あらすじ:女王は、内戦寸前の連邦全土に向けて一斉放送を行う。そしてオルクセンのために最後の行動に移るのだった。
〇X時マイナス30分――オルクセン連邦各地
突如として復旧した国営テレビと国内大手SNSが一つのメッセージを繰り返した。本日X時より『重大放送』が行われるという予告。オルクセン連邦の全国民のリアルタイム視聴を強く求める旨である。
放送を続けていた民放各局も同じメッセージを繰り返し流した。それらの報道は、首都ヴィルトシュヴァインでクーデターが発生し、決起部隊が政府機能の掌握に成功したらしいことも既に報じていた。決起したのはアンファングリア師団所属、騎兵第一連隊のエルフたち。首謀者は女王ディネルース・アンダリエル陛下である、ということも。
改憲案の否決を受けて連邦派、独立派の別なく激高していた群衆たちは、振り上げた拳をぶつける先を失って困惑した。彼らの怒りの対象であった連邦の政府と議会が突如として停止してしまったためだ。また、各構成共和国の警察たちは政庁や議会を警備するのみで、群衆の鎮圧はすっかり放棄したようだった。
女王の決起を「壮挙」だと喝采する者もあれば、「暴挙」だと批判し、新たな強権的支配の訪れを恐れる者もあった。こうしてオルクセン全土を覆う騒乱はその勢いを失ったが、かわりに困惑と不安が広がりつつあった。
そして予告された時刻がきた。誰もが何らかのディスプレイを見た。ビルの壁面に据えられた大型ビジョンを。自宅や職場のテレビを。より多くの者は、手の中の携帯通信端末の画面を。
彼ら彼女らはそこに女王の姿を見た。軍服ではなく、正礼装の端正な黒ドレスである。ゆっくりと始まった女王の言葉は、演説というよりも、画面の前の一人一人に語り掛けるようであった。
〇X時――重大放送 連邦議会衆議院 本会議場より
「親愛なる同胞、市民の皆さん。この放送を見て下さり、ありがとうございます。
私はディネルース・アンダリエル。この国の女王です。しかし、私が女王と呼ばれるのは間もなく最後です。この何日か後には、ただのディネルース。この地に住まい、この地の土となることを望む、ひとりの市民になります。
ですが、まずは今日の話をしましょう。
既に聞き及んでいる方も多いでしょう。私は決起部隊を率い、首都を占領しました。連邦の政府、議会、軍、その全ては今、私の支配下です。
残念ながらオルクセン連邦の現体制には、国民の声を聞き、国内に平和をもたらす能力がありません。ですから私は連邦政府の権限を停止し、連邦議会の永久の解散、そして現行憲法の廃棄をここに宣言します。
私は今や、全オルクセンを支配する反動的な専制君主です。
画面の前の皆さん。あなたは今、『女王は九八四年、民主憲法を発布したときのディネルースと同じ人物なのか、それとも変わってしまったのか』と思っているでしょうね。あなたがその質問をするのはもっともです。
しかし、私は九八四年のディネルースと同じであることを、ここで速やかに保証いたします。私は何も変わっていません。当時と同じように、民主主義と種族平等に重要な価値を置いています。むしろ、共存への思いはさらに強まったと言えるでしょう。今回の暴挙と、私がこれまでに言ったことや行ってきたことの間に、実質的な矛盾はありません。
このような暴挙に及んだのは、権力を求めるためではありません。いま街頭にあり、自らの権利のために怒りに燃えている市民たちを弾圧するためでもありません。さりとて、彼らの中のごく一部の求めに応じ、自分とは異なる少数派種族を排斥するためでもありません。
私はここにオルクセン連邦の解体を宣言します。この決定により、全構成共和国は独立した主権国家となります。私は既に各共和国の首脳と話し合い、初期の合意に達しました。各共和国は直ちに憲法制定会議を立ち上げ、それぞれの自主憲法を制定します。
ただしその際、全共和国は三つの原則を順守します。民主主義、種族平等、そして種族の自決です。後継共和国は、星欧連合への加入または離脱をそれぞれに決める対外主権をもちます。
