それではどうぞ
ーー『エンジェル24 シャーレ店』ーー
連邦捜査部S.C.H.A.L.E
通称『シャーレ』と呼ばれ、学園の自治区や規則の垣根を超えた活動が自由に出来る機関。キヴォトス内の行政を担っている連邦生徒会とは違った組織であり、それをも超えた権限を持っている……らしい。
らしい。というのは、リクがここに配属になる時に流し読みで見ただけで、実際の活動内容については知らないからである。
そして、そのシャーレのビルの中にあるエンジェル24がここにある『シャーレ店』という訳だ。
今日も今日とて接客と販売……といきたい所だが、全然客が来ない。その状況に耐え切れず、ソラと二人で清掃や陳列をやったまではいいが、二人居るから早く終わってしまった。
「……」「……」ポチポチ
なので今現在、リクは何世代か前のスマホ、ソラはガラケーと呼ばれる携帯で記事などを読んで、暇を潰している。ワンオペの時は何も思わなかったが、暇な時に隣に人が居ると会話したくなる。
「そういえば、ソラちゃんもアルバイトだよね?」
「え? そ、そうですけど」
今までシャーレ東通り2号店に居た時はずっと一人だった為、同じ年齢で同じアルバイトをしている人の話は聞いておきたい。
「ソラちゃんって発注とか経営とか一人でやってるの?」
「えっと……経営は分かりませんが、ぜ、全部やってます」
(やっぱりアルバイトってそういうものなのか)
やはりこのくらいはアルバイトとして普通なのかと思うリク。以前業務について疑ってしまった事を後悔しつつ、品出しの時に気になった事を聞いてみる。
「あとソラちゃん、『これ』なんだけど」
「は、はい、どうしました?」
リクはお店の商品を手に取ってソラに見せた。
「『水晶埴輪』? これが何か?」
不思議そうな顔をしてリクの顔を見つめて、何らおかしい事は無いような素振りをするソラに困惑してしまうリク。
「……これって誰が買うの? それともソラちゃんの趣味?」
「ち、違います! これは、その……」
何故かぐるぐる目になって言い淀んでいる。何か理由がありそうだが、そんなに言えないような訳でもあるのだろうか。
するとソラが急にハッキリした声で答える。
「そ、それは今、学生にあげるプレゼントで流行ってるものなんです!」
「これが? そうなんだ」
モモフレンズのペロロというキャラクターと同じようにキヴォトスで流行っているものらしい。
(それにしてはキャラクター感ないけど、そういうものか)
このご時世、何が流行るか分からないものである。
「いらっしゃいませー」
やっとお客さんが入ってきたので、入店チャイムとともに挨拶をする。
入ってきたお客さんは他生徒とは違って頭の上にヘイローはなく、かといってロボットや動物の姿をしている訳でもない。リク自身見たことのない『大人』の姿をしていた。
「い、い、いらっしゃいませ! …『先生』!」
「"お疲れ様、ソラ"」
先生と呼んだソラは緊張した様子で挨拶するが、視線は先生の方を向いてはいない。そしてその視線の先にはリクがおり、その視線に釣られるかのように『先生』もこっちを見てきた。
「"初めまして……かな? 『シャーレの担当顧問』の先生です"」
「は、初めましてリクです……ん? シャーレ担当顧問?!」
という事はこの人がシャーレの先生なのだろうか。噂には聞いていたが、本当に居たことに驚く。
「"そうだよ。よろしくね、リク"」
そう言うとコーヒーと妖怪MAXと水晶埴輪を買い、最後に『ソラの頭を撫でて』お店を出る。
ツッコミたい所が幾つかあったが、衝撃が強すぎるのと初対面というのもありその場で固まってしまった。恐る恐るソラを見ると若干動揺はしているものの、いつも通りといった感じだ。
「ソラちゃん、あれが先生っていう人?」
「う、うん。良くない噂は聞きますけど……」
ソラ曰く
『生徒の足を舐めた』
『全裸で学校のプールを泳いでいた』
『スケバンとつるんでいる』
『変な恰好で深夜の公園を徘徊している』
