「やっ、シャルアー」
「おお」
お互いに手を振るシャルアーとセツカ。
シャルアーが撤退してからかなり時間が経っており、レストランの襲撃からもそれなりの時間が経っていた。おかげでもう夜である。
「そっち結構派手にやったね。ニュースになってたよ」
「殺してはないどころか傷一つ付けてないんだ、許せよ」
「なぁに、関係ない。こっちは例のところに今送ったところ」
どうやら、セツカとヤツカは別行動で何かやっていたらしい。そんな姉妹もどきは、妹がかなりべったりくっついている。
「今、あの研究所の修復素材を送ったところ。ある程度隠してあるから問題ないけどちょっと急いでやるには疲れちゃった」
「お前が生き返ったなら……いや、なんでもない」
時間はある、と言おうとしたが、いつか2人の時に話した『ゼンヒの復活まで時間がない』という発言を思い出し、それを言及するのはヤツカの居る手前避けることにした。
「何か言いたそうにしてるけど?」
「いや、ついお前らを見てると旧友を思い出したんだ。それだけのことだ」
「へぇ」
三人は歩き始める。
この日は人の少ない場所を通って帰っているからか、あんまり騒がしくない。店の中のテレビではミカとやり合って無傷だったという点でクロノススクールの注目の的になっているのは聞こえていたが。
「にしても、あんな派手にやってたらそろそろここら辺とかガサ入れ来るんじゃない?」
「どうせ再生とかするためにあっちに時間を割くことも多くなるだろうし、その場合はほら、私が逃げまわればいい」
「シャルアーはそれでいいのかしら」
「構わない、協力してもらってる身だからな。私に注目が集まれば集まる分だけそっちが動きやすくなるってだけの話だ」
「そう」
ヤツカはシャルアーを、少し睨むように見ている。
それに気づかないようであれば強者とやり合って生き残れる訳がないだろう。おそらく真意か、根底にあるセツカの扱いの軽さに怒っているのか、そもそも最初の目的時点でセツカの後のことを考えていないのに痺れを切らしているのか、いずれにせよ下手に触れる訳にはいかないと目を逸らした。
(ヤツカのやつにも困ったものだ。このままだとゼンヒが生き返っても気苦労しそうだな____ん?)
そんな三人の帰り道の中で、商店街の向こう側から一つの影がやってくる。
水色の髪をした、美人。
「……お前は」
「やあ、久しぶりだね。シャルアーちゃん」
「ユメ、か」
自身を一度大怪我にまで追いやった少女が、そこにいた。
「あの騒ぎを見た後、近くに偶然いたから追いかけたらようやく会えた。私を生き返らせた張本人、セツカにもね」
「跡を付けられてた、ってわけか。困ったな」
頬を掻いて、危機感なく目を逸すシャルアー。
ヤツカは急いで二人の前に出て牽制。
「下がりなさい!」
「んー、君には用事はないよ。だって、私はあなたと因縁がない」
「減らず口を!」
そのまま持っていた銃器を使い仕掛けるヤツカだが、それは上から飛んできた影に止められる。
そう、シロコ*テラーだ。また、彼女らは二人でタックを組んでやってきた。
「お見事〜クロコちゃん」
「ん、私が抑える」
「舐めるな下郎、私は!」
早速神狼を使い、早期に決着をつけようと変身するヤツカ。
シロコ*テラーに及ぶかどうかはさておき、そのまま二人は戦闘状態に入る。
それでもシャルアーとセツカは、ユメの方を見てた。
「いやあ、どうしても必要なことだから扇皇ゼンヒの捜索隊にはメインで協力してなかったんだけど……人探しはしてたからね。ある程度絞り込んで移動してて正解だったな〜」
「ふぅん」
「それに、聞きたいこともここで聞けるね」
ユメは、表情を薄め、彼女に聞いた。
「私を生き返らせた理由を知りたいんだ、教えてくれるかな?」
「わかった、教えてあげよう。と言っても偶然生き返らせたのがそっちだった、ってだけ」
セツカはゆっくりと相手に近寄る。
「ある事件から私は神秘を利用した再生技術なるものに興味を持ってね。いろんな伝手から利用して作った研究施設____まあ、無くなったんだけど。その際にある程度の屍を使って蘇生も出来るのではと思ったんだ。
その時近くにいたのはアビドスで、さらにいえば遺骨が転がってきた、ある程度まとまった状態で」
ユメの遺骨を発見した、というのもなかなか変な話であるのだが____それでも運命はそこに転がってきた。
「本来は遺骨によるDNA検査ってのは難しい。それは、本来火葬されたりした場合DNAが破壊されてしまうがゆえのこと。しかし、そっちの遺骨はそこまで破壊されなかった。それは自然風化であったからだと思う。もっとも身分証はなかったんだけど」
「そうだよねぇ〜、うへえって思ったけどかえってそれで身分隠して過ごせたし、そこは感謝しておこうかな?」
「ありがとう」
お礼を言ってから、彼女は復活の次第を口にし続ける。
「まあ家に安置したのも奇跡だったと言える。奇跡じゃなかったのはその遺骨が同じ人間のものだと判明した上で、自分の仮説が証明されたこと。だからそっちが生き返った時、触りこそしなかったけど見てた。近くの家で」
「覗き見は良くないよ〜」
「それだけの価値があった、ということ。
