シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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悪意の水底/セツカサイドその2

「その薬と言うのは輝薬と言う」

「輝薬?」

「マリファナと青輝石を混ぜて作るものらしい」

「はぁ?」

 

 普通好物と違法植物を混ぜようなんて発想にならないはずだが、どうやらそれで何かしらの薬が作れたらしい。

 

「なにしろ人の脳の使用率ベースを140%にするんだと。輝薬というのはそう言うものと奴らは言っていた」

「あれ?アッパー系のやつとかじゃなくて?」

「細かい事はわからないが、まあ……あんまり良くはないだろうな。結局そう言う人間の性能を底上げするって薬を常用しないといけないって言うのは身体を壊す。エナジードリンクだってそうだが、それをドラッグで伸ばして固めようって言うんだから」

「へえ」

 

 急に興味なさそうな返答をして、ついでにあくびをするセツカ。先程までの態度から戻ってくるのに数分もかかっていない。

 

「おいおい」

「爆発的に普及するとは思えないけどね、薬物の基本は快楽だよ」

「そういうもんか?」

「うん。だって、強い中毒性や快感を与えて耐性がなくなってきたら捨てるが一番だよ?そんな強化するための薬、それも脳が常に140%の出力で動けますだなんて他の機能が付いてこれないに決まっているってさっき同じようなことシャルアー言ってたじゃん。それに出力できたとして、シャーレ所属の生徒に太刀打ちできるかどうかなんて言われたらはっきり言ってノーだよ」

 

 これで会話が終わった。

 

 彼女は三人バットでしばいた後なのでまだ返り血が付いていて目立ってしまうのだが、彼女たちの住んでいるところからは遠く、あと彼女らはちゃんとロックをかけた車で来ているため帰るのに支障はきたさない。

 

「で、合流したはいいがそっちはなんか色々調べていたんだろう?」

「ん〜、大した収穫はなかったけどね。ただまあ、さっきの奴らとも含めてかなりの数の売人が動いているのは聞いた。まあ、盗んだからにはちゃんと使うよね」

「それがあの薬となるのか。気が滅入るな」

「まあまあ、それでもヴァルキューレは対峙せざるを得ないから。私たちはゆっくりと必要なものを探していけばいいよ」

「そうだな」

 

 ブラックマーケットの入り口近くの有料駐車場。

 

 ここも悪い奴らが管理してはいるものの、結局駐車場として信頼できる形であるべきなのが一番の稼ぎになるのか普通の場所と同じく良い管理がされている。

 

「んじゃ家帰るか。あ、ヤツカは?」

「彼女はまた別のマーケットに出かけてる。アビドスに一番近い場所に行けば、もしかしたらレストランのやつみたいなものが見つかるかもしれないからって」

「姉のために一生懸命なんだな」

「シャルアーだって負けてないよ」

「さっきお前の金で飯食ってただけだがな。まあ、半分残ってるから____ジュースでも買わないか?」

「いいねえ気がきく子は大好き!」

「我儘な娘に囲まれてるからな」

 

 シャルアーは頭を掻いて、やれやれ、と思いつつパーキング近くの自販機に寄った。

 

 残っているのは500クレジット、自販機でエナドリ二本買えるぐらい。

 

「どうする?」

「どうしよっか」

 

 二人が悩んでいると、急に後ろから声をかけられた。

 

「すいませーん」

「あ?」

 

 振り向くと、数人警官がいる。

 

 ヴァルキューレの警官だが、少なくともガラが悪いというか、薄ら笑いで威圧してきてる感じがする。警棒をすでに手に持っているから、まずまともでは無いかもしれない。

 

「いやあねえ、さっき通報があってねえ、頭がゼリーみたいに潰したやつがいるって。そこの服に血がついた姉さん、ちょっと署まできてくれるかなあ?」

「ちょっと〜?私被害者なんだけど?だって、犯人が急によくわかんない凶器を振り回して怖かったから逃げてきちゃって〜」

「普通そんな状況にあって笑ってるような人間は、いないんだよねえ」

 