スマホで先生について調べるが、どれも都市伝説みたいな扱いを受けているものばかりで噂の真偽は定かではない。しかし、『あの行動』を見てリクの心は真の方に傾いていた。
(しかも、学生へのプレゼントで流行っている物を買うとは)
行動のインパクトが強すぎて気付きにくいが、プレゼント用の水晶埴輪を買うのも怪しくなってくる。ソラが先生に撫でられている事に慣れていると、いつかソラに手を出してしまうのではないかと危惧する。
(守護らねば……)
そう心に決めるリクであった。
ーー翌日ーー
(昨日リクちゃんに変な事言っちゃったけど大丈夫かな……)
ソラは『そ、それは今、学生にあげるプレゼントで流行ってるものなんです!』とリクに言った事を気にしていた。
実のところ水晶埴輪を発注したのは、流行っている訳ではなく『先生がいつも買っていく』からである。プレゼントとして生徒に贈っているのは知っているが、ソラの趣味かと聞かれた時にこんがらがってしまい、リクには言えなかった。
(今日きちんと言おう)
ちょうど掃除から戻ってきたリクに言おうとするが、入店のチャイムが鳴る。
「「いらっしゃいませ!」」
「"二人ともお疲れ様"」
入ってきたのはシャーレの先生で、一先ずリクに言う前に先生の会計を始める。
「えっと、コーヒーが2点、妖怪MAXが1点、パンが1点……合計で540円となります。」
「"ありがとう。今日は袋もお願いしてもいい?"」
「分かりました」
商品を袋の中に入れておつりとレシートを渡す。そしていつも通り先生の手がソラに近づいて来る。
(なんでいつも頭撫でてくるんだろう)
疑問に思いつつ、断れば見放されるのではないかと不安になってしまう。
だが、今日は違った
「"!?"」
横から先生の手首を掴むもう一つの手が伸びてきていた。お店に居るのは三人だけなので、おのずとその手の人物の主は分かっている。
(リクちゃん?? 何を……)
何かを言う暇もなく、リクは『先生の手をリク自身の頭に置いた』のである。
「"???????"」
(ええ! リクちゃん!?)
行動の意図が読めずにソラと先生は戸惑っていた。
その勢いのままに、先生はリクの頭を撫でる。
「"あ、ありがとう?"」
よく分からないまま、先生は二人にお礼を言ってお店を後にする。
一方、先生に撫でられたリクは複雑そうな顔でこっちを見ていた。
(え? なに?!)
急にそんな顔をされても何が何だか分からない。ソラの頭脳がフル回転し、あらゆる情報を考えた時に『ある真実』へと辿り着く。
(まさか、先生に操られて……?)
数多くある先生の噂話の中に『シャーレには、人を操る道具がある』というものがあった。
先生と出会ってほんの少ししか経ってないリクが、あのような行動をとる事はないはず。しかし、あれが先生に操られていたとしたら辻褄が合うのではなかろうか。
(で、でも、まだ決まったわけではないし……)
恐る恐るリクへ聞いてみる。
「り、リクちゃん? あの、な、なんであのような事を?」
リクは一呼吸置いて口を開いて答える。
「……体が勝手に動いた」
(いやあああ! 本当に操られてた!)
リクからの返答で疑惑は確信へと変わる。ただそれだと、一つ疑問が浮かび上がってくる。
(私はそんな勝手に体が動くなんて事無かったけど……)
そんな事が先生に出来たなら、とっくにソラも操られていてもおかしくない。
(もしかして、私には効かないとか……?)
SNSで見た、同じように操る『催眠術』も効く人と効かない人が居たので、ソラは効かなかった方だったのだろうか。
取り敢えず、これは由々しき事態だ。
(まずはリクちゃんを守らないと……)
そう心にソラは誓うのであった。
ーーさらに翌日ーー
(昨日は何とか防ぐことが出来た……けど……)
ソラの頭を触る前にリクが先生の手を掴んで阻止することが出来たが、自分の頭の上に乗せてしまった。
先生の手を掴むまでは良かったのだが、その後の事を全然考えていなかった。一言、二言、言えば良かったものの、何故か自己犠牲という形で混乱してしまったが故に、起こってしまった事故。
(まあでも、カッコいいセリフ言えたし……大丈夫か!)
