『エンジェル24 』
キヴォトスにあるコンビニ……のようなお店。日用品から食用品、銃火器や銃弾も売っており、レジの中ではアサルトライフルまでも販売している。名前の通り24時間営業で、真夜中に明々と電気を付けていてとても眩しい。
その支店であるシャーレ東通り2号店にアルバイトとして働く生徒が一人いる。
「ありゃりゃしたー」
少し癖のある黒髪セミロング、目はやや隠れているが、赤い目が確認できる。エンジェル24の制服である青いエプロンの背中から黒い鳥の羽が背中から見えており、特徴的な形をした赤いヘイローが浮かんでいた。
「またお越しくださっさせー」
その少女は、訪れて買っていったお客に気だるそうに挨拶すると、暇だと言わんばかりにスマホを弄りだす。他の客に見つかると何か言われそうだが、そもそも今は、その少女以外店に一人もいない。
「はぁ……」
ため息をつくが、天井にあるクーラーの風に流されるかのように、店内の音楽と一緒に消えていく。
時刻は深夜3時。外はもちろん暗く、人通りもいない。先程買っていったキヴォトス人も30分ぶりに来たお客さんだ。人が来る前に、適当にSNSを見て、キヴォトスでの出来事や他の生徒が投稿している写真を見ていく。
(あの人、マヨラーなのかな)
スマホに流れてきた記事を一通り読んだ後、マヨネーズを2本買っていったお客さんが気になった為、それについて考える。見た目はそんなに肥えてはいなかったが、着痩せするタイプなのだろうか。
……などとつまらない事を考察する。
「というか、何連勤目なんだろ今」
7連勤目まで真面目に仕事をこなし、15連勤目から数えるのを止め、季節が変わった頃には考えるのを止めていた。
「まあいいか、給料もあるし……おっとそろそろ5.56弾の発注かけないと」
銃弾発注の業務をしているとふとあることが頭に浮かんできた。
(あれ? なんで発注から経営とか私一人でやってんの?)
アルバイトとして入って来た頃から、当たり前のようにやってきた業務に疑問を持つ。アルバイトにしては、いろいろとやりすぎなのではないだろうか。
(しかも、苦情対応とか本部の連絡とか全部やってるんだけど)
しかもワンオペである。
普段ならば、このような事は、正規雇用や店長がやる仕事のはず。いちアルバイトに任せていい仕事ではない。しかも生徒で子供である自分に、深夜まで任せるのはおかしい。
(そもそも、家に帰って休んだ事なんて……)
家に帰って休んだ記憶がない時点で、アルバイトどころか、正社員でも普通はない……はず。
少女は、考えを巡らせた結果、ある『結論』にたどり着いた。
「私、アルバイトだよね……」
そうなるとこうしては居られない。すぐさまこんなバイトなんて辞めて、別のアルバイトを探すべきだ。
(……いやでも、他のアルバイトないし)
年齢的にも中学生だから雇ってくれるバイトなんてないし、店を経営していた為、お店にも愛着が湧いてしまっている。
(まあいいか)
辞められるけど辞められないという矛盾を繰り返し、そのうち考えるのを止めた。色々考えていても、疲れてお腹が空くだけである。今は目の前の仕事をしなければならない。
しばらくするとお店のドアが空き、入店のチャイムが鳴る。
(ちょうどお客さんも来た所だから、久しぶりに元気よく挨拶しよう)
入って来た上下黒の装いのお客さんに、大きく息を吸ってバイトマニュアルにある仕草通りに挨拶する。
「いら……」
「おい! さっさと金出しやがれ」
すると目の前の客……いや強盗は、私に向かって銃を突き付けてきた。すぐさま手を上げて、無抵抗をアピールする。銃本体はキヴォトスで流通している物だが、恐らく銃弾は違法な物だろう。
(マニュアルだったら、レジ開けてヴァルキューレに通報だけど……)
身の安全第一マニュアル(正社員用)にはそう書かれてあるが、今の自分は違う。
(今はただの『アルバイト』だ)
ただ、ここである疑問が浮かんでくる。
(『アルバイト』がする仕事の範囲ってどこまでだっけ?)
