お待たせしました!
それではどうぞ
「セーフ!」
時刻は19時前、リクはシャーレのエンジェル24に到着する。店舗を見ると改装工事は済んでいるようで、外側から見ても店内が綺麗になっているのが分かった。先に店舗に到着してるであろうソラの姿を想像しながら、店舗内へと近づく。
「ソラちゃーん……あれ?」
早速、従業員用出入口から店内に入ってソラの姿を探すが、何処にも居ない。
「どうしたんだろう……まさか何かあったんじゃ!?」
そういえば行く前にソラが『ま、前からヘルプに来て欲しいって所があったから、そこで……』と言っていた。詳しい行先は言っていなかった為、確認の仕様がない。
(ソラちゃんがミレニアムについて、マップで調べていた所までは見たけど……)
別れ際にミレニアム方面の進路を調べていたのは分かっている。まずリクは、スマホを取り出してソラに連絡を取ってみる。しかし、繋がる事は無かった。
「……あーこれ、ソラちゃんの携帯の電源切れてるかも」
ソラが持っているガラケーは、画面が映らなかったり、電源が切れていたりと調子が悪い事が多々ある。次に何かに巻き込まれていないかと、ミレニアムのニュースを調べる。
(ん? 待てよ、ミレニアムって)
ここに着く前に見た『夢』の中で、闇バイトのためにミレニアムに連れ去られた事を思い出す。夢のお告げかと思いながら、今出ているニュースに目を通す。キーワードをミレニアムに指定し、上から下へと目を通していくと気になる項目を見つけた。
<狙われる中学生! カツアゲの実態とは!?>
その記事を詳しく見る為に、リクは画面をタップする。そこにはカツアゲされやすい場所や、人通りが少ない場所が幾つか紹介されており、ミレニアムについても記載されていた。
「えっと、<モノレールステーション裏や機材倉庫裏は特に危険>……まさか!」
『ど、どうしよう……ミレニアムで迷っちゃった』
『よお! 早速だが……銃と持っている弾を置いてジャンプしてポケットをすべて裏返して財布を開けてクレジットカードを出して暗証番号を言って靴と靴下を脱いで髪をほどいて今着ているものを全部脱いで写真を撮ってお金を並べてこっちに差し出せやぁ!!』
『うわーん!』
リクの頭の中ではソラがカツアゲに遭う場面が浮かび上がっていた。
「大変だ……」
本来であればヴァルキューレに相談か通報なのだが、証拠も事実も証明出来ないままヴァルキューレに通報する訳にはいかない。
「先生は……ダメだ」
よく分からない大人を頼るのは控えたいところである。
「こうなったら車庫にある『アレ』で……」
今すぐ行動できるのはリクしか居ない。ソラを助けに店の外に出た所で見覚えのある人影が近づいてきた。
「ハァハァ……リクちゃん遅れてごめん」
走ってきたのか、息を切らしながらこちらに向かってくるソラ。取り敢えず、ソラ自身の身の安全は確認出来たのでリクは安心する。ただ遅れてきた理由が分からない為、リクは気になってソラの元へと駆け寄った。
「ソラちゃん大丈夫? 何かあったの?」
ミレニアムから走って来るなんて、よっぽどの事があるに違いない。
「そ、それが『盗まれて』……」
「盗まれた!? もしかして、カツアゲされて身ぐるみ剥がされたのを写真撮られて脅迫されて断ったら自宅特定されて盗まれたとか!?」
リクによる怒涛の言葉に、気押されてしまうソラ。
「え!? ち、違うくて……自転車が盗まれたの!」
話を聞くと、ミレニアムに行くために自転車を利用していたとのこと。そして用事が終わって帰ろうとした時に、自転車が無いことに気が付き、自転車に乗れずに遅れてしまったらしい。
「うぅ……どうやってこれから遠出しよう」
