私アルバイトォォ!!   作:第三のケモナー

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大変お待たせしました!

それではどうぞ







5話

 

 

 

 

 

 「はぁ……疲れたー!」

 

 店内に響き渡るリクの叫び。深夜帯でお客さんが居ないのも相まって、昼よりも声が良く聞こえる気がする。

 

 シャーレ東通り2号店のエンジェル24、そこは他のエンジェル24と違い、温泉とコンビニのようなものが合わさっているお店である。昼と夜は温泉とエンジェル24の併用、深夜帯は温泉の営業はなく普通のエンジェル24と変わらない。

 現在深夜帯に入り温泉の営業は終わったのだが、その後の片づけ作業もある為に業務は続いている。

 

「やっと終わったけど、これで大丈夫かな」

 

 リクの手元には『シャーレ東通り2号店マニュアル(正社員用)』がある。初めてではないがまだ慣れていないので、それに沿いながら業務をこなしていた。

 

(というか私アルバイトだし、なんで『これ』渡してきたの?)

 

 ご丁寧にマニュアルには正社員用と書かれていた。アルバイトであるリクに渡す事に違和感を覚えたが、そもそもここの店員はリク一人しか居ない。

 

(やらなかったらやらなかったで業務停止してしまうし……アルバイト用と間違えた?)

 

 正社員用と書かれているならば、アルバイト用もあるに違いないと思うリク。以前の『身の安全第一マニュアル(正社員用)』もあったが、あれはアルバイトの助言を求める人(強盗)によって違う事が分かった。

 

(このマニュアルも違う所があるのかな)

 

 確かめる術もなく、取り敢えずはこのマニュアル通りにやるしかない。

 

「えーと、最後は『掃除ロボットの電源を付ける』か」

 

 リクは脱衣所に向かう。そこにある最新式ミレニアム製お掃除ロボットの電源を付けると排気音と共に明かりが付いて自動的にロボットが掃除を始めた。掃除に向かうロボット達を見送り、深夜帯の仕事でもあるエンジェル24のレジに立つ。

 ここから一気に暇になり、リクはスマホを取り出して操作し始める。そして動画サイトを見ていき、ゲーム実況のサムネイルが目についた時、ふと自身の境遇について既視感を覚えた。

 

「……この状況ってなんかホラーゲームみたい」

 

 深夜帯でアルバイトのタスクをこなしていく様はまるでホラーゲームでやっているかのようだった。今までエンジェル24で働いている時はこういう考えは無かったが、『銭湯』『コンビニ(のようなもの)』『アルバイト』『深夜』などの共通点を思い浮かべるうちに、そういう考えとなってしまったのである。

 

「なんか急に怖くなったんだけど」

 

 ソラと一緒なのが慣れていたのもあって寂しく、話そうにも話し相手も居ない。

 

(そ、ソラちゃんにモモトーク!……『最近どう? 元気?』っと)

 

 あちらも確定で業務中であるため、電話は控えたい。

 

(あ、来た! 『元気です! そちらは忙しいそうですけど大丈夫ですか?』……)

 

 スマホの通知が鳴り、ソラからの返信を見る。何故か文面が丁寧になっているのかは分からないが、文字だと丁寧になるのだろうか。

 

(『大丈夫、元気だよ! いきなりごめんね』っと……うお! びっくりした)

 

 ソラが反応してくれたお陰で少し安心するリク。しかしソラに返信して安心したのも束の間、持っていたスマホからソラからの着信が来る。

 

「も、もしもしソラちゃん?」

『リクちゃん? 良かった……』

 

 向こうから電話してくるのは想定外であり、理由をソラから聞く所によると、あの『先生』からこちらの事情について聞いていたようで、ずっと心配していたようだ。

 

「というかなんで先生が?」

『なんでって……シャーレ東通り2号店に行ったって先生が』

 

「え゛」

 

 リクは気が付かなかったようだが先生はここに来ていたらしく、変な声が出てしまった。先生から何か伝えたい事でもあったのだろうか。

 

「先生なんか言ってた?」

『い、いや特に……あ、でも"あんまり無理しないで"って』

 

 無理をしていた……とはいかないものの、大変なのは大変だった。

 

(来たなら温泉でも入ったらいいのに……あ、でも他のお客さんの前で頭撫でられるのは……)

 

 折角来たのであれば自分がアルバイトしている温泉でもと思ったリクだが、自身が想像した事に違和感を感じた。

 

(待って、なんで先生に撫でられる前提で……危ない危ない)

 

 どうやら、自分が思っているよりもシャーレ店のインパクトが強かったみたいだ。

 

「そ、そっちは大丈夫? 変な事されてない?」

『いや、いつも通り……せ、先生には撫でられるけど』

 

 リクはそれを誤魔化すように、ソラへ話題を振る。どうやら、何も変わった所()はないようだ。

 

 これ以上話しているとソラの通話料金が大変な事になりそうなので、一旦通話を切ってリクから電話を掛ける。モモトークには一応音声による文字入力はあるが、ソラのガラケーには搭載されていない。

 双方ともお客さんが来ない状況、他愛のない会話の流れでリクが連絡してきた理由についての話になった。

 

「実はモモトーク送ったのはちょっと怖くなって……」

『怖い? な、何かあったの……?』

 

 近年のホラーゲームは感情移入や臨場感のあるものが多くなっている。リクはそれに似た境遇や状況になった際に思い出してしまった事をソラへ伝えた。

 