アニメや映画でよく見る『自己犠牲で味方を守った時に言うセリフ』を言えて満足していたリク。
「「いらっしゃいませ!」」
入店のチャイムが鳴り、いつもの先生が現れる。今日のレジ担当はリクだ。
「"お疲れ様。あれ? 今日はリクが担当?"」
「そ、そうなんです! よろしくお願いします」
(ふっ……残念だったな、ソラちゃんじゃなくて)
まるで映画に居る役のように心の中で演じる。そして先生は、いつも通りレジに商品を持っていく。
「水晶埴輪1点、妖怪MAX2点、パン1点で……水晶埴輪は交換となりますので、合計で350円となります!」
「"カードでお願いします"」
「かしこまりました!」
「"帽子似合ってるね"」
「あ、ありがとうございます……」
レシートを先生へ渡すと、そのまま先生の手がリクの頭へと近づいてくる。
(ふふ……今日は秘策を練ってきた)
別に今日は帽子を被りたくて被った訳ではない。先生が頭を撫でてくると踏んで、予め帽子に『頭を触ると軽い電流が流れる』装置を付けてきたのだ。
(来るか! 先生……『この装置』はソラちゃんを守る為に作ったのだ! ……近づいて来いッ! 『頭』を撫でてみろッ!)
リクの思惑通りに先生の手が触れようとしたその時……
「"……ソラ?"」
なんと、今度はソラが先生の右手首を掴んでいた。
(ソラちゃん!? まさか……?)
昨日リクがやった様に、ソラ自身の頭に先生の手を乗せようとする。
(そこまでの依存に至ってたとは……でも……)
「"リク!?"」
ただリクは見ているだけでない。何としてでも電流を浴びせる為に、リクもソラと同様、先生の右手首を掴んで自身の頭へと誘導する。
ソラとリクの双方から同じ手首を引っ張られる先生。困った顔をするが、その表情も長くは続かなかった。
ミシッ
いきなり、先生の手首から『何かが軋むような変な音』がした。
「「……」」
「"……"」
双方ともその音を聞いて、先生の手首からそっと手を放す。
先生は平常を装ってはいるが、額には変な汗が流れているのが分かった。
「……きゅ、救急車」
その後は早かった。板と包帯で手首を固定させ、先生を病院へ見送る。
見送る際に何故怪我したかを聞かれていたが、先生は……
『"えっと、ちょっとコケてしまって……"』
……と、自分たちを庇うように事情を説明していた。完全には折れていなかった為、固定だけで保存治療となったそうだ。
やっと落ち着いた頃、リクからソラへと話を切り出す。
「ソラちゃん、先生に謝ろう」
「……うん」
あれからというもの……
「"お疲れ様、二人とも"」
先生はソラとリクの両方の頭を同時に撫でるようになった。
((どうしてこうなったんだろう……))
二人とも、先生への罪悪感と申し訳なさでいっぱいで受け入れている。勿論、先生は二人とも撫でられたかったものだと思っている為、二人がそんな事を思っているとは知らない。
ソラとリクの最近の悩みである。
ーーーー
コンビニ……エンジェル24でアルバイトをするにあたって、『接客』は避けられないもの。お客さんと良好なコミュニケーションを取りたい所だが、時として『迷惑客』なる者が現れる。
「はぁ!? 別に金払うんだから良いだろうが!!」
「で、ですから、か、会計前にそういった行為をされますと……」
リクがトイレ掃除から戻ってきた時、何やらお客さんが騒いでいるようでソラが対応していた。お客さんの足元には食べカスとゴミが落ちており、なんとなく状況を察する。
「どうせ客なんて来ねぇから誰にも迷惑かけてねぇよ!」
「うぅ……」
客の態度がより一層大きくなり、縮こまってしまう。状況と会話から見るに、お客さんが会計を済まさずに店内で商品を食べてしまったようだ。リクはすぐさまソラの元へと急ぐ。
「あのー」
「なんだテメェは」
ソラと同様に圧を掛けられるが、ここで怯んでは駄目だ。
「そういった行為は禁止されていまして……」
「何処に書いてあんだよ、オラ!」
(ヒッ、もうムリ……)
颯爽と現れて助けたかったが、威圧によって簡単に怯んでしまった。
(こういう時ってアルバイト用のマニュアルだったら『店長とか正規の店員さんに任せる』ってなってるけど……)
残念ながらこの店にはアルバイトしか居ない。ヴァルキューレに連絡しようにも、こういういざこざは取り合って貰えないだろう。
