私アルバイトォォ!!   作:第三のケモナー

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お久しぶりです、お待たせしました!
今回は長くなって前後半で分けてます。

それでは


6話前半

 

 

 

 

 

「今日は平和だね」

 

 ある朝のエンジェル24シャーレ店。いつもと比べて、生徒のお客さんが居ない事を平和だとつぶやくリク。

 

「うん、でも思っても言わない方がいいよリクちゃん……」

 

ある種のお決まりなフラグを立てつつ、ここ数日の出来事を思い出してみる。それと比べて、今日は平和そのものであった。

 

「ここ襲撃されたり、銃撃戦あったり、変なお客さんも来ないからつい」

「ま、まあそうなんだけど……」

 

 詳細は細かく覚えていないが、凄く大変だった事だけは覚えている。

 廃棄弁当を回収してくれる人達がもう少しで来る時間に、ちょうど自動ドアが開いて誰かが入ってくる。

 

「「いらっしゃいませー!」」

 

 入店のチャイムが鳴って二人はいつも通り挨拶をする。この時間だとシャーレ当番の生徒か、さっき言っていた人達だろうと思ったが、入ってくる影は生徒とは違う姿であった。

 

「せ、先生!?」

 

 なんと先生が困った様子でこちらに向かってくる。そして、開口一番……

 

「"ソラ! リク! 緊急招集お願い出来る?"」

 

「「き、緊急招集?」」

 

 いきなりの先生の登場にびっくりし、先生から緊急招集と言われて混乱する二人。

 

「"私の所に頼み事が来て……ソラとリクに協力してほしいのだけど"」

 

 先生が申し訳なさそうにしながら二人にお願いをする。以前シャーレ襲撃時に、先生によって助けられているのもあって、先生には頭が上がらない状況である。そんな顔をされると断りづらい二人は、まずその頼み事の詳細を聞くためにソラの口が開く。

 

「せ、先生。緊急というのはどういった……?」

「"それが……"」

 

 

 

 

ーー

 

 シャーレオフィスで仕事をする先生の元に、一通の通知が届いた事から始まる。

 

『"ん? エンジェル24のアルバイトの生徒から?"』

 

 迷わず通知を開いて中身を確認する。シャーレの先生として、生徒の相談事には積極的に対応していきたい。

 

 

【シャーレの先生へ

 私は、キヴォトスセントラル店で働いている者です。そのセントラル店で今、大変な事が起こっています。

 最初は店長が怪我で長期の休みを取った所から始まりました。そこから副店長とバイトリーダー、他のバイトが辞めてしまい、私だけではどうにもならない状況です。

 本部に連絡をしましたが、調整中とのことでどうしていいか分かりません。助けてくれませんか!?】

 

 

 キヴォトスセントラル店というと、前にミレニアムサイエンススクールゲーム部の『花岡ユズ』がアルバイトをした場所で、そのユズに自身が紹介した場所でもある。

 この文章を見る限り、かなり追い詰められているのだろうか。そういう事なら臨時休業なり早く対応したい所なのだが、ある部分が先生の中で引っかかる。

 

『"ほとんどの人が辞めるなんて、一体何が……"』

 

 ひとまずエンジェル24本部への連絡をしてみたが……『シャーレの先生がやって下さるのならありがたい!』と、半ば押し付けられる形となってしまった。

 

『"となれば、人員の確保だけど……"』

 

 アルバイトといえば、『黒見セリカ』『花岡ユズ』『RABBIT小隊』『乙花スミレ』『牛牧ジュリ』『錠前サオリ』『便利屋68』など思い浮かぶが、彼女らも予定があるだろう。

 

("セリカは紫関ラーメンでアルバイト中、RABBIT小隊はこちらが頼んだ依頼で行けない、スミレはトレーニング部兼野球部のレイとトレーニング中、ジュリは給食部で忙しい……")

 

 便利屋68も考えたが、彼女らのセオリー的にもコンビニアルバイトは断るだろう。残るはユズとサオリだが、あの二人だけだと人数が足りるか心配になってしまう。

 