そもそもソラが遠出する事なんてあまり見たことが無いというのはさておき、移動手段が減ったことにより本人が落ち込んでいる。
(う゛何故か罪悪感が……)
リクの心に謎の罪悪感が生まれる。悪い事、ましてや盗んだ事なんてないはずなのだが、モヤモヤといった引っ掛かりがリクの表情を曇らせた。
「あの、て、提案なんだけどうちの車庫に自転車が3台あって……そのうち1台は懸賞で当たって全く乗っていないのがあるんだけど、もし良かったら要る?」
リクが持っている自転車を譲る提案をした際に、一瞬目を見開いてすぐさま目を閉じて首を振る。
「ありがたいけど、貰うのはちょっと……」
確かに自転車がなくて困ってはいたが、自転車のような高い物を貰うのはソラにとって申し訳なく感じて遠慮してしまう。
「じゃ、じゃあこのエンジェル24用の自転車にしよう! 必要なら私もソラちゃんも使えるし」
社用車ならぬ社用自転車だ。その言葉を受けてソラは「それなら……」と納得した様子。リクの罪悪感は消えた訳ではなかったものの、いくらかマシになったのだった。
取り敢えず、ソラとリクは店内に入って開店準備を始める。予定よりも開店時間は遅れそうだが、二人も居ればすぐに準備も終わるだろう。リクは掃除と棚出しでソラはレジ内の準備を行う。
「ソラちゃん、レジ終わったらこっち手伝ってー!」
「はいー」
一緒に業務をしていると、まだ開店前なのにも関わらず入店のチャイムが鳴る。
「すみませーん! まだ開店準備を……って先生!?」
誰が入って来たのかドアを見てみると、そこに居たのはシャーレの先生だった。まさかすぐに来るとは思っていなかったので、驚いてしまった。
「"あれ? そうなの?"」
どうやら、先生は予定開店時間の少し後に来たようで開いていると思って中に入ってきたらしい。
いつもならばシャーレの中に直行し、その後にこちらに来るのはずなのだが珍しく今回はエンジェル24に直行したみたいだ。
「えっと、色々あって遅れてて……先生は買い物ですか?」
まあ遅れた原因として遅刻とかトラブルとかはあったが、わざわざ先生に言う必要はない。直接ここに来たという事はここに急ぎの買い物をしに来たのだろうか。
「"ちょっと内装が気になって。同じくシャーレも改装工事あってね……まだ終わってなかったようだったからエンジェル24にと思ったんだけど、こっちも準備してたんだね"」
エンジェル24のついでにシャーレもメンテナンスもとい改装工事をやっていたとは知らなかった。前に動いていなかったエレベーターを一新したのだろうか。
「"お手伝いしようか?"」
「ありがとうございます。もうすぐ終わりそうなので大丈夫です」
魅力的な提案ではあるが、こればかりは自分達でなんとかできるので断っておく。
そういえば、いつもシャーレに居てエンジェル24に来てくれてはいるが、いつも何をしているか分からない。こういった機会も少ないので聞いてみる。
「いきなり聞くんですけど、先生というかシャーレってなんの仕事をしている所なんですか?」
「わ、私も気になります」
前にソラと話していたシャーレについて直接先生に聞いてみた。ソラも気になっているようで、棚の影から顔を出していた。
「"色々あるけど、主にキヴォトスの生徒からの相談に応じて、必要であれば助けに向かう仕事かな"」
ネットに書いてあった通り、生徒のために奔走しているというのは本当だった。
「た、例えばどのような?」
「"うーん、『猫探し』とか『掃除』とか……"」
先生の口から例の『猫探し』というワードが出てきた。闇バイトに関与している疑いがあるのでそれとなく質問しようとソラが口を開こうとする前にリクが発言する。
「闇バイトで猫探しは高級車の隠語って見たんですけど高級車探しですか?」
(り、リクちゃん!!??)