今まで、営業から何まで自分でやってきた弊害か、アルバイトというのは、どこまでの業務をやるのかという疑問。
当然ながら、レジ打ちから精算まではアルバイトの範囲だろうと予想はつくが、『ただレジを開けるだけ』というのは、アルバイトの範囲では無いのではなかろうか。
「おい、早くしろ! 痛い目見たいのか!?」
強盗から急かされてしまう。悩んでいても仕方ない、痛い目は見たくないし、お金も盗られたくもないので、ここは……
「すみません……私アルバイトなので開けられないです」
(決まった!)
名付けて『自分アルバイトなんで何もできません!……作戦』
効果はあったんじゃないかと、どや顔を見せるが強盗は眉をひそめる。
「はあぁ!? んなわけ無いだろうが!」
(あれ? 違った?)
どうやら、対応を間違えたらしい。いやこれは……
(アルバイトを知るチャンスなのでは?)
ピンチはチャンスという言葉とはこういう事だったのかと、正気ではないアイデアが生まれてくる。
つまりこの場を借りて、アルバイトというものを知ろうという事だ。アルバイトがレジを開けられる事を知っていないと、この強盗の発言は出てこない。
『この人にアルバイトについて聞き出そう!……作戦』に早速変更だ。
「お前、レジ打ちで毎回開けてるだろ」
「いや自動精算機なので毎回開けてはないです」
言っている事は本当なのだが、正直に言うと自分はレジを開ける事は出来る。だが、アルバイトの範疇ではないのではと疑問に持ち、強盗の様子を見る。
「チッ……そうだよな」
(良かった、合ってた!)
この前自動精算機に買い変えたのが良かったと思う少女。強盗の様子から、アルバイトはレジを開けるという業務は無いみたいだ。
すると強盗は目標を変えたのか、少女の後ろの棚を見て指をさす。
「じゃああれだ! その後ろの棚にある銃弾諸々全部もらおうか」
少女は指の方向である後ろの棚を見て、不意を突かれたのかいつもの業務のように対応してしまう。
「分かりました。えっと、少々お待ちを……合計で136万400円となります! カードでお支払いですか?」
「え? ああ、じゃあカード……って違ああああああう!」
急に大きい声で言うものだから、ついビックリして肩が跳ねてしまった。
(もしかしてこれもアルバイトの業務じゃない?)
「げ、現金でのお支払いでしょうか?」
「それも違ぇよ! そっくりそのまま寄越せって言ってんだよ!」
(そっくりそのまま? ……あ、そういえば今強盗中か)
エンジェル24に居すぎて自然と対応してしまう少女。
そっくりそのままと言われても、後ろの棚には銃弾や手榴弾、アサルトライフルなどが鎮座しており、とてもじゃないが一人で運べる量ではない。車を持っている様子もないし、本当に強盗に来た人なのだろうか。疑問に思うと同時にふと、あることが頭に浮かんでくる。
(この人もしかして……自分にアルバイトを教えてくれる為に?)
「おい、なに考えてんだ」
「い、いえ! その……あの、本当にここに強盗に来たんですか?」
「は? これ見て分かんねぇのか!」
強盗は持ってきた銃を突きつける。
そんな状況でありながら、少女は意に介さず発言を続ける。
「人数が少ない深夜帯を選ぶのはいいんですけど、お金や物を要求する割には車やバッグの用意とかしてないし、自動精算機に気が付いていなかったり、それをアルバイトが開けられない事を知っていながらお金の要求をしたり……時間帯を選んだわりに下調べが足らないんじゃないかと思って」
「……」
目の前で銃を突きつけられながら自身の計画性の無さを指摘され、固まってしまう強盗。
「お前、もしかしてプロか?」
「……へ?」
いきなり、プロと言われてしまい困惑する少女。
(なんのプロかは分からないけど、『プロのアルバイター』ってこと?)