『"うーん……アルバイト経験あって、エンジェル24の事をよく知っている生徒……ん?"』

 

 浮かんできたのは、エンジェル24シャーレ店で働くリクとソラの姿。

 

『"いやいや、あの子達はここで頑張ってるんだから"』

 

 思い浮かんだ二人の姿を振り払うように首を振る。

 頭を悩ませていると、端末から着信音が鳴る。表示を見ると、先ほど連絡したエンジェル24の本部だった。

 

『"はい、シャーレです"』

『あ! 先ほどはどうも、今時間はよろしいですか?』

 

 端末を取って通話状態にすると、先ほどの本部の人の声が聞こえる。

 

『"何かありました?"』

『いやー、こちらから連絡したのは本部の意向が固まったからでして……』

 

 どうやら、向こうで話し合いで決まった事があるらしい。

 

『今シャーレ店に居る二人が居るでしょう? あの二人を行かせよう、という事になりまして』

『"はい……え?"』

 

『あそこは本部にとっても重要な拠点ですから、休業する訳にはいかないのです』

 

 行かせようというのは分かるが、あの二人が居なくなったシャーレ店はどうするのだろう。

 

『緊急招集という形になりますので、その間シャーレ店は臨時休業になりますが……』

 

 キヴォトスセントラル店ではなく、シャーレ店を臨時休業にし、向こうへ一時的に二人を異動させようという訳らしい。だが……

 

『"えっと、少し気になるのですが、何故あの二人を?"』

『あの二人はどちらも優秀で即戦力もあり、なにより先生と顔見知りであるならと思いまして』

 

 確かに、ソラとリクは即戦力になり得るだろう。知り合いならば話も早いし、向こうにとっても大人が居る事で安心できる。

 しかし、生徒の事を決めるのは生徒自身であり、自分はその自主性を大切にしたい。大人が生徒を無視して利用するような事は防がなければならないからだ。

 

『"……一旦、本人達に話してからでも? もし断ったらそれまででお願いします"』

『え……ええ! もちろんですとも』

 

 受け入れるかどうかは分からない。もし、本人達がしたくないのであれば『何とか』しよう。

 

 

『ああ! それと一応、緊急招集なので、給料の手当てとか沢山付きますよ』

 

 

 

 

ーー

 

「「行きます!!!」」

 

「"……"」

 

 先生が少し拍子抜けしたような表情をしているが、関係ないとばかりにソラとリクは緊急招集に応じる意向を固めた。

 

「"ふ、二人とも、もう少し悩むのかと……"」

 

「だって、欲しいの買えるし!」

「こ、これがあれば、新しい携帯を……」

 

 給料手当が付くと聞いて黙ってはいない二人。リクは欲しい物を買え、ソラは携帯を新しく出来るかもしれないのだ。

 

「"ま、まあいいか。分かった、本部に伝えとくね"」

「「ありがとうございます!」」

 

 盛り上がる二人をどこか微笑ましい目で見ながら、本部へ連絡を入れる先生。ただ、あの通知にあった違和感を拭う事は出来ず、警戒を強めるのであった。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 キヴォトスの中央のエンジェル24、『エンジェル24キヴォトスセントラル店』。キヴォトスの中央にあるだけあって、シャーレ周辺よりも賑わいもあり、沢山のお店が集まっている場所でもある。

 ここの地域でのエンジェル24の主な役割としては、周りのお店の従業員が利用するのは勿論のこと、街へ来る若者の重要な銃弾・火器補給場所にもなっている。

 

「やっぱり人多いね」

「う、うん」

 

 一足先に先生との待ち合わせ場所に着いたソラとリク。リクはシャーレ周辺と比べて人通りの多さに思わず独り言をつぶやいたが、いつもならば他人に聞こえそうなつぶやきも、人の流れに消えていくように溶け込んでいった。

 

(人多すぎて、人酔いしそうだけど……そんな事より)