 実際この言い分や、狙いのつけどころは警官の方が正しいのだ。不良をしばいたのはセツカなのだから。

 

 しかしまあ常に汚職をしているようなタイプの警官なのは間違いなし、きっとこれも人数有利で仕掛けて冤罪をでっち上げて捕まえようとでも考えているのだろう。事実ブラックマーケットは下手に警察が手を出せないエリアであり、お巡りさんだって何も警戒せず入ろうものなら袋叩きに場所だからろくなコネは持っていないのは事実。ただ実際罪を犯しているから、この行動は間違っていないが。

 

 だが無駄に威圧感を与えようとしていて失敗しているせいで、すでに二人は相手を倒すことを考えてしまっている。

 

「あんまりショックだったから一瞬回って落ち着いてるだけで」

「うだうだ言ってねえで来いよ!」

 

 セツカは衣装の、ゆったりとした袖を引っ張られてしまう。

 

「いや〜ちょっと勘弁して」

「犯罪者が口答えするな!」

 

 彼女の態度に苛立った警官が、警棒で相手を打突しようとした。

 

 その時だ。

 

 袖の向こうから銀色の鋭い光が飛んできて、警官の首元に刺さる。

 

「ほーら言わんこっちゃない。人を決めつけて行動するとこんな不幸が待っているんだよね」

「て、てめえ何もんだ!うちらをなんだと思って」

「政府の雑兵ども」

「やろお!」

 

 一人が警棒を持って襲いかかる。

 

 袖の方を警戒しながら相手の腕の先が自分の胴体にならないように回避行動をしながら、殴ろうとしている。しかしセツカもそれを警戒しない人間ではない、何せ人殺しをやっていたのだから当然こういった戦闘行為にも慣れていた。

 

「ほらほらこっち、疲れる前に倒さないと君の首飛ぶよ?」

「なめんじゃねえ!お前ら銃を出せ!こいつの手品全部砕け!」

 

 他の警官が拳銃を構えた。

 

 リボルバー____警官だからか、確実に動作するものを選んだのだろう。

 

「シャルアー!」

「ああ」

 

 しかしセツカ側もそれを甘んじて受けるわけではない。

 

 シャルアーは自前の55口径拳銃を取り出してから撃つ。いつもの通りに、跳弾を交えたものだ。

 

 まず周辺で銃を構えている警官の拳銃を銃弾で破壊。乱射しているのにも関わらずセツカに当たらない。そのまま射撃を続けていると、警官のリボルバーの破片が空中を舞っている。

 

 それに跳弾が当たって、破片の鋭い部分がそのまま警官の首や目に刺さった。

 

「あがっ」

「ゔぇっ」

「うーんどうだい?君たちは凶器の扱い方が知らないと見えるが」

 

 相手が狙いを定めて撃つまでにシャルアーは何発も、確認せずにとりあえず撃ってるように見える。実際は考えて撃っているので、相手よりも命中率と威力に勝る弾で押していた。

 

「くそっなんだこいつ!」

「なんだと言われても彼女の仲間、としか言いようがない。実際にそうだから、な」

 

 警棒でセツカといい勝負を演じている(というより彼女に舐められた動きをされたせいでただ疲れさせられてる)警官は怒りのあまり力任せに振っているが、それが当たらない。

 

「動きが雑になってきたね?」

「避けんじゃねえ!大体お前ら、なんでこっちの援護をしない!」

「後ろを見てみるといいよ」

 

 警棒の打突を掌底で受け止め、強く押し出してノックバックさせるセツカ。

 

「ああ?」

 

 その警官は、とんでもないものを目にすることになる。

 

 シャルアーは銃しか使ってないというのに、すでに後ろは血の海。肉塊という島が浮いてるといった方が正しいほどの景色が広がっていた。

 

「あ、お前らなんで」

「私の仕業だ」

 