「よくよく考えたら銃見てもビビる様子ないし、正確に状況を分析している所を見るとそうとしか思えない」
銃はよく見ているから慣れているからだが、確かにお店の売り上げを分析して発注や品出しをしている。
(アルバイトにもプロやアマチュアが存在するッ!?)
ありえない話ではない。高校に行った先輩から『バイトリーダー』なるものの話を聞いたことがある。このお店では聞いたことも見たこともないが、他の店舗から聞いた話によると『ヤバい』らしい。
(そう考えるとプロの域に入っているかもしれない)
ある程度長く勤務しているし、業務報告にてこの支店は比較的高い売り上げをキープできている。そう考えるとアマチュアとは言えないだろう。
「……プロと言われればまだ未熟な所はありますけど、少なくともアマチュアではないです。今までも『結構な数』こなしてますから」
「!」
すると予想通りといった風な表情を見せて、確信した強盗はある提案を少女に持ちかける。
「なぁ、『いい仕事』があるんだけど人手が足らなくてさ。一緒にやらない?」
(こ……これが『人材の引き抜き』!!)
実際に自身の身に起きるとなると感動に近いような感情になる。まるで、アニメやドラマ、小説のシーンと同じ状況になったように。
だが……
「残念ですけど、お断りします。自分はこのお店からは離れられないんです」
お店への愛着や自分が抜けた後が心配なのもあり、たとえどんな今よりいい仕事だろうと離れることはできない。
元々この支店の経営状況は芳しくなく、少女が来たことによって利益が上がったのである。内装のレイアウトやトイレ、品出しなどを一人で行っており、その行動も相まって閉店を免れている。
これで諦めてくれると思ったが、そんな様子も見せずに再び強盗の口が開く。
「なら、プロとして教えてくれ。『私たちはどう動けばいいのか』を」
「!?」
(どういった事で!? アルバイトのプロとして教えられる事なんて……)
そういった事を言われてもどう答えていいか分からないが、ここは自身が聞いた先輩の話から引用してみる。
「……取り敢えず『観察』から始めてみては?」
アルバイトというか仕事の話になるのだが、先輩の動きを真似したり、業務を覚えるためには観察が必要になってくる。
「人の動きをよく見て動くというのが基本だと思います」
それなりにいい事が言えたんじゃないかと自画自賛する少女。それを聞いた強盗は関心するように「なるほど」や「次回はそれで……」と頷いていた。次々とアドバイスをしていき、最終的に強盗は敬語になっていた。
「ありがとうございます! ここでプロに会うとは思いませんでした。早速実践に取り入れていきます」
「え? あ、はい。頑張ってください」
すると強盗?は店を出ていき、再びお店の中は自分以外居なくなった。
『まいにち~幸せ届ける~ハッピーハッピーエンジェル24~♪』
いつもの店内の軽快な音楽だけが流れてはいるが、いつの間にか過ぎ去った嵐のように店内は物静かな空気となるのであった。結局お金も品物も無事だったことで安心したが、何も盗らずに出て行ったことに困惑する。
「何だったんだろうあの人……」
数日後ーー
『春葉原で現金輸送車強盗か!?』
今日未明、春葉原にて現金輸送車が襲われる事件が発生しました。犯人は複数とみられており、現在も行方を追っています。関係者からの話によると『5分、いや3分も経たずに輸送車を乗っ取られてしまった』とのことで、プロの犯行とみて捜査を進めているようです。
