ゲヘナ校区のレストラン。
研究に没頭して休憩を欲していたカザミと、矯正局内の病院から戻ってきたバンリは話をするため、そのついでで飯を食べるためにレストランへやってきた。
「で、貴女は何の研究をしてるんですの?」
「ああ、気になる?ほら」
カザミは、一つの銃弾をテーブルに出す。
それはホローポイントのようであるが、その弾頭が鋭く出来上がっている。バンリがどういうものか不思議そうにしていた。
「何ですのそれ」
「見とけって」
何かをしていたのか中指は傷だらけ。一番使わないであろう小指に、その弾頭を押し当てる。
するとうぐ、という嗚咽が漏れた後に、カザミの小指から血が流れた。
「まあ!何やってるのですか!」
すぐにカザミの方によって、絆創膏と消毒液を持ち出して処置をするバンリ。
「自分がゼンヒに撃たれた銃弾、スプリングフィールド・セラフィムの模造品だ。これでバリアなどを貫いて思い切りぶちのめすことができるはず」
「……もしや、その中指の傷は」
「全部弾頭で肉を抉り出すシュミレーションに使った。押し付けてぐいって」
パンッ。
カザミの頬にビンタが飛んだ。
「バカですか貴女は!?」
「自分の傷程度でそれなりの権利を得られるなら安いものだと割り切ってる。他の人間に頼むわけにもいかないし」
「もう……」
「それで文句を言わないあたり、事情は理解してると見た」
彼女は頬を押さえながら、銃弾をバッグに入れた。
「まずショウコが戦ったあれの貫通方法、そしてこれが_____ゼンヒの復活方法だ」
「今なんと?」
「言ったとおりだよ」
二人の間に、張り詰めた空気が流れる。
「自分がこれで撃たれ、貯水池に落ちた時。確かに"穿たれ掻き回された"感覚があった。それは血肉じゃなくて、己の周りにあったかのような幕ごとミキサーで混ぜられているような。おそらくそれが器の形か_____だが、間違いなく自分に張り付いていたのが巻き込まれた感覚だった」
「それがセラフィムの____」
「あの感覚を目指しているけど、まだ届かない。機能はするが、あれが多分鍵だ。一体どうやってかき混ぜられたのか、それをもう少し探る必要がある」
「もしかして、それでゼンヒを?」
「あの女の言い草を全部信じるなら、多分それでゼンヒ要素を表に引っ張ってこれるはずだ。もっとも、確証はないが」
ため息をつく彼女の前に、一つ料理が置かれる。
「こちらご注文のカルボナーラ、そしてチョリソーでございます」
「ああ、どうも」
それを受け取ってから、また話し始める二人。バンリの分はまだ来ていない。
ただの休憩なので来た人から食べるのが普通なのか、そのままカザミは食べながら話を続けた。
「で、ひとつ聞きたいんだけれどもユリ達は一体どこへ?」
「ハクジツさん……えっと、ゼンヒの後輩と共にトリニティの領地へと赴きましたわ。何せ相手の居場所を知るためのやつがあるとのことで」
「ヴァルキューレでさえ秘匿するような殺人犯の居場所を?」
「ハクジツさんの彼女が不良だったことを考えれば、ですけどね」
「え、いるの恋人?」
「正確には居た、という方が正しいでしょう。死んでいるのですから、いや、死んでるともまた違う」
「どういうこと?」
矯正局にいた時のことを、少し声を落として話すバンリ。
その内容は常に社会からあぶれていたカザミには普通の出来事のように聞こえていたが、その中で繋がったことは相槌を打つ。
「つまり殺し屋とヤクザで大変なことをやってたってことになるのか」
「今はそこにテロリストと組んでいる警察がいるわけですが」
「関わったこと、後悔してないよね?」
「……まさか」
別のことは後悔してそうだ、とわかる程度にバンリの瞳の奥は揺らいだ。その機微を、感情を捨てさせられた人間は持っていないものだからこそ見逃さない。
「会ってる回数そのものはそこまで多くないけど、その一回一回が面白かったから、彼女のことが気になっていた。だけどそんな彼女が知らぬ間に傷ついて閉じこもってしまっていた。自分にもう少し何かが出来てたら、ってやっぱり思ってる?」
「前にも言いました。友達だったよな、なんて確認しに来た時にもっと踏み込んでいればと。もしあれが、ちゃんとしたサインだと気づけていれば、私はあの時一緒に戦った友人を失わずに済んだと。傷つけずに済んだと思うのです」
「……友人って何だろうね?」
ゼンヒも執着してたその概念が、確固たるものではないと思ったカザミ。
「もし、辛い時も楽しい時も一緒にいたら幸せになれるのが友達というのであれば、今がそうであるという証明の時ではないか、とは思うけど」
「そうですか?」
「だってそうじゃないか。彼女に伝えたいことがあるから、どんな問題も乗り越えて会いに行く。それは友人か、いや、少なくとも親しく、愛おしく思っているからこそそうしたいってみんな思ってるんだろう?じゃあ、それでいいんだ。多分わかってくれるよ、ゼンヒなら」
「貴女はなぜ、そう思うのです」
「それが社会の正しい有り様なら、自分の野望が潰えた理由にもなり得るから」
この時ばかりは、カザミの意見は正しいのかもしれない。そう思えたバンリはこれ以上は何も言わないことにした。
「あ、こちらガーリックシュリンプとノンアルコールビールです」
「あらどうも」
2人分の注文は揃ったところで、バンリも食べ始める。
美味しい食べ物も、正直気掛かりがあってあまり味がしない彼女。それとは別に楽しく飯を食べているカザミ。
「……貴女にとっては、この食事が楽しいのですか?」
「まあ生きてからろくなもん食べてないからね。血の味の方がよく体に染みてるけど……故にそれが薄れていくのが嬉しくて仕方ない」
「そうですか」
まだ陽が空にある時間。
ゆっくりと食べていく彼女達は、各々の注文したものに舌鼓を打ちながらゆっくり休憩する。
だが。
(何となく、だけど)
視線を感じる先を、振り向くカザミ。
テロリストだったからこそ分かる、視線と、その意図。
それは奥の席から放たれているものだった。
(あれか……?)