 

 リクは隣のソラをチラッと見た。

 

「私、ソラちゃんの私服初めて見たかも。かわいいし」

 

 エンジェル24の制服姿を見ているせいか、青を基調としたワンピースはとても似合っている。また、普段は店内では見たことのない帽子を被っている事で、新鮮さも兼ね備えていた。ソラはおでこを隠すように帽子を傾けて恥ずかしそうにリクの方を見る。

 

「リクちゃんこそ似合ってていいよ!」

 

 リクは白のゆったりとしたカジュアルシャツに暗めのジーンズを穿いており、黒髪と紅眼、黒い羽根といった彼女の特徴が協調されていた。

 

「ソラちゃん帽子持ってたんだ」

「え? ま、まあ……確かリクちゃんも持ってたよね」

 

 以前リクは、先生を電流に陥れるために改造した帽子を被ったことがある。

 

「んえ!? あ、あれは今あるけど、もう身に着けないかな……」

「??」

 

 リクの言葉に違和感と疑問を持ちつつ、先生が来るのを待つ二人。

 すると、見知ったいつもの服装の先生とその隣に知らない生徒がこちらに向かってくるのが見えた。

 

「"待たせちゃってごめん、二人とも早いね"」

「ちょっと前に来たばっかりですから……えっと、そちらが?」

 

 前もって先生が言っていた、助っ人として呼んだ生徒だろう。藍色の髪と少し目つきが悪い印象を受ける。黒い帽子を被っており、ソラやリクよりも身長が高く、只ならぬ雰囲気を纏っていた。

 

「ヘルプでアルバイトの手伝いに来た、『サオリ』だ。よろしく頼む」

「ど、どうも初めましてリクです。……えっと、隣はソラちゃんです」

「ああ」

 

(だ、大丈夫かな……)

 

 基本的に人見知りなソラは、サオリと出会って完全に守りモードだ。

 

「あのー、もう一人来るって話聞いたんですけど」

 

 聞いた話だと、もう一人来るとのことだったのだが、先生とサオリ以外の生徒は見つからない。先生は端末を取り出し、モモトークを開いて確認する。

 

「"えーと、多分もうお店に居るんじゃないかな"」

「早い……!」

 

 多分という言葉が引っかかるものの、やる気や取り組みの本気度は、ここに居る誰よりも高いという事だろうとリクは思った。

 集まった4人はエンジェル24キヴォトスセントラル店に向けて一緒に歩き始める。

 

「えっと、サオリ先輩?」

「ッ! ……なんだ?」

「サオリ先輩はどのようなアルバイトをしてきたんですか?」

 

 歩く途中、リクがサオリの事が気になって話しかける。予め、サオリがアルバイト経験があることを先生から伝えられていたリクは、高校に上がった際のアルバイトの参考にしようと質問を投げかけた。

 何故かサオリがリクから目を逸らすのが気になるが……

 

「どのような、か……色々やってるからな。最近だと『戦闘』を任されたくらいか?」

「『銭湯』!? 実は私もなんですよ!」

「……!」

 

 サオリはリクの方向を見てじっくり観察する。自身よりも年下で、アルバイトで戦闘経験があるとは思わなかったようで、驚いている様子だった。

 

「一人でなんとかできましたけど、大人数捌くのは大変でした」

「一人でだと……」

 

「そうなんですよ! 一度に団体で20人程対応したことがあって……まあ、最終的にそのアルバイト先爆破されたんですけど」

「……!」

 

(やはり、全てはただ虚しい……)

 

 ブラックマーケットではクライアント先が油断して襲撃されるのはよくある事である。だが、そんな事よりも一人で大人数相手取ることに驚きを隠せない。ヘルメット団は勿論のこと、相手が小隊レベルであっても集団で作戦を行った方が有利なのにかかわらずなのにだ。

 