「物騒だなーうちも(たぶん)入られた事あるし、さらに用心しないと」
あれから数日経ち、相変わらずエンジェル24に居る。お客さんが居なくなったので端末でニュースの見出しと動画を見ていたら、何やら物騒な事件が流れてきた。最近、物騒な事件が多くなっている。直近だとヴァルキューレの車が20台以上破壊された事件もあったみたいだ。
「まいにち~不幸を届ける~アンアンハッピーエンジェル24~♪」
お店のBGMを替え歌にして歌っているのがいけなかったのだろうか、突然『不幸』がやって来る。
「……なんか店には入って来ないけど店前に大所帯がいる」
お客さんが来ないなと思い、店の外を見てみるとヘルメットと工事の作業着を着た生徒が集まっている。その生徒たちの手には、ドリルやスコップ、ハンマーなどが見え、何かを開始しようとしていた。
(おかしい……工事の連絡なんて来てないんだけど)
業務の妨げや売り上げにも影響するので、店前でやるなら予め連絡してほしい。
そう思っていると店に来ようとした常連のお客さんがそれを見て逃げるように去ってしまった。
「これは……『迷惑客』いや客じゃないから『不法占拠者』か」
これ以上居座り続けても迷惑なので、『直接』あの集団に向かっていく。
「あのー」
「ん? なんか用?」
いや、その言葉は私が言うセリフだろ……という事はさておき、腕に付けている校章といいヘルメットにあるマークといい、『ゲヘナ学園』の生徒だろうか。
「ここに集まられると、来られるお客様にご迷惑が掛かるので止めて貰えませんか?」
すると生徒達は顔を見合わせて、何かを確認した後に発言する。
「大丈夫。今ここに規制線張ってるから客も近づいて来ないよ」
(な、何イイイイぃ!? 規制線!?)
よく見ると本当に規制線が張られている。
「じゃなくて……このお店にお客様が来れなくなるのでは?」
「んーしょうがないんじゃない?」
(いや、しょうがなくないって!)
この生徒達では話が通じないので、責任者を出してもらうように言うと、奥の方からツノの生えた生徒二人がやって来た。一人は赤い髪で背が高く、もう一人は対照的に背が小さくて白衣を纏っている。
「いやーすまなかったな! 私達は『温泉開発部』というものだ」
「温泉開発部……?」
何処かで聞いたことがあるような気がするが思い出せない。名前と他生徒の恰好通りならば温泉を掘るための部活なのだろうか。
「何故その温泉開発部御一行がこの場所に集まってるので?」
「よくぞ聞いてくれた! 勿論、この場所を温泉地とするためだ!」
一瞬理解できずに止まってしまうが、要は『ここを温泉地とする!』という事だろうか。しかもここは普通に店舗敷地内の真ん中である。
(いや、改めて考えても訳が分からないし、勝手にそんな事をされても……)
「あの、普通にやめてください。というか規制線の内側にうちの店入ってるんですけど、まさかうちも改装する訳では無いですし……」
「分かってるなら話が早い! その通り、君の店は取り壊す!」
「はい?」
(今『取り壊す』って言った気がするけど、気のせいだよね?)
「温泉が出来た方が皆が喜ぶぞ!」
「いやいやいや!? 待って!」
周りの他の生徒を見ると爆破準備と温泉を掘る準備をしており、こちらが止める暇もない。
「部長! もういい?!」
「いいぞ!」
「ダメー!!!」
ドオオオオオオオオオン!!!!!
