シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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悪意の水底/セツカサイドその3

 今日もヤツカが作った飯を三人で食べている。

 

 夜になって帰ってきたセツカとシャルアーは、まずはパエリアをよそって食べながらヤツカの話を聞くことにした。

 

「ところでヤツカ」

「なに?姉さん」

「メールで送った耳寄りな情報というのをちょっと聞いてみたいんだけど」

 

 あれね、と言われた方は思い出してから話す。

 

「まず一つ目はブラックマーケットで聞いた情報なんだけど、どうやら向こう側_____特別暴力対策課が本格的に動き出すって情報を得たわ」

「予測はしていたなあ、でもなにをするの?」

「神秘に関する研究やその関連資料の調査に乗り出すんですって。おそらく私のせいね。ごめんなさい」

「気にする必要はないよ。二人が私を欲していた以上は、仕方ないことだったんだろうし」

「ありがとう。で、それに際して、どうやらアリウス過激派のメンバーを泳がせるつもりらしいの」

「え?」

「ゲヘナに赴いた私たちの知り合いの不良の一部が、特暴課の事務所に入ったシンなる人物を見たんですって」

 

 彼女の名前がカザミであることを三人は知る由も無い。

 

 だが、間違ってはいない。実際に彼女らは合流して神秘に関する資料を見ていたのだから。

 

「随分と私に関して情報共有をしたのかな、今更すぎるけど」

「ただそういう行動をしているっていうのは聞いたけど、次なにするのかはさっぱり分からないのよね。流石に権限を超越した行為はできないでしょうし」

「うーん、どうなんだろ」

「トリニティかゲヘナでもう少し調べ物をする、というのも考えられるな」

 

 丸焼きのチキンを少し切り取ってから食べるシャルアーは、飲み込んでから口を開く。

 

「どういうこと?」

「スプリングフィールド・セラフィムの再生産を目論む奴が出てきてもおかしく無いって言ってる。姉妹揃ってそういうのに弱いからな、ありうる話だ」

「それ作ってどうするのよ」

「例えばヤツカなら神狼の破壊に役立つかもしれないし、セラフィムバレットの生産に成功した場合、セツカが撃たれてゼンヒが復活してしまう。というシナリオを相手は狙ってるんじゃ無いだろうかっていうそれだ」

 

 ここは流石にシャルアーの考えすぎではあるのだが、実際その線も全然あり得る。

 

 そう思わせるのはやはりカザミの存在だろう。彼女らは相手を過大評価はしていなかったが、やはり不安要素として自分達が関わっていた分野を知っている人間が相手にもいるというのは少し気がかりな部分。相手の方が人数が多いのが、尚更そうさせた。

 

「そっかあ」

「いやいや、あり得るそんなこと?ただでさえそんなことをしてくるような人間があの組織にいた場合、最悪シスターフッドみたいな見られ方するってことよ。キヴォトスの治安維持組織としての役割を少し外れるから、そう言った強行手段を取るとは思えないわ」

「んー?あり得ないことじゃ無いかもよ」

「姉さん」

「何せ、元はSRTだからね」

 

 セツカの言うことも一理ある。

 

 実際に彼女が言及したSRTというのは、連邦生徒会の軍としての役割を果たしている。つまり公権力的な最高戦力であり、それが非合法な手段を取ったとしてもそれは国の命令のため犯罪にならない。そればかりするのは憚られるが、いずれにせよ荒っぽい事も視野に入れた訓練もしているだろうと考えた。

 

 それに、彼女の中にいるゼンヒの記憶は実際に強硬手段を取ったことがある。それこそ、シンと呼ばれる少女にだ。

 

 いくつか状況的に仕方なかったと言えるが、ゼンヒはスプリングフィールド・セラフィムの銃弾を使ってシンを撃破し水底に沈めた。この要素を考えるなら、相手側も自分たちに手を焼いたら手段を選ばない可能性があるとセツカは考えている。

 

「なるほど……でもまあ、そこまで血眼というか、必死になるというか、考える必要はないんじゃないかしら。どの道彼女たちが来る事は分かっていたとしても、先生まで協力するかどうかは定かじゃないし」

「うーん、結構派手な騒ぎを起こしたからね。そのうち先生も来そうな感じはするけど、それまでに仕事を終わらせようって焦っても仕方はないのは確かだし。でも実際彼が協力するまでには相当な時間を要すると思うっていうのは、まあ話してた通りだし。大丈夫でしょ」

 

 三人は飯を食べ続ける。

 

 ワインを飲みながら過ごすひとときはかなり格別だ。ヤツカもシャルアーも、この食卓にセツカが来ることを切に望んでいたのだから嬉しくて仕方ない。

 

「あ、そうだ。シャルアーはどうだった?何か調べるために出かけたって言ってたけど」

「ああ、不良の動向を探るって奴だろ?えっと、リンネの組織はまだ名前が決まっていなかったが、少なくとも奪われたやつの使い道は判明した。新たな薬を作るためのものだった」

「ふぅん?」

「輝く薬、と書いて輝薬という。まあ、それなりに脳の性能を上げるものらしいが、それだけだから私もセツカもそこまで重視してるわけじゃない。ただまあ____」

 

 喋っている方は、セツカを見て嫌な顔をする。

 

「こいつが人の食事中に隣の席の人間をしばきまわした事はちょっとだけ文句言いたいな。人がせっかくもの食べてる時に」

「え〜?愛しのセツカちゃんのお茶目な部分を見せただけじゃん。文句言うつもり?」

「あの店のミディエドルマ好きだったのに食えなくなっちまったじゃないかしばらく!」

「あ〜、その……それはごめんね?」

 

