後半です
誤字報告、コメント、ここすき等、ありがとうございます!
それでは
【ケース1 クレームの神:行方及び消息不明】
「なんだその態度は!! 俺をおちょくってんのか!?」
「……わ、私はただ挨拶しただけだが?」
俺は通称『クレームの神』と呼ばれている。その名前の由来はただクレームをしているだけではない。
「お客様は神様だろ!」
「……!」
自身を神様と呼ぶ事に由来している。こうして何人のアルバイトを追い込んだことか。
今回は依頼されてエンジェル24キヴォトスセントラル店がターゲットだ。そして今はこの目つきの悪い店員を『教育』するために、こうやって言ってあげているのだ。
「何か言うことあるんじゃないのか!!」
目つきの悪い店員が黙っているので、その隣にいる金髪おでこのガキもオドオドしている。そういった事が長引けば長引くほど、それを見たお客も早々に帰ってしまう事は分かっている様子だった。
(さあ、出てくる言葉は『謝罪』か、『反抗』か……)
謝罪なら無理な要求をして本部に連絡すると言って追い込み、反抗ならばお店の印象を下げる事に決める。
そして、いよいよ目つきの悪い店員の口が開いた。
「……神などいない」
「は?」「サオリさん!?」
口を開いたと思ったが、予想外の言葉に戸惑ってしまった。
(今こいつ、『神などいない』って言ったか?)
まさかそのような言葉が出てくるとは思わなかったものの、まだ冷静さを保つことが出来た。しかし、次の言葉で完全に頭に来てしまった。
「もしおまえが神ならば、『私達』に何かしてくれるのか?」
『私達』というのは誰を指す言葉なのか分からなかったが、取り敢えず『反抗』しているという事は理解した。
「お前……!! 反抗するのなら、それ相応の覚悟があるんだろうなぁ!」
こいつだけは許さない。
そう思い、銃を取り出そうと銃に手を添えて下を向くと、目つきの悪い店員から何かを突きつけられる。
「一つだけ思い出した。確かそういった存在には『生贄』か『お供え物』が必要だったか?」
(え? 生贄? お供え物?)
変な冷や汗が流れ、一瞬、この店員の言っている事が分からなかった。
「それなら期待に応えられる」
そして状況を理解した俺は、突きつけられているのは『銃』ではないかと推測する。おそらく、『生贄』や『お供え物』というのは自分の事ではないだろうか。
確認しようにも、恐怖から顔を上げて確認は出来ない。
(顔を上げたらこいつにやられる……)
何故か分からないが、撃たれるという威圧感という只ならぬ気配を感じた。
「どうかしたか?」
(ひ、一先ず退散して、ここの本部に銃を突き付けられた事を言ってやる!)
「お、覚えてろよ!」
「……??」
今回の事で自身の顔は割れてしまったが、そっちの方が都合がいい。本部からあの店へ通達が来れば、また出向いてあの目つきの悪い店員を絶対に謝らせてやる。
「くそ!」
目立たない路地裏へ行き、そこにあったゴミ箱を蹴り、そこで集会をしていたであろう猫達もその音を聞いて逃げ出すのを見て気を紛らわす。
「……ん?」
帰ろうと出口側へ向かうと、路地裏の出口側からどこかの生徒だと思われる人物がこちらに近づいてくるのが見えた。
(……腹いせに丁度良さそうだ)
その生徒は、どこか儚げでお金を持っていそうな上品な印象を受ける。きっとお嬢様学校の生徒がセントラルの路地裏にでも迷い込んだのだろう。
向こうはこちらに気が付いたのか、自身の目の前に来て話しかけてきた。
「少しいいですか? 実は迷ってしまって」
こっちが思っていた通り、路地裏で迷子になっていたようだった。そうと決まれば、世間知らずのお嬢さんに教えなければならない。
「いいけどよぉ、人に頼み事をするときは出すものがあるんじゃないの?」
するとその生徒は、ハッとした様子で懐の中に手を入れる。
「!?」
だが出てきたものは金銭でも高級品でもなく、ガスマスクのようなものだった。そしてサブマシンガンを取り出してこちらへ銃口を突き出した。
「これあげる」
銃弾を浴びせようとする存在から逃げようと後ろを振り返るが、後ろにも同じように待ち構えている存在が居たため、足が止まってしまう。
路地裏の前後から挟まれている状況で、こっちが不利なのは明らかだった。
「こ、こんな事して……う゛っ」
「それはこっちのセリフ」
後ろに居た無愛想そうな生徒が蹴りを入れながらこちらの話を遮って来た。
「だ、誰か助けてくれ!」
「……」
助けを呼んでも大通りの人混みで気が付かないのか、それとも誰かが人払いしているのか分からないが、声が表に届くことは無かった。
「何が目的だ!? 金か?」
こんな方法で金銭を巻き上げていたことに少しだけ関心するが、今はそれどころじゃない。目的が分からない為、こちらの今後の身の振り方によって恐ろしい事になりかねない。
「あのお店にもう近づかないで」
あのエンジェル24の事を言っているのだろう。どういう繋がりがあるか分からないものの、ここは隙を作って上手くいくように言うしかない。
「わ、分かった! もうあの店には近づかない」
(店には近づかねぇよ、『あの店』にはなぁ!)