(あぁ……)
爆発により店舗は全壊、そして慣れていない爆風によって吹き飛ばされた少女。更地になったお店の姿を見た時、心の中で何かが崩れる音がしたと同時に……
何かが『キレた』音もした。
「ドンドン掘りたまえ! ハーッハッハ!」
ゲヘナ学園温泉開発部部長『鬼怒川 カスミ』は、温泉開発部の部員とその一人である『下倉 メグ』に指示を出し、工事を進めていく。更地にした店舗はそのままに、お店の側に温泉のための大きな穴が空いた。
カスミがふと、爆風で吹き飛ばされた中学生のアルバイト店員を見ると、放心状態といった様子で店舗があった所を見つめている。
(まあアルバイトだから何も言ってこないだろう)
きちんと下調べを行い、この少女は中学生アルバイトという事を知っている。その上で『とるに足らない』と判断し、交渉は必要ないと決定したのであった。
ただ、カスミに一つ誤算があったとするならば『カスミが思うアルバイト』と『この少女が思うアルバイト』の認識に差があった事。
この差が、カスミ……いや『温泉開発部』の明暗を分けた。
「……、ァ……」
「ん?」
例の少女が小さな声で、なにやらブツブツと喋っている。工事の音ではっきりと聞こえないが、口は開いていた。カスミは少女に近づいて肩を叩く。
「良いじゃあないか! 『アルバイトだから責任は負わなくてもいい』のだから、じっくり温泉を楽しみたまえ」
「責任を……負わなくても?」
カスミは人心掌握に秀でており、この言葉で少女の心を掴んだのだと思ったのだが、何かがおかしい。
『そうですよね、私関係無いですから』と言ったり『これで解放された!』と喜んだりが普通なはず。
「そうですよね、私アルバイトですもんね」
「あ……ああ!」
予想していた言葉が出た事で若干調子を取り戻すカスミ。
「私……アルバイト……私、アルバイト?」
まるで自分に言い聞かせているような様子は底知れぬ『狂気』を感じ、カスミは嫌な予感がした。
カスミが不味いと思い、少女が店があった場所をもう一度見た、その時……
「私アルバイトオォォォォォォォ!!!!!」
少女はそう言うとサブマシンガンをおもむろに取り出し、カスミに向かって全弾撃ち込む。勿論の事、反応出来なかったカスミは気絶してしまった。
「ぶ、部長が撃たれたぞ!」
当然の事だが、大声と銃声によって周囲の目は少女に注がれている。部員達はカスミが撃たれたことに気が付き、臨戦態勢に入る。
「私アルバイトオォォォォォォォ!!!!!」
「なんだコイツ!」
集団で少女に銃弾を浴びせようとするが、カスミを持ち上げて盾にする。
「ああ……部長が! ガッ」
「な、何てヤツ……う゛」
その隙にサブマシンガンのリロードを行い、周りの部員達に銃弾をお見舞いする。そして、カスミを持ちながら店舗の瓦礫に近づいて、爆発で破損しなかったアサルトライフルを拾う。
「私アルバイトオォォォォォォ!!!!」
次々とアサルトライフルとサブマシンガンで温泉開発部の部員を相手に圧倒する。
本来であればカスミが司令塔となって指揮していくのだが、そのカスミが機能していない今、部員達の統率は取れていない。
「あいつヤバ……」
「ふ、風紀委員が来る前に行った方が」
「カスミ部長はどうするの?」
「おい、あいつこっち来るぞ!」
「うわぁぁ! こっち来んなァァ!」
次々と少女の銃弾の前に倒れていく部員達だが、流石にやられてばかりではない温泉開発部。
「行っくよー!」
メグが火炎放射器を少女に向けて発射する。炎により、少女の姿は見えなくなった。
「やったか?」
炎に包まれていた所を見ていた部員達が効果ありと思ったのも束の間……
「私アルバイトオォォォォォ!!!」
「何で効いてないの!?」
効いてない事はないが、件の少女は炎の中でもピンピンしていた。
「アルバイトオォォォォ!!」
「ウグッ!」
メグがやられた事により、いつの間にかサブマシンガン2丁持ちになった少女によって、残りの者はすべて蹂躙される。
「お、お前、アルバイトなんだろ? 私い、いい仕事知ってるから紹介しようか?」
「良い……仕事?」
「そうそう!」
最後の一人となり、仕事が無くなった少女に提案し始める部員。
だが、それが逆にアルバイト少女の逆鱗に触れた!