単刀直入に聞くリクに戦慄するソラ。いきなりの犯罪発言に驚愕する先生。そして先生の答えを待つリク。
「"闇バイト……高級車!? 普通の猫探しだから!"」
そもそも闇バイトでも何でもなく、生徒と協力の元やっているものである。
「良かった……先生が犯罪とかに関わってなくて」
リクのその言葉で、ある場面が先生の頭の中に浮かんでしまった。
『覆面水着団銀行強盗』
アビドス高等学校廃校の危機に駆けつけた先生。学校の多額の借金によってそアビドスの生徒達は借金を返す日々を送り、学校を襲う集団と戦っていた。そして、貸し手であるカイザーローンの不当なお金の流れを目撃し、その証拠を掴むために銀行強盗をアビドスの生徒と先生、ブラックマーケットで助けたトリニティの生徒と共に実行した事がある。
「"……"」
「どうしたんですか? 先生」
突然黙ってしまう先生に何かあったのかと心配するリク。そんな先生を注意深く見ていたソラは疑心暗鬼といった様な訝しげな表情になる。
「"い、いや、何でもないよ。そろそろシャーレも開いたようだしまた来るよ"」
そう言って先生は、エンジェル24から退店する。ちょうど陳列も終わった所なので開店できそうである。かと言って、開店したとしてもしばらくは誰も来ないだろうが……
開店して早々、二人は携帯を取り出してSNSを開く。
(なにこれ……<ミレニアムで車vs自転車!?>)
リクの携帯はミレニアム関連のニュースになっており、最新のSNSの記事にそう書かれてあった。
<本日、ミレニアムで犯罪集団が乗った車と謎の自転車とのカーチェイスが話題となっています>
(なにこれ、凄いんだけど……ソラちゃんにも見せよ)
「ソラちゃんこれ見てみて」
そう言って記事にあるカーチェイスを撮っていた動画をソラに見せる。
その動画には、ボックスカーとフルフェイスヘルメットを被り自転車に乗った少女が映し出されていた。別の場面では、少女に生えている黒い翼を生かした飛び移りも披露しており、コメントでも盛り上がりを見せている。
「自分にも同じ黒い翼が生えてるけどこうはいかないよ……ソラちゃん?」
しかし、それに反してソラの顔は優れない。
「……これ私の自転車かも」
「ええ!?」
なんと、この自転車はソラの自転車と似ているらしい。偶然だと思いたいが、確かに事件発生時間といい場所といい、辻褄が合っていた。
「ま、まあ犯罪集団も捕まったみたいだし、その点で言えばソラちゃんの手柄だよ……多分」
「う、うん」
フォローにならないような言葉を掛けつつ、自転車が何らかの形でお返しされるように願っておく。
それにしてもこのフルフェイスヘルメットの少女、どこかで見たことあるような感じがする。
(気のせいかな)
知り合いに居るならばすぐ分かるので、きっと気のせいだと判断する。
「「いらっしゃいませ!」」
そうこうしているうちにお客さんが入店してきた。
「復刻発売の妖怪MAXを箱で仕入れてるって聞いたんだけど」
銀髪のポニーテールに周りに球体のドローンを浮かばせている生徒。ミレニアムの校章がある白衣を身に纏っており、どうやらミレニアムの生徒で妖怪MAXが目的でうちに来たらしい。
「は、はーい!」
確かにうちで復刻発売の妖怪MAXを何箱か仕入れたのだが……
「ね、ねえ、ソラちゃん。発注していた復刻の妖怪MAXって誰かに言った?」
「い、いや言ってないはずだけど……」
このキヴォトスで人気なエナジードリンク『妖怪MAX』は、新発売が出るとすぐに箱買いする人が居るので勿論仕入れている。しかも今回は妖怪MAXユーザー待望の人気の味の復刻であり、数量限定なので無くなるもの早いだろう。
(どこから聞いたの!?)
発売日と仕入れの関係上、確かに遅れて発売したエンジェル24シャーレ店は在庫が残っているだろう。だが、当然のことながら仕入れていないお店もあるだろうし、他の人から聞いたとしても開店して他のお客さんは誰も来ていない。
「もしかして、先生かな」
開店前の棚出しで箱と在庫を見て、この生徒に教えたのかもしれない。リクは1ダース分の箱を持ち上げてそのお客さんに渡す。
「お待たせしました。こちらで大丈夫ですか?」
段ボールに書いてある商品名を確認して頷き、右手をパーに開いてその生徒は言う。
「確かこれも含めて7箱仕入れてたはずだから、あと5箱頼める?」
「え? は、はい」
7箱も仕入れたかどうか朧げであり、確かそのくらいだったかなと裏手に回ると、確かに陳列していたのも含めて7箱分あった。
(なんで分かったの!?)
先生はここまで見に来ていないし、ソラとリクも言っていないとなると怖くなる。
「リクちゃん7箱も仕入れたっけ?」
「確かに7箱仕入れたけど、誰にも言ってないよ!?」
ソラもその違和感に気が付いたようで、リクに確認していた。
「「怪しい……」」
このまま売っても良いが、大量に購入する目的が分からないし、一人で消費するのは考えられない。
リクは頭の中で、『大量買い』『復刻した数量限定の人気商品』のキーワードから、ある可能性を考えた。
「多分、今よく聞く『転売』ってやつだよ」
『転売』とは、自分で買った商品を他の人に売る事である。
しかし、リク達の言う転売とは、数量限定や人気商品を買い占めて定価以上で売り、利益を得る人の事を言う。
そしてそういった転売が増えてしまえば、商品のイメージ低下、本当に買いたい消費者が買えなくなる、利益があるとメーカーが大量生産して価値が下がり売れなくなるなど……与えるダメージは大きい。
(転売対策も大変だし、転売に加担したと思われるのも嫌だし……)
前のお店でも、それで頭を悩ませた経験がある。
「えっと取り敢えず、購入制限を設けるしかないよねリクちゃん」
「そうだね」
リクは妖怪MAXの入った箱を一つレジに運ぶ。
「あ、あの……すみません。こちら人気商品でして、お一人様2箱までとなっております」
「そうなの?」
すると、お客さんは周りに浮いているドローンを操作し始めた。
「コタマ先輩? マキ? 頼みたいんだけど……」
(まさか、仲間を……!?)