 サオリは数々のアルバイトで騙されてきた。元々の性格も相まって悲観的となり、自身とリクの姿を重ねてしまう。

 リクの表情を見て、十分に報酬を得られず、相当クライアントに酷使されてきたのだろうとサオリは思った。ただ、その後にリクはサオリの方を見て表情を明るくさせる。

 

「あ! でも、それがあったからこそ、ソラちゃんと仕事出来ているから全然大丈夫です」

 

(! ああ、そうか……もしかすると)

 

 爆破によって何もかも失ってしまったリクだったが、ソラとエンジェル24という居場所を見つけた。過去を乗り越えたリクの姿は、サオリにとって少し眩しく見えた気がした。

 

 サオリはこの言葉を聞いて、自身の探している答えのヒントになっているのではないかと感じた。

 

「お前……いやリク、今日はよろしく頼む」

「え? よ、よろしくお願いします、サオリ先輩」

 

「ソラ、よろしく頼む」

「んぇ!? ……よ、よろしくお願いします?」

 

 サオリはリクと右手で握手した後、ソラの所へ行き、リクと同じく挨拶と握手を交わす。そして、先生の所へと向かって行くのであった。

 

「ね、ねえリクちゃん。あの人……サオリさんに何言ってたの?」

「い、いや……普通にアルバイトの話をしてただけだけど」

 

 二人は後ろでサオリの行動について話をしているが、真実はサオリにしか知りえない。だが、悪意はなく良好な関係を築けたようで、ソラとリクは安心したのであった。

 

 

「"着いたよ"」

 

 シャーレ店とは違ってビルの中にあるのではなく、建物自体がエンジェル24だった。しかし、外から見ていてもお客さんはおらず、閉店しているような雰囲気を醸し出していた。

 

「今開店してるんですか?」

「"……してるみたい"」

 

 あっという間にキヴォトスセントラル店に着いた一行は、心配しながら店内へと入っていった。一応自動ドアが開いたので、開店はしているらしい。

 

「これは……」

 

 リクは周りを見渡して、思わず言葉が漏れる。

 店内は想像以上に手が回っていない状態だった。

 

 店内の掃除は行き渡っているように見えるものの、トイレやお店の端に掃除用具が散らかっている。レジで忙しかったのか、陳列が済んでいない商品と陳列がバラバラで整っておらず、上の蛍光灯も交換されていなかった。一人に対してお客さんの人数が多くて対応出来ず、そのままになっていたのだろうと想像する。

 

「い、いらっしゃいませ……あ」

 

 先生に連絡を入れたアルバイトの生徒が、レジを出て4人を出迎える。

 

 出迎えると言っても、お客さんと勘違いしていた様子だが……

 

「"初めまして、シャーレの先生です"」

「は、初めまして……私は……ぅ……」

 

 少し様子がおかしいと思ったのも束の間、アルバイトの生徒はその場に倒れそうになる。

 

「"おっと!"」

「「「!!!!」」」

 

 いきなりの出来事で一同驚いてしまったが、一番近くに居た先生が支えた事で地面にぶつかる事は無かった。

 

「す、すみません……」

「"……よく頑張ったね。後は私達に任せてゆっくり休んで"」

 

 先生はそう言うと、肩を貸してアルバイトの生徒と共にスタッフルームへと向かう。それを見たソラはすかさず、持ってきていたペットボトルの水を取り出して、一緒に付き添う形で向かった。

 

 

「「……」」

 

 大人数行ったとて、かえって迷惑になると判断し残ったリクとサオリ。しかし、彼女らには彼女らの仕事がある。

 ここは一先ず、一時的に店を閉めるしかないだろうと張り紙を貼り、リクは店内をもう一度見渡して確認した後、サオリに言った。

 

「……サオリ先輩、レジの経験ってあります?」

「ああ、店番だな。あるぞ」

 

 お客さんは来ないが、お店をそのままにしておく訳には行かない。サオリはリクの考えている事を察知したのか、レジに向かう。

 

「お願いしても良いですか?」

「任せろ」

 

 リクはサオリにレジを任せ、店内を見ながら業務の段取りを考える。

 

(まずは掃除、棚だし、在庫確認かな? ソラちゃんにレジのお金の確認は後でやって貰う事にして……ん?)

