「まず、あなたのやりたいことを叶えるための手段について話をしたいと思います」
「ああ」
「こちらの資料をどうぞ」
見せられたのは、ベアトリーチェが研究していた色彩との接触方法に関する実験。
「これは____」
「先の一件、ベアトリーチェが残した方法です。これに貴女のコキュートスアームズを使用した場所の確定をすることによって元の世界に帰すための方法を確立させるのです」
「実験してみないと分からないことだな」
「無論これに関してはすぐに実験できるような内容ではないのも確かです。なので、これに関してはあるものを奪還して調整することによって安定した状態で運用したいと思います。それが」
「かつて私が通った扉、か」
リンネの実験によって彼女が召喚された場所に赴き、召喚したものを回収し、それをゲマトリアで独自に改造することで道を開くと言うものだった。
「あの扉自体はどちらの領地でもない場所に置こうと思っています。それこそ、こことか」
「ここに置いて事故でも起こしたら面倒なことにならないか」
「そうならないための技術も持っています」
「ほんとか?」
「そのためのベアトリーチェの遺産です。彼女が的確に外の世界を開き、ピンポイントで色彩のありかとこの世界につなげた以上は、同じことが出来て当然でしょう?」
言われればその通りだ、と思ったシャルアーは一度頷くことにした。信用することが話し合いの第一歩である。
「で、そのピンポイントをするためにコキュートスアームズが必要だと」
「ご協力いただきたいですが、それは後々でも構いません。その間にやってほしいこと、つまり代価を頂きたいと思っています」
「ほう?」
黒服は、少しばかり笑いながら自分のやってほしい依頼を出すことにした。
「まず一つは扇堂リンネの無力化です」
「さっきも不都合だとか嫌いだとか言ってたからやるとは思っていたが_____依頼するほどか」
「協力してほしい、と言うのが正直なところですね。これは先ほども言った通りですが、薬物がこれ以上流通すると大変なことになるという懸念から来ています。ですが今話している限りだと、もう一つの不安も出てきましたね」
そう、リンネがシャルアーをキヴォトスに招き入れたと言うことは、リンネという第二のベアトリーチェたり得てしまう存在を止める必要が出てくる。
当然それは被害者である彼女も予想がつくことだった。
「無論、彼女の生死は問いません。しかし止めてほしいのは事実です、彼女の思想は危険極まりない上、何をするかわからないタイプ。そして政治という名前の都合上、先生も私も下手に手を出すことが出来ない」
「実際、今手を出さなくて正解だったかもしれない」
「どういうことです?」
シャルアーは、相手が自分の帰りの手助けをする詳細を話した以上はその分の礼はしておくべきだろうという話で、自分たちが助かるまでに戦っていた人間の話をした。
痛覚はゾンビのように薄く、ユメが叩いて気絶させるかぶった斬るぐらいしないと碌に停止しないという兵隊のこと。瞳がなぜか輝いているが、それ以外は薬物中毒と言って差し支えないほどの反応をしていることなどを話した。
「……細かい話を聞きたいのですが」
「残念ながらそれ以上のことは分かっていない。はっきりとした情報じゃないからな、憶測でいいなら一つだけ情報があると言えばあるが」
「それでも構いません」
「なら_____」
今度は輝薬のことについて話す。
脳の使用率を100%超えた状態で固定することで本来のスペック以上の力を引き出すことにより、シャーレ所属の生徒を超えれるという話で出回っている薬のことだ。
材料には大麻と青輝石を調合することで出来るらしい、という情報もセツカから貰っていたのでその分も伝えた。
「青輝石!?」
この単語に反応したのは、先生である。
「え、あれを____」
「風の噂だからはっきりとしたことは言えないが、少なくともそういう類のものであるというのは聞いた。私はその石について見た事はないからどうとも言えないが」
「あれはいわゆる鉱物の一種で、高値で取引されてる宝石でもあるんだよ。場合によっては先生も取引で使うようなものなんだけど_____それをまさか麻薬として使うなんて」
「目の色が変わるのも、もしかしてあの薬なら、と勘繰ってしまう」
困った、と眉を顰めるシャルアー。
「で、そういうのもあってだいぶ手強い奴らだったんだ。機械の兵士は基本、戦えるキヴォトス人よりは弱いんだろ?」
「間違いありません。一番は先生の指揮がある事ですが、そうでなければフィジカル勝負になりますから」
「この情報が役に立つといいんだが」
「こちらは統率が取れる上、カイザーの資本は膨大です。そう言った情報も集めてはいますが、貴女の口から語られる情報はそうそう望んでも獲れないものですから。感謝します」
「その分は帰る時の作業でしっかりやってくれればいい」
彼女は相手に笑いかけながら、話を続けた。
「と、いうわけだ。正直あれらの相手をするとセツカサイドにいるのも辛い状況でね。私の第一目標は帰ることだ、最悪セツカにさよならを告げる必要もあると思っている」
