やってきたのはトリニティ領地、学園よりかは案外離れていた場所に、ハクジツ、ユリ、カンナはやってきた。
カンナが連絡を入れて事情を説明したことによって、先生もある程度把握した上で共にナギサに打診。ナギサはアリウス過激派の鎮静という功績を他校区の人間でありながら達成したゼンヒの奪還の協力という支持率の上昇を狙い、既に協力したマコトという存在からくる『トリニティが協力しないことへの世論予測』という圧から“協力者になったアリウス過激派のカザミを入れない”ことと“カンナが同行すること”を条件に、自治区内の調査を認めた。
その結果、スムーズに領地入りした上でのある家宅の捜査が可能になったのである。
(羽沼マコト……もしかしてこの事を読んでいたのか?それまでして彼女にとってもゼンヒは重要なのか)
そんな彼女たちがやってきたのは、ある屋敷。そこまで大きくはないものの、軽いパーティーなら出来そうであり、ベランダも少し広め。トリニティの中でも自然があるエリアの別荘が目的地だった。
「合鍵は……あった。これ」
一年近く放置されたにしては小綺麗なところ、門の鍵を開けて中に入る。
あまり生い茂ってないが、やはり芝生は茶色くなっていた。
「こんなところに住んでたんだ」
「拠点の一つがこれだったってだけ。他にも色々な場所があるわ」
「そうか」
玄関を開けて電気をつけると、ちゃんとついた。
少し埃臭いが、それでも綺麗だ。誰も入っている形跡はなかった。
「こっちです」
そのまま躊躇なく地下の階段に踏み入れるハクジツと、それを追いかける一行。
木製の重厚な扉がある。
「この鍵は___持ってない」
「まかせろ」
カンナは突然タックルをかました。
狭い通路に鳴り響く轟音で皆がびっくりするの中で、木製の扉はキヴォトスの少女のタックルに耐えられるはずもなく開く。破壊されなかったのは重厚が故だろう。
入り口近くのスイッチを押すと、電気がつく。
「わあ」
「ああ……」
地下室とは思えないほど、綺麗な作りをしていた。
自動掃除ロボットが毎日欠かさず掃除しているのだろう、一同を向いてから充電に戻っていく。主の識別機能や迎撃機能がないため、割と古めのものらしい。
大理石の床に高級な書庫、梯子とかも光沢を放ち、ベッドもふかふか。椅子もたくさんあり、本棚の奥の方には倉庫もあるという徹底ぶり。綺麗なブルーライトで照らされた水槽は、何もいないのが寂しいが。
「本は……これか」
活動記録の方は奥にあるが、机の近くにある、いや、この部屋にある本の大体が興味深い論文で埋まってた。それの大体が神秘に関することだが、その文章はドイツ語である。
基本医学に関することはキヴォトスの外同様ドイツ語でカルテが書かれていた、生徒は日本語で書いているが。各学園の情報や一部の極秘事項を知っていたSRTの中でもドイツ語が読めるのはショウコであったが、その彼女は今怪我でダウン中。
「これは後でショウコに読んでもらうことにしよう。ただ、私たちの今知りたい情報は天衣セツカの居場所のことだ。探すぞ」
「ええ」
「はい」
そうして三人は、手分けして探すことにした。
倉庫の方では過去の報告書や調査のまとめなどがあるが、どれもあまり役立つ情報ではない。それでも度々問題を起こしていた薬物売買のグループの組織表など、有用なデータは沢山ある。
「あいつらは"落花堂"というグループなのか。そのトップが扇堂リンネ____ハクジツの恋人だったんだな」
そんな個人情報にも目を通しながら、カンナは読み進めていく。
ハクジツやユリも別の棚を探しているが、やはりそういった活動記録や金の流れなどの報告書が膨大であり中々欲しい情報に辿り着かない。書類の山にあることを信じて、三人は調査を続ける。
「うーん、これじゃないなあ。でもまあ金の流れはこれで____ん?」
「どうしたのユリ」
「ハクジツさん。これ」
ユリは一つの領収書を取り出した。
それはなんの変哲もない領収書。買ったものといえばアビドスでの骨董品であり、その内容は四角形の水晶であるという。また、ある程度の物の運搬もやっているようだった。
ただ、それが起こったのは去年の6月。もっと言うならば、扇堂リンネがセツカと融合してしまった日の二ヶ月後なのである。
「どう言うこと?」
「リンネは生きているのか、果たして別の誰かが引き継いでここにいるのか。罠らしいものはちょっとずつ調べたけど見当たらないし、アタシも他の書類を見てもはっきりしない。困ったなあ」
「でもこれもまた、落花堂のメンバーを捕まえたときにこの情報からセツカ達の居場所を引き出せるかもしれない。重要な情報だ、取っておこう」
「はい」
カンナの指示によって、その書類をバッグに入れる。
そうやって書類の束と格闘している中で、今度はカンナがいい情報を見つけた。
「天衣セツカ捕獲計画____これだ」
探していては大体2時間、彼女らはついに欲していた情報を発見したのである。
中身にはリスト化された住所と、その住所周辺の地図が何枚もあった。
「見てくれ二人とも」
