シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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決戦前夜/セツカサイドその3

「多分、これから若干聞きたくないことを言うけどいいか」

「友達云々の話はもうほとんど聞きたくないから____うん、いいよ。今ここにいる人を信じないと居場所がなくなるから」

「そう言う考えから無くしていった方がいい、と言うことか」

 

 シャルアーは、考えていることを話す。

 

「まず、ゼンヒ。世の中の関係性っていうのはそうそう定性的ではないんだ」

「どういうこと?」

「さっきも言ったようなことだが、いわゆる友人や恋人、敵とか味方とか。そういう関係性っていうのははっきりとしたもので実は区別できない」

「じゃあ、みんなはどうやってそこを棲み分けてるの?」

「実は棲み分けられてない」

 

 頭にはてなマークが浮かんで理解ができていない相手に、自身も困りながらも説明を続ける。

 

「一般的にはゼンヒと同じような考えの人は多いが、そう言った人間は揃いも揃って傷つけられた経験があるか、ちょっとしたことで傷つきやすくて守ってくれる存在がいても守ることが難しいものだったりする」

「じゃあ、そうじゃない人って?」

「まず、社会的な立場から相手と自分の関係を図るところから始めるんだ」

 

 本来はそんな工程もないも当然なのだが、その普通さえ彼女は永遠に手に入ることはないのだから、とシャルアーはちゃんと丁寧に解説。

 

「世の中の人間には社会的な地位ってのがある。赤ちゃんだったら乳幼児、幼児だったら幼稚園児か保育園児、そっから育って小学生、中学生、高校生、大学生、大人っていうまず年齢の区別があるんだ」

「そうなんだ」

「さらにそこから細分化される。子供の時だったら学校ごとで身分が分かれて、学年で分けられて、大人だったら職種、会社、そしてその中の社長や部長、課長って分かれていくんだ。そうして確定したところから、立場っていうのは出来上がるんだよ。これは誰一人として例外なく持っているものなんだ。たまに特殊なものもあるけど、それはまた別で話す時があったら」

「黒人とか白人とかもそうなの?」

「すっごい曖昧かつあんまり意味のない区別ではあるが一応ある。私は白人だよ」

「ロシアの人ってなんで肌が白いの?」

「子孫代々四六時中アルコール入れてるから消毒されてるんだよね」

 

 若干酷い発言をしたものの、話している少女は笑って続ける。

 

「まあ、そんな感じで立場というものはできていく。その中で、立場が近しいものは当然近くにいるわけだから、そこから人は興味という本能から接触して、自然と話ができるコミュニティを形成していくんだよ」

「ユリやショウコみたいなの?」

「ああ。SRTの面々だから、二人にはさらに仲間がいることになる。まあ、それだけのコミュニティを維持し続けるのも軍としては重要なものだから、自然に形成されたコミュニティからさらに先の高度なコミュニケーション能力が要求されている。それを維持するのは厳しい訓練だったり、その訓練から出てくる困難を乗り越える挑戦だったり、刀が作られるまで何度も叩かれているようにして強固になっていくんだ」

「私は、じゃあなんのためにあの人たちと関わったんだろう。自分がその中に入れるわけじゃないのに」

「強固っていうのは、悪く言えば固着しているとも言っていい。だから、自分たちが一生懸命作り上げてきたものがSRT解体とともに用済みになった時、例えヴァルキューレがしっかりとした組織であったとしてもSRTをそのままチーム運用はできない以上必ず生まれる衝突だったんだ。例えスペシャリストが集まっていても、そのスペシャリスト同士でチームを組んで運用するのが前提だった場合は、引き剥がされて苦労するのは目に見えている」

 

 そこに加えて、現実のヴァルキューレは腐敗を極めていた。

 

 扱える人間が誰もいないどころか、それがあるだけで周りに不利益があるような状態。SRTの面々が活躍するだけで、彼女らの社会復帰の手助けになっても自分たちがその分罵倒されたり貶されたり、名誉毀損が発生してヴァルキューレの枠組みが乗っ取られて自分たちの食い扶持すら危ぶまれるような状態になることは想像に難くない。

 

「だから、ゼンヒは残っていたSRTという大きな刀のうち、欠けていた分を修復して触れるようにした。それのみならず実戦でその価値を証明し続けたというとんでもない功績を持っている。そしてそのことを誰一人として疑っていないからこそ、特別暴力対策課の面々もお前のことを慕っていたんだ。教会の話だってそうだろ?」

「でも、利用されてるだけなんじゃないかな」

「そう思うのが、社会的立場上の関係というものだ」

 

 話が戻ってくる。

 

「つまり、それがさっき言ってた立場が近しいもの同士のコミュニケーションによる関係で、ゼンヒのやつはもっと言えばそれより一段階進んだ関係、責任者であり社会の1キーパーソンとしての天才という立場なんだ」

「そっか____立場があるからこそ私は誰かに求められているんだ」

「めんどくさい話を除けばそうなる、というよりもそういう奴も多いから関係性の一つがそういうものだ、っていう話かな」

「じゃあ、友達とか、恋人とかって?」

 