その一方で、現在と同じ国境線を維持します。モザイク状に各種族が混住するオルクセンの地に、種族別の国境を引き直すのは非現実的です。無理に試みれば流血は避けられないでしょう。
しかし、独立後の共和国で少数派に陥ることを恐れる必要はありません。各共和国はその中に少数種族からなる自治の仕組みを整備していきます。種族の文化や言語といった伝統はそこで守られるのです。
魔種族の共存を目指して立ち上がったオルクセン連邦は、その最後の時にあっても、異なる種族が相争うことを望みません。それを防ぐために自ら解体するのです。
この決定は、私の原則に基づいた熟考の末に下されたものです。私は、国家の独立と自治、国民主権を一貫して支持してきましたが、それと同時に連邦の統一を維持することを重視してきました。しかし、出来事は別の方向へ進みました。
市民の皆さんは、自らの進路を選択する真の自由を求めました。多民族国家の民主的改革を模索する中で、私たちは連邦憲法を改正する寸前まで到達しました。これらの変化には莫大な努力が求められました。
しかし、既に限界に達していたこの国のシステムが変革を阻みました。部分的な改革の試みがいくつもありましたが、次々と失敗に終わり、国は展望を失っていました。このままでは生き延びることはできません。すべてを根本的に変える必要があります。
私は、限界に達した連邦を解体し、各共和国が合意にもとづいて新しい国家を建設し、社会に調和をもたらし、危機の脱却と改革プロセスの促進につながるよう、この暴挙に出たのです。しかし、暴力によって物事を解決するのはこれが最後です。このようなことは二度と起こりません。
現在の困難な状況に対する不満や、私自身の活動を含むあらゆるレベルの当局への厳しい批判を私は理解しています。しかし、もう一度強調したいのは、このような広大な国、そしてこのような歴史的遺産を持つ国において、急激な変化が困難や混乱なしに進むことは不可能だということです。
それぞれの後継共和国において、誰が民主的な指導者の椅子に座るかについて、私は関心をもっていません。政治権力はそれぞれの共和国の市民のものであり、誰に託すかを決めるのは人々自身です。たとえば、今日までの間に独立運動に反対していた人々にその手綱が渡るかもしれません。または、今日まで連邦派としても独立派としても名前が知られていない他の人々に渡されるかもしれません。そのときに『このコミュニティは少数派だ』とか『この党派は独立運動で十分な役割を果たしていない。なぜそれが権力を持つのか?』と異議を唱えることは、許されるべきではありません。
私が思い描く民主主義は、暴力によらず維持され、話し合いによって解決される民主主義であり、そこですべての種族が平等な自由を享受できるものです。誰もが自分自身の主人となるのです。このような民主主義のための平和的なプロセスに参加するよう、私は今、皆さんに呼びかけたいと思います。
私たちにとって、これはまさに生死をかけた問題です。私たちの誰もが、オルクセンのどの地方に住み、何の種族に属するか、魔種族であるか人族であるかに関わらず、自分自身の主人でありたいと望んでいます。
それを実現したいのであれば、まずは今この時から始まる未来を築くためのプロセスに参加し、それぞれの新しい国と共同体を築くための努力において団結し、互いのそれを尊重し合わなければなりません。
もしその団結と尊重が達成されなければ、自由を得るための犠牲は、これまでに必要だったものよりもはるかに大きくなるでしょう。オルクセンは内戦に陥り、これまでの歴史で築いてきた全てのものが戦争の炎の中で焼け落ちてしまうでしょう。
皆さん。皆さんが目にし、耳に聞き、画面に映る言葉の中には、私たちが互いに争うよう公然と扇動する内容が含まれています。私たちは、このように歪んだ方法を拒否しなければなりません。
一方で、私たちの道は真っ直ぐであり、目を閉じてさえ歩むことができるものです。すべては全種族の自由な生存のために。それがオルクセンの理念であり、国家が滅びても、なお生き続けるものです。