お店に近づけないのならば、店以外の場所ならばあの目つきの悪い店員へ仕返し出来るという訳だ。
「……この話は終わりだね」
そう言ってやっと解放されるが、こっちのプライドも傷付けられて黙っている自分ではない。相手二人が後ろを見せた瞬間に反撃すればいい事である。
(さあ、視線を外せ!)
そして相手二人が視線外し、銃を取り出した瞬間……
「あがっ?!」
頭をスナイパーライフルで撃ち抜かれたような大きな衝撃が伝わる。
「やっぱり」
「……私達がターゲットから目を離す訳ないのに」
消えそうな意識の中、自分の体が拘束されていくのを感じる。
(こ、これからどうなるんだ……)
やった事を後悔しても遅い。もしかしたらもう日の光を浴びる事が出来ないかもしれないという絶望の中、意識を完全に手放すのであった。
ーー
【ケース2 コンビニ強盗:前金返却からの音信不通】
お金に困ってしまい『エンジェル24キヴォトスセントラル店に強盗をしろ』という依頼を受けてしまった。強盗を依頼されるという奇妙な内容に違和感を覚えるが、それどころではなかった。
(強盗するよりも高額な報酬……でもやるしかないか)
前金も貰い、強盗をするための道具もあるため後には引けない。
「いらっしゃいませー」
お店に入るとレジに立っている黒い髪で赤い目の店員が見えた。気弱そうな印象を受け、強盗をするのならばこの店員からだとターゲットを絞り込む。
商品を探すフリをして店内を回り、金髪でおでこの店員を他一人確認。他の客は居ないが、できるだけ騒ぎを起こさずに早く済ませたい。
先ほどの店員を見つけてレジの前に行き、周りに見えないよう武器を取り出して脅す。
「喋るな。さっさとレジの金を出せ」
「……!」
店員が武器に気が付いて驚く。いきなり見せられて驚くのも無理はない。
だが店員は首を横に振った。
「おい、どうなってもいいのか?」
「……!! ……?」
「ん?」
レジのお金を渡さないために拒否したのかと思ったが、違うらしい。店員は身振り手振りのジェスチャーで伝えようとするが分からない。
(なんでコイツ喋らないんだ? ……あ、そうか)
「喋ってもいいぞ」
「すみません。ジェスチャーで伝えられなくて……」
喋るなと言っていた事を思い出して、発言を許可する。何故か店員が謝っている状況をおかしいと思いつつ、本題へ移る。
「さっさとレジを開けて金を渡せ」
喋る事が出来るならば、素直に開けてくれるだろうと思ったが出てきた言葉に耳を疑った。
「アルバイトなので自動レジは開けられないんです」
「そんな訳ないだろ」
そう言うとレジの店員は驚いた表情を見せる。
(いや何で驚くんだよ)
心の中で突っ込みを入れつつ、何かないかと模索しているとレジ奥から赤毛でおでこを出した店員が現れた。
「り、リクちゃん一通り済んで……って、えええ!」
「ユズ先輩、大丈夫です落ち着いて」
新しく来た店員が、正しい反応をしている事に少し安心する自分がいた。取り敢えず、この店員に開けて貰おう。
「おでこのおまえ、このレジ開けろ」
「ひゃいっ! わ、私ですか?」
自動レジへ近づいてレジに手を伸ばそうとした瞬間、何かに気が付いたように動作が止まる。そして、顔を上げてその店員が口を開いた。
「あ、あ、アルバイトなのでレ……自動レジは開けられないんですぅ!」
「お前もか!」
(どうなってんだ、ここの店のマニュアルは……それとそこの黒髪のお前! OKじゃないから!)
