シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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私という女は/ユリサイドその2

 バンリがやってきていること自体が不思議であった。

 

 ヴァルキューレで内々で話を進めようと思っていたし、事実カンナはそうすることで下手に影響を出さずに進めようとしていたのにも関わらず彼女はなぜか入ってきてしまっていた。

 

「すみません、大丈夫ですの?カンナさん」

「ああ、私のことは気にしなくていい。ただ、止められなかった」

「なんてまあ!自身の上司に迷惑かけて恥ずかしいと思わないのですか!」

「黙れよ!あいつは自分の恋人の役目をリーダーに押し付けようとしたアバズレ」

「お黙りなさい!」

 

 静まり返った。

 

 カンナはそのまま、止まったユリを手放して床に座らせる。

 

 ショウコはダウンして動けないが、自分を庇ったのを知っているからこそ最初に自分を追い詰めようとした彼女に対してはハクジツは何もせずにユリと距離をとっていた。

 

「一体どうしてここに?」

「事務員のお姉様が様子見に来てちょうだいって言ってたから、やってきましたわ。カザミさんはファクトリーの方で何かを作ってるので来ませんが_____」

「そうか」

 

 カンナは急に暴れ出した人間が、第三者の乱入で止まったことにホッとした。自分が入ってしまうと、さらに拗れる可能性があった、彼女自体は事なかれ主義では無いが、問題の複雑化は好むところではない。これは、シャーレの先生が中立の立場であり続けるための姿勢を間近で見たからこその処世術とも言える。待つことは吉、沈黙は金なりだ。

 

 そう言ったものを学べない人間は、自ずと先生という存在から遠くなるという証左でもあった。

 

「お座りなさい、二人とも」

 

 バンリは怒ったまま、喧嘩した二人を座らせる。流石にこれ以上問題を大きくしたくなかった二人も、それに従わざるを得ない。

 

 何せ怒っている人間はゼンヒに追従できるというとんでも女だ。それが、二人の行動を制限するには十分な理由だったのだろう。

 

「よし、これで静かになりましたわね。あとはカンナさんのいう事に従いなさい。尊敬する上司であれば、なおさら不必要な問題で困らせてはなりません」

 

 黙っている彼女らを見てから、隣の椅子に座って睨みを効かせつつ大きめの椅子をカンナに勧める。

 

「でしゃばった真似をして申し訳ありませんわ」

「気にしないでくれ。クールダウンしたなら、しっかり話すことができる」

 

 そうして、カンナは正座したユリとハクジツに対して説教じみたものを始めた。看護師が来るまでの間は、裏に回ってバンリはショウコの応急処置を始める。

 

「まずユリ、お前は喧嘩を買うな。確かにお前はゼンヒを大事にしているのを理解しているし、自分たちの訓練成果を発揮できる今の環境に適応し楽しんでいることは分かるが、調子に乗りすぎだ。SRTに致命的に足りないものは処世術であることを理解すべきだ、ヴァルキューレ、生活安全局からの冷遇もあってか性格に歪みが出てきてしまうのは仕方ないがその禍根を関係ない人間に残してしまうような真似は控えろ。その自意識の暴走で、お前は今自分の仲間を殺すところだったんだからな」

「しかし!」

「分かっている。だが、その主張のために相手の過去や人格を否定するような言動をするな。我々警察は社会の保安活動のために組織され、運営されている。その意味が分からないのなら、正直に言えば警官失格だ。兵器と変わらない。否定したいのなら自制を覚えろ、社会にとっての警官とは力を持つからこそより良い自制心を獲得しなければならないことをよく学べ。SRTは兵士であり、対自治区用の軍団である。戦争と犯罪は違う、そのスケールの差を知れ」

「はい_____」

 

 カンナの言葉の方が正しい、それは何よりも力を公的に持っていいとされた組織として大事な要素だからだ。ユリはその権利を手にいれ、振り回せるような土壌を整えたゼンヒに甘えていた部分が大きい。甘えを取り除き、敬愛に帰れなければ依存と変わらず、その関係は不健全極まりないと言える。

 

 言葉で打ちのめされたユリは、項垂れた。

 

「次に、ハクジツ」

「なんですか」

「まず、お前に関しては謝っておこう。部下を止めれず、お前に対し追い詰めるような真似をしたことを謝罪する。すまなかった」

「いや、あれはこの女が悪いです。謝るようなことではありません、ましてや局長が頭を下げてるところは見たくありません」

「気持ちだけでも、受け取ってくれると嬉しいが」

「それはもちろん____それに、謝られてもどう受け取ればいいか分からないです。追い詰めた本人が暴力から私を守って、伸びてしまっていますから」

 

 ベッドは血に濡れ、死んでるとかではないにしろ血を流しながら気絶しているのはひどい光景である。

 

「口は災いの元であるとあの怪我で知ったのなら、私は彼女にこれ以上言及したくはありません」

「そうか、では同じことを言っておこう」

 

 今度はハクジツに対し、注意という形で咎める。

 

「今ユリが怒った通りのことは、特暴課全員が思っていることだ。それは自分たちが虐げられた歴史から解放された瞬間であり、人生という個人しか知ることのできないものにおいてゼンヒという存在がどれだけ大きかったかを知れる大事なものだ。つまりお前がゼンヒのことを『空っぽの器』だと思っていたとしても、彼女らにとっては『かけがえのない陶磁器』みたいな、大事なものに思っているんだ。だから彼女たちはセツカだろうがリンネだろうが関係なしにゼンヒが帰ってくることを望んでいるんだ。分かるか?」