この数百年もの間、公正で正しい目的のために、亡き夫と共に立ち上がってくれたすべての方々に、心から感謝したいと思います。いくつかの過ちは確かに避けることができたかもしれませんし、多くのことをもっと良く行うことができたかもしれません。しかし、私たちの共通の努力がいずれ実を結び、後を継ぐ国々が繁栄し、民主的で平和な社会を営むようになると確信しています。
同胞の皆さん、これは各種族の決別や対立の始まりではありません。これからも共に歩んでいくからこそ、互いを尊重できるだけの距離をとるのです。
私は断言します。属する国が別々になっても、オルクセンに住まう私たちの誰もがは、この美しい土地の土壌に深く結びついていると。この地の土に触れるたびに、私たちは再生の感覚を覚えます。草が緑になり、花が咲くとき、私たちは喜びと興奮に心を動かされるのです。その意味で、私たちはこれからも変わらずにいられるのです。
ですから皆さん、今夜はもう家に帰りましょう。そして祈ってください。
新しい未来に平穏があるように。独立を手にしたすべての共和国、すべての自治区、すべての種族に、豊饒の大地の恵みがあらんことを」
〇X時以降、夜――旧オルクセン連邦各地
その夜。女王の放送の後、これまで騒擾とは関わりを持たずにいた多くの者たちが行動し始めた。
全共和国の首都上空を大鷲が舞った。彼らは鞍のようなものをつけていた。そこにはコボルトが乗っている。彼らは魔術通信を送り、ビラをまき、市民たちの携帯通信端末にメッセージを送信していた。それらはまず女王の演説を伝え、市民たちに平和を呼びかけていた。
呼びかけに応じて立ち上がったのは相当の老人と、未熟な若者たちだった。彼ら彼女らは街路にでて歩き、歌い、対立を終わらせて家に帰るように呼び掛けた。
ある町では年齢も分からないほどの老オークが、成年にも達していない若いオークたちとスクラムを組み、いまだ対峙する群衆たちを阻んだ。老オークは「まだ争うというなら、まず儂を倒してからにせい」と大喝した。その迫力だけで群衆の血気を冷ますには十分だった。老オークは古ぼけた略帽をかぶり、その上に防塵眼鏡を巻いていた。
また別の街では、ドワーフとコボルトがにらみ合う間に、一羽の大鷲が舞い降りた。大鷲と、彼の背から降り立ったコボルトの老婦人は、異なる種族の共存について両派に説き、ついに解散させた。
この夜、至るところでそのようなことがあった。
〇X時プラス12時間――アルビニー 北星洋条約機構本部
オルクセンの西にある国家アルビニーの北星洋条約機構本部。そこに、年老いたオークの元将軍がアタッシェケースを持って訪れた。大勢の現役軍人が彼に随行していた。彼は事務総長及び条約機構軍総司令官と三人での会談に臨んだ。
「――こういう訳で、我が国は平和裏に解体いたします。内戦の懸念は、我ら自身の理性で防いでみせます。機構が平和維持軍の準備をするのは当然のことですが、実際に投入する必要はないでしょう。皆さんにお願いしたいことは軍を派遣することではなく、我々の軍をしばしの間だけお預かり頂くことです。そのうち最大のものが、これです」
老オークは頑丈そうなアタッシェケースを机上においた。昨日までは代々の大統領がいつでも身近に携行していたもの。戦略核兵器部隊への指令装置だった。
事務総長と総司令官は恐れるようにその鞄に目をやる。別室では既に、老オークが引きつれてきたオルクセン戦略軍の参謀たちが実務レベルでの協議を開始している。
グロワール出身の事務総長はおびえるような声で言った。
「本当に、これすら北星洋条約機構にお預けになると。よろしいのですな」
老オークは安らいだ表情で頷く。キャメロット出身の総司令官が尋ねた。
「それほどに我ら人族を信頼して頂けるとは。非礼を承知でお尋ねするが、ご不安はないのですか?」
「は、は。それがないのですよ。我ながら驚くほどに」
オークの老将軍は破顔した。
「私は若い頃から参謀将校として国につかえ、周辺国との戦争計画を準備してきました。若い頃は、事務総長、あなたの母国グロワールです。いつでも最大の仮想敵国でした。お分かりでしょうか」