『うーん、そういうのは見たことはないけど……幽霊なら任せて!』

「いいの!?」

 

 なんと心当たりがあるようで、ソラがアドバイスしてくれるようだ。

 

『えっと、まずは懐中電灯とかロウソクで灯りを確保して……』

 

 普段、懐中電灯やロウソクなんてものは持ち歩いていないが、幸いな事に足りない物に関しては、ここに売っている商品を買えば解決できる状況である。

 

「(ロウソク?)スマホのライトでも大丈夫?」

『……灯りなら大丈夫だけど、ロウソクあった方が幽霊に効果あるかも』

 

 ソラに言われた通りにロウソクを用意。それと灯りとして使うならライターも必要だろうと思い購入する。

 

『ロウソクの火の揺れで霊が居るかどうか分かるし、浄化の意味もあるみたい』

「なるほど……他に必要な物は?」

 

『医療キット、バール、十字架、スピリットボックス、UVライト、勾玉……』

「??????」

 

 一部聞いた事が無い物やゲームでしか見た事ない物が列挙される。一先ずは、用意できそうなバール……のようなものや医療キットを買い、十字架に関しては似たような物を作って用意する。スピリットボックスと勾玉については諦めるしかない。

 

(小さいけどUVライトはあれで代用しよう)

 

 ライトをつけると文字が見えるというあのペンで代用する。

 

『あ、あと確か、御札かな』

「御札かぁ……」

 

 流石にエンジェル24でそれは売っていない。しかし、リクはお店の端にあるコピー機を見てある事を思いついた。

 

「ネットで画像拾ってコピーでもいい?」

『こ、コピー!? それで大丈夫なのかな……』

 

 幽霊に効果があるかどうかは分からない。ただ、無くて幽霊に対処できないとなるよりも幾分、心に余裕が出来るというものだ。

 リクはスマホからコピー機へ画像データを送って印刷を始める。試し刷りで一枚印刷してみると、思ったよりも画質が粗く大きな御札が出てきた。

 

「あ、A4で印刷しちゃった」

 

 リクはスマホ側で編集して丁度いい大きさに調整し、一枚の紙に何枚かの御札を並べて印刷する。

 

「それでこれらをどうするの?」

『ゆ、幽霊が出そうな所とか出た時に対処する時に……とか?』

 

 ふと、手元にある揃えた物を見ると、明らかにおかしいのが一つ混じっている。

 

「あの……ソラちゃん? 御札とか十字架とかは分かるけど、本当にバールで幽霊に対処できるの?」

 

 よくホラーゲームで出てくる武器や道具なのは分かっている。ただ、幽霊に物理的な攻撃が効くかどうか分からない。そうリクが言うと少し戸惑った声でソラは言う。

 

『わ、私が見た事があるものならバールで対処してたけど……』

「ソラちゃん疑ってごめん」

 

 こちらが想像しているよりも、ソラは修羅場をくぐり抜けていたようだ。

 

(流石アルバイトの先輩といった所……私も頑張らないと)

 

 経験は向こうの方が上であるからして、ソラは幽霊と戦う場面を見たこともあるという事だろう。リクの頭の中で、ソラが幽霊相手にバールを振り回している場面を想像する。

 

『あ! ご、ごめん。お客さん来ちゃったからまた今度ね』

「うん! ありがとーまた今度」

 

 あちらにお客さんが来た事で通話が切れる。最近、先生の影響で生徒のお客さんが増えたという事も言っていたので生徒だろうか。

 

 

「さて……」

 

 印刷し終えた紙を持ってきて、ハサミで丁寧に切っていく。こういう作業はお店のPOPを作った事があるので慣れてはいるが、御札を切り分けるのは初めて経験だった。

 印刷した分をすべて切り終え、後は何処に貼っていくかを考える。お店に貼るとなれば景観が悪くなり、業績悪化にもつながる。かといって、貼らないとなれば安心しない自分が居る。そうなると自動的に『お客さんに見えない所』に貼るしかないだろう。

 

「見えない所……レジ内」

 

 リクはお客さんから見て、レジ内の見えない所に御札を貼り始める。丁度屈んだ所で円を描くように結界のようなものを作り、ついでにレジスターの機械の裏にA4でコピーした御札も貼っておく。

 次に、外から見て全然見えない事を確認する。そして余った御札をバールのようなものに張り付けた。

 

「おお! 除霊の武器っぽい!」

 

 御札の付いたバールのようなものを天に掲げてみると、もう『それ』にしか見えない。

 折角ならスタッフルームにも……と思ったが、貼れる御札はもう全て使い切っていた。また印刷すればいいので、スマホに残っていたデータをコピー機に再度送る。

 

 

 送信が完了した直後、事件が起こった。

 

 

「え!? 何? ……『停電』!?」

 

 突然、目をつぶって無いのにも関わらず真っ暗になる。暗闇からよく見ると、お店の灯りや作動しようとしていたコピー機が全て消えてしまっており、冷蔵のクーラー音だけが響いていた。以前にも停電が起き、冷蔵系が駄目になって損をしてしまった事があったが、今回に関しては幸いにも冷蔵庫系は予備電源がある為無事だった。

 

(良かった……予め言っておいて)

 

 このエンジェル24が建つ前に言っておいたのが功を奏した結果だが、問題は停電で営業出来ない事である。

 

(お店の前の電灯とか建物の明かりは点いているから……このお店だけかぁ)

 

 お店のブレーカーでも落ちのだろうと思い、電源室へ足を運ぼうとした所で足が止まる。この状況、どこかで見たことがある。

 

(ここっこ、これってあの!?)