「私アルバイトオォォォ!」
叫びながら一発をお見舞いし、ここにいる温泉開発部は全員気絶するか、動けなくなっていた。
「私……アルバイ……ト……」
疲れきったのか、炎のダメージが来たのかは分からないが、これまでの勢いが消失し、少女は床に伏せてしまった。
ーーー
ほどなくして、温泉開発部の通報を受けたゲヘナ学園風紀委員会と銃声と爆発で通報を受けたヴァルキューレが到着する。
「な、何これ……」
どちらの陣営が発した言葉か定かではないが、現場を見た両陣営の心中は、ほとんどがその言葉と同じ思いだった。
大規模な爆発の跡と瓦礫、何かを焼いたような焦げ跡、そして大量に気絶している温泉開発部。
「温泉開発部の部長発見しました!」
ゲヘナ学園の自治区内ではないが、ヴァルキューレは風紀委員会へカスミを引き渡す。ゲヘナにはカスミら重要規則違反者専用の輸送車がある為である。
「あ、あいつだ! あいつがこれを」
声のした方を向くと、気絶から覚めた温泉開発部部員がどこかを指差している。その方向を見ると、中学生くらいの少女が倒れている。ここにあったエンジェル24の店員だろうか、頭の上にヘイローは浮いていない。
「この惨状は明らかにお前らだろ!」
「い、いや……」
確かに爆発などは温泉開発部のせいであるが、この状況を作ったのはあの少女だと言われても誰も信じない。
「おい、大丈夫か?」
「……ん? ここは?」
声を掛けられて目を覚ます少女。所々に傷と服に焦げた跡があるくらいで、目立ったケガは無さそうだ。
「ッ! お店は!?」
ガバッと起き上がって周りを見渡し、店舗があった場所を見て落胆する。そして、大量に運ばれている生徒を見て驚いていた。
「さっきからお前を指差して、この状況を作ったとか言ってるんだが……」
「え? い、いえ? 店舗を爆破したのはこの人らですし、爆発で飛ばされた後は気絶してたみたいですし……」
一応矛盾はない。監視カメラを確認しようにも、爆発によって確認は難しいだろう。
謎を残して、この事件は温泉開発部の犯行として処理された。だが、温泉開発部の部員達の声で多かったのは
『あのアルバイトはヤバい』
という声であった。あの中学生アルバイトを調べても普通の学生と変わりなく、証拠もない為、それ以上の捜索はしなかった。最終的に『爆破の余波による集団幻覚』として、真相は闇の中である。
「らっしゃせー」
あれからしばらくして、私はこの度『エンジェル24 シャーレ店』に通う事になった。あの店舗については、穴のせいで地盤が液状化し再建は大いに時間がかかるとの事であった。
「ありがとうごっしゃせー」
「『リク』さん! も、もう少し丁寧にお願いします」
接客態度について指導をしたのは、同じ中学生のエンジェル24 シャーレ店でアルバイトしている『ソラ』ちゃんだ。
「あ、ごめん。いつもの癖で……ちなみに同い年だからちゃん付けでいいよソラちゃん」
「リクさ、ちゃん……次はお願いしますね?」
人と話すのが苦手そうな彼女は、そう言うとレジ内の掃除を始める。
(それにしても本当に人少ない)
シャーレというのはニュースで見たので分かるが、こんなにシャーレにお客さんが来ないものだろうか。
そう思っていると、またお客さんが入ってくる。
「いらっしゃいま……せ」
今度は丁寧に話すが、入ってきた人に見覚えがあり、言葉が止まってしまう。
「やっと見つけました!」
「あ、コンビニ強盗の人」
ソラがそれを見て、知り合いの類いなのかと思ったが、話を聞いて知り合いどころじゃなかった。
リクの両肩に手を乗せてリクを後ろへと振り向かせる。
「どど、どういう事ですか? コンビニ強盗なんて……」
「前のお店で『多分』強盗しようとした人だけど、最終的に私にアルバイトの助言を求めて来た人だよ」
「多分?????」
取り敢えず、良く分からないが悪い人では無さそうと感じるソラ。
「いや、探しましたよ。お礼にと思ったらお店が破壊されていたもんでして」
「あれは……ちょっと事故で襲撃されて」
「「襲撃!?」」
二人の声が重なり、お店の隅々まで響き渡る。
「ま、まあ無事で何よりです。それで横のコイツは?」
「コイツはダメですよ。(エンジェル24の)先輩なんですから」
「(プロ強盗の)先輩!? これは失礼しました」
そう言うとソラに深くお辞儀をして謝罪する。謝罪された本人は困惑しているが……
「は、はいぃ」
(何でただのアルバイトなのにこんな態度されるの!?)