事務総長は何と答えるべきか迷っているようだった。老オークは気にせずに続けた。
「皆さんの世代には想像が難しいでしょう。いま我が国がこのようなことになって、全星欧諸国が案じていても――その中身といえば、内戦や難民の不安、そして核の管理です。
一方で、オルクセンが国をまとめるためにグロワールに侵攻するのではないかとか、逆にグロワールがオルクセンの分裂に乗じて攻めこむのではないかとか、そんなことは誰も心配もしていない。
荒唐無稽な話に聞こえるでしょう? でも、ほんの数百年前、私は参謀本部で毎日そんな心配ばかりしていましたよ。当時の星欧はそのような土地であったのです」
老オークは懐かしそうに眼を細めた。
「今や時代はかわりました。むろん、兵馬の備えはまだ必要です。例えばロヴァルナの動向は未だ予断を許さぬものがあります。
しかし少なくとも、ポルスカから西の星欧諸国の間では、互いに戦争をすることなど想像もできなくなった。国境も種族の差も越えて、安全な共同体ができたのです」
老将軍の目じりが潤んだ。
「いまやオルクセンは、四隣をかこむ人族の国に抱かれ、それでも戦争の恐怖からまったくの無縁です。人族の移民に反対している者たちですら、そうです。迫害から逃れ、必死に身を寄せ合ってできた国が、いまや分裂を望めるほどに平和を感じているのだともいえる。この状態こそ、オルクセンの土となった先達たちが――そして
大粒の涙が老将の頬を伝った。だがその口もとは、安らぎに満ちて微笑んでいた。
「ですから、ここに。我らの剣を受け取って下さい。今は亡き魔種族の国から、人間社会への信頼の証です。私たちは国境に塹壕を掘るかわりに、心の中に平和の砦を築くことができたのです」
〇X時プラス36時間――連邦議会 議長室
天気予報は一日遅れで当たった。昨日の夕方から始まった降雪は、夜通しで続いたようだ。今朝、首都の町並みはすっかり雪化粧を施し、朝の陽ざしを眩しく反射している。
議長室の窓から眺めれば、道端で様々な種族の子どもたちが雪玉を転がし、雪ドワーフ像づくりに興じている。熱中して道にはみ出しかけた子どもたちを、除雪車の運転手が叱っているのが見える。「危ないぞ」と言っているに違いない。
全くその通りだと女王は思った。除雪車が道の端にむけて噴出する雪に呑まれる恐れがあるからだ。前途ある、そして魔種族にとってこの上なく貴重な子どもの命を、そんなことで失ってはならない。もっとも、子どもたちが初雪にはしゃぎまわるのは無理もないことだが。
彼女のクーデターから二日が経過し、国の――いや、旧オルクセン連邦領の全域で平穏が戻っていた。首都でも同様である。旧首都、と敢えて呼ぶ必要はない。この都は、連邦の後継国家の一つであるオルクセン共和国でも引き続き首都になると決まったからだ。
全土で騒擾が収まった決起翌日、女王は引き続き大忙しだった。各共和国首班や外国首脳とのリモート会議が相次いで行われた。誰も彼もが混乱していたが、何とか現状認識を一致させることができた。
連邦の中心的な後継国家となったオルクセン共和国では、旧連邦大統領らの閣僚たちが暫定政権を組織している。制定作業中の新憲法は、連邦議会で否決された憲法改正案をもとにしたものになりそうだ。他の構成共和国ではそれぞれの政権が改めて独立宣言を出し、憲法制定会議の設置を急いでいる。各共和国にはもともと独自の憲法があるが、独立国家となるにあたって大幅な修正が必要になっていた。特に、種族自治の規定については加筆が必要だ。
その後の協議により、各共和国は種族自決の原則を導入し、モザイク国家と言われた旧連邦の民族分布をできる限り政治区分と近づけることで同意した。
人間が多数派を占める共和国では、ドワーフや大鷲族といった特定の魔種族が集住している地域に自治共和国が置かれた。自治共和国は軍備や外交権こそないが、内政上は独立国家に近い自治権をもっている。旧連邦領内において、全種族がそれぞれ一つ以上の自治共和国を持てることになった。