 

 そう、ホラーでよくある急にブレーカーが落ちて真っ暗になる現象。そのブレーカーを上げようと行く道中で、怪奇現象や化け物に襲われるというのが定番である。

 

(こ、怖い……けど、行かなければ)

 

 リクはスマホの懐中電灯と火のついたロウソクを手に持ち、UVライトペン、十字架とバールのようなものを装備してレジから離れていく。

 

 目指すは『放送室』。一応マニュアル通り、アナウンスするために向かったのであった。

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「レジのあいつ行ったか?」

『想定通り、レジ離れたよ』

 

 一方、エンジェル24の外から監視している影がリクの様子を伝えていた。ブレーカーを落としたのは幽霊でも何でもなく、この者達のせいである。

 突発的な強盗ではなく計画的なものであり、人間の行動を利用した犯行や派手な行動をしない犯罪集団。今回は繁盛しているという今話題の『エンジェル24シャーレ東通り2号店』にターゲットを定めた。

 

 『一人で』『防犯設備も少ない』状態で経営しているというのはいいカモであり、発見されるリスクも少ない。

 

「よし、レジに向かう。位置情報頼む」

『オーケー……通常のエンジェル24のマニュアルじゃないね。浴場は警備ロボットで対象は放送室に行ったみたいだからCルートで』

 

 下見の時に予めリクに発信機を付けておき、行動を監視していた。これにより、こちらが動きやすくなると同時に予想外の行動をされても対処は容易い。

 裏口のカギをハッキングで開け、中へ侵入する。店の中は停電によって暗いが、赤外線を利用した暗視ゴーグルで暗い中でもはっきり見えていた。

 

(なんだこれ……液体?)

 

 レジから放送室に向かって、床に点々とした跡が見える。何か水でもこぼしたのだろうか。

 

<パンパカパーン♪>

「ッ! 放送か」

 

 リクが放送室でアナウンスでもかけたであろう音が聞こえてきた。

 

(客なんて居ないのに、律儀な店員なこった)

 

 こちらが人避けのために準備していたので、店内には誰も居ない。にもかかわらずアナウンスを掛けるリクに対して少し口角を上げる強盗。

 

<本日は、エンジェル24にご来店いただきありがとうございます。只今、照明の停電が発生しております。復旧するまで今しばらくお待ちください。大変ご迷惑をお掛けしまい申し訳ございません>

 

 アナウンスの内容はこの停電の事に対するものだった。

 

<繰り返します。只今……>

 

 内容を繰り返すものだと思っていたのだが、忘れたのかアナウンスが止まってしまう。だが次の瞬間、身の毛がよだつような恐怖を感じる事になる。

 

 

<……はぁ、君たち頼むから仕事増やさないでよ>

 

(なッ!!??)

 

<パーンパカパン♪>

 

 ため息の後に、こちら側へ話しかけてくるような声がスピーカーから聞こえてくる。こちらの事がバレたのは勿論のこと、集団であるという事も向こうにバレているのである。

 

「おい、今の聞こえたか?」

『聞こえているよ。でも……』

 

 もしこちらの事がバレているならば、電源室に向かわず放送室に行ったり、わざわざレジを離れて放送で挑発したりはしない。

 

『監視カメラはスタッフルームで静止画に置き換えている。しかも今すぐレジに向かう訳でもなく電源室に向かっている。これを鑑みるに……』

「……ブラフか」

 

 こちらの動きを知る手段が無いのにも関わらず、言っているという事はブラフ……つまりハッタリの可能性が高いという事だ。普通の強盗ならば慌てて撤退する所であるが、自分達は違う。

 電気が復旧する前に急いで目的のレジに向かう。

 

「……ん?」

 

 レジ裏に何か短冊のような紙が大量に貼られているのを発見した。レジの機械の裏に大きいもの、そして地面に円を描くように貼られたものがある。その大量にある紙の中から一枚剥がし、暗視ゴーグルでは見えなかったので外して確認する。

 

(なんだよこれ……御札?)

 

 随分と気味の悪いものがレジに貼ってあるもんだと思い、それを捨てた瞬間だった。

 

『ッ! レジに接近中!』

 

 なんと、仲間から連絡があり、電源が復旧していないのにも関わらずこちらに向かってきているとのこと。御札を剥した瞬間でたまたまだとは思うが、あまりにもタイミングが良すぎる。

 すぐさま店内の死角まで移動しようとするが、足元の何かを踏んで滑ってしまいコピー機が近くにある所まで転倒してしまう。その影響で暗視ゴーグルが外れて何処に行ってしまった。

 

(くっ、暗視ゴーグルが……何を踏んで、さっきの水? いや……)

 

 床にこぼれていたのは水だと思っていたが、水にしては固まっており暖かさがあった。色までは判別できないもの、可能性としては血液が……

 

(……こ、こいつはヤバいかも)

 

 そうこうしている内に対象がレジに戻って来るような音がする。レジには触れてはいないし、コピー機までは来ないと踏んで息を殺す。

 顔は見ていないものの、異様な雰囲気が漂っている。普通ならばライトの白い光が見えて良いはずなのだが、一切見えないのも、その雰囲気をさらに増幅させていた。

 

『ガチャン』

 

 突然、傍にあったコピー機が前触れもなく音を立てて作動する。

 心臓が一瞬止まるような錯覚を覚えた。音でこちらの位置がバレるのもあったが、何と言っても出てくる紙が想像以上にヤバかったのが大半だろう。

 

(なな、なんなんだよ! これ……)

 

 暗闇に目が慣れて見えてしまったのは、コピー機から出てきた大量の御札。見てしまった事に後悔し、驚きのあまり近づいて来る足音に気付くことが出来なかった。

 

(いつの間に!?)