一瞬開けられそうな雰囲気だったのにも関わらず、思い出したかのように動作を止めていた。そのことに対して黒髪の店員がOKサインとグーサインを出している事にツッコミを入れたくなる。
「誰か話の通じるヤツ居ないのか……?」
「はい」「は、はい」
「お前らじゃねぇ!」
二人とも前に出てくるが、レジを開けられそうな店員の事を言っているのであって、話ができる店員じゃない。埒が明かないので、他の店員を探そうとすると、ふと黒髪の店員が話しかけてくる。
「あのー、もしかして何か相談があるんですか?」
不意に関係ない話をして……と思いきや、この店員の表情は真剣そのものだ。
誰も手を差し伸べてくれなかった時を思い出し、この店員ならばと話をすることにした。
「……」
勤めていた会社に濡れ衣を着せられて、クビになり損害賠償を全額払うことになった事。その為にカイザーローンから借金をすることになった事。お金に困ってやった事を白状する。
「冷静に考えればおかしいよな……すまない。自首するよ……」
わざわざ犯罪を犯してまでやる事じゃなかったと後悔する。こうなれば、自首をしにヴァルキューレまで行くしかない。
「ちょっと待ってください! お金も盗んでないですし私も気にしてないですから」
「そ、そうです! まだ何もされてませんし……」
「そう言って嬉しいけど、やった事には変わりないから……」
止めてくれる事に感謝するが、これからどうするか先が分からない状態である。すると、黒髪の店員がおもむろにスマホを取り出す。
「あ! そういえば……」
最初は自分の事を通報でもするのかと思ったが、通報ではなくスマホの電源を付けて何かメッセージを送っていた。
「友人が新事業を立ち上げたんですけど、人員が足りないって言ってたんですよ」
「新事業?」
そして、その画面をこちらに見せてきた。その画面を見て、私は腰を抜かしそうになる。
「ここ、この企業って?!」
「え? だ、駄目でしたか……?」
駄目どころではない。その逆で、最近有名になった財閥グループの企業だった。
ネフティスグループに引けを取らないそのグループの名前は『マルファスグループ』。
(お、俺みたいな奴が入れるような所じゃないぞ……!)
町の流通から飲食店、アミューズメント施設、印刷会社など多数の事業を抱えているグループである。入社するのが難しい事や忙しいという話は聞くが、それ以外の悪い噂が聞かれない優良企業である。
……まあ、逆に言えば『悪い噂が無さ過ぎて怪しい』とも言われているが。
(と、兎にも角にも、例え紹介されても門前払いされるし……かといって今の状態で他の就職は出来ないし……)
「い、いや、駄目ではないんだけど、紹介して入れる所じゃないよ?」
「そうなんですか……?」
このグループを知らない事にビックリしたのと同時に、その友人というのが気になってしまう。
「そ、その友人っていうのは?」
「そうですね……強いて言うなら『あなたと同じだった』人ですね」
最初は『コンビニ強盗をやった』と思ったが、流石に違うだろう。という事は、自分と同じように濡れ衣を着せられてクビになったのだろうか。
(でも二度とないチャンスかもしれない、か……)
これで落ちても自分の位置を知る事ができ、何かヒントを得る事が出来る気がする。
「面接だけでも時間をくれるのであれば……いい、ですか?」
「聞いてみます!」
そこからは早かった。あっという間に面接が決まり、あっという間に入社することができた。
面接する時にグループの会長が現れるとは思わなかったが、事情はあのアルバイトの店員から聞いていたようだった。幸いな事に、強盗の依頼者にはこっちの顔と名前は知られておらず、会長が前金の返却や住所と連絡先変更を手伝ってくれたお陰で、依頼された所からは何も無かった。
(それにしても、あのアルバイトの店員何者だったんだ?)
