シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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私という女は/ユリサイドその1

 この日、ユリとショウコは矯正局内の病院へと足を運んでいた。

 

 基本ここは収容した凶悪犯の様子を見たり、具合が悪かったらここで治療をするためにある場所なのだが、今回はある特別室にやってきたのである。

 

「ハクジツさんのこと?」

「ああ」

 

 まだ誰もいない通路で、二人は話す。

 

「情報収集をするにあたって、彼女に聞いておきたいことがある」

「それって何?」

 

 セツカが彼女に出会った時に言ったこと。

 

 自分とリンネという女が合わさってゼンヒができた、そのリンネはハクジツの恋人だった。

 

 それを言われたと、ショウコは話す。

 

「この一言が本当なら、もしかしたらハクジツさんは何かを知っているかもしれない。そう思った」

「でもショウコ、それって」

「ワンチャンほんとに自分たちの壊滅を招く話題かもしれない。もし下手に波及したら取り返しがつかないことになるけど______それでも私たちは向き合わないといけない」

 

 隠し事でとても大きな穴が空いたヴァルキューレとしては、これ以上同じ轍を踏むわけにはいかない。

 

 そう思ったのは、彼女たちだけではないようだ。

 

「来たか」

「お疲れ様です!」

「お疲れ様です」

 

 二人が敬礼したのは、公安局長のカンナだ。

 

「今の彼女はどうですか」

「元気はないが不安定というほどでもない。一応怯えさせないように、仕事の都合で様子を見るというふうに言ってある。

 彼女もあの遺物で暴走した身だ。ある程度自身の立場を理解しているのだろう」

「そうですか____なら、早く終わらせましょうか」

「ああ」

 

 積もる会話があったとしても、別の場所でするべきだろう。そう考えた三人は、目の前にあるドアを開けた。

 

 ここは窓がある。陽の光が差し込み、周りが重厚な機械やらに囲まれていること以外はほぼ病院みたいなものだった。最も、病院と違って滅多に物は持ち込めないが。

 

 外を見ていたハクジツは、扉の音と共に三人の方を向いた。

 

「こんにちは」

「ああ、こんにちは」

「失礼するぞ」

 

 最後に見た時よりかは痩せ細ったりはしていないから、体の方は順調に回復しているようだ。精神の方は分からない。

 

「あの、すみません。急に来てしまって。アタシたち、様子見に来たんですけど」

「大丈夫。私、話せるくらいには元気。

 ねえ、先輩はどこ?無事なの?」

「ああ、大丈夫だ。ゼンヒは」

「天衣セツカは無事だよ」

 

 ショウコは単刀直入に状況を言った。

 

 バッ、と彼女を止めようとして絶句してしまったカンナともう止まれないことを悟ったユリは呆れた顔。

 

 その発言に目を見開き、口が半笑いになっても取り繕うとするハクジツは震えた声で言う。

 

「は……?セツカ?誰それ、そんな子知らない。だって先輩は」

「その先輩が天衣セツカという殺人鬼だった、と言えば?」

「ふざけるな!そんな、そんな女と先輩が一緒なわけない!だって!だって!あの人は!」

「リンネという女だから?」

 

 椅子を持ってきて座るショウコに、ベッドの端に寄って拾われた直後の子猫のように警戒するハクジツ。

 

 取り繕える状態じゃないことは、尋問にとっては大事なこと。それは、警戒される前に相手の精神を崩すために大事な物だから。

 

「なんでお前がそれを知ってんだよっ!何、なにがしたいの!?私が悪いから全部殺そうっていうの!?」

「ほらパニックになった!ショウコ流石に今のは」

「黙ってろ!」

 

 仲間にさえ大声を出す彼女は、すでに本来SRTで使うはずだった尋問の仕方に入っていってるようだ。

 

「ここは私の仕事だ」

「ああ、仕方ない____黙っていればいいんだな?」

「ええ。それでよろしく頼みます、局長」

 

 少し騒がしいが、ショウコは話を続けることにした。

 

「今回私たちがここに来たのは、ハクジツさんが何かしらの情報を持っているかもしれないという考えに基づいてのものだ。セツカは自分とリンネの合体でゼンヒが生まれ、もう片方の人間はあなたの恋人であると言っていた。自身があなたを襲ったことも、ね」

 

 近くにあった遮る用のカーテンを持って震えているハクジツ。

 

「安心して_____とは言えないが、今回の件に関してはハクジツさんへのお咎めはない。少なくともリーダーに怪我をさせたことに関しては事故として処理するしかないし、結果的に助けに来たシャルアーとかいう女のせいになるから。それに、私たちは過去に付き合いがあったとしても、あなた自身が犯罪を犯してなければ罪を追及することはない」

「は……?」

「当たり前だよ。リンネという女の罪を、あなたが背負う理由も権利もない。罪は犯した当人の物だから。そうでしょ?局長」

「ああ、公安局はお前の身の安全を保証する。正直、お前が売買に加担していたとしても末端の売人であるならば今回に限っては罪に問わないつもりだ」

 

 リンネという薬物売買の元締めの存在が未知数かつ恋人であるなら正常な判断ができる状態ではなかったと言えるだろうし、神秘の研究でそれなりに悍ましいことをやっていた殺人鬼セツカの被害にそれであっているのだから、幹部クラスの仕事をしていたとかではなければ罪には問えない。心神喪失の例とも言える。