 

 トイレの掃除用具が外に出しっぱなしになっており、トイレまでの道のりを封鎖していた。

 

(何でこんなに散らかって?)

 

 リクは散らかった掃除用具をまとめて、壁際に寄せる。それらを片付けようと、ロッカーを開けると『何者か』が居た。

 

「ヒィ……」

 

 扉を閉じて、目を擦るリク。

 

(??????)

 

 幻覚だろうと思い、扉を閉じて再び開けるも変わらなかった。

 

「……!」

 

ガチャン!!

 

 そのロッカーの主が思い切り閉じようと、勢い良くしたために大きな音が鳴ってしまう。

 

「いや……え?」

 

 もう一度開けようとするも、内側から凄い力で閉じられていた為、リクの力では開けられなかった。

 

「大きな音が聞こえたが、何かあったか?」

 

 扉の音がレジにまで聞こえたのか、サオリが気になってこちらに来ていた。

 

「このロッカーの中に、ソラちゃんみたいなおでこの人が居た気がして……」

「……??」

 

 良く分からないが、取り敢えず中に人が居るようなので、サオリはロッカーに近づいて耳を澄ませる。息づかいが聞こえた事で、リクの言っている事を再確認した。

 

 サオリは扉に手を掛けて、思いっきり開いて見せる。

 

「ふんっ!」

「ひゃぁ!!!」

 

 サオリよりも小さく、リクよりも大きい身長。赤毛でおでこを出し、少し癖っ毛のある髪に白いリボンを着けた生徒が出てきた。

 

「貴様は誰だ!」

「ひぃいいい! ご、ごめんなさいごめんなさい!」

 

 いきなりの不審者の出現に、サオリは警戒し、おでこの生徒は頭を抱えたままひたすらに謝っている。

 

「さ、サオリ先輩、ちょっと待っ」

「"どうしたの?"」

 

 大事になる前に、戻って来たであろう先生が駆け付けた。

 

「実は先生、ロッカーの中にこの人が……」

「"ん? 『ユズ』!?"」

 

 リクが説明し、先生はその不審者を見て驚愕する。

 

「せ、先生ぃ……」

 

 どうやら二人は知り合いのようだった。

 

ーー

 

 

 

 

「"えっと……紹介するね? ヘルプで来てくれたもう一人の……"」

「は、花岡ユズです……」

 

 おでこの生徒……もとい、ミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部の部長ユズは先生の促しで自己紹介する。

 

「「「……」」」

 

 ……ロッカーの中からだが。

 

 

「あの、ユズ先輩? 自分とサオリ先輩が悪かったんで出てきてくれませんか?」

「!? ……すまない」

 

「ぇ? いや、そういう事じゃ……」

 

 ファーストコンタクトとコミュニケーションが良くなかったが為に、リクに巻き込まれて一緒に謝るサオリ。だが、ロッカーの主は出てこようとはしなかった。

 

「も、ももしかして私が何かして? ユズさん、至らぬ所があったら教えてください!」

 

「えぇっ?! ち、違っ」

 

 ソラは自分の気付かぬ所でユズに何かしてしまったのかと、心配してユズに確認する。ユズの反応は違ったようで、リクもソラもサオリも違うとなると残るは……

 

「"……え?"」

 

 皆の視線が先生に集中する。

 すると突然ロッカーが開き、中からユズが飛び出してくる。

 

「せ、先生も関係ないです! じ、実は……」

 

 

 ユズからアルバイトの経験はあるが、人前に出るのは苦手という説明を受ける。

 

「着ぐるみの仕事とかパン工場のアルバイトは完全に人前に出ないのでまだいいですけど、コンビニとかクレープ屋は苦手なんです……」

 