現在、元気に仕事をしているものの、あのアルバイトの得体の知れない正体に少し恐れおののいている。
(もしかして裏世界のボスだったりして)
そんな訳ないかと思いながら、新事業に取り組むのであった。
ーー
【ケース3 万引きによる営業妨害:発見され、逮捕】
【ケース4 転売による営業妨害:壊滅】
「ここだけの話……」
近頃、スケバン達との間で囁かれているある噂が存在する。
『エンジェル24キヴォトスセントラル店の商品は高値で売れる』と。
ある路地裏で、スケバンの二人が周りに聞かれないように会話をしていた。
「それ本当?」
「ああ、これ見てみろよ」
見せてくれたスマホの画面にあったものは、フリーマーケットアプリ内に、商品とセントラル店のレシートの画像。そこに『SOLD』と書かれたアイコンが付いていたものだった。
「あと、それだけじゃない」
画像をスクロールして出てきたのは、同じように売れたセントラル店の商品達。
「しかもこれ、買った額の倍以上じゃん」
その商品は、レシートに表示してある倍以上の値段で買われていた。実質このお店は、商品とレシートが『種』となり、売ることにより『金のなる木』になっている状態である。
「あたしも半信半疑だったんだけど、すぐに売れて確信したね」
「……いいねそれ」
「協力すればもっと稼げるぞ」
こうして、スケバン二人は金のなる木『キヴォトスセントラル店』に向けて歩みを進めていく。
お店の前に行くと、同業者と思われる他の生徒達が、レシートと一緒に買った商品を写真を撮っていた。
「おお! すぐに売れた!」
「箱を開けられた時はどうなるかと思ったけど、普通に売れるじゃん」
「うおー! ん? なんだこのダンボール……」
「ダンボールのゴミなんて放っておいていいからこれ見ろよ!」
盛り上がる同業者を後目に、エンジェル24に入っていく。
しかし、店内は予想とは違う状態であり、思わずお店の出入口で立ち止まってしまった。
「……ねぇ、もう商品全然無くない?」
商品はほとんど売り切れの状態で、棚や冷蔵にあるものも全て無くなっていた。
「おい! そこの……ヒィ!」
在庫は無いのかと店員に詰め寄ろうとするも、目つきの悪い店員に睨まれて後ずさりしてしまう二人。
「今、一時閉店中だ。在庫はない。またどうぞ」
無いと言われてそのまま引き下がる訳にはいかない。しかし、もし食い下がったとしても使用した弾薬分の利益は保証されていなかった。
「チッ……」
「もう行こ」
これ以上居ても意味がないと判断した二人は、お店を後にする。
「……もういいぞ」
目つきの悪い店員、もといサオリがレジカウンターに隠れていた人物に合図する。
「サオリ先輩、ありがとうございます……助かりました」
「なんでこんな事に……サオリさんありがとうございます」
「どういたしまして……と言いたい所だが、この状況どうするか」
リクとソラがカウンター後ろから顔を出す。勿論のこと、この状況がおかしい事は十分に分かっていたが、どうすることも出来なかった。
最初の違和感は『万引きを見つけた』事から始まる。
『うーん……みんな怪しいけど』
ここ最近、お店の商品が無くなる被害、いわゆる『万引き』が行われている疑惑があった。ソラとリクで監視カメラを確認するも、映っているのは手に商品を取って戻しているお客さんばかりだった。映像以外の決定的な証拠はなく、レジをしていたサオリもその映像を見てみたが、該当する場面は無いように見えた。
『あ! ユズ先輩も見てください!』
『え……?』
掃除を終えたであろうユズが近くを通ったため、一緒に見るために説明して映像を見てもらう。
『……? ち、ちょっと10秒前に戻してみて』
『は、はい』
ユズが言った場所まで戻すと、あるお客さんが他のお客さんと同じく商品を手に取って戻す様子だった。
『や、やっぱり……! 見てください』
『『?』』
二人には見えなかったためよく分からなかったが、ユズには何かが見えたようで映像の人物に指をさしている。
『え、ええと……こ、この人が取った2フレーム後に商品が取り換えられています』
『『????』』
『あ! うぅ……えっと、こ、コマ送りで見ると分かりやすいんですけど』
2フレームが分からなかった二人に、慌ててコマ送りで説明を試みるユズ。
映像の人物が商品を取った1コマ後に、先ほど言っていた通り、商品が入れ替わっていた。
『ほ、ほんとだ……』
同じ人物を見てみると、同じような手口で万引きをしていた。
それならば、違う商品があるという違和感に気が付く事が出来たはずだが、答えはすぐに分かった。
『しかも、別の人が死角を作って、もう一人がその商品を元に戻してる……』
つまり、三人組による計画的な万引きであった。
すぐさまサオリに伝えに行くが、彼女は犯人について違和感を覚えていた。
『……計画的にしてもおかしい』
サオリは続けて言う。
『計画的という事は、その盗む行為というリスクに見合う価値が無いといけない。だが、この商品は私が知っている限り価値はあまり無い。
金が目的ではないにしても、衝動的にこんな回りくどい事はしない』
『た、確かに』
盗む行為自体に目的があるにせよ、こんな方法で窃盗を何回もするというのはおかしいのである。
『と、とりあえずヴァルキューレに通報と先生に報告しないと』
ユズは携帯でヴァルキューレに通報、先生に連絡を入れる。
『"……分かった。そっちは少し頼んでもいいかな?"』
『り、了解です』
先生は何やらやらなければならない事があるとのことで、すぐに来れないらしい。
『これで終わるといいんだけど……』
ソラが漏らしたその言葉通り、ヴァルキューレによって捕まり万引きは無くなった。
しかし、実行犯三人の内の一人が言った言葉が気になってしまう。
「『だから、これを受ける事は反対だったんだ』……かぁ」
リクが思い出したかのように言ったのは、万引き犯による誰かに頼まれたような供述。
そして今、キヴォトスセントラル店が直面している問題は『大量買いによる在庫不足』
ただでさえ、リク達が引き継いだ時点で在庫が少ない状況。不足分は発注済ではあるものの、入荷がすぐとは限らないので、すぐにどうこう出来る訳ではない。
(疑いたく無いけど、万引きの件もあるし……)
ただの大量買いならばいいのだが、買って行くのがスケバンだらけなのも違和感を感じる四人だった。
(そういえば、ユズ先輩は……?)
