シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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大人の戦い方/セツカサイドその3

 シャルアーはセツカの家に帰ってきた。

 

 家の明かりはついてるが、あまり人の気配はしない。

 

「帰ってきたぞ」

 

 そう言っているが、誰も反応しない。

 

 セツカの部屋まで歩いた彼女は、ゆっくりと扉を開ける。

 

「……おかえり」

 

 部屋の主が、彼女に挨拶をした。

 

 その声が小さかったことを考えると、どうなっているのかは少しは察しがついたシャルアーは、そのまま扉を閉めようとする。

 

「私もいくよ」

 

 そう言ったセツカは、自分の膝下で寝ていたヤツカをそっとベッドの上に寝かせてから立ち上がる。

 

 二人はそのままあまり音を立てないまま、一回のリビングへと降りた。

 

 部屋の電気はつけたままで、ラップが掛かっていた晩御飯を並べて二人は食べることに。

 

「いただきます」

「うん、いただきます」

 

 すごい静かだ。

 

 お互いに何をいうわけでもなく食事をしている。

 

 シャルアーはこれからのことを考えて、何も話さないでいた。セツカはこれまでのことを思い返して、何も言わないでいた。

 

 それは、そろそろ二人が永別する兆しであったかもしれない。

 

 だが、当人同士はそれに寂しさを覚えることも、怒りを覚えることもなかった。

 

「ねえ、シャルアー」

「なんだ?」

「無事だったんだね」

「ああ」

 

 あの黒い波は、シャルアー以外を飲み込んだ。

 

「どうやって避けたの?」

「避けたというより避けられたの方が近いかな。だが、収まるまで割と時間が掛かっていたから帰るまでにかなり時を費やした」

「ふぅん」

「私が帰ってきたことは不都合だったかな」

「嬉しいな、って思ってるよ。だけど、隠し事は悲しいな」

 

 帰りを待っていた方は、見抜くような言い草。

 

「気絶しかけてたけど、波はそこまで時間が掛からなかった。時間が掛かっていたなら、多かれ少なかれ話題になっていたと思うから。そうじゃないってことは、すぐ収まったってことでしょ?」

「まあな」

「なら、シャルアーはどこで時間を潰してたんだろうね?」

「言ったろ、帰るのに時間を掛けたって。波が去っても残滓は残ってたから歩くのにおっかなびっくりだったんだ」

「じゃあ、なんでちょっと餡子の甘い匂いがしたんだろうね」

 

 流石に殺人鬼をやるくらいには鋭い嗅覚を持っていた彼女に、誤魔化しは効かないらしい。

 

「シャルアー、本当は誰かと会っていたんでしょ?」

「……お見通し、か。ヤツカの近くで話したくはないんだけどな」

 

 問い詰められている方は、胸ポケットから一つの道具を取り出した。

 

 シャーレのゲストカードである。

 

「それって____」

「黒服と先生に誘われて話を聞いたんだ。お家に帰る算段はなんとかして立ててやるし、方法はあるからある程度の仕事をしろと言われてな」

「例えば?」

「扇堂リンネの無力化だ」

 

 最初から天衣セツカの捕縛を言うわけにもいかず、彼女はもう片方の仕事のことに言及。

 

 グレープフルーツジュースを飲み、少し冷めてるラムステーキを食べながらシャルアーは説明した。

 

「先生も黒服もあの女については野放しにしていると相当困るらしい。だが、シャーレが関わって解決してしまうと選民思想の強化を引き起こして政治の分断が発生することを危惧している。ゲマトリアなら正面からことを構えても政治的には問題ないが、あの軍隊のことを考えたらまず機械の兵士で相手取ることが相当難しい。故に、私に協力を求めてきたということだ。一人で強いし、裏事情もそれなりに知ってるってことからな」

 

 その説明で、セツカはある程度のことを理解した。自分の横にある水を飲みながら、彼女は思っていることを話す。

 

「薬物が流行してしまうのも良くないからね。とはいえ、それだけ娯楽どころか衣食住さえ確保できてない子達が多いとそうなるのも納得だから、まずはそれを生み出す存在を止めてしまおうっていうのは納得が出来るかな」

「どの道市民の生活が安定化するには、その安定した生活の体現者が居ないとまたリンネみたいな人間が生まれるだけだがな」

「だから扇皇ゼンヒを復活させるために私が必要なんでしょ?」

 

 シャーレが困ること、を逆算した結果シャルアーに接触した理由も理解したセツカは、目の前の相手に問う。

 

「シャルアーはその仕事も請け負った、違う?」

「……その通りだ」

 

 言われた方は、素直に認めた。

 

「今から私を捕まえたりすれば、その仕事は一つ達成できるけど____どう?」

「いいや、やめておく」

「なんで?」

「まだ、お前とやるべきことがある」

 

 そういう彼女の目は、真面目だった。

 

「私とやるべきこと_____」

「あの装置はどの道放ってはおけない。修復して帰れるならそのままでいいが、仮に失敗したとしてもあそこに放置し続ければリンネがまた使うことになる。そうなる前に処理方法を見つけなければならない。もっと簡単に言うのであれば、あれを守って起動が成功したら私はそのまま帰るし、そうでなかったとしてもゲマトリアに譲渡する。と言う話だな」