自治共和国とするには住民が少ないが、特定種族が集まっている地域は、より限定的な権限をもつ自治区として認められた。この場合の自治権は、各種族に固有の文化や教育、祭事などに関わる事柄に限定されている。
共和国、自治共和国、そして自治区。屋上屋を重ねた家が軒を連ねるような、複雑な構造。その発想は、薄くはあっても壁を作ることで、かえって共存を保障するという、ごく単純なものだ。
当面はいいとしても、いずれ各統治単位での規制や考え方に齟齬が出始めれば、細かな問題が数限りなく生じるのは目に見えていた。
しかしそれらは次の世代が直面し、頭を悩ますべき問題だと、女王はもう割り切っていた。卵はもう割れた。雛鳥はよちよちと歩きはじめた。飛び立つまで時間はかかっても、雛たちは歩いていくだろう。後継国家群がこのままの形で長く存続するのか、それともいつか再統合の道を歩むのかは、まだ誰にも分からない。
それでいいのだ、と彼女は思う。彼女の牡の遺言書にも書かれていない、白紙の未来がやっと始まったのだ。夫が始めた仕事は遂に終わったのだと、彼女は寂しくとも満ち足りた気持ちだった。
未来への歩みを邪魔しうるものは、民主的なプロセスを阻む暴力の試みだけ。あとはその根さえ断ち切っておけばいい。
彼女は激務を共にしてくれた女王護衛隊員や職員たちに休憩を命じていた。いま室内に残っているのは、彼女の他はただひとりだけだ。
女王は疲労困憊ではあったが、晴れ晴れとした気分だった。こんなに爽快なのはいつ以来だろうと思った。椅子に腰を下ろし、机に向かう。万年筆をとって、書面に一筆だけ書き加える。加えたのは今日の日付。書面は彼女の退位宣言書だ。
「さて――事は終わった。少佐」
女王は、机の前に直立している白エルフの中隊長を見た。第一連隊長の推薦で、決起後の一夜と一日の間に女王の秘書室長のような立場に収まっている。彼女も女王同様、ほとんど寝る間もなかったはずだが、なお溌剌としている。
若者の元気さが羨ましいと、女王は思った。彼女の方はもうへとへとだ。十分に働いた。そしていま、最後から二つ目の仕事が終わった。為すべき行動はあと一つしかない。
「君には世話になった。この書面をもっていって貰うが、その前に一杯だけ付き合ってもらえるか? 自分で注いでおいてなんだが、甘い酒は苦手でな」
女王は机においた二つのグラスを示した。一方の中身は彼女が好むエイリッシュ・アードリック。もう片方はリンゴから作ったカルヴァドスであった。彼女の夫が愛飲したものだとは、有名な話だ。
中隊長は謹厳な顔で言った。
「はい、陛下。そうは参りません。やることがありますので」
「うん?」
「陛下は、事は終わったと仰せになりました」
「ああ」
「そして今、事後の行動にかかろうとされている。そのように拝察します。ですから、私たちもそう致します」
「なに――?」
「入れ!」
部屋の扉が開く。オークの兵士、コボルトの警官、ドワーフの憲兵、なんと女王警護隊の黒エルフまでいる。種族は色々だが、みな年が若い。それらが室内に雪崩れ込んできた。
女王は察した。これは反乱だ。彼女の計画を最終段階で覆そうとしている。
白エルフの中隊長は命じた。
「専制君主を捕らえよ!」
ディネルースは椅子から立ち上がろうとしたが、既に多くの手が彼女に殺到している。腰の拳銃がたちまち取り上げられる。机に立て掛けていたサーベルもである。
「待て、話せば分かる――」
「問答無用!」
オークの手が女王の口をこじ開け、容赦なくタオルを突っ込んだ。女王は、彼女が予定していた最後の行動――自決の失敗を悟った。
反乱の若き首謀者は言った。
「ご無礼を。しかし、我慢して頂きます。私たちは専制君主に身勝手な逃亡を許すつもりはないのです。責任をとっての自決なんて、させるものですか」
その白エルフの瞳には毅然とした光が宿っている。若く凛とした意志を女王は見た。
「そこまで面倒をみてもらわねばならんほど、我々は幼くありませんよ。それに、貴女には見るべきものがまだある。一緒に来て頂きましょう。あの方がお呼びです」
(「エピローグ:しろがねも くがねも たまも なにせむに」に続く)