リクはユズが居ない事に気が付き、辺りを見渡す。
「ソラちゃん、ユズ先輩何処に居るか知ってる?」
「そ、そういえば、さっきから見ないね」
お店の外にはスケバン、店内は人も商品もガラガラ、ロッカーの中も居ない。
「ユズ先輩ー! 大丈夫かな……」
「こっち……です」
「?」
何処から声が聞こえたため再度辺りを見渡すが、誰も居ない。
「何このダンボール。ここに置いたっけな……」
リクが地面に注目すると、置いた覚えがないダンボール箱があったのを発見する。箱には、うちで扱っている商品名が印刷している何も変哲もないダンボールだった。
「こ、ここに居ます! いや、お待たせしました!」
「うわああぁ! ……って、ユズ先輩?」
リクは、いきなりダンボール箱から現れたユズに驚きと困惑を隠しきれなかった。
「……何やってるんですか」
ただでさえお店が大変な時に、いたずらだと思われる行為に呆れかえってしまい、思わず困惑の言葉が出てしまう。勿論、何かしら考えがあっての行動だと思うが、リクには想像することが出来なかった。
(あ、あれ? 間違えたかな……あ)
予想していたリアクションと違う事に気が付いたユズは、自身がやった事を客観的に考えてみる。
(た、ただ業務中にダンボール箱に隠れて脅かしてるだけなのでは……)
「すすす、すみませんでしたー!」
ユズは、自分がした事に対して恥ずかしさと申し訳なさを感じ、もう一度ダンボール箱を被って中に入った。さながらダンゴムシやアルマジロのようである。
「こ、これには訳があるんです」
「いや、う、疑って無いですから! 出てきてください!」
説得するまで時間がかかってしまったが、何とか出てもらう事に成功したリクは、ソラとサオリを呼んでユズの話を聞く。
「「転売?」」
「そ、そうです」
ダンボール箱に隠れていたのは、外に居るスケバンの話を盗み聞きするためであった。
「このお店の商品が転売されてて、何者かが高額で購入しているらしいです」
「なんですと……」
リクは転売されていた事実に驚いたと同時に、ユズのステルス能力と行動力に度肝を抜かれた。
(ユズ先輩って何者なの?)
取り敢えず、この状況が何者かによって仕組まれている事が分かった所で、ソラの口が開く。
「分かった所で私達にはどうしようも出来ないんじゃ……」
「でも、そのままでもマズイよソラちゃん」
ソラの言う通り、すぐに転売を止められる訳でもなく、セントラル店が対策を講じたとしても状況はあまり変わらないだろう。
だが、リクの言ったように、そのままにしておけばセントラル店の評判低下や品薄状態、スケバン達による治安悪化は避けられない。
「しかも、購入している人が急に買うのを止めてしまえば、どうなるか分からないし……」
「どうしよう……」
今、転売を止めてくれれば何とかなりそうだが、ある程度の期間が続けばどうなるだろうか。需要の破壊と客離れ、スケバン達による襲撃……考えられるものだけでも恐ろしい。折角頑張ったのにも関わらず、何も出来ないのかと表情を曇らすソラとリク。
その表情を見たユズとサオリは、覚悟を決めた。
「わ、私に考えがあります……」
「奇遇だな。私もだ」
高等部二人が、それに対しての解決策があるという。ユズがサオリに先に言ってもらおうとしたが、サオリが止めて同時に言う。
それは……
「「直接叩く(んです)」」
「「……え?」」
二人の発言に目を点にする中等部組。
「お、同じ学校に『それ』を専門にする人達が居るので、場所は大丈夫と思います」
「なら、私はその場所に向かうか」
「あ、あの、どういう事です?」
言っている事は分かるが、ソラは意味が理解出来なくて思わず質問してしまう。
「? そのままの意味だが……まあ、『話をつけてくる』ってことだ」
「……叩く? あーなるほどです」
「リクちゃん!?」
そうこうしているうちに高等部組は連絡や準備を始め、中等部組にお店を任せて何処かへ行ってしまった。
「ね、ねぇリクちゃん、さっきのはどういう事なの?」
ソラだけが事情が分からない状況で、リクに説明を求める。
「多分、直接叩くというのは『言葉』でだよ」
「言葉?」
「よくSNSとかで炎上とか批判とかであるでしょ? それだよ」
