流石に手加減している余裕はない。
「セツカ、これ使え!」
シャルアーは彼女にカイーナを渡し、亡霊同然の奴らを全員叩っ切ることに決めて突撃。
いきなり大物を振るうのは疲れを招くが、銃弾でどうにかなるものじゃない。
「クロコちゃん!」
「ヤツカ!」
それぞれ戦っていた仲間を呼び戻そうとするが、すでに遠くで聞こえてない。
「共闘するよ!」
「そのつもり!こんな奴らに殺されたくないでしょ!?」
この場に来て全員共闘という成り行きになったが、それをするくらいには相手の軍勢は悍ましかった。
まともにコミュニケーションが取れないならともかく、すでに快楽で頭を破壊されたような仕草を見せつけながら挙句本来の人間が出せないはずの力を出して突撃してくる。
「感覚器官がぶっ壊れてるの!?」
「だと思う!」
「思うって!」
「薬を打ってる連中がマシだと思うか!?」
三人は処理を続ける。
シャルアーは大剣ジュデッカでそのまま相手をぶつ切りにし続けることで恐怖心を煽って撤退させようとするがすでに自身と薬に酔っているリンネの兵隊にそれが効かない。相手にとっては『自分が死んでも同じ境遇の人間を救う礎になる』という偽善の快楽と『シャーレに選ばれそうな奴らとそこに徘徊する悪役を葬れる』という植え付けられた自尊心が誰彼知らずに殺すだけの殺戮マシーンに少女を仕立て上げた。
「くっそこいつら好き勝手に襲いかかってきやがる!」
「あーもうキリがない!」
セツカも同じく何度も大太刀で切り伏せる。本来キヴォトスにあっても仕方ない武器は、こういうアウトサイダーな彼女らにとっては打開の一手になり得た。
それすら頼らず処理し続ける化け物がユメであるが。
彼女は盾で殴り飛ばし、折りたたみと形状を変えて打突して身体を意地でもダウンさせて投げ飛ばすことで確実に相手の動きを阻害し続ける。
たまに殴った場合、相手が異常な見た目をしている場合がある。黒ずんでいて、殴ると気持ち悪いほどに柔らかく、力を入れて殴るとそのまま破砕してしまうものだ。
「何、これ」
盾で殴った方はそれで動揺はするものの、落ち着きを取り戻してからまた行動を再開。そのまま殴って飛ばしてを繰り返すことで、相手の行動を阻害させる方にシフト。
流石にこの中で段違いのパワーを持っている彼女は、ダウンさせて投げるだけで相応の山が出来る。屍の山を作っても怯まない相手は突撃してくるが____
「えい!」
と、今回は持ってきたショットガンを使ってわざと山を崩す。
すると、その山は雪崩を起こしてやってくる軍隊をそのまま押しつぶすように流れ出した。セツカとシャルアーのいる場所には届かないものの、近くに居たユメは盾を戻して離脱して攻撃とした。
「あれがホルスの相棒か」
そう感心しているセツカも目の前に流れてくる軍勢を刀で処理し続ける。
何度も何度も切りつけてはバラバラにしていくが、シャルアーではないため刀にある機能は使えない。それでも刃物全般は扱い慣れているのが如実に分かるのは、その処理速度にあるとも言えた。
何せ刀を振り回して相手を断つ、この行動に乱れもなく斬れなかったということがない。それを刀でやれているということは太刀筋が一切ぶれないことを意味している。その状態のまま相手を切り伏せていくセツカだが_____
若干、息が切れ始めていた。
何しろ片方で山が出来るほどの人間だ、シャルアーとセツカで分担しているとはいえ流石に時間が立つと体力の限界が見えてくる。
「はぁ……」
眩暈がしてきたセツカ。
そこに、相手を殺すことしか見えていない相手の一人が飛んできて殴りかかる。
「んぅ!?」
殴り飛ばされるとそのまま建物の壁に激突。
血は流れていないもののあまりの力で殴られたせいか、眩暈が強くなってしまっていた。
「おいセツカ!」
「だい、じょうぶ」
しかし相手が一向に減る予兆はない。
どれだけの兵隊を持っているのか、というのが全員思っていることだったがその答えはまだ分からない。ずっと向こうを見ても人の影が見えるのが、悪夢に等しい。
「ねえ!?なんかないの打開策!」
「あったら私はもう使ってる!なんだったらある!」
しかし使ったらどんな被害を呼ぶか。
セツカはまだ眩暈と脳震盪で動けてないのにジュデッカをカイーナと同じく起動してしまうと巻き込まれてもっと酷い傷を負うかもしれない。何より周りが火事になったりしたら逃げる場所すら無くなってしまう。
「セツカちゃんのことがやっぱり心配!?」
「当たり前だろ仲間だぞ!」
「だったらなんであんなことに手を貸すの!」
「そうでもしないと元の世界に帰れないからやっているんだろう!?」
「君だったらもう少しまともな働き方もあっただろうに!」
「私はこの土地で骨を埋める気はない!」
言い合いをしながらも互いにできる方法で兵隊を減らしていくが、やはり埋まらない。
「どれだけいるんだよ!」
悪態をつきながらまた一人叩き切るシャルアー。
すると、よく見えた顔に異変があることに気づく。
「あぁ……?」
その兵士が一人、不良の眼。