 めんどくさい話になったが、できる限りまとめて説明しようと質問された側は頑張る。

 

「社会的関係から、もう一歩踏み出す関係だな。

 当然社会がある以上立場があるが、その社会には必ず娯楽が転がっている。ゲームだったり音楽だったり創作だったり運動だったり色々あるが、当然その中には共通点というものがある。それらは趣味、と呼ばれるものだ」

 

 趣味は快楽の一つである、と彼女は語る。

 

「この趣味が一緒の人間を共に楽しむものが、最初の友とも言える。社会的立場が一緒で、共に仕事に励むものも友と言えるけど、まあゼンヒには当てはまるものでもないか。仕事仲間というのは、それぞれに支えがあって初めて成り立つものだから」

「そうだね____」

 

 特に裏切られたと思っているゼンヒにとっては、今は出来そうにもない関係性。

 

「で、親友っていうのはさらにそこから趣味をやってる中でも波長の合う、つまり気の合う人間で、何かあったら助けたいなって思う人間がそう呼べるんじゃないか。友達と言える中でも、ちょっとした発言が同じツボに入って笑うとか、そういうのが親友だと思う」

「そうなんだ____じゃあ、セツカとシャルアーはどうなの?」

「この意味では____それこそ親友かもな。お互いの危機にはちゃんと駆けつけて助けてたし」

「仲良いんだね。いいなあ」

「お前もその中の一人だ、安心しろよ」

 

 相談乗っているんだから間違いなくそうだ、と言えるシャルアーにゼンヒは安堵した。

 

「じゃあ、最後____恋人は?」

「どうも言いづらいんだが_____人の性欲が奇跡的にマッチしたタイミングで、そういうのが起きるのかもしれない。そうでなくても、全部が全部、一時的欲求にマッチするような人間同士がそうなりやすいものだ」

「シャルアーもそうなの?」

「私もそうだよ。儚いけど、頑張って生きてる王子様が私にとっての恋人だ」

「性欲をちゃんと言葉に出来るくらいまで分かる日って来るのかな」

 

 思春期らしい質問に、相談相手は困惑するものの、それでも笑ったりもせずにちゃんと答えることにした。

 

「正直な話、私はフォルテと出会ってからそういうのを理解した。多分そういう人間がいいんだ、という系統は出せるが、結局のところその系統を突き詰めて行ったのが恋人なんだと思う。そう思える人間と出会えるまでは時間が掛かる、答えはすぐそこにあっても、それが答えだと分かるまでには相応の時間を要するからな」

 

 その答えを一番知っているであろう人物はハクジツであったが、ゼンヒと彼女の間にはとても大きな亀裂が入っている。お互いに、その向こうにいる相手を見つめるしか出来ないから、修復されるかは今はわからない。

 

「そっか____」

 

 ゼンヒは上を向いた。

 

 そろそろ視界がぼやけてきたが、眠いというより内側にある何かが動いている感覚。

 

 セツカの目覚めを、少しずつ感じる。

 

「ねえ」

「なんだ」

「最後に聞いていいかな」

「答えられることなら」

 

 彼女は、ゆっくりと呼吸してから聞いた。

 

「人と仲良くするためのやり方で、一番必要なことってなんなのかな」

「それはもう話すことだろうな、相手が色々なことを包み隠さずに話してくれるような人間がいい。少なくともそう思えるようなやつと出会えるのが一番だ」

「どうやったら、そう言う人に会えるかな」

「さあな。だけど、自分から相手に対する感情とか、そういうのを言っていくのが一番手っ取り早いと思う。そこに疑念があれば出してみて、その答えによって自分が相手とどういう関係で痛いかを決めるのが一番だ。

 ただ一応言っておくが、相手にも同じ権利があることを忘れたらいけない。それを見誤ったから、特暴課の面々はゼンヒを傷つけたということを覚えておくんだ」

「分かった」

 

 ゼンヒは立ち上がって、家の方を向く。

 

「寝るか?」

「うん、そろそろ寝ないとセツカの邪魔をしちゃうから」

「そうか____うん、おやすみ」

「次、いつ会えるかな」

「私はいつでも待っているよ」

「ほんと?嘘じゃない?」

「ああ、ちゃんと警察に捕まらない立場を手に入れたからな。安心して待っててくれ」

 

 セツカにもすでに話したことだと、シャルアーは相手に伝えた。

 

 その言葉には嘘を一切感じなかった、返事も普通でちゃんと自信があるような言い方に安心感を覚えたゼンヒは、少しだけ笑う。

 

「おやすみ、シャルアー」

「おやすみ、ゼンヒ」

 

 そう言って、二人はまたそれぞれ別れた。

 

 武器を返してもらわないといけないからまだセツカの別荘で待つことにしているシャルアーは、月を見上げる。

 

(セツカ、今、お前が大事に思っているゼンヒに重要なことは伝えられたと思う。聞こえていたかどうかは分からないが____多分、お前がまた永い眠りついても、大丈夫なはずだ)

 

 彼女もまた、目を瞑る。

 

(今日くらいは明日からまた頑張るためにも、いい夢を見たいものだ)

 

 そんな願いを、心の中で復唱しながら。




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