実際その再生技術のおかげで、今ああしてそちらの後輩と戦っているヤツカは高圧電線に触れてしまった事故で溶けた上半身を再生した上でその再生範囲、つまり生き物としてのハードウェア、外郭をいじって拡大させてあんな動きができるようにした。元々生き返っても生まれがどうにもできないと言ってたし、与えれた結果があの姿だ。綺麗なものでしょ?」
流石に狼になると、あまりに強い。うまいこと建物を破壊せずに立ち回るヤツカ、器の拡張と縮小は最大サイズ内だったどのサイズでもなれるのが幸いしてミメシスやデカグラマトン等大型のものとは異なり体躯の伸縮とそれに伴う速度の増減によって攻撃をかわし続けていた。
シロコ*テラーも当然それに追従するが、相手の攻撃を抑える代わりに自身の攻撃が当たらない状態が続く。
「というのがことのあらまし。つまり助けたのは偶然だし、それによってこうなるのも私のミスとも言える。どう?納得した?」
「君は人殺しだったんだよね?なら、なんで私をわざわざ生き返らせたの?新たに人を殺してからでも良かったはず」
「それは跡がつくから」
人殺しもむやみやたらにするものではない。これは常識だ。
しかし、跡がつく。という言葉に聞いている方は引っかかった。
「跡がつく?ヴァルキューレが機能していない時に、SRTもいない。カイザーは興味ないだろうし、そんな抑止力たり得るのがいたの?」
「嫌なことに。もっともそいつは今、私の中だけどね」
"彼女にとっては"そう見えること。
「私はつい、というかシャルアーを助けるついで、もっといえば研究の初めるきっかけで襲った組織がある。落花堂、という組織。いわゆる薬物を売り捌くいけすかない奴らなんだけど、そのトップはもう死んでいる。今はまだ組織は残っているけど、一年経った以上はそろそろ瓦解する頃だね」
「そのリーダーを殺したの?」
「いやあ、私の中にいる」
心臓を指差すセツカ。
「そっちが生き返ったのと大体同じだけど、そのリーダーとやらの命は、魂がない状態で入っている。詰まるところ私が殺したも同然、彼女はもう復活できない!」
ただ、笑う彼女。まるで勝ち誇ったように、今目の前にいる人間以外は敵はいないと豪語するように語り続けた。
「つまりだ、落花堂が今私を抑える力が無い以上あまり気にする必要はない!」
「折角だから名前を聞こうかな。だぁれ?」
「聞きたい?聞きたい?いいとも!聞かせてあげる!その名は_____」
「扇堂リンネ、だ」
また、誰かの声がした。
シャルアーの声でも、セツカの声でもない。
強いて言うならゼンヒの声、ゼンヒに近い声と言うべきか。
いずれにせよ、今までそこに居なかった人間のものだ。
「誰だっ!?」
屋根の上から見下ろしている人間が1人。
薄紅色の髪をした、スーツ姿の人間。
「な、お前、は」
「嘘、でしょ……!?」
今、シロコ*テラーが戦っているヤツカはともかく、シャルアーとセツカにとっては因縁深い人物。それも、死んだと確信していた人間がそこにいる。
「おや、随分と驚いた表情だが、まさか天下の人殺しである天衣セツカがあの程度で私が死んだと思っていたのかな?君がそこにいる梔子ユメを蘇らせたように、私も蘇らないとでも思っていたのかな?」
武器を取り出し構える2人。
ユメも何かを察知したのか、盾を構えた。
「覚えているかね、2人とも」
「忘れるはずがないだろう」
「生きてたんだ、生きてたんだな……リンネェェェェーッ!」
セツカに余裕がない表情なのも頷ける。
何よりも今そこにいる相手はセツカを殺した相手であり、セツカに殺された人間であり、何よりもゼンヒのもう一つである少女。
扇堂リンネなのだから。
「私の名前を叫ぶくらいには好きでいてくれたのは嬉しいよ。まあ、ハクジツには遠く及ばないが」
「どうしてお前がここにいる!」
「さっきも言っただろう、私は生き返ったんだよ。お前が消えた後、奪った装置によって私は新たな血肉を得て生まれ変わった。お前にとっての私は、存在そのものが地雷と言える。なぜなら、私の思想ではなく行動そのものがお前の邪魔であるからな」
リンネは嗤っていた。目の前の女が滑稽である姿を初めて見たからか、とても嬉しそうだ。
ただ、それよりも彼女達は窮地に陥ったと言っていいだろう。
「な、なにこれ!?」
三人を囲むようにして、リンネの兵隊が沢山出てきた。
それは不良の塊でもあったが、その中には浮浪者であろう奴も銃を持ってやってきている。目は虚で、おそらくは違法薬物の虜になっているからか真っ当に話せなさそうな反応をしている。
「まあ、そちらの少女はともかくセツカ、お前の方は増援が来ることもない。せいぜい足掻け、どの道お前は殺さなければならなくなった。その身体には、お前だけのものじゃないからな」
気持ち悪い言い回しをしたリンネは後ろを向く。
「まあ頑張ってくれたまえ。連邦生徒会や様々な自治体に見捨てられた大隊レベルの人数をたった3人、戻っても5人で殺せるものならな」
「待て!」
「さらばだ」
そうして彼女は、後ろの方へ消えていった。屋根の上に登る手段もなく、追いかけることはできない。
殺しても殺しても足りないほどの生ぬるい屍の濁流を、切り抜ける時が来た。
地獄の始まりだ。