物理的に叩くのではなく、相手に言葉で叩くことによって鎮めようとしているのだろうとリクは考える。
「二人だけだと効果は薄いから、叩くことを専門にしている人を集めるんだよきっと」
「ほ、本当にそうかな……」
ソラは不安げになるもリクが言うならばと、それ以上考えるのを止めた。
「それに、購入者を襲撃するっていうのも頭に過ったんだけど、流石にハッカーみたいに場所特定はできないでしょ」
「まあ、確かにそうだけど」
二人は納得して、いつも通りにお店の掃除と仕入れの準備を進めていった。
ーーーー
「い、以上が報告になります」
場所は戻り、キヴォトスセントラルから離れたビルにて報告が行われる。報告を受けた人物はわなわなと震えて、怒りを隠しきれないといった様子だ。
「な、なんだそれは!」
ドンっと、机を強く叩いて大きな音がオフィスに響き渡る。
「すべて失敗だと!? しかも、こっちの存在に勘付かれる始末……それにこれは何だ!」
出してきたのはSNSで流れてきた動画で、『クーポン券を差し出した店員から逃げる迷惑クレーム客』というタイトルだった。内容は文字通りの内容であり、すでに動画は拡散されていた。
「依頼した全員に連絡は通じない。さらに、クーポン券で撤退だと!? 全部失敗に終わって恥をかかせるつもりか!?」
考えた作戦とプランがことごとく失敗し、さらには失敗した動画が拡散され、万引きによりこちらの存在がバレそうになっていた。
(どうなってるんだ……あんなガキどもに!)
すると、ドアがノックされて部下と思われる人物が報告に入る。
「ほ、報告になります! あのエンジェル24の裏に『シャーレ』が付いているとのことです」
「シャーレだと? マズイ……」
シャーレが付いてるとなると、途端に窮地に立つとともに、失敗続きだった理由も分かった。どうするか、追い込まれたが、ふと頭の中に良い考えが生まれる。
「いや、これはチャンスだ」
思い腰を上げて準備に取り掛かった。
「あのシャーレ店に居た、弱そうなガキ二人を無理やり連れてこい!」
「え……ですが」
「いいからやれ!!」
「はいいいぃ!」
オフィスに不穏な空気が流れ始める。
「これは取引だ……」
ソラとリクの安全が今、脅かされそうになっていた。
ーーーー
「……?」
心地良いとは言えない不規則な揺れの中で目を覚ます。
「……んぅ……あ、あれ?」
周りどういう訳か真っ暗で何も見えず、自身の体が拘束されていることに気が付いた。
(縄!? どど、どういう事? 動けないし、喋れないし……)
前後の記憶もなく、キヴォトスセントラル店に居たことしか思い出せなかった。近くにソラちゃんも居たような気がするが、自分の隣には居なかった。
状況から察するに、荷台という閉鎖空間に縄と猿ぐつわで拘束されて、どこかに連れて行かれているという事だろう。
(それって誘拐じゃん……え? 『誘拐』?)
思い当たる状況で誘拐という答えに辿りつくも、どうこう出来る状況ではない。パニックになる所を変な汗が背中を伝わるのを感じ、冷静さを取り戻してから再度周りを見渡してみる。
周りには何かの荷物はあるものの、携帯といつものサブマシンガン、バールも無かった。
(と、取り敢えず、どうにかして……痛っ!)
その場所から動こうとすると、荷物に体の一部が何かに接触して音と痛みを感じる。
(この音は……『瓶同士が当たる音』? これだ!)
聞き覚えのある音によって、アイデアが浮かんだ。
(瓶を割って、破片でこの縄を何とか切れれば……)
音でバレる可能性もあるが、外から聞こえるすれ違う戦車の音で目立たないだろう。
(それにしても、私の武器を回収して誘拐するのに、周りに武器に使えそうな物を置くなんて……甘いね)
体を動かし、荷物を落として瓶を割った際に液体が流れ始める。その液体が服にしみても気にしなかったが、ある『臭い』で眉を顰めた。
それは口にした事はないものの、知っている『臭い』だった。
(この液体ってまさか!?)
レジに居ると時々、お客さんからその匂いがしてくる事がある。だが、それに比べられない程に強い臭いが自身の鼻を通り抜けた。
(あれ? 頭がフワフワす……る?)