 マズルから煙が出ているのを口から吹いて飛ばしながら、シャルアーが言う。

 

「私は曲芸が得意でね、銃弾だけで刺殺ができてしまうんだ。まあ、拳銃の破片が飛んできて殺されたのは刺殺というべきかは知らないが。

 お前は警察だろう?知ってると思うから、教えてくれないか。ついでに罪状もよろしく」

「貴様あ!」

 

 警官は怒髪天を突いた状態。

 

 だが、すでに下がったり応援を呼んだりするなどの行為が全く思い浮かばなかったその警官の死は確実なものとなった。

 

 警察というのは『悪の道に落ちてしまった物を止めて市民を守る』ことが責務。その在り方をきっちりヴァルキューレに示したキリノは勿論、特殊部隊を率いていたゼンヒですらどんな組織でも裁くのは司法ということを守るためにカザミ……シンを捕まえたりなど、存在の意義を守っていた。

 

 それをこの警官は無視したのだ。

 

 彼女はすでに殴り倒すことしか頭になく、自身の威厳を取り戻すために相手を打ちのめそうと襲いかかる。

 

 だがすでに、シャルアーが後ろの人間を殺してしまっておりその間に戦ったせいですでに疲労困憊。そこにセツカが攻撃を入れることでトドメを刺そうとした。

 

「ぶべっ」

 

 突進しすぎて胴体が空いている相手の首に、体を捻って腕を出しつつ攻撃。

 

「さようなら警官ちゃん!」

 

 セツカの袖の中に入っているのは隠しで飛び出す刃物の射出機。

 

 手が警官の少女の頭を掴み、そのまま袖下からナイフが飛び出して喉に刺さった。

 

「ぐっば〜い」

 

 彼女が手を離すと、相手は重力に従って倒れ伏す。すでに息はなく、彼女は法的には物となる。

 

「あ〜あ、汚れちゃった。これじゃ怒られちゃうよ」

「まあ、それだけ変な輩に襲われたのは事実だからな。ほら、車」

 

 素早く駐車場にある車のドアを開けて、そのまま二人は乗り込む。

 

 急いで発進する……と、それはそれで周囲に怪しまれる可能性があるので、ゆっくり駐車券を入れてから車を進めることにした。

 

「あ、ヤツカからメールが来てる」

「ん?」

 

 自分のスマホを見ながらメッセージを細かく確認しているセツカ。

 

「うーん、なになに……?」

「なんだよ」

 

 ゆっくりアクセルを踏んで進むシャルアーは、彼女に来たメッセージを確認中。

 

「新しい機材の確保はなし、か」

「いやあ、まあそう簡単に見つかるもんじゃないさ」

「でもなんだか耳寄りな情報を手に入れたんだって。通信して傍受されるのも嫌だから家に帰ってきてだって」

「丁度いい。警官に襲われたのが偶然だと祈る時間ができたな」

「思った通りの言葉だけ喋るのやめない?」

 

 ブラックマーケットは不良や悪い奴らが集まってできた場所で、そうそうヴァルキューレの連中が屯しているわけではない、というのを考えればシャルアーの発言は正しい。

 

「じゃあ、帰ろっか。飯は……大丈夫?食べれる?」

「今ので腹減ってる。運転し終わったらまあ、ろくに動けないかもな」

「も〜」

 

 二人は笑いながら帰路に着く。

 

 

 

 

 

 _____そんな二人を見送るような人間が、一人。

 

「そうか……彼女も、か」

 

 スーツ姿の少女が、後ろを向いて惨状を見る。

 

 これだけ死んでてパトカーの音さえしないのは、今いる場所がどれだけ無法かの象徴だろう。

 

「噂には聞いていたが、復活していたか」

 

 自身の薄紅色の髪が血を吸い、根元へと逆上しようとするのを見ながら彼女は呟いた。

 

「この前の借りは必ず返すぞ、セツカ」

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