 接客業などのコミュニケーションが必要なアルバイトは多い。コンビニは最たる例であり、店内に居る限りお客さんとの接触は避けられない。

 しかし、ユズは『自身の意志』で、このアルバイトに参加している。

 

「で、でも、部活の開発費とかで力になりたいし……に、逃げてばかりだと変われないので」

 

 前回にこのキヴォトスセントラル店でアルバイトをした時は、先生に促される形で働いたが、今回は自身で即決したユズ。

 

「……ごごご、ごめんなさい!」

 

 思わず出てしまった心の内にハッとするユズだったが、周りはやる気に満ちたような目になっていた。

 

「ユズ先輩! 一緒に頑張りましょう!」

「わ、私でもよろしければ、ユズさんのお手伝いします!」

「その覚悟受け取った」

 

「ぇえ……え?!」

 

 自身を変えようとする姿に感銘を受けた三人は、ユズの周りに集まる。

 

("良かった……")

 

 四人がまとまる事が出来て安心する先生。一時はどうなる事かと思ったが、思い返してみればサオリもユズも芯が強い生徒である。

 

("でも、なんだろうこの胸騒ぎは")

 

 アルバイトの生徒からのメッセージ、エンジェル24本部の対応、現在のお店の状況。考えるだけでも不安は募っていった。

 

("何かが起こってるかもしれない")

 

 いざという時は自身が出られるようにをしておく。

 

 

「じゃあ、二人一組になって分担しながら準備しましょうか」

 

 リクがそう言うと、最終的にサオリとソラ、ユズとリクの二組に分かれた。

 最初はリクとソラが一緒に組む事にしていたが、先生に『"二人はエンジェル24をよく知ってるからサオリとユズそれぞれ一緒にした方がいい"』と助言を貰ったので分かれた形となった。

 

「ね、ねえリクちゃん」

「どうしたの? ソラちゃん」

 

 組み終わって着替えの為に移動した後、二人きりになったタイミングでソラからリクへ声がかかる。

 

「何で私とユズさんと一旦組んだ時に、先生は私とサオリさんと一緒が良いって言ったのかな」

 

 ユズとソラが一緒に組んで並んだ際に、先生が眩しそうに目を細めて言った『"ぅぉ……ソラはサオリと一緒に組もうか"』という言葉である。

 

「先生の事だから理由があるとは思うけど……何だか怪しいね」

「うん……怪しい」

 

 二人とも先生の方を見ており、その時にしていた何とも言えない目を細めた表情に疑問を抱く。すると何かに気が付いたリクがハッとした様子でソラを見た。

 

「サオリ先輩とソラちゃん……もしかして先生が二人を狙っているとか!?」

「ええ!」

 

「理由は分からないけど、用心するに越した事はないね」

 

 リクはそう言うと、自身の荷物から帽子を取り出す。

 その帽子は以前、先生からのなでなで防止のために細工したものである。

 

「この帽子をソラちゃんに預ける。これを私だと思って身に着けておいて」

 

 リクはそれをソラへ渡した。本来であれば特別な事態が無い限り、店内での被り物はあまり良くない。しかし、今がその『特別な事態』である。

 

「う、うん、ありがとう!」

 

 リクから渡された帽子の意味はよく分からなかったが、ソラはそれだけでも少し嬉しかった。

 

 

 こうして、多少の不安を残しつつ、アルバイトだらけのエンジェル24キヴォトスセントラル店が再始動したのであった。

 

 

 レジ、キッチン担当のソラチームと掃除、品出し等担当のリクチームに分かれて業務を始める。まずは掃除から手を付ける為に掃除用具を手に取るリクとユズ。

 

「よ、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします!」

 

 エリアを分けて分担をし、それぞれのエリアで端から攻めるようにやっていく。

 

「それにしても、掃除まで手が回らなくなるなんて……どれだけ忙しいんだろう」

 

 リクが居たシャーレ東通り2号店では、夜のお客さんが少ない時間とロボットによる清掃で間に合っていた。ただ、清掃ロボットが居ない事を加味しても、ここの人通りから考えて掃除をする余裕はどこかしらありそうである。

