご飯の味付けが濃いのを辛さと酸味で爽やかにしていただくのは本当に美味しい。

 

「ああ、うまいなこれ」

 

 そんな舌鼓を打っているここはブラックマーケット。

 

「あ、あれは限定ぺロロ様ヘッドライト!」

 

 なんて騒ぐ子もいるが、基本はアングラの世界。

 

「おい、あれはあるか?」

「あるぞ。一枚でどうだ」

「ああ」

 

 急に闇取引が始まるのも珍しくはない。

 

 そもそもブラックマーケットは例えヴァルキューレ全体がまともであっても手を出しにくいエリアだ。単純に人が多すぎるのと、非合法な場所の摘発とはいえちゃんとした罪がないと摘発できないという点で法治国家的な縛りが邪魔をする。当然政府である連邦生徒会が指示を出せばやらざるを得ないだろうが、ブラックマーケットに住み着く人間に生活の代替案を出せない以上はそれもできないのだ。

 

 そんな隙間でゆったりしているシャルアーは、そのままゆっくり食べている。

 

「ところで聞いたかあの話」

「何が?」

「扇皇ゼンヒがくたばった件だよ。ほら、行方不明になったって」

「マジで?」

 

 彼女の近くにいる不良二人組が話していた。

 

「あいつどうやらあの襲撃事件に巻き込まれて行方不明になったんだぜ。警察とかも被害者として探しているそうだけどまあ、見つからんだろ」

「ようやくこれでヤクの売買が出来るってことだよな。いやあ長かった、あの女が出てきてからだいぶこっちの仕事が出来なくなってたからなあ。ようやくまともに動けるからガッポガポよ」

「しかし行方不明だろ?いやあ、あんまり油断できる状態じゃないかって思うんだけど」

「ビビってんの?」

「んなわけ。あの女がいかに改革の要になったところでうちらみたいなのが救われるわけでも全滅するわけでもあるまいし」

「政治の基本ってやっぱ人数だよなあ」

 

 なお、そのゼンヒの行方を知っている人間はそれ聞きながら面白い寿司みたいなのを食べてサイダーを飲んでいる。

 

「でもさ、矯正局に居たっていうのが不思議だよな。シャーレ前の交番のおまわりさんがまさかそんなとこにいるとは思いもしないじゃん」

「なんか一回レストランで騒ぎがあったらしくって、それが原因でしばらく入院代わりに入ってたらしいよ?」

「あれかな?一時期暁のホルスがやべーやつに狙われてたって話があるじゃん。あれみたいなことが起こったとか?」

「神秘ってやつ?でもなあ、それはどうなんだろ。レストランでそれっぽいやつは回収されたとは風の噂で聞いたけど……」

「知ってるか?あれで担当していた警官が二人がダメな状態で見つかったって」

 

 そのことを詳しく知っている少女は、今唐辛子をかけすぎて咽せている。

 

「そうそう、あれが確かゼンヒとハクジツっていう少女だったんだっけか」

「ああ、ってことはそういう?」

「かもな。つまり、彼女らはそれに触れて気がおかしくなってる」

「じゃあヴァルキューレは処理をしようって線も出てくるか」

「だろ?だからビビる必要もないって」

 

 なんて話してる不良達に、さらにもう一人追加が入る。

 

「ウィーっす」

「おお、戻ってきた。どうよそっちの首尾は」

「いい感じ。でもまあ、それはそれとして、嫌な情報を聞いたんだよ」

「なんだよそれ!」

「天衣セツカが復活したって」

「え?」

 

 三人して固まる。

 

「なんだって?」

「例の人間が復活したんだよ、殺人鬼が」

 

 天衣セツカがどうたら、というのはシャーレに近しい人間であればあるほどあまり関係はないが、不良達に取ってはかなり重要な問題だ。

 

 それは彼女がとんでもない殺人鬼だから、としか言いようがないがその一言が割ととんでもない。

 

「しかし、どうやって?」

「わからない。だが、どうやらヴァルキューレのゴタゴタで漏れた情報によるとさっきお前らの話していた扇皇ゼンヒがそれだったって話らしい」

「はぁ?んなわけ」

「彼女がもし遺物に触れて復活した場合、ずっと行方不明なのにも説明つかない?」

「そりゃ説明は付くだろうけど……って事は今からはロクに外出れないって?」

「いやまあ帰ってきて早々だからどっかに身を潜めてるとは思う。でも、ちょっと活動は控えめにした方がいいよ」

「ちぇっ、やっぱ生まれを呪うべきだよな」

 

 だべりながらポテトをつまみ続ける不良三人。

 

「うちら今も楽しくは生きているけどさ、ずっとこうだよな。シャーレは上辺の人間としか付き合いないし、市民を想ってくれるはずの人間は連邦生徒会長が居ないと何も出来ない烏合の衆で、不良の中でのスターだったはずのリンネさんは行方不明。ほんっと、報われねえよなあ」

「でも本当に良かったよね、どんな形であれゼンヒがくたばってくれて。これで私らだけ救われず他の何者でもない一般市民が救われるような、所謂ヒーローが死んでくれないとほんとにやってられなかったから……」