 

 顔は真っ青ながらも赤い目がこちらを射抜いており、左手には十字架のようなものと、右手には御札が貼られたバールのようなものを持っている明らかにヤバい人物が佇んでいた。まだ銃を持っていた方がまだ安心出来る程の存在が口を開く。

 

「いらっしゃいませぇぇ!」

 

「ギャアアアアァァ!!」

 

 

 

 そこからは何も覚えていない。

 

 ただ仲間から言われたのは『もう、あそこと関わるのは止めよう』とだけであった。それ以来、まともに生きようと決めた。少しでも犯罪に手を染めるようであれば、あの『狂った奴』が襲い掛かって来る気がしてならなくなるようで……

 

「今でもあそこには近づけません……」

 

~キヴォトス某所 あるエンジェル24にて~

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「行っちゃった」

 

 プレミアムスマイルで迎えたはずが、お客さんに逃げられてしまった。

 

 停電でロウソク片手にアナウンスをしたが、どうせお客さんは居ないからと幽霊に向けて愚痴を吐き、電源室の復旧の仕方で分からない所があったのでマニュアルを取りに戻ったらこうなってしまった。

 

「良かった……幽霊かと思ったけど違った」

 

 物音が聞こえた時は心臓が止まりそうになった。お客さんが減ったという面で良くは無かったが、一先ずは安心だろう。ポケットに挿していつの間にか点灯していたブルーライトペンを消して、リクは電源室に再び向かい、マニュアルを見ながら電源を復旧させる。

 

(うわ、ロウソクの蝋が床に零れてる……後で掃除しよ)

 

 明るくなって分かったが、床にロウソクの蝋が点々と落ちていた。このままだと滑ってしまうので後片付けと掃除を始める。

 

 その際にふと、不思議な事にリクは気が付く。停電でコピー機が使えなかったのにも関わらず、復旧前に印刷が始まっていた。普通ならば予備電源も通じないはずなのだが、何故だろうか。

 

(不思議な事もあるんだね)

 

 掃除ついでにリクは、停電中にコピーされた御札を回収するのであった。

 

 

 

 

ー*ー*ー*ー

 

 

 

 

 数日後、マニュアルを見ずそれなりに業務が出来るようになったある日、このエンジェル24シャーレ東通り2号店に事件が起こった。

 

 

「ええ!? この店に爆破予告が!?」

 

 

 リクの目の前に居る、褐色銀髪ツインテールのゲヘナ風紀委員『銀鏡 イオリ』から言われた内容に衝撃を受ける。

 

『今日未明、エンジェル24シャーレ東通り2号店を爆破する。 温泉開発部』

 

 ゲヘナ風紀委員会に送られてきた爆破予告を見せてもらい、その事実を受け止めようとするが、まだ現実味を帯びていないような感覚に襲われる。今日未明という事は、次に外が明るくなる頃にはこのお店は無くなっている事になるだろう。

 

「しかも温泉開発部って、あなたと同じゲヘナ学園の!?」

 

 温泉開発部とは、以前ここにやってきてエンジェル24を倒壊させ、温泉を掘り起こした迷惑極まりない部活である。温泉開発部と目の前のイオリが同じ学校だったのもあり、思わずリクは訪ねてしまった。

 

「ぐっ……あの『規則違反者』と一緒にするな!」

「は、はひぃ!」

(ひ、『人喰い反社』!?)

 

 テロリストと同じ扱いをされて怒るイオリと、聞き間違いで戦々恐々とするリク。

 

「い、一体どうしてここを爆破しようと……」

 

 身に覚えがないというか、あれ事件以来、温泉開発部と関わった事もなければ見たこともない。何か知らない所で恨みを買ってるならば分からないが、それはそれである謎が新たに浮かんでくる。

 

(何でこのエンジェル24シャーレ東通り2号店に予告を送らないで、ゲヘナ風紀委員に予告が行くんだろう)

 

 爆破予告ならば、敵対?している組織ではなく、爆破する場所に送るのではないだろうか。

 

(……間違えた?)

