シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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轟け氷獄(コキュートス)/ユリサイドその2

 庭の方に出た三人。

 

 芝生は燃え、その中には二人の影がある。

 

「おいおい______!」

 

 若干困惑するカンナは、それだけの光景が広がっているだけの証拠だ。

 

 一人は薄紅色の髪をした天使。ただ、持っているのは引っこ抜いてきた街灯。先には二つの灯りがあり、まだ光っている。聖園ミカ、という少女がそこにいた。

 

 相手は_____

 

「シャルアー!」

 

 ただ、相手もキヴォトス視点では変である。

 

 いつものアームキャノンに二丁拳銃が腰にあるが、何よりも大剣を持ってるのだ。

 

「なんだあれ」

 

 しかもその剣のせいで周りが燃えている。

 

 だが、そんなことは両者お構いなし。そして三人に気づくことなく、彼女らは言葉を交わす。

 

「随分と酷いじゃないか。怪我してないからいいが、電柱を振り回し続けるとか常識をどこに置いてきた……!」

「それはあなたに言われたくないな☆大体、そんなとんでもない武器持ってる方がおかしいと思わない?」

「銃で相手できない奴が何を言ってるんだ」

「私の銃を腰のビーム砲で破壊した常識知らずが何言ってるの」

 

 軽口を叩きながら、両者構え直す。

 

 そのまま息を整える暇もなく互いに向かって突撃。

 

 機械仕掛けの大剣を持ったシャルアーはその質量などなかったかのように振り回し、相手の攻勢を崩すのを狙うように攻撃を重ねる。重い音がずっと響く中で、電柱は崩れる気がしない。シャンデリアのような、西洋の柱のような電柱はその太さと密度は重く、大剣から吹いている炎の勢いも合わさった一撃も受け止める。

 

「いっくよー!」

 

 ただし、ミカもここで止まるような少女じゃない。

 

 まるでロッドのように振り回しながらシャルアーを攻撃する。大剣の面と刃をうまいこと当ててからかわし続ける彼女にイラつきながらも、スピードとテンポを一切崩さない。

 

「ぐぅ……っ!」

 

 攻撃されてる方は苦しそうだが、それでも相手と同じテンポで交わし続けて遅れが一切ない。早くもないから崩れることもないので、セツカの仲間なだけある。

 

 とんでもない戦闘が続く中、周りの被害が甚大となる。そもそも閑散としているエリアだから問題ないが、周りの芝生や木々に炎が移りつつあり、少なくない交通量を誇る道路にも文字通り飛び火して車が爆発。それがさらに騒ぎを起こすが、寄ってきた正義実現委員会の人間もトリニティ最強格のミカとそれに追従し続ける不審者という割と説明できない状態に介入ではなく周辺の人間を守るという行動にシフト。

 

「あ!ヴァルキューレの人!大丈夫ですかー!」

「大丈夫だ!」

 

 誠実の生徒達が集まって、広い庭の中彼女達を守るためにやってくる。

 

「三人以外に誰か!?」

「これで全員だ」

「移動します!」

 

 そのまま、三人は正義実現委員会の生徒に連れられて、少し遠回りに移動する。これは確実に逃げるためのものだ。

 

 ただ、戦ってる二人は状況が変わらない。

 

「あはは!随分頑張るじゃん!」

「お前がそうさせてるからだろうに!」

「これはどうかな〜?」

 

 その中で過熱する戦闘、ミカは遠心力を利用して、少しずつうち飛ばすように振り始める。

 

 最初は打ち合いもせずに逃げるシャルアーも、流石に相手が悪すぎる。振り翳された街灯は彼女のステップよりも早く相手を殴り飛ばそうとしてくる。自身へのダメージを抑えるためにも、彼女は大剣でガード。

 

「ちぃっ!」

 

 流石に耐えきれずに、受け流す形で相手に大振りを強要させるように振ったが要の大剣を手放してしまう。

 