(前のお店だと理解してくれる方などが居たから……こんなこと初めて)
迷惑だと思っても話せば分かってくれたり、他の利用する方から注意して貰ったりなどそれなりに治安は良かった。今思えば、自分は運が良かったのかもしれない。
(そうだ! 『二人でずっと見つめていれば』いいじゃん)
食事をしている時に一挙手一投足監視されながらだと、人間は居心地が悪くなるのを利用する。もし『何見てるんだ』とか言われたとしても『会計しています』という大義名分が出来る算段。
しかも1対1ではなく、2対1とこちらの方が数が多い為、数的にも有利だ。
そうと決まれば、ソラへ目配せとハンドサインで伝える。
〔このまま二人でじっと見つめよう〕
ハンドサインを受け取って頷いたソラだったが、リクを置いて何処かへ行ってしまった。
(ソラさん!? 行っちゃった……)
一応、1対1でも見る事が出来ないことはないが、相手は恐らく年上なので一気に不安になってくる。
「あ? 何見てんだ?」
「ヒッ、あ、あの……何を食べているかの、か、会計を……」
「チッ……面倒くせぇ」
ここまで作戦通りで、相手は居心地の悪そうな顔をしている。後は待つだけなのだが、ここで『新たな客達』が現れる。
「あれ? 何やってんの?」
(いやああ! ひ、人が、増えた?)
なんと、迷惑客の仲間だと思われる人が入店してきた。しかもよく見ると、まだ入店していない外にも仲間と思われる人たちが居た。内外含めると、10人くらいだろうか。
「このチビ店員がよ、金払うっていうのにしつこいんだよ。がん飛ばしてくるし」
(いや! 誰がチビや!)
せめてもの抵抗で、心の中で叫ぶも効果はない。
迷惑客に感化された仲間達はリクの方へ詰め寄って来ており、それに伴ってリクも後退りする。
「あのさぁ、私ら客なんだよ? 臨機応変に対応出来ないの?」
「あーこいつ『アルバイト』だ」
「アルバイト如きが、なに私らに指図してんの?」
この雰囲気はまずい。しかも相手方は多人数であるから余計である。
だが、ここで引いてしまえば相手の思い通りがこれからも続いてしまう。
「と、とにかく! て、店内で会計前のっ……!?? 痛ぁ!」
相手は銃を取り出し、リク目掛けて撃ち込んだ。
「て、店内での銃の使用は……お、おやめ……」
(い、意識が遠くなって……ソラちゃんごめん)
そのままリクは倒れてしまった。
「これで静かになった」
この集団、実はコンビニを標的とした窃盗団であり、今回の標的は別の店だった。しかし、途中で変更して『シャーレ店』になった。
「変更する羽目になるとは思わなかったが、アルバイトしか居ないとなりゃ此方のもんよ」
この窃盗団はヴァルキューレに顔が割れているものの、逃げ足が速く、連携力も高いため捕まっていない。
「カメラは……予め壊しているからっと、よし! もう一人店員居たから早くかっさらってから撤収するぞ!」
集団は商品をかき集め、慣れた手つきで大きな袋やバッグに詰め込む。もう一人の店員が居たので、早くするように指示し、着々と商品がなくなっていく。
「しかしよぉ、『アルバイト』だけで良かったわ」
ピクッ
「もう一人は怖くなって逃げただけだし、助けに来ないときた」
「……ォ」
リクの体が言葉に反応して立ち上がった。それに気が付いた一人が、リーダーと思われる人物に報告する。
「お、おい……あいつ起きたぞ」
「チッ、まあ、あいつ一人で何かできる訳でもないしな。『アルバイト』だし」
「私……アルバイト?」
起きられても面倒なので、リクに再度サブマシンガンの銃弾を浴びせようとした時……
「私アルバイトオォォォォォォォ!!!!!」
リクはジャンプしてレジカウンターの上に立つ。そして取り出したリクのサブマシンガンで、有無を言わさず窃盗団に向けて連射した。突然の銃弾に反応出来なかった者も居れば、棚の影に隠れてやり過ごした者も居る。
「なんだってんだよ……あいつ!」
あまりの豹変ぶりに困惑が勝ってしまう。
「こっちの方が数多いし、相手は一人」
この場面で有利なのはこちらであり、相手はカウンターの上に居る為『狙ってください』と言わんばかだ。
「一斉に撃つぞ!」
そうして棚から顔を出そうとしたが、金属音を立てて足元に転がって来る物体によって動きが止まる。見覚えのある物体に思わず目を瞑った。
(閃光手榴弾!?)