 

 意外とおっちょこちょいな所がある部活なのだろうと、リクは深く考えようとしなかった。

 取り敢えず、マニュアル通りに上に連絡して爆破予告に対する業務停止の報告をしなくてはならない。リクはスタッフルームの受話器を取って本部へ連絡する。

 

『はい、こちらエンジェル24本部』

「あ、わ、私エンジェル24シャーレ東通り2号店のリクです。ほ、本日爆破予告されたので業務停止します!」

 

『シャーレ東通り2号店ですね。了解しま……ば、爆破予告!?』

 

 

 そこからは早かった。

 本部で緊急会議、ヴァルキューレ警察学校とゲヘナ風紀委員会との連携、周辺住民への避難勧告、お客さんへの説明と流れるように過ぎていく。

 エンジェル24の周りにはゲヘナ風紀委員が厳戒態勢で警備しており、ヴァルキューレが爆発物の捜索を行っている。当然、営業停止しているため、リクはというと……

 

(や、やる事ない……)

 

 お客さんへの説明、事情聴取と情報提供をしたリクは、置物みたいにその場に突っ立っていた。周りが忙しそうにしていると、自分も何かしないといけないような気がして落ち着かない。ずっとアルバイトしていたリクにとっては、尚更その気持ちが強くなっていた。

 何か出来る事といえば、何か怪しい所を見逃していないかここ数日間を思い出してみるしかない。

 

(怪しい人物居たようには見えなかったけど)

 

 アルバイトをやっていると、お客さんの動きで何をしようとしているのか大体分かる。しかし、来客の数が多いと一人ひとり見る暇もない。

 以前に停電があった事が一番の出来事であったが、点検に行った時に何もおかしな所は無かった。しいて言えば、掃除の時に変なシミがあったくらいである。

 

「掃除……?」

 

 そういえば、三日前にバルブの掃除をした時に、お客さんが間違えて入って来たことがあった。そのお客さんの顔はハッキリとは見えず、ヘルメットを被っていた。バルブのあるスタッフルームはオートロックの暗証番号式であり、どうやって入ったかは分からないので不思議に思った事がある。

 

(その時は開けっ放しにしていたものだろうと思ってたけど……)

 

 一応、そこはヴァルキューレの捜索が済んでいるので、リクならば自由に出入りできる。もしかしたら、とリクは一人でバルブのある所へ向かった。

 少し暗い所なので、念のため例のバールのようなものを装備しておく。

 

(……! 物音!?)

 

 ドアの目の前に来た時に、中から誰かが居るような物音がする。リクは自身のサブマシンガンを握りしめ、ロック解除をして、音を立てずに中に入る。

 

「ッ!? ……お? 来たようだ」

「!?」

 

 静かにしていたのにも関わらず、リクの存在はバレていたようで物音の正体から話しかけられた。

 

「あ、あなたは……お、温泉開発部の……」

「覚えてくれて光栄だな! おっと、自己紹介はまだだったな……私は『鬼怒川 カスミ』だ。よろしく!」

 

 あの爆破予告をした部活が目の前に居る。よろしくはされたくないのはさておき、どうやってここに侵入出来たのだろうか。

 

「ん? 『どうやって入ったのか』って顔してるな? それはだな……これだ」

 

 リクの表情を見て、カスミは近くの床を指さす。そこには人が通れるような穴と、それを隠すような床の材質にカモフラージュされた蓋がある。地下から穴を掘ってこちらに侵入してきたという事だろう。

 

(は、早くみんなに……)

 

「おっと、動かないでくれよ? お嬢ちゃんには協力して貰わないと」

「きょ、協力……?」

 

 リクはこのことを報告しようと後退するが、それを見逃さないカスミ。その口から『協力』という言葉が出てきた時、リクはその言葉に反応してしまった。

 

「実はあの爆破予告、『私が』送ったわけではないんだ」

 

 どういう意味か分からない。確かあの予告文には温泉開発部の名前があったはず。

 

「じゃあ一体誰が……」

 

「私が思うに、あの風紀委員会がでっち上げたものだ」

 

 カスミが言うにはこうだ。

 温泉開発部が掘った温泉で一儲けできると、テロによってお金が生まれる事になる。それが積み重なると、ゲヘナ風紀委員会が温泉開発部を止めるという行為が、金のなる木を伐採している行為になりえない。それでは面白くないと、印象を悪くする為にゲヘナ風紀委員会がでっち上げたとのこと。

 

 シャーレ東通り2号店に予告状を送らなかったのは証拠が残らない為であり、風紀委員会内部だけならば証拠隠滅も容易い。

 

「そして、あの風紀委員会はついでにここを爆破しようとしてるという訳だ!」

「なっ!」

 

 罪を温泉開発部に着せ、さらにはここを爆破しようとしている事に衝撃を受けるリク。

 

「風紀委員会と対峙するために協力してくれるなら、このヘルメットを受け取るといい」

 

 そう言ってカスミはリクに温泉開発部のヘルメットを渡し、リクはそれを受け取って頭に深く被る。

 

(お店を守る為にも協力しないと……!)

 

 温泉開発部も悪い事をしているが、今はお店を守る為に動かなければいけない。予告状は温泉開発部が送ったものだと思った事に少し反省する。

 

「あなた達が間違えて送った訳では無かったんですね」

「え……ああ! そうとも」

 

 ただ、一つリクが言いたい事があった。

 

「でも、流石にお店の床に穴を開けるのは止めてください」

「善処するぞ!」

 

 全く聞く気のないカスミに頭を抱えるリク。

 

「そういえば、何を手伝えばいいですか?」

 

 手伝うにしろ、風紀委員と戦闘するのは厳しい。自分でも思うが、銃の扱いはそれなりではあるものの、戦闘能力は低い部類に入っている。トリニティの正義実現委員会に入って、経験を積もうとは思っていた程である。

 

「もちろん、『前線』に出てもらうぞ!」

 

 