「これで終わり!」

 

 ここでフィジカルの差が大きく出た。ミカは相手が大剣で抑えれた分勢いを殺して、振った方向から逆の方へ振る。

 

 だが、相手もここで死ぬようなものなら殺人鬼の味方になれるわけがない。

 

 シャルアーは飛ばされた大剣の、もう一つの柄を掴んでから引っ張るように体重をかけるとそこからもう一つ武器を取り出す。

 

 紫電奔る、それはまさしく鬼の大太刀。

 

 それが一閃、街灯を切り裂き、先の明かりがつく場所を切り飛ばし、それによって彼女はミカの攻撃を無効化する。

 

「とんでもないね……!まさかそんな隠し札があるなんて」

「これで隠し札は使い切ったも当然だがな。最後の最後に隠していたのがカイーナというのも変な話だが」

「ってことはそれで……」

「そうだ、聖園ミカという少女のせいで私の武器が全て出揃ってしまったんだ。隠したかったがな。

 大剣と大太刀は、殺すときの装備だ。ジュデッカとカイーナ、この二つがな」

 

 大剣を回収して背中に背負い、大太刀を片手で構えるシャルアー。だがその視線は、戦ってる最中に見つけたであろうカンナ達の方を向いていた。

 

「どうやらここに良いものがあったらしい。探す暇はないか」

「あ、ヴァルキューレの。早く逃げた方がいいよ」

「襲うタイミングをお前のせいで失っている、嫌味か?」

 

 実際カンナたちはそこから逃げようと走っているが、周辺の状況が大変なことになってるので少し進みが遅い。

 

「こっち!」

「だめ!火の手が上がり過ぎて火傷する!」

「土かければ!」

「量も時間も足りないよ〜!」

 

 正義実現委員会、ヴァルキューレの面々が火の手が上がってこっちだあっちだとやってる中で、炎関係なくやり合ってる二人が異常とも言えた。

 

 片方は大太刀、もう片方は軽くなり、大太刀と同程度になった電柱。

 

「次の一戦で、か」

「いいじゃんいいじゃん、そういうの大好きだよ☆」

「私が勝つことを期待しよう」

 

 息を整え、火の手が上がる中でシャルアーは挑発する。

 

 目の前には、制服以外汚れていない天使。

 

(セツカたちが作戦を終了するまではあと10分と言ったところか)

(このままだとあの子達が脱出できない_____だけど武器を振るのをうまいこと調整させないといたずらに延焼する)

 

「聖園ミカ、と言ったな。お前は強い、少なくとも武器を全部出して勝ててないから相当だと私は思っているよ。

 だが、私には勝てない」

「ふぅん?今困ってるのはあなたなのに?」

「何故ならお前は先生がいなければ何もできないからだ」

 

 シャルアーの嘲るような笑みが、口角を少し歪める。

 

「無垢とは病名だよ。頭の中が真っ白で、幼稚さ故に希望と好転の予測に頭をやられやすい。ノートは鉛筆に文字とその集合体である知識があってこそ完成する。言い換えれば、お前の脳は空っぽだということだ。自由帳同然で、理論や常識という名の罫線がない」

「何が言いたいのかな?」

「先生という代わりの理性がなければ翼が生えた獣に過ぎない。天使と言ったか?神の言いなりであり、理性のない化け物がまさにお前だ。

 否応なしの未来に倫理という根幹を歪められ喘ぎ続けたセイア、永遠に愚衆の千手に踊らされ曇り続けるナギサ。

 その苦しみを知らないからお前はアリウスという欺瞞の汚れに手を染めた。違うか?」

 

 互いのコミュニケーションから、言葉が消えた瞬間である。

 

 シャルアーは仲間の侮辱を達成し、相手は会話をしようと言う慈悲を吹っ飛ばして自分にターゲットを固定させた。電柱は今までよりも比較にならないスピードで振られ続け、それが火の手を消してしまうほどの一撃。これが何度も何度も、セツカの右腕に対して襲いかかるのだ。