「そんなべらべら喋っていいの?」

「お前が案じてるのはヤツカとゼンヒのことぐらいだろ。それらにはあんまり手を出したくない」

「私が自分の身を案じるようなやつだったら〜?」

「そんな奴が殺しなんかやるか」

「厳しいね」

 

 だけど、シャルアーの言うこともごもっともだ。そう思えたセツカは、黙って彼女の言うことに頷く。

 

 そんな会話をしている中で、今度はシャルアーが疑問を持った。

 

「次は私から質問したいことがある」

「何?」

「なぜ、扇皇ゼンヒに執着……いや、彼女を大事に思ってるんだ?」

 

 本来、生き返ったのであればその人生を謳歌するのが普通であろうとシャルアーは考えていた。事実、その人生を謳歌してもう一度夢のために動くリンネがいる以上、セツカもそうであった方が普通と言える。

 

 しかし、彼女はそうではなかった。生き返った理由はセツカを奪還するほど必要としていたシャルアーとヤツカのためであったが、やはりその役目が終わったらゼンヒに体を返そうと考えていた。

 

「まず、人は生き返るべきではないんだよ。人が生き返ったら、その時点で発展は止まってしまうだろうし、何に対しても無気力な社会が形成されると思う。永遠にぼうっとできる社会って素晴らしいと思うけど、人間の根底に怠惰が存在する以上、いずれ人間は止まる。それは楽しくない」

「そんな最もらしいことを聞きたいわけじゃない」

「いや、私は大真面目にこう考えているよ。と言っても、食い扶持稼ぐためにいろんな子を殺してたから、輝かしい生活を送っていたかと言われればそうじゃないけど」

 

 結局セツカも凶悪犯とはいえ不良の域をでない以上は、それなりに制約のある生活をしていたことには変わりはない。それを甘んじて受け入れており、自由を愛していたからこそリンネのせいで急に人生を終えたこと以外には不満を持っていなかった。

 

「だから、バトンタッチした以上は私は生き返ろうとも思わなかった。けど____彼女がある日大怪我を負って、死ぬかどうか彷徨ったことがある」

「ヒエロニムスの一件か」

「そう。その時に、私はあの時に目覚めてしまった。親切心で自分の存在を使い彼女を強化した、その時に邪魔だったから、融合したリンネの要素を取り除いたんだよ。

 _____それが、間違いだった」

 

 あの時のそれがなければ最悪ゼンヒは死んでいた、だから自分ができることをした結果が、リンネの復活につながってしまった。挙句、シャルアー達にも責任があるとはいえ、ゼンヒは周辺に対する信用を失って殻に閉じこもることになる。

 

「ハクジツに対する攻撃も結局は、ゼンヒからあの女の恋人を遠ざけようと思ってのことだった。だけど全部裏目に出ちゃったんだ。そしたら____」

「私達の件もあって復活してしまったわけだな」

「彼女にどう謝ればいいんだろうね」

 

 セツカの、少しだけ悲しい顔。

 

 対面にいる少女は何も言わず、彼女に対して言葉をかける。

 

「どの道対面できるかどうかは不明だ。お前がもし、ゼンヒと入れ替わって以降ずっと会えなかった時は私が代わりに謝っておくよ」

「ほんと?」

「ああ。絶対だ」

 

 言葉だけでもわかる善意だった。

 

 それに甘えることにしたセツカは、彼女にお礼を言う。

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 

 また、互いに二口ほど食べ進めてから、話を続ける。

 

「私は十分に、自由に生きた。その結果がたとえ悲惨であっても、悔いはなかった。地獄に落ちても、多分笑っていられると思う。だけど、そうなるためにはゼンヒをもう一度この世に送り出さないといけない。彼女には辛い思いをさせてしまうけど、この体と命は彼女のものだから」

「……そうだな」

「そのための手伝いを、してくれるんでしょ?」

「ああ」

 

 この返事を最後に、重苦しく真面目だった会話は終わりを告げた。

 

 お互いに食べ進めながら話していたのもあって、食べ終わるタイミングもほぼ一緒。

 

「ご馳走様」

「ご馳走様」

 

 二人は食器をシンクに置いてから、階段の前で挨拶をする。

 

「そういえば、シャルアーは今日は泊まっていく?」

「必要な荷物は自分の家に置きたいから今日はこのまま帰るよ」

「大丈夫?」

「お前が一緒に着てくれるなら頼もしいが、ヤツカが心配するからな。一人で帰るよ、どうせすぐそこだし」

「ああ」

 

 そう言って、二人は別れた。セツカは自分の部屋に戻って眠り、シャルアーは家から出る。

 

 シャルアーが外に出る頃には深夜であり、自分の家が少し遠くに見えていた。

 

「よく見えるな」

 

 深夜の星は綺麗なのだが、それはあくまで不良とかが集う場所であるからこそろくに電力供給されてるところが少ないが故の景色である。

 

 もうそろそろ大きな戦いが始まり、その後では見れるかどうかわからない光景。

 

(この光景を見られるのも最後なのかもしれない。まあ、見れなくなったところでどうだ、と言う話ではあるが____)

 

 そんな彼女の心に呼応するように、流れ星が一つ。

 

「綺麗だ」

 

 流れ星に、彼女は一つ願いを託す。

 

「思うこと全てが上手くいきますように」

 

 曖昧な願いだが、流星に願うには十分な願望だった。

 

 セツカ達もユリ達も、互いに準備が整いつつある。

 

 衝突までのカウントダウンは、着実に迫っていた。

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