「え゛……エエエエエエ!!??」

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「一体、何が目的でここを爆破しようと……」

 

 一方、ゲヘナ風紀委員会の一人である『火宮 チナツ』は、温泉開発部が爆破予告をこちらに送ってきた理由について考えていた。普段ならば予告なしに爆破や破壊をしてくる筈なのだが、これではまるで『ゲヘナ風紀委員会への挑戦状』のように思えてくる。

 

「あのテロリスト共は最初から何考えているか分からないから、どっちみち見つけた瞬間に捕まえればいい」

 

 イオリはチナツに向かって深く考えないように促す。

 

 

 この会話から分かるように、温泉開発部に罪を着せようなんて考えてはいなかった。カスミの継ぎ接ぎしたような陰謀論的な話術に、リクは騙されてしまった。

 予告状も温泉開発部が送ったものであると同時に、ここを爆破しようとしているのも温泉開発部である。

 

「ほ、報告します! エンジェル24の中から温泉開発部が!」

 

 イオリとチナツの元に報告が届く。どこから侵入したか分からないが、いよいよ動き出したという事だろう。

 

「行くぞ!」

 

 二人が急いで店の入り口へと向かうとそこには、温泉開発部と思われる部員達とメグ、後方にカスミが自分の領地だと言わんばかりに陣取っていた。

 

「またお前らか! 温泉開発部!」

 

 すかさずイオリがカスミ達に向かって、呆れと怒りが籠った言葉を放つ。だが、それを何食わぬ顔でカスミは受け流し、前方に居るリクを一瞬見て自らの懐に手を入れる。

 

「イオリ、何かおかしいです」

 

 これまでの温泉開発部の動きとカスミの行動に異変を感じ取ったチナツ。

 イオリに声を掛けた、その瞬間……

 

 

ドオオオオオオオオオン!!!!!

 

 

 温泉開発部の後ろにあったエンジェル24が、爆発によって跡形もなく消え去ってしまった。カスミはそれを確認し、ゲヘナ風紀委員会が反応する前に間髪入れず、この場の全員に聞こえるこように拡声器を使用した。

 

『な、なんて事をするんだゲヘナ風紀委員!』

 

「なっ!!」

 

 明らかに温泉開発部の仕業だと分かるような嘘だという事は、この場に居る関係者ならば分かるはずである。何か目的があるのは間違いないのだが、この場に、その目的が分かる者は当事者であるカスミにしか知りえなかった。

 

『これでは、【アルバイト】もままならないのではないか!?』

 

「さっきから何を……?」

 

 下手な芝居を見せつけられて、困惑する面々。その困惑に隠れて一人の異変に気が付くことは無かった。

 

「構わず行くぞ!」

 

 チナツの戸惑いとカスミの芝居をもろともせず、温泉開発部に向かっていくイオリ。リーダー格であるカスミに向かって銃を向けて発砲する。狙いは正確であり、そのまま行けば当たるのだが、その弾道を阻む影が前に躍り出て銃弾を弾いた。

 

「チッ……なんだお前は!」

 

 温泉開発部のヘルメットを被っているが、他の部員と服装が違う。黒髪で目元は隠れてヘルメットを被っているせいか顔はハッキリ分からない。只ならぬ雰囲気を纏っている人物が風紀委員と対峙する。

 

 

「私アルバイトォォォォォ!!!!!」

 

 

 その大声が戦闘開始の合図となり、温泉開発部とゲヘナ風紀委員双方は衝突した。

 

 自己紹介は済ませたと言わんばかりに、謎のアルバイトが発砲したイオリにサブマシンガンで攻撃を仕掛けていく。イオリは銃弾を避けて、近くの遮蔽を使って相手のリロードまでやり過ごす。

 相手は双方の銃弾の雨を躱しながら、こちらに一直線に向かって来ているように見えた。

 

(いや、あいつ……当たってる?)

 

 躱しているように見えたが、所々当たっているように見える。今思い返せば、カスミに放った銃弾を弾いたときに自身の体を盾にしていた。

 

(このまま近づかれても厄介……)

 

 イオリの銃はスコープの無いボルトアクション式のスナイパーライフルである。近接戦もできるイオリだが、銃の連射速度と取り回しの良さ、さらにあの耐久力は分が悪い。そして今、あのアルバイターに迫撃砲に当たったが、勢いが落ちる事もない。

 

(その耐久もいつまで持つか)

 

 幸いなことに、こちらの攻撃でイオリの事を見失っているようにも見えた。

 

 イオリは距離を保ちつつ、銃弾を見極め確実にアルバイトと温泉開発部の部員に命中させていく。それと同時に向こうもサブマシンガンで道中の風紀委員に命中させていく。それでも怯む様子はなく、イオリを発見してこっちに向かってきていた。

 

「くっ……いつ倒れるんだあいつ」

 

 そうこうしているうちに、こちらの戦力は着々と削られている。

 

「イオリ!」

「分かってる!」

 

 温泉開発部のあいつをやらない限りは戦況が覆る事はないようだ。

 イオリは前に躍り出て、アルバイターと対峙する。

 

「私アルバイトォォォォ!!!!」

「ふっ!」

 

 近接戦はイオリに軍配が上がり、銃のストックと蹴りを駆使したことにより、相手の手からサブマシンガンが離れる。

 

「終わりだ!」

 

 銃を突き付けて至近距離から撃とうとするが、発射口に重みと違和感を感じた。その違和感の正体はすぐに理解することになる。

 

(いつの間に!?)