レジのカウンター内にあったスタングレネードもとい、閃光手榴弾で眩い光と大音量でエンジェル24は包まれた。
『私アルバイトオォォォォォォォ!!!!!』
その隙に目がやられた仲間はリクによって倒されてしまう。うめき声や銃声は先ほどの閃光手榴弾によって聞こえないが、着実に人数は削られているのが分かった。
『私アルバイトオォォォォォ!!!!』
『や、やめ……う゛』
『見えない!? あぁ……』
(マズいマズいマズい……)
シャーレ店に変更して目を付けたのは、客入りが少なく商品が沢山余ってるからである。いつもなら、下調べもしてそれに伴う準備もしたはずなのだが、度重なる成功と自信によって疎かにしてしまった。
まさかこんな事になるとは思ってもいない。
『私アルバイトオォォォ!!!』
『うわぁあ!!』
『助け……』
閃光手榴弾の効果も薄れ、段々と周りの音が聞こえ始めた。しかし、ガラスが落ちる音がするのみで、あの叫び声と銃声はもうしなかった。
「……あいつはどこだ?」
やけに静かになった店内を見渡して、安心からかその場でしゃがみ込む。見渡して分かったが、仲間は自分以外全滅していた。
「逃げよう」
そう言って立ち上がろうとした瞬間、自分の真横に気配を感じる。
恐る恐る横を向くと『そいつ』は居た。
「私アルバイトオォ!!」
「ひいいぃああぁ!!!」
恐怖か銃弾のダメージなのかは分からないが、最後の一人も失神する。
そうしてリクも何事もなかったかのように、その場で再び倒れてしまった。
「先生! 早く!」
「"ハァ、ハァ……こんな時にエレベーター点検中って"」
リクに先生を呼んでくるように伝えられて、現在ソラは先生と階段を降りてエンジェル24に向かっていた。来るのが遅かったのは、丁度エレベーターの点検が入っており、階段での移動を余儀なくされたからである。
「着きました! リクちゃ……え?」
「"こ、これは!?"」
着いた時に見えたエンジェル24の店内は、ソラから聞いていた話と大分違っていた。
割れたガラス片や商品が散乱しており、迷惑客というよりも店内で戦闘があったような状況だ。壁には銃痕、床には複数人倒れて、その中にはリクの姿もあった。
「あわわわ……と、取り敢えず救急車とヴァルキューレに」
ソラの反応から、この状況は先生を呼びに行った間に起こった出来事だろう。リクの傍へと駆け寄って容態を確認する。
("目立った怪我はないみたいだけど……これは……")
リクよりも他の者達の方がボロボロになっている。違和感を感じるが、それよりも早くリクの元へ助けに行けなかったことを後悔する先生。
「"一体何が……"」
救急車とヴァルキューレが到着してその場で事情聴取を受けるソラと先生。後で聞いた話だが、リク以外に倒れていた集団は有名な窃盗団だったらしく、漏れなく全員お縄についたようだ。罪を認めたのは良かったが、エンジェル24で起きた詳細は誰一人として語ってくれなかった。
ただ、リーダー格の人物が一言
『あの叫び声がずっとする』
と言っていたそうだ。周辺の防犯カメラも壊されており、これ以上の追及は無駄だと判断されて、ただの強盗事件として処理された。
ーーーー
「それではまた検温しに来るから、安静にしとくのよ」
「は、はーい」
リクは今、病院に居る。
お腹を撃たれただけなので全然問題ないはずだが、しばらくは様子と検査を受けた方がいいとのことで入院中だ。
病院の先生からは『鼓膜も少しやられてるね。どこか体打ったかもだから明日検査ねー』と言われた。
(元々鼓膜傷ついていたのかな)
覚えのない怪我に疑問を持ちつつ、病院のベッドに寝転ぶ。
先ほど、ヴァルキューレから事情を色々と聞かれた。しかし、あの後の事なんて分からないし、気絶していたので分かるはずもなかった。