眠気に似ているが眠気ではない感じ。考えている事がまとまらず、体が自然と揺れているようになるという未知の状態に陥ってしまった。
(縄ほどけた……動ける……早くお店に戻ってお客さんの対応しないと)
すると、暗かった空間からドアが開くように光が漏れ始める。久しぶりの光に対して眩しそうにしていると、二人の人影が見えた。
「うわ、何だこの臭い……あ、あいつ!」
「どうした? ど、どうやって出てきた!?」
「あ、そうだ……お客さん対応をぉ……」
焦っているような、怒っているようなお客さんに対処するために、その二人へと近づいた。
「どうかされましたかー?」
「は、速い」
「おい、ヤバいぞ!」
お客さんの言っている事は分からないが、経験から言ってこの表情は『コピー機の紙が詰まってしまった』のだろう。ならば、いつもやっている方法でコピー機を直そう。
「あ、コピー機ですかー? それならこうやって!」
いつの間にか隣にあったコピー機を殴って解決する。
「うわあああ! 助け……」
「う゛……」
「この手に限る」
喜んでくれたようで、安心する。
だが、周りをよく見ると困っているお客さんは多く、エンジェル24の店内もお客さんでいっぱいになっていた。
「私がやらないと……いらっしゃいませぇー!」
先程の二人と同じように、近づいて接客を実行する。
「!?」
「こちら袋にお入れしますねー」
大きな商品を丁寧に袋に入れたり……
「こちら温めますね!」
「お、おいやめ……熱ィ!」
お弁当を温めたり……
「か、金ならいくらでも……フギャ!」
「公共料金は現金のみでお願いします!」
公共料金の支払いの手続きをしたり……
「すみませーん! 床が滑りやすくなっておりますー」
「こ、こっちに来るな!」
掃除をしたりなど、いつもやっているエンジェル24の業務をこなしていく。何か忘れているような気がするが、今は全力で相手しないといけない衝動に駆られる。
(あれ? なんか眠くなって……)
段々と足取りもおぼつかなくなり、お客さんが居なくなったタイミングで急な眠気に襲われる。
「まあ……頑張ったし、いいか……」
お店の奥の方から、また新たなお客さんを出てくるのを見るが、今はそれどころではない。
(そこ、スタッフ以外立ち入り禁止なんだけど)
『手間を取らせやがって……!』
『まあ、いいか。運ぶぞ』
聞こえてきた声は幻聴かどうかは、眼を瞑っているため、もう確認できない。
視界は真っ暗となり、浮遊感から重力を感じる。この空間でこのまま一人になるのかと思うと、急に体が冷え込んでくるような感覚に陥る。
(一人になるようなこの感覚、何処かで……そうだ……)
アルバイトを始めたのは、誰かに欲しい物を買ってもらうのではなく、自分自身で手に入れたいという気持ちがあったのが始まりだった。
今までアルバイトという存在を知らなかったというより、お金を得る方法も知らなかった。そのため、調べたたり、聞いたりしてエンジェル24に辿り着いたのである。
『私アルバイトォォォォ!!!!』
ーーだけど今思えば、一人になってしまった寂しさを紛らわせる為だったのかもしれない。
でも、それは過去であり、今は何か大事な事を……
「リクちゃん!」
誰か私を呼んでる気がする。
「ーーリクちゃん!!」
大きな声で自分の名前を呼ばれて目を覚ました。
白い天井に簡素な蛍光灯。何処かで見たことある天井だが、一応聞いてみる。
「……ソラちゃん? ここは?」
「ここは病院だよ。本当に、本当に良かったー」
「び、病院!?」
誘拐されて瓶を割った後から記憶が全然無いが、いつの間にか病院に居たようだ。
「ど、どうして病院に? それにソラちゃんは大丈夫なの? せ、先生は? キヴォトスセントラル店はどうなったの?」
「お、落ち着いてリクちゃん。順番に話すから」
ーー
「"……エンジェル24キヴォトスセントラル店に対する数々の妨害行為について話があります"」
例のオフィスで妨害をしていた元凶とシャーレの先生が対峙する。
「ふん。何を言うかと思えば……何の事かさっぱり分からないな」
勿論、簡単に認める訳がない。だが、先生に対して言い逃れは出来ない。
「"これを見てください"」
先生は書類と動画を元凶に突きつける。それは、アルバイトの少女の証言とこれまでの妨害行為をまとめたものであった。感じた違和感を元に、総力戦とタスクの合間に調査していたのである。
これで堪忍すると思いきや、突き出された本人は口角を上げて笑う。
「フフフ、ハハハハハ!」
「"……ッ!?"」
目の前の男がいきなり笑い出したことで、少し動揺する先生。
「まあいい。そうだ、私が指示したのだよ」
「"……随分と余裕そうですね"」
ニヤ付いた顔を保ちつつ、備え付けてあるスクリーンをリモコンを操作して下ろす。