「シャーレのエンジェル24……そう。二人のあれ手伝うしシャーレに先生も居るし……」
どうやら、ドローンを使って連絡していたようだ。これもよくある事で、一人に購入制限を設けると仲間を呼んで買うというものである。
「……あと二人来るから」
「は、はい……あの、箱に印とかサイン書いてもよろしいですか?」
「? 別にいいけど」
一応、新品を防ぐ為に箱に印を入れる。
(まあ、一本一本売れば意味無いんだけど……)
それにしても、もし全部飲むとして、こんなにエナジードリンクを飲んで大丈夫だろうか。健康面で此方が心配になるレベルである。
(ちょっと聞いてみようかな……)
「あ、あの、妖怪MAX好きなんですか?」
「ん?」
ソラは仲間が来る間に、購入目的について探ってみる。聞かれた生徒は、質問内容について少し考え発言する。
「うーん、好きではあるに越したことは無いけど……まあ毎日飲んでるから好きか。というか大好きだね」
(ま、毎日……)
「この味もそうなんだけど、気が付いたら手に持って飲んでるね」
「へ、へぇ……そ、そうなんですか」
(カフェイン中毒だ! この人!)
リクはこのように妖怪MAXの虜になった人物を知っている。前のコンビニにいつもエナジードリンクを何本も買っていくお客さんが居た。その人は箱買いまではしなかったものの、似たような雰囲気は漂わせていた。
この時点で、転売の疑いはほとんど無くなっていた。
「あと! ど、どうして仕入れの数が分かったんですか?」
もう一つ気になっていた、どうして仕入れ数やタイミングまで分かったのだろうという疑問。それを聞いたお客さんがリクから目を逸らしながら言う。
「……たまたまだよ」
「凄いです!」
リクは完全に信じているようだが、傍から見ていたソラは『そんな訳無いでしょ!』と言いたそうな表情をしていた。
しばらくして、連絡を受けたであろう二人が入店してくる。
「ただいま到着しました」
「ハレ先輩、わざわざ呼び出して何の用事?」
一人は眼鏡をかけ、首にチョーカーとヘッドフォン、ミレニアムの学生証が付いた黒い上着を身に着けている生徒。もう一人は、赤い2つのお団子髪と服にインク?のようなものが付着している生徒。
この言葉から察するに、事情の説明はしていない様子だった。
「これで6箱買えるよね?」
「は、はい」
確認を行い、ソラと一緒に妖怪MAXの箱をレジに運んでいく。
「珍しく外出したと思いましたが、そういう事だったんですね」
「え゛……ハレ先輩これで私達呼んだの?」
運んでいる間に事情の説明は終わったのか、レジ前に3人で話しながら待っていた。そのうち、赤いお団子髪の生徒がソラとリクを見つけて話しかけてくる。
「ねぇ、アクリルスプレーとかってある?」
「アクリル? か、確認します!」
銃の塗装などでスプレーを入荷してはいるが、スプレーの種類までは分からなかった。ソラがスプレーの確認に向かい、リクは妖怪MAXの会計を行う。
「……あの、つかぬ事を聞きますが、先生はよくこのお店に?」
「え? あ、はい。よく利用されますけど……」
眼鏡の生徒から先生について質問を受ける。
(というか毎日だし、さっき来たし、頭撫でてくるし……)
下手すると、今日何も買ってもないのでまた来そうな予感はしている。
ソラが先生がよく来る事を答えると、その生徒から驚きの言葉が飛び出してきた。
「では、どうして先生はいつも買い物の後に、貴方の頭を撫でているのですか?」
「え、えっと……ちょっと待ってください、何故それを!?」
何故かいつも自分達の頭を撫でている事を知っている生徒。たまたま撫でている所を目撃した可能性もあるが、『いつも』という言葉が入るだけで違和感を覚えた。少なくとも、リクは先生が来た時にこの人の事を見たことがない。
「私にかかれば音で判断できます。それで、どうして頭を?」
(そ、そんな事言われたって分かんないよ!)