 

 キメてたら困ったものだが、検査の時には異常が発見されなかったためにその線もない。会話がろくにできない、様子も変なら考えるがそう言ったのもない様子。急激な性格の変化や行動の過激化は、遺物のせいであることの方が大きいだろう。

 

 あとヴァルキューレがその時汚職まみれでまともに機能しないのを追加するなら、公共機関が機能していないという点で連邦生徒会の責任にもできる。

 

「だから、知ってることについて教えてほしい。あなたの好きな人を救うために必要なんだ」

 

 そういう願いは、届くこともない。

 

 すでにストレス値限界のハクジツは、急なパニックを起こし始めた。

 

「知らない!あなたたちは彼女が居ようが居なかろうが関係ないから!だってそうでしょ!?自分たちの状況さえ良くなれば、頭すげ替えてやっていけばいい!だけど私は、私にはあの人しかいない!犯罪だってやってない、なのに勝手に大事な人は消えていく!

 私はゼンヒじゃなくてリンネがいい!それすら分からないような人間が脅してきて、何様のつもり!?」

「リンネだってリーダーの中にいるかもしれない!」

「知らない!どうせ、どうせまたゼンヒに戻るだけなのに、何も言わないで!私にはリンネしかいない!自分達はのうのうと生きてきて、大切な人を失ったこともないくせに!

 彼女しか私を満たしてくれる人は居なかった。そういう女なの……兵器には分からないだろうけど!連邦生徒会長の傀儡で、廃棄され損ねたお前らに人間の気持ちなんか分からない!」

 

 それは暴言に近しいものだ。

 

 いや、先に逃げられないことを理由に追い詰めるような聞き方を良しとしたショウコが悪い。それは紛れもない事実であり、彼女の後ろにいた2人もまた咎め損なった分後で言うつもりだった。

 

 だが、相手を兵器と呼び傀儡と言い、挙句捨てられるべきだったという文言は彼女らを傷つける。

 

 ゼンヒがノイズから遠ざけて活躍させてくれていたのが事実であり、彼女が纏めたからこそきちんと訓練を受けたただ強い兵士から戦略時点で勝るような集団に進化出来た。そうでありながらゼンヒは、彼女らに対して差別をしない。それは為政者としても十分な素質がある、ということだ。事実この要素も、彼女の奪還を望んでいたマコトは見抜いていた。

 

 自分たちは言葉だけでは動じない、と思っていても頼みの綱であったハクジツは「ゼンヒを必要としてない」「それすら分からない兵器にあーだこーだと言われたくない」と突っぱねてしまっている。

 

 時間は有限で、内心焦っていたが故に下手なタイミングで相手に聞いてしまったショウコはやらかした、と思っているが言い返せるだけの言葉はない。カンナは中立を保ち、ハクジツの味方になってうまいこと衝突をかわそうとしたが鬼気迫る相手の感情に若干気圧された。だが_____

 

「アタシだってどうしたらいいのか分かんないよ!」

 

 しばらく黙っていたユリは、すでに限界に達していた。ハクジツの悲鳴に呼応するように叫んだ。

 

「アタシらの大切なリーダーが殺人鬼だなんて本当は信じたくない!だけど、事実として扇皇ゼンヒは天衣セツカなの!それを、それをどうしろっていうの!?」

「知らないよ!兵器のくせに損得勘定もできないんだ!?」

「人にしてくれたのがリーダーなの!アタシらが苦境に喘いでる中で、人らしく生きる手段を提示してくれた大切な人なの!それを、それをこんな形で終わらせたくない!」

「でも私はそんな終わりでリンネと別れた!彼女にもっと近ければ、彼女にもっと愛されるようなことをしていれば、彼女を凌駕するくらいに酷いことをしていれば!別れることはなかった!そんな痛みを知れば人間になれるんじゃない!?」

「うるさい!」

 

 ユリは我慢の限界を迎え、ハクジツへ殴りかかろうとした。

 

「やめろユリ!」

「おい!」

 

 椅子に座っていたショウコは立ち上がりハクジツを守ろうとするが、流石に無防備。ユリの右ストレートが思い切り彼女の顔面に当たって体勢を崩し、勢いで鉄柵に頭をぶつける。

 

 殴られた方はベッドの上にダウン。頭と口から血を吐いた。

 

「ぐあ」

「邪魔しないで!」

「やめろユリ!殴ったところでどうにもならない!」

 

 自分がいたベットで血を流しつつ、立ちあがろうとして頭の揺れが邪魔して真っ当に動けないショウコを、ハクジツは間近で見る。

 

「あ、ちょっと……!」

 

 カンナの羽交い締めに抗うユリは動けない、だが自分を助けた人間は流石に放って置けなかったハクジツはゆっくりベッドの上へとショウコを引っ張る。

 

 目を開いたままで呼吸は浅く、まず意識ははっきりとはしていない。死んでないことだけは確かなので寝かせてから、自分は急いでベッドから抜け出す。

 

「まって!何も理解していないような人間は!」

「おやめなさい!」

 

 病室に冷たい声が響く。

 

 誰もがその声に反応し、手も口も止める。

 

 入り口からした声に皆が振り向くと、そこには。

 

 バンリがいた。

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