 

 イオリの視界に映ったのは、自らの銃の先にくくり付けられた『閃光手榴弾』だった。瞬時に視界を確保するため、銃を振り回して閃光手榴弾を遠くに飛ばそうとするが、『あるもの』がイオリの動きを止めた。

 

(バール?)

 

 沢山の紙が貼ってある不気味なバールのようなものを銃に引っ掛けて、それを防いでいた。引きはがそうとするが、そんな時間は残されてはいなかった。

 

「お、お前もこれに巻き込まれるんだぞ!」

「私アルバイトォォォォ!!!!」

 

 閃光手榴弾に巻き込まれるのは承知の上だと言わんばかりに、止めようようとしないアルバイトを名乗る人物。

 

「ぐあっ……」

 

 目を瞑っても、音と光は貫通してしまう。その音を聞いたチナツが、ハンドガンで追撃を阻止するために撃つがびくともしない。その間にイオリはバールによって戦闘不能となる。

 

「ハーッハッハッハッ! いいぞ!」

 

 戦力が削れたことにより調子づくカスミ。ただ、彼女の目的はこれではなかった。

 そして、次の標的になったのはハンドガンでアルバイターを撃っていたチナツであった。

 

「こちらに向かってきましたか……!」

 

 戦闘は心得てはいるものの、救護担当である彼女はあまり誰かを撃つような事はあまりないため、撤退が最優先だった。しかし、自身の後方には負傷した他風紀委員が居るのもあり、後に引くことはできない。

 

 その時だった

 

 

「随分と好き勝手してくれてるわね」

 

 

 特徴的なマシンガンの音と共に、アルバイターはその銃弾の勢いに圧倒されて後退し、風紀委員会の委員長で別件での仕事を終わらせた『空崎 ヒナ』が現場に到着する。

 

「ヒイィ」

 

 どこかで情けない声が聞こえたのは気のせいだろう。

 

「直ちに負傷者の撤退を」

「は、はい!」

 

 チナツに指示を出したヒナは、銃弾を浴びせた相手と対峙する。

 

「さて……色々と聞きたい事はあるけど取り敢えず……ッ!」

「私アルバイトォォォ!!!」

 

 相手の奇襲に大体の状況を把握するヒナ。

 

(なるほど。いつもより連中が息巻いているのはこの存在ね)

 

 風紀委員会が押されている状況。さらには温泉開発部の士気が高いのもあり、これ以上調子づかせない為にも終わらせないといけない。

 ヒナは相手に蹴りをかまして、自身の銃であるマシンガンを発射する。銃弾によって距離を開ける事は出来たが、現場は土埃によって視界が悪く、コンディションはあまり良くない。

 

「私アルバイトォォ!!」

「甘い」

 

 予備動作と銃口の向きから動きと弾道を読んで着々と相手の体力を奪っていくヒナ。飛び交う銃弾や激しい銃撃によりさらに視界は悪くなると同時に、相手は後退して姿が見えなくなってしまった。

 

ビュン

 

 その土埃からヒナに向かって『黒い何か』が高速で飛来してきた。

 蓋のようで型は平べったく、円形。勢いから軽いものではなく、重い物だと予想できる。

 

(『蓋』……まさか)

 

 ヒナは予想しながら軽々とそれを撃ち抜いて、前方から重く鈍い金属音が響く。それを合図に複数の同じような物が様々な方向からヒナに向かっていた。

 

(『マンホール』……)

 

 飛来物の正体は下水に繋がる出入口を蓋するためのマンホールであった。おそらく、持っていたバールのようなもので蓋を開けてこちらに投げてきたのであろう。だが、攻撃が目的なのであれば銃で十分であり、わざわざ重い物を投げてくるのは非効率的で、ましてやヒナ相手に通じるとは思えない。

 一つ一つ撃ち落として無効化すると同時に、妙な感覚を覚える。

 

(気配が消えた……?)

 

 どういう訳か、相手の気配を感じ取れない。それと同時に全方位から来ていたマンホールも鳴りを潜めていた。

 

「ッ!!」

 

 今度はランダムな所からヒナに向けた銃弾が飛んでくる。一瞬、他の温泉開発部の部員が撃ったものかと思ったものの、飛んでくる銃弾を見るとあのアルバイターの弾丸であった。

 

「地下を行き来してるって事ね」

 

 視界が悪い中でも銃弾を弾いたり避けているヒナも十分おかしいが、高速で地下を移動しているアルバイターも十分バケモノである。

 

(近接もできてタフ、風紀委員会にスカウトしたいくらいだけど……!)