「それで、ここの来たのはある相談がありまして……」
単刀直入に相談されるリクとソラ。業務中だという事を忘れてはいないが、どうせ誰も来ないだろうと相談に付き合う。
「以前の助言のおかげで成功しましてね。ただ、それで後輩が沢山入ってきたんですが、言う事を聞かなくって」
良くある悩みであり、難しい問題だ。組織が大きくなるにつれて考えに沿わない人物も出てくる。
「どうにかして言う事を聞かせたいんですけど、今まで後輩が居なかったもんで……」
「ふむ」「あー」
当たり前だが、この二人に後輩を育てた経験なんてない。
「自分は後輩育てたりはないけど、ソラちゃんならありそう」
「わ、私ですか?!」
いきなり振られて戸惑うが、二人から期待を含む目で見られたら断りづらい。
「えっと『無理に言う事を聞かせようとしなくても良いんじゃないですか』?」
「……どういった意味でしょうか?」
深い理由を聞くために質問をする強盗の人。
「えっと、そういう人は無理やりしようとすると言う事を聞かないものなんだと思います。『逆張り』でしたっけ? 全否定した場面とかありました?」
「……確かにそういう場面はありました」
思い当たる事があったようで、少し苦い顔になる。
「む、難しいですけど、言う事を全否定せず、本人が言った役割を与える事も大事だと思うんです」
組織に入った以上、何かをしたい気持ちも憧れもあるだろう。そこで全否定されてしまえば、やる気も信頼も生まれない。
「与えた役割にアドバイスすれば良いと思います」
「なるほど!」「おー」
(私何言ってるの!?)
この状況に答えている自分が恐ろしく感じるソラ。それに続いてリクもアドバイスをする。
「いっそのこと責任者にしてしまえば良いのでは? 信頼して貰えたというのはやる気にも繋がりますし」
「そうですね……やってみます!」
本人の自信にも繋がったのか、強盗の目はやる気に満ち溢れていた。
「いやー、まさか『プロ』お二人に指導頂くとは……このご恩は必ず」
そう言うと、お辞儀をして店外へ出ていったのであった。
「……あの、あの人何ですか?」
「アルバイトの助言を求める人……かな?」
「えぇ……」
結局、アドバイスを求めた割にはお店の物を何も買ってくれなかった。
ーーー
「絶対裏に居るはずだ……」
最近巷を騒がせている犯罪集団『リクガメ』
勢力をどんどんと伸ばして、今やブラックマーケットの一角を担うまでに成長した組織。それだけならば良くあるのだが、構成員が全員プロであり、それぞれの分野でとても秀でている。
「新人でさえもプロと変わらないなんて……」
下っ端の構成員でさえ尻尾は全く出さない事で有名であり、高い統率力を持つ。
「実力があるなら、ある程度の反発心があるはず」
一種の信仰心のような物があるような気がして、狂気と恐怖を感じてしまう。
『リクガメ』のトップは謎だが、噂によると
『寝る事もなく、動き続けている狂人』
『ある組織から襲撃を受けた時に、一人で全滅させた』
『怒らせたらキヴォトスが滅びる』
『二人で一人である』
……などと憶測が飛び交っている状態だ。
「一体……どんな人物なんだ」
ーーー
「ソラちゃん! 発注したやつ来たよー」
「分かりました!」
助言を求める人が来てから数日が経ったが、私は未だにシャーレ店に居る。
順調にお店が回ってはいるものの、最近は『ある事』に頭を悩ませている。
「"二人ともお疲れ様"」
「お疲れ様です。『先生』」
そう、『シャーレの先生』である。
いかがでしょうか
反応がよろしければ、続きも考えてありますのでお気に入りと評価の方よろしくお願いいたします。
それでは