瞳が人間的なものではなく、カットされた宝石のようになっている。ずっと対応していたせいで一人一人の状態を見ることは叶わなかったが、偶然よく見える角度で対応したが故に気づいたことだ。
まるで結晶であったその瞳に、シャルアーはとてつもない違和感を覚える。
「こいつら改造兵士とでも言うのか!?こんなになるまで身体を弄って!」
「どう言うこと!?」
「一人ぶっ倒したら目を見てみろ!」
言われた方も、同じように見て、同じことに気づく。
「何これ!?」
「言ったろ!こうなるまで何かしたんだあいつは!くっそ、どうやったらこんな人数が集まるんだよ!」
「知れたら苦労しないよ!」
そんな苦労をしている二人に、増援がやってくる。
シャルアー側には、少し縮んだ神狼がやってきて相手を破壊していく。前足で相手をすり潰し、身体をぶつけていくことで身体そのものが脆くなっていた奴らを破壊していく。
ユメの方には上からの斉射と精密射撃。降り立った後の蹴りなどで、文字通り一周する黒いドレスの死神がいた。
「ごめんシャルアー!姉さんは!」
「カバーしきれなくてあのザマだ!」
「ん、ごめん先輩」
「よく戻ってきてくれたよ〜!」
ヤツカの隣にいたら邪魔であることは理解したのか、アイコンタクトをしてからセツカの方へと駆け寄るシャルアー。
「おい大丈夫か!あの一撃でここまでいくとは思わなかったが」
「へへ……妙に眩暈が長いや」
夜の月光が反射しているのかどうなのか、彼女の目は青くなっている。
「おいおい____セツカ?」
「大丈夫____だけど、このままやっているとまずいかも。脱出の算段が経てばいいんだけど」
「ヤツカが頑張ってくれるさ、しばらく休んでろ」
「ありがとう」
彼女らの近くにやってきたのをまた、処理する。
「ああもう!鬱陶しい!」
血の匂いが充満し、ジュデッカと名乗る大剣は炎を宿して振られるからこそ脂の弾ける音がした。
そんな地獄極まりない状態は、炎こそ激しくなっているが状態は未だ良くならないでいる。
いくらすり潰して処理をしようが湧き出る奴ら。誰もが同じ顔ではない、という点は不可解であり、それゆえ不気味。もしかしたら裏バイトのようなもので集めただけの軍勢であったにしろ、キヴォトス人の身体能力でこんなことをされてはたまったものではない。軍隊の出ではないが、欲望のままに非道にも手を染める奴らのやる気を見誤っていた。
それだけのものを扱い、平然としているリンネという女はどれだけの邪悪かは如実に現れている。
「くそ!切っても切っても減りやしない!人殺しを目の前で見ておいてその態度本当にイカれてるんじゃないのか!」
「いかれてるからやってるんじゃんこれ!」
「そっちは何か策はあるか!?」
「ん、あったら苦労しない」
「だよな!」
そうこう言っている四人と未だダウン中のセツカ。
「たった一人に殴られただけでこうなるってのも相当運が悪いところに当たったか」
ぶつくさ文句を言いながら戦っているシャルアーも流石に疲れを感じてきた。
彼女はそれなりに戦い慣れている方だったのにも関わらず人数の差というのは精神的疲弊も招くため、結果として緊張感が体力の疲労に繋がってしまう。すると、相手の処理速度が落ちてしまう。
「どうしようもない、か」
流石に諦めが来るほど精神が参ってしまう彼女は剣先を地につけ膝もつく。
「ちょっと諦めてどうするの!」
「休む暇もないならこのまま死んでしまうのも一手だと思ってしまった」
「ばか!」
ユメの叫びも、半ばくぐもって聞こえるほどに聞こえてしまった。
そうして疲弊していく少女達。一人は殴られた後の回復が異様に遅く、もう一人はその分頑張ったせいで早く限界が出てきた。そしてその二人の仲間の戦い方は、仲間を守るためにはできていなかったのである。
各々が絶望し始め、相手はそれを押し潰そうとした。
その時だった。
「うぐがががが」
という、素っ頓狂な悲鳴をあげる不良が一人。
その不良はかなり苦しんで暴れ出す。ユメが見つけたそれは、すぐに体の輪郭が弾けて血肉は黒く爆ぜ、文字通りの濁流として兵隊を押し流すように溢れ出した。
「ん!」
素早くロープを飛び乗った屋根から投げたシロコ*テラーによってユメは脱出。
「セツカを連れてけ!」
「でも」
「私はこんなことじゃ死なない!」
そう言い合っては、ヤツカがセツカを咥えあげて屋根に登る。
しかし振り返ろうとするとすでにシャルアーは濁流の中に消えていく。
「これやっぱりもっと溢れると思う!」
「私たちはすぐに離脱する。二人は?」
一人になったヤツカは、混乱してしまっている。
だが、シャルアーは彼女にセツカを託した。
そのことを知っていたヤツカは、目の前にいる二人に何も言わずに屋根を飛び乗り続けて離れた。
「冷たいね、彼女」
「ほら、ユメ先輩。いくよ」
「うん」
そう言って、二人も離脱。
急な濁流は確かに彼女らの窮地を救った。しかし、それは誰によるものかはわからない。
ただ一人、飲み込まれたシャルアー以外は。