理由についてはリクも知りたい事である。不思議と悪い気はしない為、いつもの流れでなっている感はあるが、何故なのかはあまり考えてはいなかった。取り敢えず何か言わないと不審に思われるので、頭に浮かんできた単語を言ってみる。
「さ、さあ……ま、マーキングとか?」
「マーキング……?」
よく猫が体を擦り付けることがあったので、SNSで調べた時に出てきたものだ。
(って、それマーキングじゃなくて愛情表現だったかな……)
リクの記憶は曖昧である。それにマーキングの意味もあまり分かっていない様子であった。
「私も先生にマーキングを……」
(え゛!?)
撫でられているインパクトで考えていなかったが、さっきからおかしい事だらけだ。入荷量の特定から『音』で撫でている事が分かったこの人達。何やら転売以外の怪しい事がありそうである。
ただ、身の危険を感じたソラは触れないことにした。
「「あ、ありがとうございましたー」」
会計も済ませて、例の三人はお店を後にする。あれだけあった箱も、ハレと呼ばれた生徒のドローンによって運ばれていく。
勿論そのまま帰る訳もなく、三人は先生の居るシャーレへとエレベーターを使って上へ行った。
「「ハァ……」」
『まいにち~幸せ届ける~ハッピーハッピーエンジェル24~♪』
再び店内はリクとソラの二人だけとなり、二人はため息をするが店内のBGMによってかき消されていく。ソラもソラで赤いお団子の生徒と何かあったのか、疲れている様子を見せていた。
「大丈夫? あのお客さんと何かあったの?」
何か考え事をしてるのか、ソラがすぐに携帯を取り出さなかったので少し気になって聞いてみる。あの生徒がスプレーを購入したので、商品が無かったという事はなさそうである。
「い、いや……エンジェル24のレジに何か入れたかったようで」
「何か? レジ?」
ソラは頷いて、一部始終を話す。
「ゲーム? というか『ブーム』をレジに入れようとしたみたい」
「『ブーム』?」
調べると『BOOM』とはレトロFPSゲームで宇宙警察ブームガイが、宇宙人をデカい散弾銃で倒していくゲームらしい。そしてそのゲームを、色々な端末に映し出したり、ダウンロードしたりなどするのが流行っているらしい。
「そ、それで断ったらすぐに分かってくれたみたいで、大丈夫だった」
「……良かった、ありがとうソラちゃん」
ただ、ソラはリクに言っていない事がある。それは、ソラが断った時にお客さんが言った言葉。
『え、でも! ……うう、先生に怒られたくないし』
あの赤いお団子の生徒も先生の事は知っているようだった。リクとソラの中で先生にまつわる謎は、さらに深まっていく。
ーーーー
『まもなくシャーレ東通り2号店リニューアルオープン』
リクの元に届いた一通の封筒。その中身の一枚の広告に書いてあった文字だ。
この『シャーレ店』に配属されて幾つかの日々が経ったが、いよいよこの日がやってきてしまった。
(って言っても、もう何日かも数えてはないんだけど……)
リニューアルオープンするという事とこの封筒が来たという事は、シャーレ東通り2号店に再配属されるという事だ。
温泉開発部に店舗を滅茶苦茶にされ、地盤の液状化によって再建の目処は立っていなかったのが、ようやく解決したらしい。
(喜ばしいことなんだけれど……ねぇ……)
普通ならば戻れることに喜ぶ所なのだが、同時にソラとも会う機会が極端に少なくなるともいえるだろう。ワンオペの時にはなかった同僚との別れは寂しいものである。
「まあ、悩みの種が無くなるのは良い事だけど、それはそれでソラちゃんが心配だし……」
「どうしたの? リクちゃん」
心の中の声が漏れたのか、棚出しから戻ってきたソラに聞かれてしまう。独り言を聞いたソラはリクが持っている封筒と広告を見て、事情を察する。
「『シャーレ東通り2号店』……」
「そう。やっとオープンするから戻らないと……」
何とも言えない空気が店内を包む。双方とも元のお店に戻った方がいいとは分かっているが、何となく寂しいような感情が浮かんでくる。
「わ、私は大丈夫! お客さんが増えたとしても、何をされても大丈夫!」
「ソラちゃん……」