あと店内にリクの指紋が付いた閃光手榴弾もあったらしいが、仕入れた際に元々付いたものだと思うので関係ない。
(本当に誰だろうか……)
先生やソラが言うには、エンジェル24を襲った者を倒した『何者か』が居る……らしい。気になって、ソラに店内の写真をモモトークで送ってもらったので早速見たら、店内がボロボロでビックリしてしまった。
(確かにこれは撃ち合いがあったとしか言えないね)
銃痕と割れたガラスは撃ち合いの壮絶さを物語っていた。
「はーい! どうぞー」
「リクさん、ご無沙汰しております」
写真を見ていると、病室のドアからノック音がしたので返事をする。病室に入ってきたのは、あのコンビニ強盗もとい、アドバイスを求める人だ。
「わざわざありがとうございます……」
「い、いえ! 当たり前の事をしたまでで。これお見舞いの品です」
そう言って差し出したのは高そうなメロンだった。
「!!」
(やったー! 後でソラと分けよ……ついでに先生も)
「あ、後こちらも」
どうやらお見舞いの品がもう一つあるみたいだ。初手のメロンに気を取られていたので気が付かなかった。
(何だろうなーお菓子とか?)
紙袋に入っており、結構な重さだ。中身を想像してワクワクしながら袋の中身を見た瞬間に言葉を失う。
「……」
(あれ? 目の錯覚かな……)
もう一度袋を閉じ、開けて見る。
「……」
(げ、現金ンンン?!)
中に入っていたのは綺麗に積まれた『札束』だった。
(え、え? 幻覚? とうとうお金欲しさに幻覚を?)
「少なかったですか……?」
「いや、これ……」
とにかく、これは貰ったらダメなやつだとリクは判断する。何処で稼いだかは分からないが、こんな大金を受け取る度胸はリクにはなかった。
「これは受け取れない」
「どうしてですか!?」
「……よく見て」
冷静になれと紙袋を渡して中身を確認させる。疑問に思っていた表情は変わらず、何故断るのだろうという目線でこちらを見ている。
「家に帰って、冷静に見てください」
「わ、分かりました……」
ちょっと欲しいなと思った自分を抑えて相手を帰らせる。
(まあ、家に帰ったら『なんでこんな大金を渡そうと!?』となるはずだし、心配だったのかな)
リクはナースコールを鳴らして看護師を呼ぶ。
「あのすみません、先生に頭の検査もお願いしますって伝えて貰ってもいいですか?」
一応、幻覚じゃないか診てもらうリクであった。
一方その頃、リクから受け取れないと言われたので拠点に戻ったコンビニ強盗。『リクガメ』で仲間と理由を考えたが、『金額が足らなかったのではないか』や『タイミングが悪かった』などの意見が多い。
「あの人から何て言われたのさ」
「『よく見て、冷静に見て』と……」
リクから言われた通り、紙袋に入っていた現金をよく見る。何らおかしい所はないが、メンバーの一人がある仮説を立てた。
「おい……これもしかして『足が付いた金』じゃねぇか?!」
現金の番号を控えておくことによって、お金の流れが分かるようになっているお札。元を辿れば、自ずと犯人や組織に辿り着くようになっているのだ。
「でもこれ、ちゃんとマネーロンダリングしたやつだよね?」
きちんと足が付かないように安全なお金に換えたのはやっているはず。
「……今すぐ取引した役員を調べろ!」
すぐさま、深い所まで調べ上げる。すると、取引先は裏で敵対組織と繋がっており、情報を売ってこちらを潰そうとした事が明らかとなった。
もし、あのまま気が付かずに渡していたら『リクガメ』は致命的なダメージを受ける所だったのだ。
「リクさん……あんたはどこまで」
札束を見ただけで足が付いてると分かるリクに戦慄する。しかし同時に、信仰に近い尊敬する感情が沸いてきたのであった。
「このメロン美味しー!」
いかがだったでしょうか
時間が許せばエンジェル24と他生徒との関わりも増やしたいものです。
続きはまた後日に