不良の集団が一人が、こっちを向いている。
不審に思われないようにするためだろう、互いに見つめ合うように見せかけて「違う」と言い張れるようにしっかり見つめあってはいなかった。
(何だか、気味悪いな)
カザミは黙ったまま、自分が頼んだものを食べ続ける。
胡椒などが効いたカルボナーラに、かなり辛めに作ってあるチョリソーはかなり味覚へ幸福を与えるものだったが、視線が気になって仕方ない。
「ん?どうか、しましたの」
「気にしないで」
そう言いながら、互いに食べ進める。
その時間は幸せと言えるべきものだった。同席している人間が、一応信頼できる状態だというのは荒事になっても十二分に安心感を与えるからだ。
少し食べ進めて時間が経った時、今度はあるものを見つけた。
「ん?」
ノンアルコールビールのグラスが、何かの光にあたったように輝いた。
その当たった部分の反対側は、先ほどカザミが見た方角と大体一致している。
「ねえ、バンリ」
「何ですの」
「多分ここ危ないと思う。今、何となく_____」
「説明しなくても結構ですわ」
ガーリックシュリンプの、最後の一口を食べたバンリ。
四枚羽のお嬢様の唾液がついた、艶めかしくも乙女心のように雫が垂れ落ちるフォークは彼女の右手の中で踊る。
「___そこ」
不良達はナイフをちらつかせていたが、無論それは意識を引き寄せるためのブラフにすぎない。流石にキヴォトス人相手は格闘戦もまた至難、狂気が食べ物用のナイフであるなら尚更だ。では何を持ってきたか。
それは爆弾である。普通の爆弾ではそうそう傷がつくものではない種族だが、周りの鋭いものや、質量のあるものがハイスピードで当たるとタダでは済まない。つまりは周辺環境を利用した破片手榴弾的なものが、彼女らにとっての実質的な攻撃手段である。
ただ、その相手というのは、少なくともそんな不良達なんて目じゃないほど専門的なテロリズムを要している元アリウス過激派のリーダーと……扇皇ゼンヒというとんでもない才能を持った少女に一切の遅れなく追従し、テロリストを壊滅できる一般カフェ店長だ。
グラスの反射する光景から、大まかな場所と位置が見えたバンリはそのフォークを_____
ノールックで投げて落としたのだ。
瞬間。
あまりに大きな爆発音は、一瞬で風圧と共に鈍くなり、それと同時に爆発したが故に破片や煙、爆発した黒煙が舞い上がっては視界を潰す。二人揃って同じタイミングで伏せたせいで彼女達は無傷であったものの、不良達は大変な目にあった。
視界が晴れてきた状態で見えてくるのは、その爆発で狙った通りの性能で自分達が死ぬところだ。破片が刺さりまくっては顎や胸に刺さり、まるで戦場の跡のように体全体を伸ばしてくたばってしまっている悲惨な状態。血まみれでまともに動かない、ネクロフィリア以外は嬉しくない光景だ。爆破テロが自爆テロになり、挙句目的も達成できないとは、そんな光景を見慣れすぎたカザミはやれやれという四文字で感想を済ましてリボルバーを取り出す。
「え、あなた武器持ってたんですの?」
「デ・リーズル・カービンって本来持ってた銃があったんだけど、今回はそれ事務所の地下の射撃場に置いてきてしまったからね。代わりに貸してもらった44マグナムを持ってきたんだ。何かあるから、っては思ってたんだけどまさかここまで大ごととは。
そっちは何か持ってる?」
「ええ」
バンリが持ち出したのは、PDW用のマガジンを使うハンドガンP-50。そして、折りたたみ式で少し持ち運びしやすくなった50BMG仕様のAKだ。
「随分なゲテモノを取り出すね!?」
「これはどちらも、初めてゼンヒと戦った時の思い出の品です。もしかしたら、それが彼女の元へ繋げてくれると思ってますから」
「いいねえそういうの。自分は大好きだ!」
希望を捨てない限りは、どんな行為も笑って乗り越えていける。そういった思想の持ち主は、天使の願いを純粋な意思で肯定した。
生き残っている不良は、立ち上がって銃を持つ。
騒ぎの合図だ。