 

「り、リクさん……終わりました」

「うわぁ!」

 

 リクが考えながらやっていくと、いつの間にか後ろに居たユズに終わった事を伝えられる。

 

「び、ビックリさせてすみません!」

「い、いや、少し考え事をしてただけで……あとユズ先輩、丁寧な言葉じゃなくても大丈夫です」

 

「は、はいぃ」

 

 ユズはまだ慣れていない人物との会話は苦手なようで、リクに対しても丁寧な言葉で返してしまう。そして、二人はそのまま残った区域を一緒に掃除を再開。

 ただ、会話のない気まずい雰囲気に耐えられなかったリクは、その状況を脱するために口を開く。

 

「ユズ先輩って掃除の手際が良いんですけど、何かやってたりしました?」

「え……」

 

 リクは親交を深めるためにもユズに話しかけた。それと同時に、同じ範囲をやっていたのにも関わらず、ユズの方が早く掃除を終えた事に興味を持つ。

 だが、身に覚えがないのと、掃除が早いという自覚がないのもあってユズは黙り込んでしまう。無言の時間を無くそうと、リクはユズが過去にやったというアルバイトから絞り込む。

 

「……もしかして、さっき言ってたクレープ屋の『Crew Crepe』で?」

「い、いやあれは……掃除というか、逃げたというか……」

 

「あー確かに、あそこはユズ先輩苦手そうですね……」

「し、知ってるんですか?」

 

 リクは過去に中等部という事を隠して、『Crew Crepe』にアルバイトをしに行ったことがあった。

 

「最初は先輩が掃除やら作り方を優しく教えてくれるんですけど、スペシャルクレープが注文に入ると、みんなで歌い出すんですよね……アットホームだから『仲間』『奉仕』とか『幸せの象徴』とか。しまいには『一度仲間になったら抜ける事は許されない』って……」

「! 私もそうだった! ……んです」

 

 クレープ屋での出来事を思い出して苦虫を嚙み潰したような顔になるリクと、同じ体験をしていたことに一瞬嬉しそうになるユズ。

 

「ユズ先輩もですか!? まあ、最終的に正直に中等部って事を伝えて私も逃げましたけど……」

「うん、私も……逃げちゃった」

 

 

 逸れてしまったが、二人は掃除の話へと話題は戻り、ユズは思い出したかのようにリクの方を見た。

 

「えっと、特には……強いて言えばシミュレーションゲームとか?」

「シミュレーションゲーム?」

 

 聞き覚えのない言葉に首を傾げるリク。

 

「し、シミュレーションゲームっていうのは……現実の経営とか育成とかをゲームに落とし込んだもので……」

「?」

 

「わ、分かりやすく言うと、ゲームの中に掃除があって……どのように効率良く早く掃除できるかを考えながら点数を稼いでクリアしていくっていう内容のゲームとかかな……」

「ああ! 見たことあります!」

 

 リクも実況動画などで、何回か業務の合間を縫って見た事がある。

 

「ゲームで高圧洗浄機とか料理とか出来るやつですね!」

「うん!」

 

「そしてお客さんを閉じ込めて爆発させたり、カフェで迷惑客をバットで殴って追い返したりするんですよね!」

「え!? そ、そうだね……楽しみ方は人それぞれだし……」

 

 何やら偏った知識に不安を覚えつつも、分かってくれたようでユズはうれしかった。

 

「そう考えると私もアルバイトのシミュレーションゲームはやった事があるかもしれません」

「な、何てゲームなの?」

 

 ゲームタイトルは思い出せなかったのか、考える様子を見せる。

 

「タイトルは忘れたんですけど、確かコンビニアルバイトのシミュレーションゲームで、迫り来る迷惑客を追い返すゲームでした」

「そ、そんなゲームあるんだ……」

 

「その時、アルバイトのアの字も分からなかったんですけど、初めてそのゲームでアルバイトを知ったんです」

「あはは……」

 