「ほんとほんと、でも折角ならリンネさんに生き返って欲しかったなあ」

 

 愚痴なのか悼みなのかよく分からない会話が繰り返されていく。

 

 最もそのセツカの仲間シャルアーは、特に何も思う事はなく食べ進めていた。

 

(やっぱ奴らにとってはどっちも嫌だったか……それはそうだよな。奴らにとっては快楽殺人犯でしかないから、恐怖の象徴だ。悪どい事を自身もやってる以上自衛しか出来ることはないし)

 

「じゃあしばらくはセツカのことを見ながら、ちょっとずーつ色々開拓していくかあ。始まってるんだろ?身体の拡張開発が出来る薬」

「マリファナに青輝石突っ込んで出来た輝薬のことでしょ?出来てるよ〜、実際効果は抜群で脳の使用率は40%上がった」

「40%?それっておっきいの?」

「普通の人間が使ってるペースが100%だとするとだからそれが140%くらいがベースになると考えれば相当に性能は上がるんだよ。発達障害程度なら普通にこれ飲むだけで解決できる」

「すげえ!」

「上の人間は立場がある手前使えないからパパッと革命が出来るくらいには、こっちの頭が良くなるんだね」

「いいじゃねえか!最高だ!」

 

 やっぱり不良というのは頭が悪いんだな。そう思う彼女は、あっという間に食べていたものが無くなってしまった。

 

「どうしようか、腹が減るしな。かと言って今日はバカみたいにペペロンチーノ作るってヤツカのやつ言ってたし」

 

 追加注文するかどうか悩むシャルアー。

 

「やっぱうちら恵まれてるんじゃない?」

「社会の中で立場を良くするより社会を作る方が天才だもんね!そう言う意味じゃセツカなんて取るにたら」

 

 ガン。

 

 急に酷い音が近くで鳴った。

 

 あまりに突然で驚いてしまっているが、気がつくと不良が2人血を流して倒れている。

 

「あ、あえ……!?」

 

 話していた相手がいきなり喋らなくなって、動悸と困惑と恐怖で動けなくなってしまってる最後の不良の後ろに、一人立っていた。

 

「いやあ君たちって呑気だよねえ。そう言う話はね、こんなオープンな場所でしちゃうもんじゃないよ〜?」

「ひ、ひ……」

 

 不良が後ろを向く。

 

 そこには釘バットを持ったセツカが、笑って立っていた。白基調の漢服だったせいで、返り血で赤くなっている。

 

「驚いたよ。釘バットってキヴォトスの人間にも効くんだね。銃弾もある種の打撃みたいなもんだし、だったら蹴りと一緒で効かないと思ってたからさ……ん、あれ?釘が抜けて……あ、刺さってるね釘。つまりめちゃくちゃスピードつけてこれブッ刺せばあとは破壊できるんだ」

「おおおおお前は!」

「じゃじゃーん。天衣セツカだよ」

「ゆ、許して……!」

「1人だけ許す理由もないから同じことしてあげるよ」

「あ」

 

 その不良も、仲間と同じ末路を辿った。

 

 セツカが勢いよく振り回した釘バットはそのまま不良に直撃。釘の頭が関係なく刺さるとそのまま何度もテーブルに叩きつけて破壊。

 

 釘に刺さった頭がバットと一緒に連動してテーブルに叩きつけられ、そのせいで割った皿も顔に満遍なく刺さることで最早原型を留めていない。

 

 結果、一番最後の不良は最後に相応しく、彼女の頭は人間のパーツとは思えない粘り具合を見せてとろりとバットから垂れ落ちた。

 

「バカにする人間はちゃんとこうしておかないとね。君たちを増長させるわけには行かないんだよ、色々と」

 

 そもそもリンネのことが大嫌いなのでその傘下の人間をいくら殺してもいいと思ってるあたり彼女もまた不良なのである。

 

 近くのシャルアーを見つけた彼女は、笑顔で寄ってきた。バットはその不良の隣に投げ捨てている。

 

「シャルアーじゃん。今飯中?」

「さっき食べ終わったところだ。お前のせいで食事が喉を通らなくなる寸前だったぞ」

「あいつらの話聞いてたの?」

「まあな」

 

 先に会計は済ませてある、そう言ってシャルアーは立って、2人は道路を歩き始めた。

 

「他愛もない話だったがな。『扇皇ゼンヒが天衣セツカかもしれない』『ゼンヒがいなくなった事で商売の邪魔がいなくなり過ごしやすい』……なんて話だ」

「それでまあアレだけ長く話せるよね」

「人の感傷と言うのは膨らむものさ。ま、中身がないと言えばそれまでだが。感情も空気の一種だ」

 

 話しながら歩いているが、やはりここはブラックマーケット。陰鬱な雰囲気は昼でもあまり拭えない。

 

「食後に歩くにしては全然こう、スッとしないな」

「そうだよね」

「あ、そういやもう一つ話してたな」

「なに?」

「あいつらが新しい薬を開発したんだと」

 

 セツカの表情が真顔に戻る。彼女にとっては、それなりに真面目な話らしい。

 

 シャルアーは、そんなセツカの表情を見ながら、マイペースに話を続けた。

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