シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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決戦前夜/ユリサイドその1

 ユリ達は特別暴力対策課の事務所へと戻ってきていた。

 

「ほら、ハクジツさん。これ」

「ええ……」

 

 ホットココアを出すくらいには、夜の冷え具合は深い。

 

 そう感じさせるのは雨のせいだろうか。

 

 一人を除いて。

 

 ユリは一度、応接室から出る。

 

「______」

「ハクジツさん、すっかり落ち込んじゃってるね」

「仕方ない。リーダーの件でかなり落ち込んで自罰的になっているのに、恋人がさらに蘇って会話してるなんて言ったら脳が混乱するのは当たり前だと思うよ。むしろ恋人のところに脳死で向かいます、をしなかったのが奇跡だと思ってる」

「軽いよねえ」

「私の発言が重かったことはないよ。

 ____リーダーのこと以外は」

 

 ハクジツは、彼女と二人きりだったからこそ、ここで初めて落ち込んでいる姿を見せた。

 

 事件最初はどう追うかなんてことを立てていかないといけなかったから奮い立たせていたが、今こうしてやるべきことがはっきりして、少し余裕ができると緊張感という支柱が崩れゆく。

 

 ショウコには少しばかり迷いが見える。

 

「天衣セツカは結局捕まえないといけない、それは間違いない。だが、扇皇ゼンヒが戻ってきた時、彼女は本当にそれを望んでいるかどうか。私には分からない」

「ショウコ____」

「結局、彼女は全てに裏切られたと思っている。局長のあの話が、そうさせたんだと思う。そうした場合は、彼女はヴァルキューレに戻りたいと考えることはないんじゃないかって」

「私達も、いずれ裏切ると?」

「もう裏切ってる、と思っている可能性は高いよ」

 

 結局自分を助けに来なかった、無理やり会おうとして動かなかった、そしてセツカと言う一要素だけで犯罪者を扱うかのように断絶したと言う点ではもう信頼できることはないと言う考えもできた。

 

「取り戻せたとしても、と考えるよね」

「アタシ達ってさ、本当に彼女を求めていたのかな」

「求めてないと思うよ」

 

 そう、答える人間が一人。

 

「カザミ」

「やあ、どうも」

「お前も、そう思うか」

「自分たちが彼女を思っているか、そもそもできる限りのことを尽くしてきたかどうか、悩んでいるような言い草だね。大義名分のないSRTらしい悩みぐさだ」

「そうかもしれない」

 

 言われた二人は、その言葉に沈黙しか返せなかった。

 

「彼女はもう誰も信頼できないかもしれないと言っていたが、それは果たしてそちらの責任かな?」

「どう言うこと?」

「ごめんなさいを言えたとしてもその価値がどこにあるのか分からない人間が悪いとは思ったことはないか?」

「今、なんて」

 

 カザミは、今一番聞きたくない、と言うより素っ頓狂で一番不快なことを言い出す。

 

 話の流れなど関係なく、時間が少ない以上は突っ走るしかないことだ。

 

「つまりだ、扇皇ゼンヒにも非があるんじゃないかって言ってる」

「そんなわけない!リーダーはアタシ達が出来ることをしなかったから!」

「では一回も面会したいと言ってないとか?」

「ふざけてるの!?アタシたちはリーダーのもの、何回も何回も矯正局に言った!」

「それを理解していないあっちにも非があるよ」

「カザミ!」

 

 ユリは彼女の襟を掴んで、壁に押し付けた。

 

「あんたは敵だったから好き勝手言えるかもしれないけどね、アタシたちは家族だったの!ただずっと彷徨ってたアタシ達を導いてくれた親的な存在だったんだよリーダーは!その団結力がなかったらあんたの勝ちってくらいには、大きなものだったの!」

「だったらSRTの訓練なんて無意味だったと言うわけだ!」

「ふざけるな!」

 

 カザミは、相手に殴られた。

 

 ゼンヒ失踪からやけに多い暴力沙汰だが、幸いカーペットは赤色。殴られて吐血しても、それがわかることはない。立とうとしてもカザミは痛みで動けない。

 

「アタシ達は血を吐くような訓練をして!それを認められないで殺されかけて!それを拾ってもらったの!あんたには分からないかもしれないけど、リーダーがアタシ達の人生を変えたの!どっちも、どっちも大事なものだった!」

「ならばその実力を魅せるに至るような事件を任されることはなかったわけだ!」

「カザミッ!」

 

 その蹲った相手を蹴ろうとすると、その動きを止めるようにショウコがホールドする。

 

「離せッ!」

「落ち着けユリ!ここはもう軍隊じゃない、人の話を聞くのが司法の役割ってものだろう!」

「ショウコは甘いんだ!何でもかんでも平和に収まると思っているんでしょ!?」

「逆だ!法があるから、それを率先して守ってこそ理想は強く守られる!」

 

 片方の腕を解いてからユリの鳩尾に拳を入れるショウコ。

 

「うぐっ……」

 

 気絶するまでには至らずとも、力が抜けた彼女はゆっくりと膝から崩れた。

 

「すまない、ショウコ」

「カザミも言いたいことが分かるし、今回は止めないが挑発だけするとかは今後は少し控えてくれ。まだウチも軍隊気分が抜けていない、情けないことにな」

「そりゃそうか、生まれて半年も経ってないもんね_____」

 