 頬を膨らませながらも、セツカは謝罪。

 

「まあ、次からはやらないようにしてくれ。私は出先で飯食うの大好きなんだから」

「気をつけるよ」

「で、だ。そう言うことがあったんで少し汚れてたんだな。まあ、ヴァルキューレの警官をしばいたのもあるが」

「なにしてるの?」

「因縁をふっかけてきたから伸ばした。ただ、生活安全局という落ちぶれの_____さらに落ちぶれ、ブラックマーケットに屯してもなにも言われないくらいズブズブの警官だからさしてぶちのめしても文句はないだろうさ。実際は喉や目に破片やらなにやらが刺さった状態だけどな」

 

 シャルアーの笑い声は、少しだけ邪悪だ。

 

 飯とワインが減っていく中で、会話は弾む。

 

「とはいえ、今後どうするかだよな」

「そうね。でも、今の行動を続けていくしかないんじゃないかしら。姉さんは薬物売買のグループとうまく特暴課の連中を鉢合わせて争いを起こしたいって言ってたし」

「それがうまくいけば苦労はしないんだけどね」

「そりゃそうか」

 

 三人で笑う。

 

 アルコールが入っているせいで、ちょっとしたことでもくす、と来てしまうようだ。

 

「とりあえずはこのまま情報集めを続けるしかないけど、正直なところ気になることがあってね」

「あのヴァルキューレの警官が仕掛けてきた理由についてでしょ?」

「さっすがヤツカ」

「正直なところ偶然だと思ってるわよ私は」

「それはまたどうして」

「まず私たちの情報を知っているならば、むやみやたらに攻撃してこないと思うの。警官はこう、絵に描いたような汚職警官なんでしょ?犯罪者たちが処理してもらうために消しかけた線もあるとは思うけど、結局のところ偶然かそういった程度の意図しかないと私は思うわ」

「そうだな、私もそう考える。仮に別の存在が糸を引いてたとしても、その意図はわからない」

「いとだけに?」

「違う」

 

 今度は三人で失笑。楽しそうである。

 

「まあ、結局それ以外の線を考えた場合はなにもわからないっていうのが一番なんだろ?」

「ええ。だから、そこ以上は今は考えても仕方ないと思うの」

「そういうもんかあ」

 

 さて、そんな晩飯も全員が皿を綺麗に平らげてしまうことで完食。

 

「お、全部食べ切ってしまったね」

「うーん、今日は余ると思ったんだけど……思ったより腹減ってたの?」

「いやあ失敬、これでも結構腹空かせてて。車に乗った時はすでにお腹空いてたっていうレベルでね」

「戦った後だものね。でも、足りて良かったわ」

 

 ヤツカの笑顔を見てから、二人手を合わせる。

 

「ご馳走様」

「ええ」

 

 皿くらいはまとめておくセツカとシャルアー。そのうち後者の方に、ヤツカは声をかけた。

 

「あ、そう。シャルアー。今日はもう帰るの?」

「ああ、帰るつもりだ。何せ本格的に動き出す前に調整しておきたいものがある」

「カイーナとジュデッカ?」

 

 シャルアーが持っている武器は、今はアンティノラとトロメアしかない。

 

 コキュートスには後二つの地獄があり、それの名を冠する武器は今も倉庫に眠ったままだ。

 

「ああ、あの二つの調整だ。これからはとんでもないものと相手する可能性があるからな」

「手伝いましょうか?」

「いらない。自分の武器は自分で調整するから」

「そう。でも、気をつけて。あれだけ派手に暴れた後、一人で帰るのは危ないから」

「まだ夜の8時だろう?大丈夫だ」

 

 そう言ってから、シャルアーは立つ。

 

「じゃ、二人とも。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

「おやすみ〜」

 

 部屋から一人の少女が去った。

 

 体裁上の姉妹だけが、部屋にいる。

 

「カイーナとジュデッカ、というとあれか。近接武装」

「そうね。あんなものを持っていたとは最初見た時には驚いたわ____一応前、姉さんが帰ってくる前に聞いてみたらあとは刃の部分の調整だけって言ってたから」

「随分修理したんだね」

 

 ソファでだらけ、横になってから手すりから逆さまにヤツカに顔を向けるセツカ。

 

 見られた方は皿を洗いながらも彼女の方を見る。

 

 自分を助けてもらった恩人が、いつもと変わらないような表情で自分を見ている。それが嬉しい、と思う。だが______

 

 なんとなく、なんとなくだ。

 

 その瞳の奥に青色が見えた気がした。

 

「おーい」

 

 何故海のような、空の色のようなものが見えるのだろうか。

 

「ヤツカー?」

「あ」

 

 ようやく自意識が戻ってきた彼女は、そんな相手に手を振る。

 

「大丈夫よ。気にしないで」

「毎回いろんなところに飛ばしてるもんね。あ、そうだ。だったら一度休みを入れよう。前なんか入れようみたいに言っててみんなあれどうだろうこれどうだろうって探し回ってたから」

「そうね」

 

 そうして、彼女たちの夜は更けていく。

 

 互いに相手の情報を得る、そのための手段を探ると地味ながらも大事で、自身ができる限りの基盤固めをやっていた。

 

 だが、時間は有限。時間だけならまだしも______

 

 時の流れは、ハプニングを引き起こす。

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