「まだまだ」

 

「私アルバぃ!?」

 

 ヒナはマシンガンを高速で撃ち出し、ビームのように周辺を薙ぎ払う。相手が頭を出すのと撃ちだす瞬間をタイミング良く狙って当ててきた。

 威力の籠った銃弾は相手にクリティカルヒットし、初めて怯んだ姿を見せた。それを見逃さないヒナは近づいて完全に拘束する。

 

「……あなたどうして温泉開発部に?」

 

 普段は歯向かって来る者に話す事は無い。しかし、これだけの実力があってアルバイトならば裏で名の知れた者なのではないだろうか。ヒナは、そのような者が温泉開発部に協力するのには理由があるのか気になったのである。

 

「『あのお店を爆破してまで』する理由でも?」

「!!」

 

 アルバイターはヒナの言葉に反応したのか、懐の閃光手榴弾を手で握ったまま発動する。そのまま音と光に紛れて拘束を解き、姿をくらます。

 

 

「……やっぱり慣れない事はするものじゃない」

 

 逃がした事に後悔しつつも、不思議と悔しいという思いは無かった。

 

「また何処かで出会いそうね」

 

 いつの間にか温泉開発部のカスミも姿を消していたため、この後の事後処理の事を考えると、ため息が止まらないヒナであった。

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「ふぅ、ここまで来ればいいか」

 

 カスミと温泉開発部はリクが敗れた事によって撤退していた。当初の目的である『お店を爆破する』事は済み、リクを使ってヒナを足止めするのも達成できた。

 

「あわよくばそのまま倒しても良かったのだが……」

 

 ヒナとリク、戦っていた双方とも思い出すだけで恐怖が込みあがっていくカスミ。そのまま順調に撤退して帰路につくはずだったのだが……

 

「ぶ、部長、前にヤ、ヤツが……」

「ん? ……ヒィ!」

 

 カスミ達の目の前にいつの間にかリクが居た。

 

「……」

「や、やあ! 君も逃げたのか?」

 

 カスミの言葉に何も反応しないリク。その異様な雰囲気はまるで『あの時』と『さっき』のようだった。嫌な予感がするカスミは正面を向きながら後退りを始める。

 

「ま、まあ待て。話せば分かるはずだ!」

 

 リクはカスミを追い詰めるかのよう距離を一定に保って近づく。勿論、温泉開発部の部員が黙って見ているはずも無いのだが、その気迫は周囲の者を寄せ付けなかった。

 

「何をそんなに怒っている? 先に逃げたからか? それとも……」

「わ、私達がお店を爆破したから?」

 

「……!」

 

 温泉開発部であるメグの発言にこの場が凍りつく。

 そして、カスミの顔が青ざめると共に大声が響き渡った。

 

 

「私アルバイトォ!」

 

 

 

 まもなく、温泉開発部は駆け付けた風紀委員会に連行された。その際に何故か全員戦闘不能状態となっていたが、詳細は分からないようだ。

 

 

 

 

ー*ー*ー*ー

 

 

 

 

「……」

「り、リクちゃん、大丈夫?」

 

 そうしてエンジェル24シャーレ店にまたお世話になることになったリク。身に覚えのない怪我と疲労困憊で、ソラに心配されていた。

 

「だ、大丈夫!」

 

 お店は爆破され、動くと体中の節々に痛みが走っているように見える姿は、どう見ても大丈夫そうではない。そのような姿にソラは事情を聞けずに、周りのお客さんもその姿を見て気を遣うように商品を購入していた。

 

「"リク! 大丈夫!?"」

 

 ここの常連(というか一緒のビルで働いている)である先生も、リクの事を聞いてエンジェル24へ駆けつける。ある程度の事情をヒナから『爆発に巻き込まれた』と聞いていたらしい。

 

「先生まで、うぅ……面目ないです」

 

 爆破されてから記憶は無いのだが、それ以前の爆破予告から爆破されるまでの経緯を、協力しようとした事を伏せて先生とソラに話す。後でヴァルキューレに聞いたのだが、あの爆破は風紀委員会ではなく、温泉開発部の仕業だったとのこと。

 

(あのまま戦ったとしたら危なかった……)

 

 自身も連行される可能性があり、ヴァルキューレや風紀委員会にはバレていないようで安心したリク。

 

「そ、そんな事が……」

「"取り敢えず無事で良かった"」

 

 先生はそう言って手を伸ばし、こちらの頭を撫でる。

 

(こ、これが大人の、先生の……)

 

 いつもならば不服ながら撫でられていたが、今は不思議と悪い気はしなかった。

 

(このままいてもいいかも……)

 

 安心感に包まれたのも束の間、エンジェル24の入り口が開いて誰かが入店してきた。ソラとリクはそのお客さんに反応して挨拶をし、先生は知り合いなのか、その人物に話しかけていた。

 

「"やあアコ"」

「あら先生、ここに居たのですね」

 

 それだけであれば普通の会話なのだが、ソラとリクの二人は固まっていた。

 

「"最近はどう?"」

「ヒナ委員長は相変わらず愛おしいですが、最近の温泉開発部との戦闘で……」

 

 先生が話していた相手はどうやらゲヘナ風紀委員会の関係者らしい。ただ、『その服装』に度肝を抜かれた二人は、未だ硬直状態であった。手には手錠、首にはカウベルと首輪、極めつけはあの服装という何とも言えない恰好をしていたのである。

 

「本日は私が当番ですから、よろしくお願いしますね」

「"よろしく! 今から行くよ"」

 

 アコと呼ばれた生徒とこちらに手を振る先生が一緒に店を出る。しばらく静寂だったのだが、耐えきれなかったであろうソラが口を開く。

 

「ね、ねぇリクちゃんあれって……」

「うん……」

 

 

 

 

「「怪しい!!」」

 

 あの安心感を返して欲しいと願うリクであった。

 

 

 

 

 









いかがだったでしょうか。
忙しくてなかなか時間が取れない状況で、合間に書くことができました!皆様のおかげです。

続くかどうかは反響があれば……
それでは
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