 

 最も襲われた方もそんな簡単にやられることはなく、基本は武器を使わず避けて、時々大太刀で相手の武器を斬ってリーチを落としていくという動きに出る。

 

 すると______

 

「きゃあ!」

「あ!こっちの方は治ったよ!」

「ミカ様ありがとー!」

 

 火の手が消えるほどの風圧を出せる速度で振り回せるくらいスケールダウンした街灯を振り回すミカ、そしてその攻撃を避けるのに注力してるので火の手の原因であった大剣などの高温物体が振られないという二つの要因が重なって段々と消火されている。

 

 そもそもカンナやハクジツ達にさして興味がなかったシャルアーは妨害せず、結果彼女らは重要書類の損失なしで安全地帯へ抜けることができた。

 

「助かった!」

「よかった!だけど___!」

 

 時間稼ぎにしか興味がないシャルアーは、街灯を刀で受け止めて弾き飛ばす。

 

「少し、私の特技を見せてあげよう。あの人間の近くにいるんだ、面白い特技の一つや二つ持ってないと面白くないだろ?」

 

 彼女は笑みを浮かべ、大太刀を地面に突き刺す。

 

「其は神、十三の使徒、そして数多の戦乱と楽園の微風によって刻まれた氷塊の烙印」

 

 大太刀から雷が奔る。

 

 それを抑えるべきだと直感したミカは、街灯を持って突撃。

 

自覚なき天使の器光輪(ヘイロー)、統合された死の世界の天国(エンディング)、翼亡き者の終点で無垢という罪を糾弾する」

 

 ただもう間に合わない、彼女の刀は雷を纏った。そうできるほどの発電機関を搭載して、尚有り余るエネルギーをアースを求めて彷徨う刀身は光り続ける。

 

(聞いてた通りに神秘に関係するものを積んでいるの!?まずい!)

 

 シャルアーに届くことを確信した段階で、電気が自分を伝って流れないように勢いをつけて手を離して防御態勢を取ったミカ。

 

「轟け氷獄(コキュートス)!審判は第一氷獄(カイーナ)で下された!」

 

 彼女の手にある大太刀は振られ、そのまま街灯に接触。

 

 抵抗などお構いなしに電流が流れ、その勢いはあまりに大きく、接触して限界を迎えた電線は溜まり過ぎた電流に耐えきれず爆発。

 

 当然街灯は破片として飛んでいき、黒煙も相まって見えないがここはミカが一枚上手。すでに防御態勢を取っていたおかげで瓦礫に当たっても無傷、そもそも被弾数が圧倒的に少ないので唱えた割には効果が少ない。

 

 だが、シャルアーも当然それは理解していた。いや、聖園ミカならここまで出来ると踏んで追撃を入れるために鋒を向けて突撃。

 

 黒煙の中で見えづらく、光が見えても暗雲の彼方で明確な位置は不明。突撃してる方も黒煙そのもので相手の位置は把握できない。

 

 その中で、刀に何かが刺さった感触がした。

 

「あ……?」

 

 ただその中で、シャルアーは違和感を覚えたのだ。

 

 人殺しの感覚をやはり知っていた彼女からして、少女の体というにはあまりにうすく、そして地味に人間ではない音が聞こえた。そして、人間の手よりも小さく、かつ強い力が刀身から伝わる。

 

「ん?」

 

 疑問に思ったミカも、少し離れて止まる。

 

 黒煙が森の中へ、そして空気へと薄れて消えていくこの時間。

 

 四つの手が刀身を掴み、赤い布は雷によって焼け、ヴェールの向こうの暗闇は素肌を一切見せずに溶けていく。

 

「間に合ったようですね」

 

 男の声が響く。

 

 そう、それは。

 

 ミカと同等の大きさをした、ヒエロニムスであった。

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