「ああ、私には取引の材料がある」
「"取引……?"」
スクリーンに映し出されたのは拘束された人物。
「"なっ! リク!?"」
その映っていた人物は、セントラル店でアルバイトをしているはずのリクの姿であった。気を失っているのか、カメラには反応しておらず俯いたままだった。
するとタイミング良く、ソラから先生に連絡が届いた。
『せ、先生! たたた、大変です! り、リクちゃんが!』
「"ソラ、落ち着いて。"」
『リクちゃんが何者かに誘拐されちゃって! わ、私はリクちゃんの帽子……いや、リクちゃんに助けてもらって、そ、それで……』
「"なんだって……?"」
『それで、ユズさんとサオリさんにーー』
ソラからの連絡が切れてしまった。おそらく、ガラケーの電源が切れたのであろうという事を確認し、目の前の元凶と再び向き合う。
「分かったかな? 弱者を利用して強者はさらに上に行く。これぐらいの脅迫は当然だ『シャーレの先生』?」
「"……!!!"」
生徒が人質になった事で、怒りと心配で後ろで握った拳に力が入る先生。こうなってしまえば、生徒を第一と考えている先生にとって、『証拠を隠滅する』という取引に応じる他無くなると考えたのである。
「さて、先生。取引に応じるのか、応じないのかはっきりしてもらおう」
ここに応じればリクは助かるが、今後も他の生徒達が、この大人に利用されてしまうだろう。かといって、リクを見捨てるような事は出来るはずがない。
("ここは『大人のカード』を使うしか……")
先生は、大人のカードの用意をするために手を動かそうとした時、映っていた映像に異変が起こった。
「……なんだ? 映像が……な、なにぃ!? あ、あいつはどこ行った!」
映像が乱れて正常に戻った際に、リクの姿が一瞬にして消えていた。
「ど、どうなってやがる……どこか死角に?」
『た、大変です!』
「なんだ一体!」
次は男の元に連絡が届く。向こうも何かあったらしく、慌ただしい様子だった。
『あ、あのアルバイトの……うわああああ!』
『私アルバイトォォォォ!!!!』
「ッ!」
連絡してききた人物と違う声が聞こえた事により、事態の非常に気が付く。
そして、再び先生の端末から着信音が鳴る。
『せ、先生ですか? ユズです!』
「"……場所は分かった?"」
『は、はい! リクちゃんの位置をヴェリタスに協力してもらって特定しました。今すぐ向かいます!』
「"あれ? 今来てるんじゃ……"」
『せ、先生? どうしたんですか?』
先生は「"いや……"」と切り替えて指示を出す。
「"リクを助けるよ!"」
『はい!』
そのまま気を失ったリクを回収したとの事で、改めて元凶の男の顔を見ると全てが抜けたような表情をしていた。先生は男に、言っておきたい事を告げるために近づく。
「……」
「"ヴァルキューレも生徒達もこっちに向かってきています。でも、その前にーー"」
"ーーあの子達は決して弱い存在じゃない"
"材料などと物として扱い、下に見るようなようなお前よりかは、ずっと……"
"強くて頼りになる生徒達だよ"
それを聞いた男は、その言葉がトドメになったのか、その場で崩れ落ちた。
その後は、生徒誘拐と数々の妨害が公にされた事により、その企業ごと跡形もなく消え去った。勿論、その元凶となった人物はヴァルキューレによって逮捕されたのだった。
ーー
「そんな事が……という事はもう解決?」
「そうみたい」
一部始終をソラから聞いたリクは一先ず安心する。
「そ、それとソラちゃん、これ……」
ソラがリクへ渡したのは、あの時渡した帽子。
「これが無かったら私も誘拐されてたかも……リクちゃん、あ、ありがとう」
「ぜ、全然いいよ! ソラちゃんに何もなくて本当に良かった」
「リクちゃん……」
その後は、お店と一部始終について話をしていたが、腑に落ちない事が一つだけ……
「そういえば、私を助けてくれた人ってどこに?」
ソラの話によると、ユズとサオリ達が辿り着く前に全ての敵が倒れており、戦闘になる事は無かったようだ。備え付けの電子レンジに頭を突っ込む人や地面に埋め込まれた人、その他多くの雇われ傭兵達がやられていたという。
「サオリさんは、全部リクちゃんがやったんだろうって……」
「わ、私が!? ソラちゃん、流石にそれは無いよ」
サブマシンガンもバールも持っていないリクが大人数に対して出来るはずがない。
しかし、微かに助けてくれた人のような声は聞こえた事を思い出す。
「あ! でも、何かを叫んでいる声なら聞いたかも」
「どんな?」
「『私アルバイト』って」
いかがだったでしょうか
この後の話については考えていますので、コメントや評価などよろしくお願いします!
……ちなみに、誘拐の時にあった客のセリフは長押し選択で見れたりしますので、気になった方はどうぞ。