思えば、ソラちゃんは丁寧な言葉からアルバイトの事まで知らない事を教えてくれた先輩なのだ。最初は自分の事をさん付けで呼んだり、敬語だったりしたが、今では友達で普通に話せている。
「まあそんな遠くないわけだし、暇になったら来て!」
「うん! こっちにもね!」
そういって、いつも通りエンジェル24の業務をこなしていく。
「じゃあリクちゃん『またね』」
「ッ! またね!」
お世話になったエンジェル24シャーレ店を出発し、シャーレ東通り2号店へと向かう。
前にあった場所と同じなのだが、以前の敷地面積と比べて広くなっている。事前に説明を受けており、本部の人が言うには『ただリニューアルした訳ではない!』……らしい。
(マニュアルも作ってくれたみたいだし、大丈夫か)
向こうに着いたらマニュアルもあるそうで、例え新しい業務になったとしても大丈夫だろう。
そう、思っていたのだが……
「ええ!? シャンプーが無い!? 予備のやつ持っていきます!」
「ぬ、盗まれたと言われましても……貴重品は鍵を使用して……」
「あ! すみません、券売機で料金を払ってからお願いします」
「ま、迷子ですか!?」
「あの……髪を切る行為は禁止しておりますので、おやめください」
「い、いらっしゃいませ! 妖怪MAXフルーツ牛乳味ですか? 少々お待ちください!」
「誰かが勝手ににゅ、入浴剤を!?」
「大声で騒がないようお願いします!」
リクは新しくなったエンジェル24シャーレ東通り2号店で働いている。以前と違う所といえば、エンジェル24と温泉が合わさった所である。本部の人が言うには温泉開発部が掘った温泉を再利用して建てたようだ。
(いつもよりも業務が二倍以上なんだけど!?)
昼はほぼ休む暇もなく、お客さんはやって来る。口コミで新しいタイプのエンジェル24が出来たとのことで、反響がそこそこあり、リクはなんとそれを『ワンオペ』で捌いている。
(本当にアルバイトなのこれ?)
ただ今までワンオペでやってきたのもあり、考える暇もなく着々とこなしてしまうリク。夜は大体落ち着くのだが、勿論の事エンジェル24の業務もプラスされる。
マニュアルと店舗を見た瞬間、リクは戦慄した。聞いていた話というより、想像もできない店舗を目の当たりにして、リクに頭の中は混乱した。
建設費に予算の多くを使ってしまったせいか、本部の人は回らなくなったら従業員を増やそうと考えていたよう。しかし、リク一人で出来てしまったがために、大人達はケチってしまったのである。
「お掃除ロボットは助かるけども……」
幸い、ミレニアム最新型の掃除ロボットによって、お湯の管理から掃除までこなしてくれている。こちらの業務は接客だけというが、人が沢山来てしまって対応に追われており、その分迷惑やルールを守らないお客さんも増えていた。
「ソラちゃん助けて!!」
その叫んだ声さえも、他の大声によってかき消されてしまうのだった。
ーー
「これ! 温泉への冒涜だよ!」
以前に前のシャーレ東通り2号店を爆破した温泉開発部が集まっていた。赤い髪とツノの生えた生徒『メグ』がリニューアルオープンのチラシを机に叩きつけて、今にも現場に行きそうな勢いである。
「まあ落ち着きたまえ。このまま行っても『あれ』が居る限り来てしまう」
「んーでも!」
白衣の着たツノの生えた生徒『カスミ』が、説得するも納得はできていない様子。カスミは自身の話術ややり方に惑わされない人物は苦手なようで、策を練っている途中。
(出来るだけあの委員長にも会いたくない)
苦手なタイプが二人来る可能性もあるが、それ以上に『自分達が突き止めて掘った温泉が冒涜ともいえる利用』をしている事も問題である。
(うーむ……二人をどうにかして、ん?)
ふと、ある作戦を思いつくカスミ。
「よし! 行く準備だ!」
「やっと部長が立った! どうするの?」
すぐさま準備を始める温泉開発部。二人を相手してどうやっていくのかはカスミ以外はまだ知らない。
(いや、相手にしなくてもいい……『勝手にやり合ってくれる』さ)
不穏な空気を纏いながら、着々と大量の爆薬が運ばれていくのであった。
読んでいただきありがとうございます!
いかがだったでしょうか、改めて生徒達の事を書くとソラがあのように思うのも無理ないように思いました……
次回もよろしくお願いします!