「それのために私は愚弄されたんです。どうしろと?」

「当然お前はあの事件の後ずっと収容されていた。だから、様子見を兼ねてあまり強い言葉は言いたくはない。だがショウコは自分のできる事をやって早い解決を目指そうとしたが、そのせいで逆にお前を傷つけた。いや、傷つく事前提で話を出した。それは確かに彼女の非だ、しかしそれ以上に傷つけてやろうとしてしまうとまたそれも咎められるべきというのは覚えておいてほしい」

 

 ハクジツはまだ納得がいってないようだ。

 

 それは表情から察することのできたカンナは、話を続ける。

 

「お前にとってはどうでもいい女が、私が最後に出会った時にどう言ってたかを話そう」

 

 レコーダーを取り出して、最後の会話の一つを再生。彼女の言葉が、反芻する。

 

『私だって友達が欲しい!過去がこうだったからって傷でもなんでもいいから共通点があって、それを分かり合える居場所が欲しいんだ!なのに!みんなは持ってるのに私にはない!挙げ句の果てには信じていた後輩に攻撃されて!それが彼女が望んだことじゃないからって受け入れろって!?私には!私には____自分の傷を治す場所もないのに!』

 

 それは、自我を手に入れ始めたが故の悲劇だった。

 

「彼女自体から出た言葉だ。多分、ゼンヒはお前のことが好きだったんだと思う。無論、友愛であることを含めてな」

「……」

「鬱陶しい、と、思うか?」

「それを認めれば、私の恋はその程度だった、という事になりますから」

「それだけ大事な過去があるのはいいことだ、痛みがあったとしてもな。

 だが、ユリやショウコはこの言葉で深く傷ついたんだ」

 

 自分が頼っていたリーダーが、自分たちのことを仲間とも友達とも思っていなかったかも知れない。自分たちのせいで負担が掛かった結果急激に精神を歪ませ、その挙句にセツカの覚醒を促したのかも知れない。でも、立場が大事であった自分たちの生き方ではどう接すればいいかも分からない。なぜなら、自分たちは最悪ゼンヒの駒であり、寵愛されていたのならそれでも良かったのだから。

 

 この考えが裏目に出たことを、深く後悔していた。

 

「彼女の居場所になれなかったことを、愛していたからこそ後悔した。それによって焦りを生じ、どんな犠牲を払ってでも取り戻そうとしているのが彼女たちだ。だが、ユリ達はそのせいで見落としていたこともある。それはお前が敵ではない、ということだ」

 

 なんとしてでも取り戻すための情報を手に入れるためには、対象が逃げないうちになんとかしなければならない。それはSRT流の、凶悪犯や思想犯などの重罪人に対する扱いだった。当然重罪人を追うにはその関係者も追跡する必要があり、その流れで準備も何もかもできていないハクジツに対しても威圧的に迫ったのだ。

 

「彼女達の無礼は後に謝罪させる、だからお前も、その心情を理解してあげてほしい。彼女らも人間だ、だから焦りもするし愛している人間の喪失に動揺もする。

 無論内心では絶対に許さない、それでもいいから」

「局長」

 

 どうも言いたくない心境のまま、相手のことを呼ぶハクジツ。

 

 謝ることもしたくないが、罵声を浴びせる気もなくなった彼女。

 

 静かに流れる時の中で、一つの声がした。

 

「ん、うぅ……」

「ショウコさん!」

 

 後ろで控えていたバンリが声を出す。

 

「あ、ああ____ハクジツ、さんは?」

「私は無事だよ。ほら、見て」

 

 正座を中断して、ハクジツはショウコの元へ近寄る。

 

「大丈夫?」

「やらかした罰にしては。軽すぎるが____まあ、いいだろう。今はろくに人を動かせないから、一人がグロッキーでも問題はな。い」

「あまり喋らないで、傷が広がるかも知れないから」

「このベットはハクジツさんのものだ、だから」

「守ってくれた人にどうこう言えない」

「そうか____」

 

 眩暈がするのかまだ瞼をパチパチさせながら、彼女はハクジツの方を向く。

 

「すまない、私がしっかりそちらのことを考えればこんな事には_____」

「その痛みに準じて許してるから、喋らないで」

「本当にすまない」

 

 ハクジツも落ち着きを取り戻すと、その冷静さにはゼンヒの面影が見えるほど。

 

「良かった、ショウコが無事で」

「過ちを犯す前に踏みとどまれて良かったな」

 

 そう言いながら、カンナは話を戻す事にした。

 

「では、そろそろ話を戻していいか?」

「ええ……」

 

 ハクジツはカンナの前に戻る。

 

「説教も終わったし、改めて聞きたいことがある」

「私が彼女について知っていること、ですか?」

「ああ」

 

 彼女は言う。

 

「当然、お前が話せるなら、だが」

「私は……」

 

 ショウコを見る彼女。見られた方は、好きにしてほしいと言った表情で見る。

 

「____わかりました。知っていることを、話します。彼女を怪我させた詫びに」

「ありがとう」

 

 ある程度和解ができたところで、本題に入ることに。

 

 それはハクジツの過去という、今得れる中で最大の情報だった。

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