(な、何のゲームだろう……というよりそれアクションゲームじゃ)

 

 ユズは心の中で、それはシミュレーションゲームじゃないのでは? という疑問が生まれるも、共通の話題が出来た事により、親交を深める事ができたのであった。

 

 

「終わったよー! ソラちゃんそっちはどう?」

「こっちも大丈夫そう!」

 

 リクチームは店内環境整備と品出しを終え、ソラチームもレジとキッチンの準備を終えた。

 

「"もし困った事があったらすぐに連絡してね"」

「はーい」

(あの生徒を送り届けるのは分かるけど、『そうりょくせん』? ってなんだろう……)

 

 先生はどうやら、やらなければならない事があるようで、みんなの準備を見届けた後、先ほどまで休んでいたアルバイトの生徒とどこかへ行ってしまう。

 

「さてと……開店しますね」

 

 リクは貼ってあった一時閉店の張り紙を剥し、いよいよアルバイト4人によるエンジェル24の業務が始まる。

 

「い、いらっしゃいませ!」

 

 最初のお客さんは来てくれたものの、やはりというか目の前人通りに比例するようなお客さんは入って来ない。アルバイトの特別給料が貰えるならば、そのままでもいいのだが……

 

(そのままじゃいけない気がする)

 

 先ほどから、来るお客さんから『つらい時は言ってね』や『いつもありがとう』などの声がかかっていた。普段の業務から考えられないようなお客さんからの言葉に、嬉しさとともに違和感とやる気を感じているリク。

 

(せっかく来たのだから、やり遂げないとね)

 

 業務時間の人が居ない間を縫って、ポップアウトや商品の並べ方を工夫しつつ店内を少しづつ変えていく。

 ソラ達の働きもあり、昼時にはやっと外の人通りと比例するようにお客さんが来てくれているようになった。

 

 

 レジと品出し担当をチームごとに交代して、エンジェル24キヴォトスセントラル店は順調であった。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 キヴォトスセントラルから少し離れたビルにて……

 

 

「何ィ!? 普通に営業してるだと?!」

『は、はい。どうやら他の店舗から来たみたいで……』

 

 広いのオフィスの一室。部下からの連絡を受けて声を荒げていた上司らしき人物が、思い通りに行かなかった腹いせに机を拳で叩く。

 

「チッ……だがまあ、想定内だ。今から依頼して行ってこいと伝えろ!」

『はいぃ!』

 

 通話が切れるとともにオフィスをうろつき始め、オフィスの窓から遠くのエンジェル24キヴォトスセントラル店を見下ろす。

 

「あそこが潰れさえすれば、この辺りは私達の物……!」

 

 この上司らしき人物は最近勢力を伸ばしている企業に勤めている者である。そして、キヴォトスセントラルへの勢力を強めようと目を付けたのが、『エンジェル24』であった。

 

 あの店舗はこの辺りで比較的古参であり、老若男女が多く通る場所でもある。それもあり、エンジェル24の重要な拠点でビルの中に入っておらず、一軒で建っているというこの辺りでは珍しいお店だった。

 

「じっくりと追い詰めて、誰も来れないようにしてやる」

 

 セントラル店の店長に怪我をさせ、店長が居ない間に副店長と店員に辞めるよう脅しをかけ、残ったアルバイトを追い詰める。

 

「しかし、あのアルバイトもしつこかったな」

 

 ただそれだけでは足りなかったので、過激なクレームや迷惑客を装ってお店の雰囲気と印象を悪くするとともに、アルバイトへの負担を大きくしたというのが真相であった。

 

「勤務環境が悪い所にわざわざ行くやつなんて居ないだろうし、後は待つだけ……フフフ」

 

 彼らはまだ知らない。ヘルプに来たアルバイトがシャーレ絡みという事を。そして、その四人がただのアルバイトではない事を。

 

 

 





いかがだったでしょうか

後半はお昼丁度くらいに……また

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