 ゆっくりとあぐらをかくように座り直したカザミ。

 

 内股座りのままのユリに、彼女は話を続ける。

 

「そうだ……お前達はどちらも欠けているわけじゃない。むしろ仕事を率先してこなしてきたわけで、お前達の監督をゼンヒはこなし、実際の仕事はお前達がやってきた。仕事の重さがあれこれというが、バックアップとしての責任と前線の責任は同格だ。その二つがもたらすのは結局、不特定多数の安寧の一個なのだから。仕事内容が変わっても、会社の事業としては結局一同頑張って貢献するのが役目だ。そうじゃない世界で、生きてきたけど」

 

 目を逸すカザミ。

 

 彼女にとっての人生はそうだったと言わざるを得ない。というよりは、ベアトリーチェが異常だっただけで本来重宝していたアリウススクワッドの面々も他の人間に対しても多少は友好的に思っていただろう。

 

 だが、その女一人によって分断された生徒の感情は結局、彼女のような人間とそれに同調する人間を生み出した。感情の旗頭になった奴隷は、ぽつりぽつりと言葉を零す。

 

「そう言えるだけ近くにいるのはとてもすごいんだ。過激派の面々がああなってしまったのは、どこにも改善の糸口がない故の感情の発露だったと言ってもいい。もう死んでしまったやつは改革できないし、シャーレによって保護されたあの分隊は下手にさわれば首を絞める。かといってアリウスをどうするかという権利はトリニティに移っている以上何もできやしない。そんなの、そんなの酷い話だとは思わないか」

「だからぶつかって傷ついてもいいから、リーダーに思ってること全部話せ、と。リーダーはどこにも居場所がなくて、アタシ達と違って頼れる人間がどこにもいないのに。後ろ盾がいないのに攻撃して、それは本当に正しいの?」

「_______」

「正しいと思わないなら、まるで正しいですって言い草やめてよ」

「自分は正しいと思っている。どこにいようが、友達だって恋人だって、家族になっても喧嘩するのが人間なんだよ。喧嘩が起きない関係なんて、虚妄だよ」

 

 二人の間に、静かな声が流れる。

 

「どこにいようが、人が二人いる以上はそう言ったことは避けられない。だけど、それを隠すことこそ本当に邪悪なんじゃないかって思う。人間は機械じゃない、表裏がある生き物だ。本当にわかり合いたいと思うなら、ちゃんと内心を言うことも大事だよ。そうじゃないと、一生互いに疑ったままだ」

「そう……でも、私は自分の気持ちすら分からない。本当にリーダーが扇皇ゼンヒじゃないとダメだったのかって、その確信が持てずにいるんだ」

「だったら、時間が少ないけどその答えを見つけるしかないさ」

 

 カザミは、笑顔を見せた。その時の笑みは、誰かを愛しむそれである。

 

「ずっと表情変わらないまま話聞いてるショウコは、何かあるんでしょ?ゼンヒじゃないといけない理由」

「ああ、もちろん。話せることじゃないけど」

「後ろめたい理由?」

「これは"甘凪ショウコとしての答え"だから、本人以外に言うべきものじゃない」

「いいじゃん、ユリもそう言う答えを見つければいいよ」

「見つかるかな。本人を目の前にしても、揺らがない答えが」

 

 自分は慕ってきた、それは自分たちを救ってくれる存在だったから、だからどの感情もその立場という報酬ありきだったのではないか、彼女のことを何も考えていないのか、色々な考え方が巡ってしまう中でユリはゼンヒに対する感情に理解ができずにいる。

 

 相手の言ったことが見つかるかどうかも怪しい、という不安を見せる中でカザミはもう一押し、彼女を励ました。

 

「これはゼンヒも分かってないことだ。仲間だと思い、信頼するのは時間だけしか証明できない。ある一定時間で、どれくらい関わって、窮地を切り抜けるか。そういう意味ではお前達は二度、自分たちを退けた。この事実を相手がどう受け止めるかどうかにかかってる。その彼女にせめて悪く捉えないでほしい、純粋に信じてほしいっていうなら、やってきたことと、思ってきたことを素直に話すしかない。言いたいことも、思ってたことも、自分が本当に彼女のことを愛していたかは、そこに答えがあるはずだ」

「カザミ______」

「ま、そろそろ、御高説垂れるのはやめにさせてね。自分もまだ、そうできるまで長く生きてない。時間が、というのであれば自分だってまだまだこれからの人生だから」

 

 痛みも引いてきたところで彼女は立ち、それの少し後で相手も立ち上がる。

 

「……という感じでいいかな、ショウコ」

「私はどうも判断しないよ、他人の感性まで決められる権利はない」 

「付き合いがあった中で一番らしいことを言ったね」

「そうかも」

 

 話が終わる。

 

 と、同時に足音が聞こえてきた。何事もなかったというには、ギリギリの状態だが。

 

「失礼するよ〜」

「ん」

 

 協力者であるクロコとユメがやってきた。

 

「あ、お二人とも。お久しぶりです、無事でよかった」

「久しぶりってほどでもないよ。でもいい情報は持ってきた」

「本当ですか!?」

「あの子達の居場所に目処がついたよ」

 

 ショウコは目を輝かせる。

 

 一番大事な情報がやってきたのだから。

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