「なら_____もう一つの仕事も受けていただけますね?」
「そういえばさっき一つは、って言ってたな」
黒服は真面目な表情で、もう一つの依頼を出した。
「天衣セツカの確保。これは生かしての捕獲をお願いします、違約金などはありません」
「随分ザルな条件だな」
「貴女の力を信用していないわけではありませんが、おそらく状況が悪いまま戦うことになるでしょう。何せ、特別暴力対策課という存在が引っ掛かります。そしてあのアビドスの二人や聖園ミカと戦っている。真っ当な協力が得られるかは怪しいところです」
「そればっかりはどうしようもないが、彼女らと足の引っ張り合いさえしなければおそらくヤツカは倒せるはずだ。そしたらなんとかしてセツカを捕獲すればいい」
彼女の予測に、あまり不備を感じない大人二人は頷いた。
「最悪私がヤツカと戦って、残りの全員をセツカの捕獲に回せばいけるはずだ。逃げられないで済むだろう、と思うがそうなったら失敗でどうなるか分かったもんじゃないからな」
「それで協力するでしょうか」
「協力させるさ。どの道相手からは仲間割れのように見えるから、セツカを捕まえる方向に動くはずだ。ただ神狼は手強い、あれを片付けるためにしばらくコキュートスアームズの方は預けれない」
「貴女が帰る時で構いませんよ」
「助かる」
どうやらある程度の算段は立ったようだ。
「しかし、ノリノリで作戦会議をするところを見るに……貴女は、この話に乗るつもりでいいのですか?」
「黒服は代替案を提示して、私はリンネの手下に関する情報を開示した。お互いの話を信用した上で作戦会議をした以上は、私はお前のことを信用することにしている。そっちはどうだ?」
「クックック……私も、今回ばかりは誠心誠意対応させていただくことにしましょう。貴女をフリーにさせておくよりも、私が貴女に協力する方が良いと思っているのには変わりません」
「私も同じ気持ちだ、これからは気軽にシャルアーと呼んでくれ」
「ええ、そうさせていただきましょう」
どうやら手っ取り早く話は成立したようだ。
黒服は書類を取り出してから、今回の件に関することを万年筆で纏めて出す。
「確認をお願いします」
「ああ」
難しい言葉では書いておらず、以下の条件を認めるか否かの話が二つの紙に書いてあった。
〈黒服の条件〉
1:シャルアーに対して彼女が元の場所へ戻る為の作業を行うこと。
2:帰れるまでの間はカイザーからのサポートを行うこと。
〈シャルアーの条件〉
1:天衣セツカの捕獲を行うこと(やむを得ない理由で死んでしまった場合でもこの条件はクリアしたものとする)
2:扇堂リンネの無力化をすること(生死問わない)
「なるほど、これならいいだろう。判子とかは……やばい、持ってないな」
シャルアーは、カイーナの刃を出してからそこで親指を少し切る。
「これでいいか?」
「不良が碌にハンコ持ってるとも思わなかったのでサインでも良かったのですが____仕方ありませんね。それで割印をしましょう」
黒服は自分のハンコを取り出してから、紙と紙を跨いだところに押した。シャルアーも自分の指から少しだけ血を拭き取ってから押す。
「よし」
「はい、それでは片方は貴方が持っていてください。私がするべきことの方です」
契約成立。
「ありがとう、話に乗ってくれて」
「元々話しかけたのは私です、シャルアー」
「いやあ、いい感じにまとまってよかったよ」
話が終わったのを確認してから、先生が出てくる。
「そうだ、シャルアーちゃん。カードとかとついでにこれ持ってってよ」
「ん?」
先生は胸ポケットからある機械を出して、それを彼女に投げ渡した。
「今ので一応黒服とかは信じているかもしれないけど、それさっきまでの話し合いを録音しているやつ。自分の声も入っているよ」
「おいおいそんなもの渡して大丈夫なのか」
「自分だけ安全圏にいて証明できる中立はないよ。これを持っていけば、裏切られた時も安心だね」
「大人というのは本当にあれこれ考えているんだな。感服するよ」
「それを理解してくれる人がいることも、ね」
話は終わった。
シャルアーは立ち上がって、2人の方を見る。
「今日は時間を取ってくれてありがとう、シャルアーちゃん」
「2人こそ、此方の話を聞いてくれてありがとう。そこまで完璧に近づけるかは分からないが、とりあえずセツカの件に関してはやるだけやってみる」
「とりあえず何か困ったことがあったら言ってみてね」
「私もお手伝いしますよ」
「じゃ」
そう言って、シャルアーはエレベーターの中へ消えていった。
残るは男2人のみ。
「ふぅ、これでとりあえずは1/3の戦力を削ることには成功したね。あとは……」
「リンネの件ですか。此方は私の方で探ってみることにしましょう」
「オッケー。じゃあ、飯行かない?」
先生は黒服を飯に誘う。
「良いのですか?」
「メフィラスとウルトラマンだって居酒屋行ってたし余裕だよ。それにずっとここにいても仕方ないし」
「では行きましょうか」
「うん」
2人も立ち上がって、もう一つのエレベーターに乗った。
事態が大きく、動く予感がする。