書庫の机にやってきた三人は、広げられた情報を見る。
「ここは」
「そう、ショウコ達がヤツカの対応をした場所の周辺だ。あとは協力してくれたユメや黒シロコがシャルアーの対応をした場所も、この地図の近辺だ。と言うことはちゃんと追い詰めれてないか」
アビドス近辺のブラックマーケットはシャルアーがいた場所、そこから離れたビル街はヤツカとショウコが衝突した場所。
実際逃げた先がそこであったことを考えれば十分に信頼できそうな情報ソースであることには違いない。その地図を、ある程度見る。
砂漠になる前はアビドスで一番栄えてた繁華街のビルのところに研究施設があり、その施設には薬物に関係する医療関係の施設があった。そこにあった資材の一覧も載っており、それはさっきユリが見つけた情報にあった資材の名前と一致。
「なるほど、もしかして誰かが彼女らが消えた後に資材を持っていったのかもしれない。とすると、このままだと新たなセツカが生まれるのも時間の問題ということか。困ったものだな」
「だけど、これだけの情報があって、誰がなんのために?薬物のことを発展させたってSRTじゃなくても危惧した自治区を持った学園や、ヴァルキューレがどのみち追跡する。それこそ無駄じゃないですか。アタシらがいなくても大成しない計画だと思うんですけど」
「……そうか、ユリは知らないか」
カンナは、ゼンヒが巡査部長かつ彼女らにあっていない時に発生した事件のことについて話す。
「ある日、ゼンヒは薬物の売買に関するグループの取り締まりを行ったことがある。その時の相手の証言が、おそらく彼女が売人になり、また顧客がいた事実の一つだろうとは思うが」
そう、ゼンヒが幹部クラスの人間を捕まえたことがある。
その人間はトリニティの生徒であったが、ハナコを筆頭にした才能に圧迫されて薬物に手を出し、裏社会で活躍してしまった少女だ。
少女が言ったこと。
『私の制服を見ればわかるだろう?これでもトリニティの所属だった。しかし、あそこはまさしくその"生まれの差"をはっきりとさせる巣窟だ。私は俗に言う凡夫にすぎず、数々の奇跡の前に自尊心も何もかも無くなった。一時期そういった特徴のないはずのハナコという少女が台頭したが、結局エデン条約のアレを見るに"選ばれた側"であったことには変わりない』
『私ほどでないにしろ、無力感に苛まれた生徒は多数いた。それに広め、段々と健全であった組織にも定着させ、私は売り上げと設備の拡張をしていった。人々の脳を永久に活性化させ、死んだ端から補充して、阿頼耶識のような思想形成が達成されればその差別や利益の享受の差はなくなる。シャーレの先生という者に一瞥されるではなく、その塊を持ってこのキヴォトスを一瞥する。この差は大きいんだよ、まさしくこの社会の活性化と社会問題の解決だ』
おそらくこれを吹聴し、拡大し、薬物を売るヤクザとして大きくしたのがリンネである。その恋人がハクジツであった、ということだ。
「つまりシャーレに関わった人間が救われたのを見て、そうでなく見捨てられたごまんといる少女達に対して希望を与えたり縋らせたりすることが役目である、みたいな?」
「その容疑者の言い分を見るなら、この場で見れば私以外は選ばれし人間ではないという話だ。だが、正直なところ……プレナパテスの一件を見るに、果たしてシャーレに救世の力があるかと言われれば懐疑的なところだな」
もし先生、いや、シャーレが絶対的な力かつ救世可能な英雄であり、神であったとするならばプレナパテスのようなことは起きない。神が作ったものは完璧でなければならず、意に逆らったものはその時点で処罰されて然るべきだろう。
カンナは政治家ではなく、活動家でもない。治安の責任の一端を担う少女であるが、それでも決定的な力はあってもそれが他人の人生を左右し決めてしまうほどのものであるかは懐疑的であった。市民がいてこそ街や社会であるならば、シャーレの有無だけで社会の有り様が決まるわけではないと。
その思考の中で、彼女はマコトに対して一つの考えを向けた。
(……ああ、そうか。もしかしたら、私がゼンヒにヴァルキューレ所属のSRTメンバーを救って欲しいと願ったように、あの羽沼マコトも彼女に大人という力や絶対者の才能に委ねない、己の考えで政治を決める、市民が連邦生徒会に影響を与えるような社会の体現者になって欲しい。自力で問題を解決し、社会を改善する強い生徒という仲間として期待しているのかもしれないんだな)
ただし、シャルアー達に連れされる前の悲鳴が反芻するとその考えが正しいかは戸惑うものだ。
さて、書類がある程度まとまり、本来得たかった拠点の情報とそれとは別で悩みの種をなんとかできそうな情報を手に入れた彼女達。
「では一度戻るか」
「はい」
ハクジツも頷いて戻ろうとした、その時だ。
地下室を大きく揺らす。
「ん?」
「わっ」
「きゃっ」
三人同時に声を出して耐える。
「一体なに!?」
「すぐに出るぞ二人とも、場合によっては止まる方がまずい」
「もちろん!」
そうして、彼女達は地下室から外に出る。
その震源地は、庭の方だ。